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第六章 ~魔の森~③

2011年の後は2012年がくるわけで

2012年の後は2013年もくるわけで

ずーっとずーっと止まらないわけで

4000年くらいになってもそれは変わらないわけで

僕も、あと3000年くらい変わらないでいたいかな。

あけましておめでとうございます。6章の続きはじまるよ!




 一瞬のことだった。不可抗力だと言いたいところだが、視界に入ってしまったことに間違いはない。


 リオンは確かに油断してしまった。

 その泉の真ん中にある岩の上に、何かがいた、もしくはあったのを確かに見た。


 しかし何がいるのかを確認する暇もなく、その瞬間にリオンは腹のあたりがぐるりと一回転するかのような変な感覚を味あわされた。

 胃のあたりをぐいと持ち上げられているような感覚とでも言うのだろうか。


 自分は今上を向いているのか、下を向いているのか、それとも横を向いているのかすら分からない。

 はっきり言えることは、気がつけばそこにイリアスの姿も、アルクレアの姿もないということだった。


 乗っていたはずの馬までいない。

 特に馬から引きずり下ろされた感覚があったわけではないのに、いつの間にか、そこはさっきまでいた場所ではなかった。

 

 辺りに広がるのは生い茂る木々でもなく、まるでネバネバした液体の中にいるような感覚だった。


 もしかして、あの泉の中か? いや、しかしその液体の中ではなんとか呼吸はできる。


 だが、そのなんとかなんて状況に陥ること自体間違いで、しかしどういった状況にいるかも把握できなかった。

 あえて言うならば、アルクレアの言っていた〝絶対やってはならない〟ことを今自分は犯してしまった結果だということがわかった。

 

 ここはどこだ?

 

 ただの濁った水だと思っていたが、どうやらそれだけではなかった。


 これが汗を流してくれるきれいな水だったならばさぞ気持の良かっただろうに、そうもいかないようで、つまり居心地は最悪と言えた。


 リオンは辺りを見渡してみるが、それといって何かがあるわけでもない。


 何もなさ過ぎてリオンは吐き気を催しそうになった。


 さっき見たあれは一体何だったのだろうか。他の二人はどこにいったのだろうと、リオンの不安を掻き立てた。

 液体の中といえども、決して沈むこともなく、逆に言えば上にあがることもなく。そもそも上がどこだか分からない。

 今自分が逆さまになっているような、それとも横たわっているような不思議な感覚がリオンを襲い続けたせいだ。

 

 その時リオンははっと横を見た。


 もし気のせいでなければ今確かに何かが動いたように見えたのだ。リオンは目を凝らしてその方向をじっと見つめたが、何も見つけることはできなかった。


 周りを見回しているうちに、ネバネバが翼にひっかかって上手く方向転換ができなくなってきた。


 ネバネバはどうやら全体に広がっているというよりは、まるで何かの触手のようにそこら中を漂っているようだ。ただ透明なだけだ。しかしそれが厄介だった。

 

 ひっかかるネバネバはリオンが振り払おうとすればするほどに、まるで糸のように絡みついてきた。

 もはや翼だけではなく、腕や足までその液体の糸によって動けなくなってくる。


 やがてこのままリオンの頭の中で何も閃くものがなければ、まさに数分後には身動きひとつできなくなってしまうのが目に見えてわかる。どうにかしなければ――。

 

 リオンは自分の剣に手をかけた。だがその行動に反応してか、リオンの体を包んでいるネバネバがまるで鞭のようにリオンの手を巻きとり、強靭な腕のようにびくともしない力でリオンの手を捕え、そのまま剣を鞘から引き抜くことができなかった。


 リオンが力いっぱいに腕をぐいと動かしてもがいてみても、その水の糸はまるでちぎれようとはしない。


 そしてその糸はリオンの体を這って顔にまで忍び寄ってきた。手だけでなく足や腹、そしてだんだんとそれは首元へ……。

 

 リオンは目を見開いた。

 ついにその泉に住まうものの正体が姿を現したのだ。

 はっきりと目に見える、そこにいる生き物は、水の糸の伸びているその先に大きな目が六つ、ガサゴソと動く足が八本、口のようなところに大小二本の黒い牙が左右に合わせて四本もついている怪物。


 あの牙でぐさりとやられたら骨まで砕けそうだ。

 リオンは自分の骨がくだけたら一体どういうことになるのだろうと想像しかけて断念した。


 こんな泉の中でいつまでも閉じこもっているのではあまりにもむごい。変わらない景色には飽き飽きするだろうし、何より話し相手がただ一匹、この怪物とではなんとも釣り合わない。考えただけで発狂しそうだ。


 だがそんな無駄な自制心さえも、やがて頭のなかから自然に消滅した。


 いや、希望が見えた訳ではない。こんな生き物は見たことないという程に毛むくじゃらな大きな体に似合わぬ動きで、ぬっとリオンの目と鼻の先までやってきたからだ。リオンはゴクリと生唾を飲んだ。

 

 自分の縄張りに誘い込んだ獲物を、久しぶりのご馳走だと言わんばかりに既に口のような箇所を大きくあけて、その怪物は牙をむき出しにした。


 だめだ、ネバネバのせいでリオンはその場所から動けない。抵抗できない――。

 

 しかしその時、リオンの体がふっと宙に浮いたような気がした。


 ぶちぶちっと激しい音をたててリオンは体中に巻きついていたネバネバの水から解放された。


 その中に一度軽い音が混ざったが、たぶん怪物の牙とリオンの剣がぶつかった音だろう。


 リオンの体すれすれに怪物の足が水を切った。リオンは何故かやっとのことで怪物の口の中に入ることを免れた。


 気づけば翼の付け根のところを誰かの手がとても強い力で握っていた。アルクレアだ。


 憎たらしい餓鬼でも見ているかの様な目つきをしながらに、ザバッと激しい音をたててリオンとアルクレアは水面から現れた。



「リオン!」イリアスが遠くの方から心配そうに叫んだ。もはや静かになどと言ってはいられない。


「構うな、急げ!」アルクレアは手を振ってリオンに岸に戻るように命令した。下を見ればあの怪物が追ってきている。


「カラッカス・バイル……水蜘蛛だ。いくら死なない人間がいても、奴にやられたら永遠に横になることになるぜ。死ぬより無様だろうよ」アルクレアが陸にあがりながら吐き捨てた。


「ヤバイことになったな。小僧のおかげで……森が起きた――」


 リオンも急いで岸にあがりながら木々を、森を見た。

 ざわざわと枝がきしめき、さっきまでの雰囲気とはがらりと変わっていた。


 もはやあの光の粉も半分以下の灯りになっている。うごめく森は、もはや三人をほっとこうとは思ってもいないらしい。「なんだ、あいつ」リオンはさっき泉の上に何を見たのか気になってもう一度泉を振り返ろうとした。


「見るな小僧! 急げ! 抜けられなくなるぞ!」アルクレアはもう馬に飛び乗り、走り出していた。「行け! ラックス!」アルクレアの叫びに答えるようにラックスは低く唸り、前足を高々と上げてから勢いよく走りだした。

 

 イリアスも後に続き、リオンもそれに倣った。


 リオンの翼には、まだあのネバネバがしつこくからみついていたが、この際お構いなしだった。というよりもそんなものに構っていられる場合ではなかった。


 馬に飛び乗りすぐに手綱に触れると、もはや手綱を握ったかも確認しないうちに馬は走りだした。


 風が先ほどとは明らかに変わり、まるで侵入者を出さないつもりだろう。


 普通の馬ならその向かい風のせいで走れなくなるかもしれない。しかし三人の馬は少なくとも速さでは負けない。全速力で三人は森を駆けた。


「避けろ!」

 アルクレアが前から振り向いて叫んだ。


 見れば木々の間からツルの様なものが異常なスピードで三人を狙ってまっすぐ追いかけてくる。

 森がそこから三人を出さないようにと考えているかのようだ。


 捕まったら二度と抜け出せないだろう。

 リオンはそれをギリギリ目の前でかわした。イリアスもなんとか二本のツルを避けた。


 しかしまだそれで終わりではない。ふと後ろをみれば何十、いや何百というツルが三人を追ってきていた。

 

 リオンは迫りくるツルに向けて剣を構えようとした、だがその瞬間にガッとアルクレアに腕を掴まれた。


「森に手を出すな! 死にたいのか!」


「けど……」腕を掴まれたおかげでリオンは剣を振らずにすんだ。


 しかし手出しするなと言っても、ただかわし続けるのはひたすらに困難だった。

 ツルに意思があるように、四方八方からまるで矢のように向かってくる。隙でも見せようものならば一瞬にしてあの無数のつるに飲み込まれ、あっという間に掴まってしまいそうだ。


 あの時のリオンならばレーザーをもたやすく避けることができただろうが、今頼れるのは馬だけだった。


 思い返せば、この森の入口でアルクレアが枝を切った時、何事もなかったかのように思えたのは彼が正確に切り落としたからだっただろう。切り落とされた枝も、命を絶たれたわけではなかったからか。

 

 三人の馬は全速力で森を駆けた。

 しかしそれと同じように速く、森の道が塞がってきているようで、もともと馬が走れるには十分に広くはないと言えた道が、大地の唸りとともにさらに細く、そして木々が壁のように唸りを上げて押し寄せてきていた。


 もはや振り返れば後ろには道が無い。森に塞がれた壁か、もしくはあのツルで背景は埋め尽くされている。


「出口はもうすぐだ! 死にたくなければ無事にたどりつけ!」そう言いながらまたもやアルクレアは何本ものツルの矢をかわした。


 リオンは目を細めた。そして確かに見えた。

 今までの森の特殊な光などではなく、太陽の光。今は朝なのだろうか、ずっと先の方に森の木々の間から、点のような木漏れ日が見えた。あそこまで行けば……なんとか辿りつきさえすればいいのだ。


 前を行くイリアスも歯をくいしばって前傾姿勢をとっていた。ツルとの距離がもはや寸前とまで迫ってきている。


 あと数百メートル走り切れば……あと数百メートル。もはや永遠に長く感じられる数百メートルだった。

 

 一点に集中しすぎて、リオンは視界が狭くなっていた。

だが、一本のツルが目の前を通過するのには、運良く体が反応したおかげでかわすことができた。しかしリオンはそのツルが向きを変えた瞬間が見えた。その先にいるのは――。


「危ないイリアス!」








あけましておめでとうございます!!

瀬戸です。年末年始は皆さま大忙しだったのでは?

僕もかなり忙しく、海外からの来訪者(薬指)のため多忙の毎日でした。

今年の抱負?そりゃあ就職活動中ですので……「空を飛びたい!」くらいにとどめておきます。

……さて、第六章、あと一つ続きます。2011年も皆さまにとってよい年になりますように。


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