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第六章 ~魔の森~①

この前流星群を見るのが僕の友人の間で一日限りのブームとなりました。実は何百年も前に発せられた星の光を今見るって、なんだかすごいことですね。

仮に人間が光りの速さで動けたとすれば、もしかして何百年後になって僕の子孫がその姿を見られるということになるのかな。

第六章始まります。

第六章 ~ 魔の森 ~




 アルクレアは既に東の門の前に、自分の立派な黒い馬を携えて腕組みをして待っていた。

 黒いコートに黒い刀、そして黒い馬とまでくればさすがと言える。その黒一色の男はこめかみをぴくぴくさせながら、遅いと罵声を吐いていた。

  

 イリアスはそれとは正反対に白い馬を連れてきていた。毛並みはとても整えられていて、つやがあり、堂々としている。

 由緒正しきその馬は、イリアスに従うその目は澄んだ美しい目をしていた。確かに速さを比べればどの馬とも見劣りしないだろう。リオンの馬も気性は荒そうではあるがその態度にはしっかりと、早く走らせろと言っているように見える。

 

 当然のことながら、イリアスは背中の羽はもうつけてなどはいない。だが着替える暇があるわけでもなく、代わりに上から羽織れるベストに包まれている。心構えはできているようだ。

 初めて国を飛び出す理由が、こんなことに起因するのは望んでなどいなかったが、それでもイリアスは覚悟を決めていた。


「愛する者を見送るのはこれで二度目だな」ミディウスが言った。「そして二度、帰ってくるところが見られることを祈っているよ……」そしてそっとイリアスの頬にキスをした。


「ごめんなさい。お父様」

「いや、いいんだ――私もついて行ければいいのだが、国を放っておくわけにはいかぬ」


 ミディウスがそう言う後ろでは、国の兵士達が必死に崩れた建物をぬって負傷者を助けていた。


 国の壊滅はさながら防がれたが、オーク達の前に敗れた戦士達の数は少なくなかった。

 焼けた建物から立ち上る黒い煙がただただ天を汚す。国の戦力低下は何としても抑えなければならないミディウスは、イリアスの手を強く握りしめた。


 だがアルクレアにとって、そんな涙の別れにまったく関心はなかった。

「悪いがぐずぐずしている暇はないな。奴の好きにさせたいのなら話は別だが」アルクレアは待ちきれないという様子で自分の馬を前へ後ろへと操っていた。馬もアルクレアの意志に従うように唸っている。


「ああ、そうだな」ミディウスは手を放した。そして腰から立派な剣を取り出し、そしてそれをリオンに投げてよこした。


「リオン」ミディウスは叫んだ。


「なんだ?」リオンは不思議ながらもそれを上手く手に取った。良く見ると鞘のところにはたいそうな赤い翼の絵が彫られている。


 この時のリオンには正直その意味が理解できていなかった。ただ危険な道のりを進むのに、何も武器という武器を持っていないリオンにはちょうどよかったと思う程度だった。


「国に伝わるものだ」ミディウスがはっきりと叫んだ。「使いなさい」


 リオンは首をかしげながらも無言で小さくうなずくと、それを肩にかけた。紐の長さが驚くほどにピタリと合った。


 意味深げな瞳がリオンの目と合い、だがそれとなく二人の間にただならぬ無音の空気が流れる。


「礼を言う」


 そんな空気もアルクレアが流れを閉ざす。

「はんっ、棒きれ持って騎士気取りとは」そのリオンの姿を見て馬鹿にするように笑ってから、アルクレアが手綱をとった。


「お父様、世界は必ず守ります!」イリアスが自分の手に光る国の紋章に誓い、ミディウスに向けて最後にそう言った。


 リオンは以前馬に乗ったことがあるのかは分からないが、何故か体が覚えているように、危なげもなく飛び乗った。イリアスもそれに続いた。


(アデマに行けばきっと…何かがわかる)リオンは見えないところでこぶしを握っていた。


「急ぐぞ」

 ミディウスが見送る姿を後に、三人はアデマへ向けて旅立った。




 三頭分の蹄の音が響く。森までの数キロの平原の上を全速力で、まるで滑るように駆けていた。


 文句のつけがたい程に、その並々ならぬスピードで、三人の横を通り過ぎる風を後にしていく。中でもアルクレアの馬、ラックスは群を抜いて早かった。


「そう言えば、一つ聞きたいことがある」リオンが沈黙を破った。


「一つだけな」アルクレアはまったく見向きもしないでぶっきらぼうに答えた。


「あんたは何故俺が鳥人間(ホルス)だという事に驚かない? この――」リオンはあごでイリアスを示した。


「人間の王女も俺を見て最初は驚いていた。人間の間ではそれが普通なのだろう。千二百年もの

間、鳥人間(ホルス)はいなかったはずだからな。俺が例えそうだと言っても、普通ならば信じられる話ですらないはずだ。なのに、何故あんたは――俺の存在に驚かない? あんたはいったい何者なんだ? 一体、あんたは何を知っているんだ?」


「一つじゃないじゃないか」


 イリアスも同じことが気にかかり、その横顔を見たが、アルクレアは面倒くさそうに言った。


「俺が知っていることが何か小僧に不都合でもあるか?」

「いや、だが」


「勘違いするな小僧。貴様を連れてきたのは何も貴様のためじゃあない。利用価値があるから連れてきただけだ。奴は俺よりも小僧、貴様の方に興味があるようだったからな」

 

 気に食わないと言いたげに鼻を鳴らしながら腰の刀を正した。


「俺はあいつを潰したいだけだ。それ以外は一切関係ない。ついでに言えば王女様よ。さっきはああ言ったが、俺はまるで世界を背負う気なんてないんでね。そのへんは全てあんたの意志でやってくれ」

アルクレアは手をひらひらさせながらぶっきらぼうに続けた


「俺が奴を破滅させられるのなら、誰の血が流れようが知ったことじゃない。国が滅びようが、それが俺の目的に関係ないのならばそれもまた興味なし。逆に目的を達成させるためならば、少しくらいは肌だって脱ぐ。だから……そうだな。知っておかなければならないことは話してやろう。森について……だ」

 

 アルクレアは追手でも気にするかの様にちらりと後ろを振り返った。リオンも同じように振り向いた。だが別にそこには何もない。ただアヌシュミールがもう米のように小さくなって見えるだけだった。


「お姫様はあの森についてなにか知っているか?」

 アルクレアに見えていないにも関わらず、イリアスは首を振った。


「小僧は……知らないだろうな」リオンは口を開こうとしたが、アルクレアに先にそう言われた。


「森は生きている、と言っても理解できないだろうが――」アルクレアは振り返り、リオンに向き直った。


「あの森は心から通りたいと思っている者だけを通す。〝通らなければならない〟ではなく〝通りたい〟と思える奴をな……使命と希望をはきちがえる奴は森に食われる。簡単に言えばそういうことだ…」

 

 アルクレアはひょいと見事な手綱捌きで大きな木の枝をかわした。だが後ろではリオンが危うくそれに頬をかすめていた。


 まったく簡単ではないこの説明に、イリアスも首をかしげた。

「つまり、普通には通れないってこと?」


 イリアスの質問に、アルクレアは気取って答えた。

「半分正解」


 ふと前方に大きく道をふさぐ枝が見えたので、アルクレアはさっと自慢の黒刀を抜き、馬に跨ったままバッとそれを振り上げた。


 数秒後、その枝が地にどさりと落ちた。アルクレアの乗る馬は、そういうことがまるでいつも通りであるかのように平然と進み続けた。

 リオンがその枝を越える時、ふと視線を落とすと、枝は見事に切断されていたのがわかった。


 ぶれることなど一切なく、綺麗に一直線に斬られたに違いない。まるで何事もなかったかのように横たわる。だがそんなことよりもイリアスは話の方が気になった。


「でもそれっておかしいわ。だって昔はあそこを普通に通っていたはずよ」


 イリアスは必死にシェルミアからかつて聞いた知識を総動員していた。

 内心シェルミアの事を思い出すと胸がちくちく痛んだ。だがそんな表情をアルクレアにだけは見られたくなかった。


「昔は……だろ」イリアスの苦労など知らず、アルクレアはすました顔で続けた。「それは森が人間を嫌う前のことだ」


「嫌う……?」

 イリアスの持っている知識だけでは、まるで何を言っているのか見当もつかない言葉に首をかしげた。


「あの国ではそんなことも教えてないのか。機械のことも知らないか?」まったく呆れたというように大きな溜め息とともに悪態をついた。リオンはエルディンの持っていた銃のことを思い出していた。


「まあ知らなくて当然か。確かにあの森も数千年前には確かに普通の森だった」


「数千年ですって?」話し出すアルクレアのこの言葉にイリアスは驚かずにはいられなかった。

 アルクレアは構わずに続けた。


「だが機械を使いだしてしまった人間を森が拒みはじめた。森を傷つける機械をな。奴も言っていたろ? 人間は欲しいものを手に入れるためには犠牲をも顧みない種族だということさ。森は人間が機械を使い尽くしてからというものの、まったく人間を受け入れることがなくなった。千二百年もの間……ずっとな。あの森を通ることができた昔、なんてものはそれ以上前の話ってことだ」

 

 まるでその時のことを見ていたかのようにアルクレアは話した。


 ただそう感じたのはリオンだけだろうか。少なくとも、数千年前の人間の歴史を語ろうとさえする人間が、ただの人間であるはずないというのに、そんなことに耳を疑わない輩はリオンただひとりだった。

 イリアスにとっては難しい話だったが、分からない話ではなかった。やがてその機械に溺れた人間を、鳥人間(ホルス)が大戦争によって一度滅ぼし、そして生き残った人間が、ゼルセウスを筆頭にまた世界を作りなおしたという歴史を、いつか学んだことがあるからだ。


 しかしその機械というもの自体を知る由もなかったイリアスにとって、それが人間を滅ぼされなければならない理由に結びつけることができなかった。


 どんなことがあろうと、破壊することが何かの解決になるとは思えなかった。だがそんな考えを口にだすことはなかった。


 やがて問題の森の入り口が見え始めてきたころだった。

 その奥は夜でもないのに暗くてとてもその先に何があるのかなんて見えそうもない。一歩でも立ち入りそうなものの恐怖心を煽るような空気にでも包まれているようだ。


「話がずれたな。とにかく、あの森を抜けたくば、まずは、音をたてるな。そして森に手を出すな。後は……寝るな」

 

 二人ともこの言葉にどう答えて良いか分からなかった。真顔で寝るなと言われても一体全体冗談にも聞こえないが。その様子がアルクレアにも伝わったようだ。


「言っておくが、森を抜けるのに一日以上はかかる。もう日が傾いているが、このまま夜の森に入る。だが夜と言えど、寝る暇はない。夜更かしは得意だろう? というよりは止まっていれば森に気づかれるんだけれどな。休む暇などないということだ。気づかれればまず……命はないと思え」


「これから森に入るというの? そんなの無謀だわ。もうじき夜になるのよ?」


 リオンは再び森に視線を移した。

 まるで静かなその入口の中に、どの様な恐怖が待っているかなど想像もできない。


 アルクレアがそこまで言う森の恐怖は如何ほどなのだろうか。だが到底尋ねてみる気にはならなかった。


 自分がかつてこの森に入ったのかどうかを覚えていればよかったのにとリオンは今さらに思っていた。


「夜の森は極めて危険だ、特にあの森も例外ではない。だがあの森にしかないものもある。そのおかげであの森は夜でも道が分かる。むしろ夜である方がいい」


「あの森にしかないもの?」イリアスが首をかしげた。興味を引いたと言ってもいい。外の世界にでるのが初めてであるイリアスにとって、見るもの全てが初めて目にするものだから無理もない。


「行けばわかる……だが絶対に、声をだすな」アルクレアは念を押してそう言った。

 イリアスは怖々に頷いた。






さて、第六章の第一篇。いかがでしたでしょうか。

世の中には不思議なことがいっぱい。それをモットーにして世界を創る。小説の醍醐味ですよね?アルクレアがどれだけ物知りなのかを語ることは本編ではないかと思いますが、こんな物語でも設定とおいたち等は高校生の時にすでに大方創っておきました。だからできればみんなに読んでもらいながらしっかりと続けられたらなと思います。でもこういうの書いてると、つい「次回作」に気持ちがいっちゃうのはクリエイターの性なのでしょうか……というのはおいときまして、第六章の続きもご期待くださいね。

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