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第五章 ~交わる剣~⑤

まずい。またまた投稿が遅れてしまった。

圧縮性流体力学、数値流体力学、熱物質移動論等々宿題やレポートをやっていた上でアルバイトや就職活動なんて大学生活を駆け巡っているからなんて、、、難しそうなことを並べて結局何が言いたいか分からないように言い訳をしてもいいだろうか。

第五章のラスト一部。はじまるよー。







 一時間と経った頃には、散々たる光景が広がっていた。

 オーク達は少なくとももう街にはいない。引き揚げたのか、それともアルクレアにやられたのか判断できないが、今はそんな暇はなかった。


「なんということだ、シェルミア!」ミディウスがその場に帰って来ていた。


 しかし駆け付けた時にはもう遅かった。完全に処置のしようがない。

 そうは分かっていてもイリアスはそこを離れようとはしなかった。


「イリアス…手を離しなさい」


 しかしイリアスはそれを聞きいれようとしない。しかし叫びたくとも声はでなかった。


「イリアス、もう手遅れだ。手を離しなさい」


 リオンはそれを見ている。

 ミディウスは優しくイリアスを抱きしめると、その手を引き剥がした。「勇感な戦士だった」ミディウスが呟いた。


 何人かがそのまわりに集まってきた。

 誰も無傷でなどと言ってはいられない格好で、皆どこかを負傷していた。

 兵士たちが、その誰もが尊敬に値すると信じていた、最も偉大な男をたった今失ってしまったのだ。


 それに血を流していたのはシェルミアだけではなかった。

 家族を失ったもの、友人を失ったもの、その誰もが、涙が枯れるまで泣いた。


 悲しみはこらえきれずも、残った男たちはそろって墓を掘った。

 弔いの花を探して、誰かがどこかから焼け残った花束をこしらえてきてくれた。

 イリアスにしてみれば、この国では身寄りのないシェルミアを、母に懇親から尽くしてくれたシェルミアを、母の傍に葬ってあげたかったが、仕方のないことで、わかりきったことだが、シェルミアはこの国の王族ではない。

 聖域に眠ることだけは許されなかった。


「厳戒態勢は布いていたはずだった。だがまさかこんな日に。私がもっと早く……私が…この国を……」

 

 ミディウスの声は震えていた。

 目の前を埋める何人もの墓を前に、完全に犠牲を払った上では国を守ったとは到底言えない。

 国自体も半壊の状態だった。


「生きている以上、退屈なんてありえない。まだこれで終わったわけじゃないぜ国王さん――奴に逃げられた」

 声の主はアルクレアだった。

 柱の陰からぬっと現われて、手に握られている黒刀を納めながら近くに寄ってきた。


「まだ奴が生きている。それもこの――」アルクレアは大袈裟にリオンを指さした。「小僧の血を手に入れたうえで……だ」


 アルクレアはさっとその横を通り過ぎると、傍に落ちている何かの袋を拾い上げた。

 ジャラという音が聞こえたところを見ると、それは瓦礫に埋もれずに済んだ大会の賞金のようだ。


「少し」アルクレアは何も言われないうちにそれをしまった。「用事ができたようだ」


 ちらりとリオンを見た。まるで軽蔑するような目だ。そして立ち去ろうとした時、


「私も連れて行きなさい」イリアスがそう言った。イリアスが背後ですっくと立ち上がった。


「何を言っているのだイリアス。お前はまだ――」ミディウスが心配してそう言った。まだイリアスの体は万全な状態ではない。その体でアデマに行けば……しかしイリアスの意志は強かった。


 アルクレアはピタリと足を止め、「どこに連れて行けと?」と意地悪くそう聞き返した。


「奴の行く先は……アデマだ」リオンが言った。アルクレアは向きを変えた。


「ほう…馬鹿でも覚えていられることもあるのか」

 まるで何かに感心したような口調でそう言った。


「アデマねえ。そう言えば貴様も大会の前にそんなことを言っていたな。何かあるのか? あんなところに――」

 

 ミディウスもリオンのことを見つめた。以前もその話はしてくれなかったからだ。

 今なら聞かせてくれるとも思ったが、期待は外れた。しかしイリアスは自分がいつか行かなければいけないと言われたところが、アデマの近くだという事を思い出した。


「それに奴は、ドラゴンとも言っていたな。いないはずの……()()()だけが召喚できると言われ

ていた伝説だったな」


「しかし、何故あの男がそんなことを知っているのだ?」


「それを聞きに行くんじゃないか」

 アルクレアはちらりとリオンを見て、ミディウスの方を向いた。


「奴は機械の力も使っていた。そうだな、国王さんよ」


 ミディウスはうなずいた。

「確かに。禁じられた機械。奴はそれを持っていた。あの変な武器はそれしか考えられない」


 アルクレアは満足そうにうなずいた。

「情状酌量の余地もないな。あっても知らないが……」


 涙の跡がうっすらと残ったままのイリアスにアルクレアは言った。

「さて、姫様よ。泣いている暇は無くなったようだ。急ぎの旅になるが……どうする?」


 イリアスはアルクレアに言われて涙の跡をぬぐった。「――行きます」


 イリアスは背中にかけられている翼をはずし、それをシェルミアの近くにそっと置いた。


「イリアス!」ミディウスは声を大きくした。

「私のせいでシェルミアは殺されたのよ!」イリアスはずいとミディウスに向き合った。


「それにあの人は……ドラゴンも! そうなれば国どころか、世界が大変なことになるわ」

 イリアスのその迫力にはミディウスの方が折れた。


「せめて、安全な道を」

「それでは奴に追いつけはしないだろうが馬鹿め……」アルクレアは国の王を馬鹿呼ばわりしたことをすぐに忘れた。


「最短ルートで行く」アルクレアはまっすぐに東を指さした。そこには禁じられた森のある東を。

 ミディウスは観念した。もう何を言っても無駄だと思ったのだろう。

 ティリーナですら通らなかった道をイリアスが行くというのは、親として胸が苦しくなる思いだった。

 イリアスは、あの森が人間に通れるものだということをこの時初めて知った。


「これが、運め……だというのか」

 そう言うミディウスの手を、イリアスが固く握った。


「いつかは行くべき道だったのよ。きっと大丈夫だわ」


「心配するな…俺が守ってやるよ」アルクレアはそう言って気軽にポンとその手をイリアスの肩にのせた。だがイリアスがその手を勢いよくはらった。


「やめて、けがらわしい。あなただってシェルミアを……」


「おいおい、いいがかりはよしてくれ。あれは試合だろ。こいつの弱さがいけないのさ」

 イリアスはギラリと睨んだ。

 しかし今この男の機嫌を損ねればアデマへ行くことができなくなってしまう。イリアスはそれ以上反抗をやめた。


「それでいい…」アルクレアはかすかに腰にかけていた手を下ろした。「まあ悪く思うな」どこかにやりと笑いを残したままにアルクレアは言った。


「馬は乗れるか? 一番早い馬を連れてこい。そうでなければあの森は抜けきれん。信じるならばついてこい。俺はお前たちに目的を果たしてほしいわけではないのだからな。なんなら俺はお前らが死んでも、何も思わん」


「馬? 馬で森を?」


「疑っても構わないぞ。だが連れて行けと言ったのは貴女だろう」


 イリアスはその眼を見ると、無言でどこかに言った。

 イリアスも馬くらい乗ったことはある。


「それで小僧。お前はどうする――」アルクレアは残されたリオンに向かって言った。「貴様のその眼。まぎれもなく本物だ。まあ確かに…まだのようだが…」


 不思議な言葉にリオンは首をかしげた。「試合の時にも言っていたな。知っているのか」


「まあな。だが決闘に人間であるかどうかは関係ない。それにこれからもな」

 アルクレアはリオンの背中を見た。

 飛べそうもない翼と、そして首にかかるペンダントに目をやっていた。やがてリオンが言った。


「アデマまで……案内してくれ」


 待っていましたとばかりにアルクレアは呆れ半分に言い放った。


「当たり前だ。貴様のまいた種だろうが」


 だが半分は嬉しそうだった。

 新しく興味のある冒険ができるとでも思ったのだろうか、あるいは腕を試す機会を増やしてくれたことに対してであって、それは必ずしも良い意味ではない。


「だが勘違いするなよ。別に案内するわけじゃねえ。同じ目的地に向かって、貴様がついてくるだけだ。つまり道中はせいぜい自分の身の安全を第一に考えろということだな。手を貸すとでも思ったら大間違いだ」

 

 重々承知とばかりにリオンは頷いた。


「それと飛べないやつは、馬をもらって来い」アルクレアはついでとばかりに付け加えた。




というわけで。やっと第五章が終り、、、いよいよ冒険です!

やっと国を出るわけですね。やっとです。さてさて、初めて世界を目にするイリアスとともに、読者の皆様にも新しい世界を見ていただきたい。本当に、世界にはまだ知らないことが一杯。そういう趣旨を踏まえて、この世界では僕の創造力が爆発しています。その世界観を伝えられたらなと思いながら書いています。第六章「魔の森」へ。ご期待ください!


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