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第五章 ~交わる剣~③

二度あることは三度あるという言葉と

三度目の正直という言葉が存在するのは

つまり結局のところ、、、三度目は何が起こるかわからない、と。

第五章の続き、始まります。






 近くでイリアスが目に涙を浮かべていた。「リオン!」


 高笑いを止め、もはや勝負の決まったその試合の興味が無くなったアルクレアはリオンに、次の試合に興味を示した。「そうか。次は小僧……お前だったな」


「あんたを倒す」


 決勝の舞台。

 それはもはやあまり効力を失っていた。

 勝ち負けを決めることはあまり望まれていなかったからだ。

 ただそばに大切に保管されている金だけが輝きを失わずに辛抱強く待っていた。


 アルクレアは持っていた剣をすっと下ろし、シェルミアの傍を離れた。

 その隙に周りで見ていた者が皆シェルミアに駆け寄り、急いで手当を施そうと舞台から降ろしていった。


 何事かと騒ぎを聞きつけたミディウスもやってきた。

 倒れているシェルミアと傷を見て、すぐに治療できる者を呼んだ。


 そちらにはもう見向きもしないでアルクレアはリオンに向き合うとまた何かに気づいた。


「ん? 待てよ小僧。お前……」

 腕を組みながら珍しいものを見たような顔で、また違った興味を持ったかのように言った。


「こりゃあ、おもしろい」

 リオンはこの男が何を言いたいのかわからなかったが、次の言葉でそれが分かった。


「はっ、なるほどな。仮装の意味がよくわかったぜ。考えたのはこの国の姫様か? なかなかな大胆なことを考える。さっきはまるで気付かなかった。まあ、どうでもいいことだがな」


 戦いの中でずっと加え続けていた骨を吐き捨てた。


「今決めたぜ。次はおまえのそのたいそうな飾りをもらうとしよう」


 アルクレアはにやりと笑い、そして逆にリオンはピクリと険しい顔になった。

 明らかにリオンの存在を知識的に知っているような言い方だ。それが益々リオンをのめり込ませた。


 イリアスはリオンのことも心配だが、やはりシェルミアの方へと駆け寄った。

 舞台とその周りも含め、そこにはただこの二人がとりのこされる形となった。と言っても誰もいなくなったという訳ではない。


 体の大きいシェルミアを運ぶというのはそれほど大変だったし、それにあまり動かすのも良くないと考え、なんとか二人に巻き込まれることのないようなギリギリの場所まで連れてきたのだった。

 その様子をまるで自分は関係がないかのような言い方で、


「ギャラリーがいなくなってやりやすくなったんじゃないのか?」

組んでいた腕を戻し、また剣をくるくる回しながらアルクレアは言った。


「それに、そうか……つまりまだそういうことは言っていないってわけだな。知っているのは姫様だけか? 優しいお姫様だな」


 ずっとにらみ続けていたリオンが口を開いた。「何のことだ」

 

 その顔を見てのことか、それともその口調のせいか、


「フン、たいそうご立腹のようだ」鼻で笑いながらアルクレアが言った。


「まあ怒るなよ。楽しくいこうぜ」アルクレアは自分の剣についている血をぬぐった。だがリオンはそのとき自分の感情を疑った。


 怒っている? 何故? 何に?

 

 その時、リオンはあの時のセリフを思い出した――それが、人間というものだ。


 半信半疑ながらもその意味を理解しようとした。もちろん、まだかろうじて理性が残っているからでる言葉だった。


「忘れていないだろうな。俺が勝てばアデマに案内してもらう」


「心配するな。お前は俺に勝てやしなぁいよ」おちょくるような猫なで声をだし、リオンを挑発した。

だがそんな挑発は意味を成さなかった。必要がないほどにリオンは既につっかかる機会を伺っていたからだ。


 互いの目がもはや言葉を必要としなかった。

 今までの試合以上に、リオンの体は興奮に支配されていた。

 人間業とは思えないアルクレアの強さにさえ、まったく引けをとらないと思える力が、全身をめぐってくる思いだ。リオンにはもう、何も耳に入ってきてはいない。


 しかし、辺りが静かになったわけではなかった。

 傍では忙しくシェルミアの止血をしようとしている者達でいっぱいだったからだ。

 だがそのかいあってかシェルミアは無事に意識を失わない程度に自分を保っていた。


 シェルミアは霞んで見えるその眼でしっかりと舞台の上の二人を見ていた。

 イリアスもミディウスもその眼の先を追う。アルクレアのたいそうなブーツがじりと音を鳴らす。

 

 頭上では黒い雲が集まって来ていた。

 さっきまでいい天気だったのに、今では余計に不安な気持ちを募らせるほどの重い空気が、一帯を包み込んでしまったかのようだ。

 陽がそれらの雲に隠れ、風が止んだ。

  

 試合開始の合図などなかった。

 だがシェルミアが瞬きをした瞬間、二人はもう同じ位置に立ってはいなかった。

 自身が思っていたよりも数段速く動けたリオンは、最初の一撃でやられなくてすんだ。

 二人の剣が互いに交錯して、激しい負荷が逆にそれぞれの剣にかかる。

 

 その一撃が生んだ衝撃は辺りに砂塵を起こし、二人は互いが互いをはじき飛ばした。

 右手をかるく振りまわし、アルクレアは先程の戦いで負った傷を確認した。

 そしてそれが全く気にすることではないと知り、なおかつ互角だった今の力に目の色を変えた。

 

 同じく肩に傷を負うリオンも、それが戦いになんら支障をきたさないと知り安心した。

 例えそうでないと分かっても、きっとリオンは関係なく全力をだしたと思うが……自身が込めたその力に驚かずにはいられない。しかしながらそんなことを気にしている暇もない。

 

 リオンが再び剣を握りなおし、地をけろうとした。

 しかしリオンがアルクレアに向かう前に、二人はある気配を感じた。それは背筋どころか体全体を駆ける悪寒。

 少なくともリオンにはそう感じた。


 いつの間にそこにいたのか分からない、独特の雰囲気をあらわにし、目に小さな丸いガラスをかけている。

 手に持った金の懐中時計がわずかに届く光を反射していた。

 短めにツンツンにとがったグレーの髪、あの時着ていたたいそうな防寒着は今では白い服に変えている。そんな男が舞台のすぐ側にたっていた。口元に笑みを浮かべて――。


「久しぶりだな……不死鳥(ポイニクス)

 割って入ってきたこの男のおかげで、二人が再び剣をぶつける機会はもうやってこなかった。


「――アグリム?」


「それは私の先祖の名前だ」

 あの時と同じ会話を繰り広げ、エルディンは笑った。

その声に反応しアルクレアは嫌な気配の正体が遅ればせながら分かった。


「私の名前はエルディンだ。まあ覚えておいてもらおうとは思わんがね。それにしてもずいぶん探したよ。見た限り、ずいぶん良くない動きだ。だがそのおかげで手間がはぶけそうだがな」


 右手で丸いガラスを押し上げ、リオンの姿を見ながら言った。

 

 ほとんど自分の興味を示すもの以外はまったく視界に入っていないかのように、なりふり構わずにゆっくりと舞台の上に上がってきた。

 その様子を見てアルクレアは憤慨した。勝負に水を差されたと思ったのだろう。


「おい、あんた。勝負の邪魔だ――」ズイとその前に立ち、エルディンの前を塞いだ。


 エルディンはその顔を見上げた。「誰かと思えば……」などとそんなことを呟いたようにリオンには聞こえていた。


「どこかの小さな村を、捨てた男だったかな。名はアルクレア。そうか、だが悪いな。私の邪魔をしないでいただこうか」


 アルクレアにとって、それを一体どうやったのか分らないが、ふと気付けば、手に持っていた木の剣が次の瞬間には粉々になって、砂のようにサラサラと流れおちていた。

 アルクレアはそれに驚いて、まるで手でもやけどしたと思ったかのように飛びのいた。「貴様、何をした?」


「科学の力と……そう呼んでいただきたい」微笑を交えながらエルディンはその横を通り過ぎた。


 その横でアルクレアは呟いた。「科学……?」


 だがエルディンは何も答えはしなかった。


「さて、私がここに来た理由は…解るな?」エルディンは改めてリオンに向き直った。

 リオンはすぐに粉々になるのを免れた自分の剣を構えた。


「いや、もはや聞く意味もなかったか。これで十分だ」そう言ってエルディンはその場でかがんだ。そこには戦いで負った傷から滴った血があった。

それは確かにさっきまでリオンの居た場所で、リオンの血だった。それをエルディンが手に入れたら……。


「やめろ!」


「おっと動くなよ。飛べない貴様に何ができる――そして貴様もだ! ミディウス!」


 さっと腰に手をかけ、そこに何がしまってあるかを知っているリオンは動きを止めた。


 そして不思議なことに、エルディンはミディウスにまでそう叫んだのだった。

 ミディウスはイリアスの前で、招待してもいないのに突然現れたこの男が直感的に不審に思ったのか、自身の剣を握っていた。やけに静かな声でミディウスは言った――「それをどうするつもりだ」

 

 エルディンはにやりと笑い、血を手に持っていた小瓶に取った。


「嘘はきらいでね。それに貴様等が真実を知ったところでどの道何もできやしない。アヌシュミールの国王ならば知っているはずだ。ドラゴンを呼び寄せるのさ」

 

 それを聞いたそこにいる者はほとんどがその意味を理解し得なかっただろう。

 だがミディウスは違った。「それが一体どういうことなのか、分かって言っているのか?」


「当然だ。最高の力が手に入る。そのために必要なものが二つ。不死鳥(ポイニクス)……涸れた泉の場所を覚えているかね?」

 

 エルディンは慎重にそう尋ねたが、リオンは答えようともしない。答える気にもなれない。

 そこでエルディンは、何かに気づいたように一度口を閉じた。

 そして、向きをかえて質問をも変えた。


「そうだ、貴様にも一つ聞きたいことがあったのだアヌシュミールの国王。丁度いい――〝歴史を紡ぐもの〟はどこにある?」

 

 それを聞いてミディウスもイリアスも驚いた。

 王族しか知らないはずの本の存在を何故この男が知っているのだろうか。


「一体何のことだ?」ミディウスは何とか平静を装い、考えられるだけの頭でその言葉をしぼりだした。そして、その本の内容をも思い出していた。


「とぼけるな。この国にあることは知っている。別に私の手に入れたい訳ではないのだが……その本が二冊もあっては困るのでね。話したくなければそれでいいだろう。どうせ見つかりはしないさ。私の邪魔にも――動くなと言っただろう!」

 

 わずかにエルディンの方が早かった。

 リオンの脇腹をかすめ、床に焦げ跡を残し、そしてリオンはそこにうずくまった。

 一瞬のすきを突こうとリオンが飛びかかろうとしたがエルディンは油断すらしてはいなかったのだ。


「リオン!」イリアスが飛び出した。

 ミディウスの陰で見えなかったのか、エルディンがとっさにガンを向けた時に、そこに初めてイリアスがいることに気がついたらしい。

 耳をいらいらさせる音を出しているガンを下ろすと、気取った風に言った。


「これはこれは……王女様。こんなところにおいでとは」エルディンはわざとらしく深々とお辞儀した。イ

リアスはうずくまるリオンの傍まで行き、エルディンを睨みつけた。


「なんて事を!」


「おいおい、そんな目を向けるのはよしてくれ。どうせ私がいくらそいつを傷つけようとそいつは死にはしないのだからな。王女様はご存知ないのかな? こいつは不死なのだ。血は流すがね」

 

 うずくまり血を流すリオンはエルディンに鋭い眼光を向けた。

 だが苦しそうなことに違いはない。

 不死であるかどうかなどというのは見かけではまったく判断できなかった。


「だからって……」


「だからどうした。貴様等も欲しいものを手に入れる時には何かを犠牲にしているはずだろうが。それとも何か? 人だけは特別か? どちらにせよこいつは人ではないが。下らん正義感は敵を増やすだけだ。無駄なお節介はよすんだな――」


 エルディンの言葉には何故か力がこもっていた。

 その凄みに何らかの圧力でも感じたのだろうか、イリアスは言葉を失った。


「そうだな……」


 リオンは自分の脇腹を押えながらゆっくりと立ち上がった。「だから人間は嫌いなんだ」


「リオン」イリアスは立ち上がるリオンに悲しい目を向けた。


「中途半端な節介をする。言ったはずだ。これは俺の問題。関わるなと」リオンはイリアスの手をはらいのけた。


「だがこのまま貴様を行かせる訳にはいかない。ドラゴンは絶対に……」


 リオンはかすかな息でそう言った。しかしだんだんとその呼吸が落ち着いていくのが分かる。


「頼もしいな」エルディンは笑った。


 そんな時、城の鐘が国中に大きく轟いた。それは今まで何十年、何百年と鳴ることのなかった――警鐘の鐘だった。


「これは!」とミディウスが叫んだ。

 そしてエルディンは冗談とも分からぬ言葉を発した。


「そう言えば、言い忘れていたが……少し置き土産を用意してみた。私の実験の成果でね。オークという。これに三年も費やした――」

 

 そう言った直後に近くの建物が大きな爆音とともに炎上した。まるで砲弾でも撃ち込まれたようだ。

そして辺りから悲鳴が聞こえる。それはまるで――。


「一体何を……?」イリアスが前へでた。エルディンは高笑いで白い歯を見せた。そして冷ややかにこう言った。



「戦争は嫌いかね?」

 








はい。というわけですね

エルディンはまだ何かをたくらんでいますね。次で第五章が終わります。謎でしかない奴の存在が主人公リオンの胸をえぐっていく。そういう心情がかけたらいいなあと思いながら書いていましたねこれ。そう。三年前くらいに……笑

ということで、まだまだ続きます。むしろこれから始まります。冒険が。

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