序章 ~目覚めた翼~
主人公とヒロイン、両視点から書き上げた壮大になるであろう物語です。
ワードで描き上げた作品の添付なので、ルビ機能を上手く使えるか多少心配です。文字についての配慮共に、どうかご了承ください。
注意:この作品はフィクションです。この物語に登場する人物、団体、地名等は実在する全てのものとは関係ありません
序章 ~ 目覚めた翼 ~
氷のように、鋭く突き刺さるような風が、まるで中にいる者を追い出そうとしているかのように激しく吹き荒れている。わたしはそれでも一歩、また一歩と足を運んだ。振り返ってみれば、今まで通ってきたその道は、とても奥まで見通すことはできない程に霞んでいる。しかし地にたくさん残っている足跡だけは、たとえ見えずとも長く続いているのが分かる。
ここクレガ島に到着し、氷山に囲まれたこの白い洞窟に入ってからどれくらいの時間が経っているのだろうか。
「エルディン博士。例の反応がだんだん強くなっています」
わたしの前を歩く、手に赤く光る機械を持った女性が言った。その機械の開発に、わたしは関与してはいなかったので、それがどういう働きをしているのかは全く知らない。強いて言えば従ってさえいればよかったのだ。
「ああ。やはり私の考えは間違ってはいないようだ。もうすぐだ、目的のものは近い…」
わたし達のリーダーであるエルディン博士が、寒さに耐えながら、防寒着の隙間から見えるその顔に、歓喜に満ちた表情を浮かべていたのを、わたしは確かにとらえた。
六、七人は楽に通ることができるこの洞窟は、大昔に何かとてつもなく大きな力で開けられたもののように思えた。しかし、そのような大きな威力のあるものといえば、今では禁じられている機械の力ぐらいしか、わたしは知らない。
辺りには風の吹く音と、外の氷山が削れていく音とが轟き、それがさらに洞窟全体がギリギリときしむ音を絶えず響かせていた。しかし何故かその中にいるこの数人かの人間達は、その状況に全く危険を感じてはいない。まるでこの洞窟は崩れることはないということを知っているかの様である。吐く息は白く凍り、もはや足取りも重くなってきたが、それでもわたし達は目的である〝何か〟のために歩を進めた。分かれ道のような箇所は幾度となく現れたが、わたし達は迷うことなく、ただ一つの道を進んだ。それもあの赤い光の機械のおかげだろう。
十数分と経った頃だろうか、わたし達は大きく開けた場所にでた所で、その足を止めた。
女性の手に持つ機械の赤い光は点滅を繰り返している。目的のものである〝何か〟がまさに目の前に存在していることを示していたのだ。
「やはり私の開発したDNA探知鑑査プログラムは完璧だ…」――それ、か。四年前、わたし達がアデマの遺跡で発見したやつの細胞を利用したらしい。「ついに見つけたぞ。あの大戦争から千二百年余の間、今まで世界中で絶滅したとされてきた――鳥人間。それが今まさに…私の目の前に存在している…」
エルディンがその両手を大きく広げ、突き出したその先には、限りなく白に近く、しかし確かに赤ともいえる色をわずかに残した鮮やかな髪をもち、上半身が裸だったので左側の腹部には、はっきりと見える大きな傷跡――わたしが見る限り、それはとても大きな斧で切られたか、あるいは別のなにかすごいもので裂かれたか。どちらにしろただの傷ではないであろうことが容易に分かる。そして胸には何故か銀のペンダントが光る。良くは見えないが、真中に水色の石が埋め込まれているようだった。
それを除けば全く人間の外形と、なんら区別のつかない…いや、正面からみただけではそう見えなくもなかったかもしれないが、そのものの後ろをちらとでも見れば、誰しもが気づき、そしてもし知識の無いものがその姿を見たならば、驚いて飛び上がるか、はたまたただの飾りだろうと笑うか。それでも確かにそのものの背中には、髪の色と相違ない色をした、立派な翼が生えていたのだった。翼をもったその存在はピクリとも動かずに目を閉じ、さらに呼吸をしているかはわからなく、周りの壁や外にある濁った氷とは違う、きれいに透き通った氷のその中で、三メートル程高い所に閉ざされていた。この開かれた場所には、それ以外見わたしても何も無かった。
わたし達は恐れることもなく、その物体に近づいて行った。しかしその初めて完全体として見るものに、その氷にさえ触れようとするものは誰もいなかった。
「しかし博士…こいつも四年前発見したあの鳥人間同様、生きているハズが…ないのでは…?」
一人の男がその氷の塊を見て言った。が、エルディンは不敵にも笑いながら答えた。
「クックック…死んでいるだと。君はこれを死んでいる、と。そういうのか」
エルディンは男の方を見向きもせずに続けた
「死んでいる訳がない。何故ならばこれこそ、まさに決して死ぬことのない存在…不死鳥。我々が古代の文献などで知り得るような五百年しか生きない不死鳥とはわけが違う。その名のとおりの存在なのだ…。見ろ、かすかに赤色をもつあの羽を。何故今ではこれほどに白に近い色になってしまったのかは分らないが――本来ならば、鮮やかな真紅の色のはずだが…まあいい。アデマでのやつとは違い、完全なる姿だ。千数百年とそのままの形を留めている、まさに私が求めるに相応しい存在だ。不死の鳥人間だ!」
興奮まじりに、そうエルディンが叫んだすぐ後のことだった。この時、わたしは気付いていた。いつからだったのだろう……風が止んでいたのは。
「こ…これは!」例の機械を持った女性が突然大きな声で言った。「異常な――」
「何だ、どうした」
「分かりません、ですがこの探知鑑査プログラムが異常な反応を示して…あ!」
これにはエルディンもそっちを向かざるをえなかった。大きく何かが破裂でもしたかのような音とともに機械に電流が走り、それによって女性の手から落ちた機械が地に衝撃を加えた。そしてその電流は、まるで生きているかのように這い、鳥人間の眠る氷めがけ走り出したのである。
一瞬、わたしは目を開いていることができなかった。いや、きっとわたしだけではなく、ここにいる全ての人間がそうだったのだろう。そしてその時、激しい光とともにピシッという音も聞いた。――まさか。
次に目を見開いたとき、その氷には激しく亀裂がはいっていた。そして、これから起きる事を、わたしは決して忘れることはないだろう。
「地震だ!」と言ったのは、わたしだけではなかった。
「でかい、これはでかいぞ!」
そう言ったわたしの隣にいたものは、バランスを崩してその場に倒れた。
「ほ…鳥人間が」という誰かの声でわたしはすぐにその方に視線を戻した。その先に見える氷は、先程よりも除々に亀裂が広がっていき、わたしにはこの先なにが起こるかは容易に予想がついた。
一つには、この砕かれるであろう氷によって押しつぶされてしまうか、あるいは串刺しになるか。
教えにより禁じられた機械を扱うという、つまりこの世界において悪とされる道に心を奪われたわたしの探究心は今ここで終焉となってしまうのかということである。そしてもう一つは――。
わたし達はそのもうひとつのほうを経験することになった。
ピシッ、ピシッとだんだんに音も大きく、さらに激しくなる亀裂は最後にそれまでのものとは比べものにならない程に氷を砕いた。わたし達はその砕かれた氷の欠片を避けるのに必死だった。
そして、もう避ける氷の欠片も無くなってきた時、わたし達は地震も治まっているということに気付いた。そして、その先にあったのは…。わたしは一瞬自分の目を疑った。
「立っている…鳥人間が…」そう言うエルディンの声は震えていた。いや、決して恐怖による震えではない。感激のあまりに震えていたのだ。エルディンはもっとよく見ようとかぶっているフードをとった。
わたしとしても、感激とまではいかずとも、身震いぐらいは感じていることが分かった。
ゆっくりと、そしてはっきりとわたしの耳にも聞こえてくる鳥人間の呼吸の音が、辺りの空気を妙に重たく感じさせた。下をむいていた鳥人間は、その目を静かに開けると、顔をぐいっとあげた。その時、わたしは鳥人間と目が合ってしまった。
鳥人間はわたしをじっと見つめた後に一言、「人間…か」とつぶやいた。どうやら背中を見て判断したらしい。その後、どうやらわたしに興味が無くなったかと思うと、自分の手を、足を、そして翼を動くかどうか確かめた。しばらくして体がある程度動くことが分かると、また辺りに目を泳がせた。しかしその目が一体何を見ているのかは分からない。それ故にわたし達は誰も次の行動に移ることができないでいた。
ふいにその目があるところで一点にとまった。「――アグリム?」
誰も動けないそのなかで、一人小さな笑みをこぼしてエルディンは答えた。
「…それは私の先祖の名前だ」そう言うのと同時にエルディンは一歩足をふみだした。が、すぐにその足をピタリと止めた。鳥人間の警戒心が高まったのが見てとれたからだ。エルディンはまず、相手の出方をうかがうことに決めたようだ。そしてわたし達もただその次の行動をしっかりと見逃さないようにと観察することにした。
「俺を目覚めさせたのは、お前か?」――この言葉に、わたしは少し驚いた。先程から鳥人間の声を聞いていると、それはまるで青年のそれに聞こえるし、そして千数百年と生きていたものが自分のことを〝俺〟と言うだろうか。いや、言ってはダメだと言いたい訳ではないが…ただちょっと驚いた。それに、博士の言うことが本当だとすれば。彼は千数百年どころか、それ以上に生きているということになるのだろう。それにしてはわたしがみたところ、せいぜい十七、八ぐらいの男の子を思わせる。
しかし博士にとって、そんな容姿についてなどはどうでも良いことのようだ。
「そのとおりだ」今度はさっきまでの口調と違い、真剣な調子でエルディンは話した。「私が貴様を目覚めさせた。今のこの世界には、必要なのだ。貴様のような力がな」
鳥人間の目が、今度は本当にどこも見てはいないように、上へ下へと泳いだ。「俺の…力。俺の…。今の…世界?」鳥人間は眉をよせ、考え込むようにそう言った。
「そうだ。貴様達鳥人間と、我々人間との間に起きた、かの大戦争を覚えているだろう?」
鳥人間は少し考えた後で、ゆっくりと、そして小さくうなずいた。
この少しかかった時間というのは、きっと千数百年と働かすことのなかった頭が起動するのにかかった時間だろうと思う。
「それで?」
エルディンは続けた。
「生身の貴様らに対し、我々は当時、高く発達していた機械の力をもって対抗した。その圧倒的な力によって、我々が勝利を手にしかけたその時…。覚えているな? 貴様達が呼び起したものを…。」
今度は答えるのに、そうは時間がかかることがなかった。しかし、虚ろな眼はそのままで…ただ一言「ドラゴン」…と。
それでもエルディンはその答えだけで満足したようだ。
「そう、ドラゴンだ。貴様達鳥人間に伝わる血の契約。それはその命と引き換えにドラゴンを呼ぶ力を捧げられるという…伝説だ。伝説だったのだ。その時までは。機械の力に溺れた我々人間に、まるで罰を与えるかのごとく現れ、そして…貴様達の命をかけたその力の前に、我々はもろくも敗れた。絶大なる力で全てを焼き払い、すぐさまこの世界で人間の居た地は廃墟と化した」
そう語るエルディンの話を、鳥人間は真剣に聞いていた。自分の記憶とかみ合わせながら話を理解していたのだと思う。
「そしてドラゴンは人間に制裁を与え終えると、空へ消えていったという…」
エルディンは大胆にも両手を大きく広げ「素晴らしい」と誰に向けたわけでもなく言った。
「しかしだ。見ての通り、我々は今もここに生き続けているのも事実。ドラゴンの力から身を守ることのできた者がいたのだ。人々は魔法と…そう呼んだ。私は職業上人間の潜在能力と呼ばせてもらっているがね。――我々の一部の者どもはその力のおかげで生きつなぐことができた。
そしてその力を持ったものを、我々は王と決め、鳥人間が気づかせてくれた過ちを繰り返すまいと、争いの種となる機械の使用を禁止し、人間の歴史を一からやり直そう…と」
わたしは博士と鳥人間の会話をしっかりと聞いていた。博士の話に間違いは無い。しかしこれはあくまでわたしが感じたことにすぎないのだが…鳥人間の方の様子がどうにもおかしいのだ。さっき鳥人間の仕草についてわたしはこう考えた。〝自分の記憶とかみ合わせながら〟 と。しかしどうだろう。今はまるで、初めて聞いた事を聞き逃すまいとしているかのように…。かと思えば、さっき確かに博士の問いには答えることができていたのは一体…。わたしの思いすごしだろうか。
「それが今から千二百年余前の話」
博士の言葉によって、わたしはそれ以上の思考を一時中断することにした。
「千…二百年。そんなに経ったのか」鳥人間はボソリとそう言った。「それ程の知識をあんたはどこで手に入れた」
今度ははっきりと言った。そう、これは本来ならば〝大きな戦争があった〟 という事以外、
現代の人間には知られていない過去の事実のはずだ。それは鳥人間も分かっているように思った。
エルディンは少し間をおき、そしてニヤッと笑いながら、「…アデマ遺跡だ」と言った。
「確かに我々人間は、この件について、今までその歴史を語り継いできてはいない。それからの史実は、この世界の教えによるもののみ。私もすべてを知るわけではないが、それを知れば、人間の性を考えるといったいどうなるだろうか。それをかつての王は恐れたのだろう」
エルディンはフンと小さくはきすてた。
「…しかし、それもまた知らなすぎた。まあ私にしてみれば千二百年はよく持ちこたえたようなものだ。だが危険なものは危険であるという意識のもとで生まれるものだ。誤ってその道に入ってしまった者を、もとの道に連れ戻す役目さえも失ってしまっては意味がない。
ドラゴンはもちろん、鳥人間の存在を知る者の数もたかが知れている。だが我々は四年前、最初はただの歴史の解明のために訪れただけだった。しかし、偶然にもたどりついてしまったのが…アデマ遺跡だった」
――そう。そこでわたし達は発見してしまったのだ。
「そこで、貴様の仲間に会った」
鳥人間はその言葉にピクリと反応をしめした。だがエルディンは微笑まじりに言った。
「かけらに、だ」指で小さく、このぐらいだといわんばかりの大きさを示すしぐさをした。
「だが、それをきっかけに我々はすこし辺りを調べてみた。そしてそれがただの人間でないことがすぐにわかった。――血の契約をする前に死んだのだろうな。傍に羽根が落ちていたのだ。そう、すぐそばに……腐敗せずに、だ」
わたしはそれを聞いている鳥人間が、やけに冷静なことに関心をもった。彼の、その体には確かに力がはいっているようにも見えるが、それとはうらはらに、なんとも冷静なまなざしをしている。今いったい何を考えているのか、全くわかったものではない。
「我々はその遺跡を細かに調査した。そして、ついに見つけてしまったのだ。古代の文献を」
エルディンは鳥人間の方へと手をだした。「貴様のことも詳しくかいてあった、そして他にも非常に興味深いことが――。なあ…不死鳥」
エルディンはそう言うと、身につけた服の裏から筒状の鉄の塊をさっと取り出した。それは、わたし達が古代の文献の一つを元に甦らせた技術によって、創られた…レーザーガンだ。
鳥人間はその銃口が自分のことを狙っていても、全く動じることはなかった。
「何のつもりだ?」
エルディンをにらみ、はなった言葉は、まるでわたしにも攻撃的に聞こえた。
「フフッ、貴様はこの機械を見たことがあるのだろう? 千二百年もの間、地の底で眠り続けてきた力の一つを、私が甦らせたのだ。懐かしいとは思わんかね?」
まるで皮肉のようにエルディンは言い放ったが、それでも依然として鳥人間は動く気配を見せなかった。
「悪いが……俺には興味ないな」
「そうか。だが私はとても興味がある。かつて人間が手にすることができた力を、この私ができないはずがない。そしてそれをも凌ぐ…。貴様も知っての通り、それ以上に興味をそそるものが、今私の目の前に存在しているのだからな」エルディンはその構えている銃を持つ指に少しずつ力を入れていった。そしてそれを鳥人間も気がついたのか、その肩に力が入っているのがわかった。
「アデマ遺跡では欲しいものが手にはいらなかったのだよ。そこで貴様の力が必要だったわけだ。
アデマで発見されたやつより、いや。どの鳥人間よりも崇高なる……そう、貴様の血が、ね」
危険を悟った鳥人間は、エルディンがそう言い終わるか否かの瞬間で、背中の翼を素早く広げた。広げてみると、全長で二、三メートルはゆうにあるだろう。その偉大なる姿に、わたしは一瞬みとれてしまうほどだった。
エルディンの放つレーザーが速いか、それとも鳥人間が飛び立ったのが速いか、常人の目で見極めることは極めて困難だっただろう。しかし、上空に浮かぶ鳥人間を見れば、レーザーはかすめることすらできなかったようだとわかった。
「貴様は不死だ。だが血は流す!」エルディンはそう言いながら撃ち続けた。が、いっこうに当たる気配をみせない。「何している、お前たちも狙え!」
どうやら見とれていたのはわたしだけではなかったようだ。エルディンは誰一人自分と同じ行動にでなかったことに気付くと、そう叫んだ。
わたしも皆と同じように慌てて銃を取り出して撃ったが、わたしたちは本来ガンマンではない。
ましてや弓の名手ですらない。狙ってあてろというほうが難しかった。
鳥人間はその全てをいともたやすくかわし続けた。わたし達の放つ何本も飛び交うレーザーのその一本一本を眼で追い、よけているように思える。が、それもやがて疲れが見え始めた。当然だ、考えてみれば千二百年ぶりの飛行のはずだ。そんなに体力がもつはずもない。わたしはここぞとばかりに、ただ数多く撃つのではなく、スピードのゆるんだ方向転換の隙などをつくために、その一本に集中しようと考えたのだ。しかしここでわたし達の誰もが予想だにしなかったことに、鳥人間は旋回を自ら止めた。
観念したのか? わたしはこの最初で最後のチャンスを、この無駄な考えをおこしたことによって逃してしまった。そうではなかったのだ。いくつもの銃口が集まるその先に、すでに鳥人間の姿は無く、あたりを見ればそれは目に残像しか残らない程の速さでエルディンのいる方向へと突っ込んでいった。
エルディンは「うわっ」という声をもらしながらその場に倒れた。鳥人間はエルディンをかすめるギリギリのところを通過して、そのままわたしの方へと向かってきた。突然のことに驚きながらわたしはそれをかわすと、夢中でレーザーを放った。が、その精一杯の努力は、女性が先程落とした例の機械にあたり、真っ二つにしてしまっただけに終わった。
他の者も皆勢いよく飛び交う鳥人間に圧倒されて次々とその場に倒れていった。
しかしここで、わたしの後ろから「クソッ」という言葉と一緒に放たれたレーザーが鳥人間の
翼を打ち抜いたのだ。鳥人間はそれによろめき、わたし達の誰もが「やったか」と思ったのだが、鳥人間は全力をふりしぼって体勢を立て直し、入り口の方へと飛び去ってしまった。もはやわたし達はそれを見ていることしかできなくなっていた。
少し経ってふと気がついてみれば、後ろでは博士が癇癪をおこしていた。さっきのレーザーは博士が放ったものだったようだ。
撃ち抜いた翼からは羽が数枚、宙をまっていたが、これではかりに貫通したレーザーがどこかの部位にかすり、傷を負わせたとしても、あの速度で出口に向かわれては必要な血液は一滴たりとも入手できはしないだろう。わたし達の持つ灯りだけで、この洞窟内のすべての足元を探しながら歩くのはもはやいまからでは不可能と言えるからだ。もし出直すと決めたとしても、見つかる可能性は低そうだ。
もちろんこれで、我々のクレガ島での探索は打ち切りとなる。
「クソッ! もう少しで不死鳥の血を手に入れることができたのに!」エルディンは手に持っているレーザーガンを地に投げ捨てた。
そしてわたしは、博士が次に小さく言った言葉を聞き逃さなかった。
「いつの日か必ず手に入れて見せるぞ。皇帝ドラゴンの力を――」
外ではまた、鋭く冷たい風が、吹き荒れはじめていた。
全ての読者さまに向けて。
連載スタートさせていただきまして。ここまで読んでいただきましてありがとうございます
高校三年生の時に作り上げた全ての軸に肉付けをして、現在数百ページを引き出しにしまっておりますこの作品。執筆ペースが亀程に遅いので時期を狙ってからの投稿にこぎつけました。ポイニクス、まだまだ続きます。これからも更新していきたいと思っていますので、どうかよろしくお願いいたします。