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婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました  作者: 瀬崎由美


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第二十四話・予期せぬ訪問客

 パトリック様とのお茶会を終えて、私は神殿へ帰る為の馬車に揺られていた。殿下のエスコートで中庭から控室に戻ると、ユーベル様は同僚らしき騎士様と神妙な面持ちで話し込んでる最中だった。


「あ、殿下! お疲れ様です!」


 二人はパトリック様に気付き、慌ててソファーから立ち上がって敬礼し、ユーベル様は私に、男性騎士はパトリック様の護衛任務へと切り替えていた。その時に騎士様が殿下の耳元へ何かを報告しているようだったけれど、小声だったから断片しか聞き取ることはできなかった。だけど、「二人が裏街で」という言葉を騎士様が発した際、パトリック様が一瞬だけ表情を強張らせたのは見逃さなかった。

 でも私へと振り返った殿下はまたいつも通りの取って付けたような爽やか王子スマイルに戻っていた。


「じゃあ、アイラ嬢、また次に会えるのを楽しみにしてるよ」


 パトリック様が部屋を出ていくのを頭を下げて見送った後、私は確かめるようにユーベル様のことを見る。だけどユーベル様は「業務に関することですので」と首を振って詳しくは教えてはくれなかった。


 馬車の窓から中央神殿まで続く通りの景色を眺める。城下の真ん中を走る大通りには特に大きな商店が立ち並んでいて、道行く人の数も多い。これが一本中の道に入ると個人が経営する小売店や食堂などが目立ち、さらにもっと奥に行くと宿屋や民家ばかりになるのだという。


「王城から離れたところは治安の保証ができませんので」


 以前に街歩きをした際、護衛の人から強めに言われた。格安の飲み屋が集中しているせいもあり、夜になると行き交う人の半分が酔っ払いという陽気な街。でも朝には身ぐるみを剥がされた下着姿の人がいろんなところに転がっているという、あまり笑えないエピソードを聞かされて私とナナは絶句してしまった。

 確かその辺りのことを裏街と呼ぶとその時に聞いた覚えがある。


 ——そんな危険な地域にパトリック様も行かれるのかしら?


 騎士団に所属しているとは言っても彼は王子だ。何かあれば真っ先に命を狙われる立場なのに……

 無意識にパトリック様の身を案じている自分に気付き、私は慌てる。少し大切に扱ってもらえたくらいで勘違いしてしまっていることが恥ずかしくなってくる。いくら婚約者とはいえ、必要以上に干渉しては迷惑に決まっている。


 ——セドリックも私が立場や世間体について口煩かったから、嫌になったんだと思うわ。


 できるだけ控え目に学園生活を送っていたつもりだったけど、真面目過ぎる私のことに嫌気がさして元婚約者はあの行動に出たのかもと最近では考えるようになった。あまりにも退屈ですることがない神殿での生活は私に過去を振り返らせる時間がたくさんある。


 見慣れた建物が近付いてきて、神殿の門の前に黒い大きな馬車が停まっているのが窓から目に入る。御者席の横で翻っている旗にはどこかの貴族の家門が描かれていた。かなり立派なキャビンに二頭引きの馬車だから、上位貴族が参拝に訪れているのだろうか。

 私達の馬車がその後ろに停められると、ユーベル様と順に降りていく。迎えに出てきた神官が、少し焦り顔で私の元へ駆け寄ってきた。


「アイラ様。お戻りになられたばかりで申し訳ございませんが、司教の執務室へ顔を出していただけないでしょうか?」

「何かあったんですか?」

「それがその……今、宰相様が参拝にいらっしゃいまして、折角だからアイラ様にもお会いしたいとおっしゃってまして……」


 今まさに私は城から帰って来たばかりなのに、ワザワザ神殿でなんて二度手間みたいな話だと思いつつ、私は神官へ「着替えを済ませてから参ります」とだけ告げて自室へと向かう。きっと聖女顕現に関するお披露目の打ち合わせも兼ねての訪問なのだろう。


「今日はいろんな人に会う日だわ……」


 部屋へ戻ってナナに手伝ってもらいながら着替えると、私は神殿が用意してくれた白のローブを羽織ってから司教様の執務室へと向かった。

 侍女をお供に訪れると、司教様と宰相のサーパス卿はソファーで向かい合いながら歓談している最中だった。でも、にこやかに笑みを浮かべている割に部屋の空気は何だか重く、廊下よりも数度ほど冷え切っているように感じた。


「アイラ・ロックウェルと申します」


 スカートを摘みながら頭を下げて挨拶すると、ソファーから立ち上がった宰相様は右手を胸に当てて「お目にかかれて光栄にございます、聖女様」と丁寧に返してくれる。その様子をなぜか司教様がとても不安気な眼で見ていたので、もしかしたら何かまた面倒なことになってるんじゃないかと、私は作り笑顔をヒクつかせた。

 案の定、私が司教様の隣に腰掛けるのを見計らってから、宰相様は開口一番に私達が顔を青褪めさせるようなことを提案してきた。


「聖女様のお披露目は一日も早くするべきです。数百年ぶりの顕現なのですから、国からの発表という形もあると思っております」


 つい先日、神殿内では聖女の存在を出来るだけ隠し、お披露目の日を少しでも伸ばすことを決定したのに、宰相様は早くしろと急かしにきたのだ。司教様はオロオロしながらも必死で宰相を宥めようとしている。


「いえ、しかし……アイラ様はこの通りまだお若く、心積もりにも時間を要します。神殿としましては、聖女様にはゆっくりと時間をかけていろいろ学んでいただいてからと考えておりまして――」

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