第二十一話・王城でのお茶会
この中央神殿でも朝と夕方の参拝が義務付けられている。ここには世界樹そのものは無いけれど、礼拝堂には大きな木箱が設置されていて、その中には森から拾い集めてきたという世界樹の葉がぎっしりと詰められている。そして、人々はその落ち葉に向かって手を合わせて祈りを捧げるのだ。
「そう言えば、こちらへ来る際にも神官様達が葉をかき集めていらっしゃいましたねー」
「そこまで長く保存できるものではないから、定期的に入れ替えているみたいよ。さすがに木そのものを運んでくるわけにはいかないから」
枯れた葉でさえもありがたがる信者にとって、その樹の実から生まれた聖獣が信仰の対象とならないわけがない。ヴァルツの存在が明らかにされれば大騒ぎになること間違いなしだ。さらなる信者獲得に繋がると神殿が期待するのは当然のこと。
ステンドグラスに囲まれた明るい礼拝堂で木箱を見上げながら、私はこの先の安寧を願って祈る。周りで同じように祈りを捧げているのはこの神殿に従事する神官達ばかり。ここでも一般参拝者とは時間を分けているらしく、広い堂内にはとても静かな時間が流れていた。
パトリック様から誘われたお茶会にはユーベル様の付き添いで向かった。近衛騎士でもあるユーベル様は控室まで私を送り届けた後、顔見知りの騎士に私のことを委ねてから一旦席を外された。最近はずっと中央神殿ばかりに居たから王城に来たついでに報告を兼ねて隊に顔を出すとおっしゃっていた。ということは城内のどこかにあるという鍛錬場に向かわれたのだろうか?
長いソファーに一人でぽつんと腰掛けていると、茶会の準備が整ったと女官が呼びに来る。促されるまま付いていくと、案内されたのは中庭のバラ園。庭中のバラが見渡せるよう少し高さのある四阿には、真っ白のクロスが敷かれ中央には花が飾られたガーデンテーブルが私の到着を待っていた。まるでロマンス小説の舞台のようなその場所に、私はほぅっと感嘆の声を漏らす。
「パトリック殿下は後ほどお見えになられます。今しばらくお待ちくださいませ」
女官から席の一つに促され、私は緊張の面持ちで黙って頷きながら椅子へと腰を下ろし、パトリック様が来られるのを待った。ユーベル様と相談しながら新しく仕立てたドレスは落ち着いた緑だけれど、腰回りの太い白色のリボンがそれなりに華やかで一目で気に入ってしまったデザイン。シンプルだからこそ胸元につけた殿下からいただいたブローチが良いポイントになっているはずだ。
近くのバラを眺めていると、四阿の下に控えていた女官が「第三王子殿下がいらっしゃいました」とパトリック様の来訪を告げた。私は慌てて椅子から立ち上がり、殿下のことを頭を下げて待つ。
「待たせてしまい、申し訳ない」
そう声を掛けられて顔を上げると、黒地に赤色の装飾が施された騎士服を身に纏ったパトリック様が額の汗を拭いながら微笑んでいた。
「すまない、思った以上に時間がかかり、着替えている暇が無かった」
今まで鍛錬場で騎士達の稽古を見ていたと説明しながら、パトリック様は私をエスコートして椅子に座らせてくれる。二人が席に着くと、焼き菓子が並ぶお皿とティーセットが運ばれてきて、私達の目の前のカップに熱いお茶が注がれていく。茶会の準備が整った途端にすっと視界から消えていく給仕。
パトリック様は周りに誰もいなくなったのを確認してから、改めて私のことを眺め、胸元で煌めいている青色のアヴェン石に気付いて嬉しそうに目を細めた。
「よく似合ってる。そのドレスもブローチも」
「ありがとうございます。とても貴重な物だとは知らず、お礼が遅くなりました……あのっ、これは殿下のお誕生をお祝いして他国より送られたものだと伺ったのですが、そんな大切な物を私が持っていても良いのでしょうか?」
「父も自分の石を母に婚約の証として贈ったそうだから、それはアイラ嬢に使ってもらうべきものだ。それとも、俺にブローチなんて似合うと思うか?」
「それはその……」
「価値など気にせず、できれば普段から身に着けてくれるととても嬉しいのだが……」
そう言った時のパトリック様の表情は持っていたティーカップが邪魔をして、私からはあまりよく見えなかった。ただその声がとても優しかったことははっきりと覚えている。これ以上ブローチの話をするのは照れくさく感じ、私は急いで話題を変える。
何と言っても、パトリック様が到着された時から密かにずっと気になっていたのだ。
「殿下もその服、とても素敵ですね。騎士団の制服でしょうか?」
「ああ、近衛の制服だ」
「ユーベル様も、女性騎士様も同じ物を着ていらっしゃるんですか?」
「少し形は異なるが、ほぼ同じ物を着ている。フツェデリとは問題なくやれているか? 何か不都合があれば――」
少し心配そうに確認してくるパトリック様に、私は首を横に振って「大丈夫です」と否定する。自分が推薦した教育係だったけれど、私との相性が良くなかったらと気にしてくれていたようだ。
「ユーベル様は、とてもよくして下さってます。作法以外にもいろいろ教えていただくことも多くて。私には姉妹がおりませんので、歳の離れた姉ができたようで甘えさせていただいてます」
「そうか、上手くいっているようなら良かった」




