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婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました  作者: 瀬崎由美


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第十七話・司祭様からの呼び出し

 神殿へ戻った後、一旦は部屋に入ったけれど、私はすぐに司教様からの呼び出しをくらった。

 もちろん、何の話をされるのかは分かっている。第三王子との婚約のことしかない。

 侍女と共に司教様の執務室に入り、促されるままソファーに座って司教様とケイネル神官と向き合う。

 あまりにも神妙な面持ちの二人を見て、私は慌てて背筋を伸ばした。


「第三王子と出会われたのは森の神殿が初めてでしたかな?」


 司教様がとても静かな声で聞いてくる。代理の神官から報告を受けた後、私がこれからどうすべきかを考えて下さったようだったが、やはり王家からの申し出は断ることはできないみたいだ。

 司教様からの問いかけに私が「はい」と小さく頷いてみせると、ケイネル神官と目を見合してから私の方を見て語る。


「これも何かの運命だったのでしょう。我々は神のお導きに背くことはできません。あの場に第三王子が居合わせたのもまた何かしらの意味があると考えるべきです」


 司教様は何か悟りを開いた風に語っていたが、私にはただの諦めの言葉にしか聞こえなかった。要するに神殿も王家には逆らえないのだ。

 だとしても、私にはこの場でどうしても確かめておきたいことがあった。司教様に向かって、私はずっと気になっていたことを口にする。


「パトリック殿下はどうしてあの場にいらっしゃったんでしょうか?」


 信仰心が厚い方のようには見えなかったし、私と同じように何かを抱えて世界樹の参拝に訪れていたのだとしたら、その理由は何なのだろうか?

 王子がそう簡単に城を追い出されるとは思えないから、よっぽど何かシャレにならないことをしでかしたのではと気になってしょうがなかった。

 ほぼ好奇心からの質問だったけれど、司教様達は「嫁ぐ相手のことはちゃんと知っておくべき」という正論にすり替えてくれたらしく、少しばかり声を潜める。さすがに王族の個人情報はそう易々と口にはできないのだろう。


「パトリック殿下が王宮騎士団に属しているのはご存じでしょうか?」

「はい。お噂ではかなり腕の立つ方だと聞いております」

「その通り、実力は副騎士団長クラスに匹敵すると言われており、小隊を任されておられます。ただ、その隊員の内の何人かが街中で少々問題を起こすということがありまして、その者達はすぐ除隊となったのですが……」


 説明するケイネル神官の歯切れはとても悪い。


「隊を追い出された後、ある噂が出回るようになりました。おそらく殿下はそれを避けるために森に行かれたのだと思います」

「その噂とはどういった……?」


 私からの問いかけに、ケイネル神官は言って良いものかと司教様と目を合わせていた。

 一体、どんな噂が原因であんな森の奥の何もない場所に身を潜めることになったのだろうか?


「噂とは、その隊を追われた元騎士達が第二王子、アロン殿下の暗殺計画を吹聴して回っていたと。しかも、その主犯格は弟である第三王子だと」

「なっ……⁉」

「王太子を巡る後継問題もありますし、ただの噂とは考えない者も多く、殿下は身の潔白が証明されるまでの間を森の神殿で過ごされるおつもりだったのでしょう」

「そのことはもう、解決しているのでしょうか?」


 私がそう訊ね直すと、ケイネル神官も司教様も私から目を逸らした。

 つまりまだ疑いが晴れたとは言えないのにあの王子はノコノコと王都へ戻って来てしまっているのだ。


「ということは、パトリック様の今のお立場はとても危ういのでは?」

「そうとも言えるでしょう。そんな中で聖女であるアイラ様と殿下のご婚約を公けにすれば、暗殺計画と神殿とを結びつけて考える者がいないとも限りません」


 つまり私とパトリック殿下との婚約は神殿の評価をガタ落ちさせる原因になりかねないということ。

 そうでなくても第二王子派の貴族を敵に回すことになるのに、王国民からの評判まで悪くなるのは大問題。

 数百年ぶりの聖女と聖獣の存在に浮かれていた神殿は、パトリック様の求婚のおかげで奈落の底に突き落とされかけそうになっている。


「ですから、聖女のお披露目の儀は事が収まるのを待つべきだというのが我々の考えです。おそらく王家はアイラ様が聖女と公言された後に王子との婚約を発表するつもりでしょうから」

「それが当然だと思います」

「拒否はできませんが、少しでも長く引き伸ばすくらいは許されるはずです」


 パトリック様は聖女である私だから求婚してきたのだ。だったら神殿が聖女顕現を明らかにせずにいる間は、ただの男爵令嬢なままの私との婚約はこれ以上は話が先に進むことはないはずだ。

 私はホッとして、ようやく肩の力を少しだけ抜いた。まだ何の覚悟もできていない今、先に進むのは怖くてしょうがない。

 緊張で汗ばんでしまった手をスカートで拭った時、ポケットに入れていた物に服の上から触れた。

 思い出して取り出したそれはパトリック様から貰った青と金のブローチ。私の手の中のその石を向かいから覗き込んで、司教様が目を剥きながら感嘆の声を上げた。


「何とも珍しい! それはアヴェン石ではないですか」

「アヴェン石、ですか?」

「ええ、海の向こうにある別の大陸で採れるという希少な石です。王家がいくつか保有しているというのを耳にしたことはありましたが、もしや?」

「はい。パトリック様から先程渡されたものです」


 私がそう答えると、司教様はほぅっと感心したように笑みを浮かべて頷いていた。


「存外、殿下はアイラ様のことをかなりお気に召されているのかもしれませんなぁ」

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