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婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました  作者: 瀬崎由美


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第十一話・司祭様との面会

 司教様が到着されたという連絡があってからは慌ただしかった。

 いつも礼拝時に着ていた飾りのないシンプルなワンピースの上にローブを羽織り、迎えに来た神官に従って礼拝堂へと向かう。

 抱っこで連れて来た黒猫のヴァルツは、昼寝の途中だったのか私の腕の中で欠伸を漏らしていた。


 世界樹の隣に建てられた礼拝堂は祭事などの特別な時期以外は閉鎖されているらしく、一般参拝者が入れることは滅多にない。

 私もここに来てから中へ足を踏み入れるのは初めてだ。

 木造の簡素な建物には大きな窓が一つだけあり、その窓に向けて長椅子が並んでいる。それは建物の中からでも世界樹の姿がしっかり確認できる配置で、天候に振り回されずに参拝ができるようになっているのだそうだ。


「なんか、山小屋みたいですね……」


 私の後ろに付いていたナナが神官達には聞こえないようにボソッと呟く。その素直過ぎる感想に私も黙って頷き返す。

 街中にある教会のステンドグラスに囲まれた厳かで豪奢な礼拝堂とは真逆に感じる。金と権力の象徴のようなあれは本来あるべき姿ではないのだと思えてくる。


 司教様は世界樹の周りを一巡されてから来られるという説明を聞いて、私達は長椅子の一つに腰を下ろして待つことにした。

 お年を召しておられるという司教様では根が張り巡らされて足場の悪い地面を回り歩くのは簡単ではない。

 それでもここを訪れて来る聖職者は必ず世界樹の根元を回って身を清めるのが慣習なのだという。

 窓の外を覗き見ると、杖を手にした老人がお付きの方に支えられつつ恐る恐るという風に歩いていた。


「あの方が司教様なんでしょうか?」

「そうみたいね」


 床に下ろした黒猫は建物の中の匂いを嗅いで回るのに忙しそうにしている。この子はあの世界樹から生まれたなんて、今だに信じられない。自由気ままに動き回っていたヴァルツが何かに気付き、慌てたように私の膝の上へと戻ってくる。


「どうしたの?」


 私が猫へとそう聞き返したのと同時に、礼拝堂の扉が軋み音を立てて開いた。そして、先程まで樹の周りを巡礼していた老人が木製扉から入ってきて、私へ向けて深々と頭を下げてくる。

 二人いたお付きの神官のうち一人は外で待機するつもりらしく、一緒に礼拝堂に入って来た若い神官も同じように後ろでお辞儀していた。


「お目にかかれ、大変光栄でございます、聖女アイラ様。長くお待たせしたご無礼をお許し下さい」


 司教様を前に、私は慌てて椅子から立ち上がると、「こちらこそお会いできて光栄です、司教様」と、頭を下げた後にニコリと微笑み返す。

 司教様は窓から見える世界樹に対して一礼した後、私と向かい合うように長椅子に腰を下ろした。

 開いた窓からは世界樹の葉が風に揺られてサラサラと鳴る音が聞こえてくるが、今は一般参拝の時間帯ではないからとても静かだ。


「まさか生きている内に聖女様にお目にかかれる日が来るとは思わず、我が身の幸運に感謝する日々でございます」


 司教様の声が震えているように思えて、私は彼の顔を見る。やや白濁したその瞳を潤ませながら、司教様は指を組んで祈りを捧げるように私のことを見ていた。

 そう言えば医務室で出会った神官達も同じような表情だったことを思い出す。


「おー、腕に抱いておられるのが世界樹の実から生まれた聖獣なのですね……ああ、経典で見た姿と同じ。黄金の瞳はより強い存在であることの証」


 手を伸ばして触れようとしてきた司教様に向かって、ヴァルツが私の腕の中からシャーという乾いた声を出して威嚇する。


「ああ、これは失礼を……」


 司教様は少し残念そうに手を引っ込め、猫に触れることはあっさり諦めたようだった。ここの神官達から猫にめちゃくちゃ引っ掻かれた話をすでに聞いていたのかもしれない。


「聖獣は平和の象徴であり、光の化身でございます。世界樹の実が新しい命を落としたということは、とても喜ばしいこと」


 今度はヴァルツに向けて祈り始めた司教様。

 当の黒猫は司教様のことなど気にせず、私の膝の上で毛繕いしている。私は顔を上げて司教様を見ると、抱えていた疑問をぶつけた。


「私はただの男爵家の娘でしかありません。それが急に聖女だなんて言われ、正直困惑しております。聖女とは一体、どういった存在で、私はこれからどうすれば良いのでしょうか?」


 私の問いかけに、司教様は穏やかな微笑みを浮かべながらゆっくりと口を開いた。

 「私共で分かることは限られてはおりますが」という前置きをしつつも、ここの神殿の神官達にはない確証に満ちた口調で話し始める。


「聖女というのは聖獣が使役者であると認めた存在でございます」


 それはここの神官からも聞いていたから、私は黙って頷き返す。世界樹の実は私を選んで落ちて来たのだと。

 まあ、いまだにただの偶然としか思えないんだけど……


「では、聖獣とは何なのでしょうか? 世界樹の実から生まれたというのは分かるのですが……」

「この世は世界樹と共に生まれ、世界樹は多くの命を育んで参りました。我々人間の先祖もこの樹から生まれたと言われております」


 あの大樹がこの世界の始祖と呼ばれる理由だ。私は司教様の説明を黙って聞いた。

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