第3章:襲撃
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## 1
深夜。
叫び声で目が覚めた。
「敵だ! 盗賊だ!」
ヒロは反射的に飛び起きた。囲炉裏の火は消えかけていて、部屋は暗い。
老婆がすでに起き上がっていた。彼女の目は鋭く、暗闘の中でも何かを見据えていた。
「来たか」
「何が——」
「盗賊だ。この村を狙っている連中がいる」
外から怒鳴り声と金属がぶつかる音が聞こえた。戦闘が始まっている。
「行け」
老婆が言った。
「村の若い者が戦っている。だが、数が足りない」
「俺に何ができる」
「知らん。だが、お前は神代の者だろう。何かできるはずだ」
ヒロは工具箱を掴んで外に飛び出した。
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## 2
村は混乱していた。
松明の光があちこちで揺れている。女たちが子供を抱えて走り、男たちが武器を持って走り回っている。
刀を持った男たちが村に侵入していた。盗賊だ。顔に布を巻き、黒い衣を纏っている。十人以上いる。
村の男たちも戦っていた。だが、明らかに劣勢だった。盗賊は訓練されている。村人は農民だ。
「くそ……」
ヒロは周囲を見回した。自分に何ができる。武器は持っていない。戦闘の訓練も受けていない。
だが——
視界の端に、何かが見えた。
倒れた盗賊の横に、何かが落ちている。細長い、金属の棒——
ライフルだ。
旧文明の銃火器。壊れているのか、盗賊が投げ捨てたらしい。
ヒロは駆け寄り、ライフルを拾い上げた。重い。ずっしりとした金属の重さ。
「動くか……?」
素早く調べる。外装は傷だらけだが、致命的な損傷は見当たらない。問題は——
弾倉を確認する。
弾が入っていた。だが——
「3発だけか」
たった3発。だが、ないよりはましだ。
ボルトを引く。詰まっている。何かが引っかかっている。
「くそ……」
工具箱からドライバーを取り出し、素早くボルトを分解する。中を見る。砂が詰まっていた。500年分の砂埃が、内部に堆積している。
「これさえ取れば——」
だが、時間がない。盗賊が近づいてきている。
「ガウッ!」
ハチが吠えた。警告音と共に、盗賊に向かって飛びかかる。
「ハチ、待て!」
盗賊がハチを蹴り飛ばした。ハチが地面に転がる。
「この——!」
ヒロは必死でボルトを掃除した。砂を払い、油を差す。工具箱にはわずかな機械油が残っていた。
カチン。
ボルトが動いた。
「よし——!」
ライフルを構える。狙いを定める。手が震えている。
引き金を引いた。
轟音。
反動で体がよろめく。だが——
弾は逸れた。盗賊の横を通り過ぎ、壁に当たった。
「くそっ!」
残り2発。
盗賊がこちらに気づいた。笑っている。刀を構えて近づいてくる。
再び狙いを定める。今度こそ——
引き金を——
その瞬間。
空気が裂ける音がした。
盗賊が倒れた。
ヒロは引き金を引いていなかった。
「何……?」
見ると、盗賊の首に矢が刺さっていた。
誰かが——狙撃したのだ。
振り向く。だが、射手の姿は見えなかった。暗闘の中、どこから撃ったのかもわからない。
「ガウッ!」
ハチが再び吠えた。別の盗賊が近づいている。
ヒロは再びライフルを構えた。残り2発。今度こそ外せない。
慎重に狙いを定める。呼吸を整える。
引き金を引いた。
今度は当たった。盗賊が倒れる。
残り1発。
だが、それで十分だった。
謎の射手が次々と矢を放ち、盗賊を倒していく。矢は正確で容赦がなかった。
やがて、生き残った盗賊が逃げ始めた。
戦いは終わった。
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## 3
夜明けが近づいていた。
村の広場に、村人たちが集まっていた。負傷した者を手当てし、倒れた盗賊の遺体を片付けている。
ヒロは座り込んでいた。手がまだ震えている。人を撃った。殺した。
「ガウッ」
ハチが横に来て、体を擦りつけた。バッテリーが切れかけている。動きが鈍くなっている。
「すまん、ハチ。休め」
ハチは力なく横たわった。
「お前か」
声がして、顔を上げた。
若い男が立っていた。二十代前半。がっしりとした体格。手には血の付いた刀を持っている。
「俺の名はサム。お前が神代の者か」
「……ヒロだ」
「ヒロか」
サムはヒロの隣に座った。
「さっきのライフル——お前が直したんだろう。たいしたもんだ」
「……2発しか当たらなかった」
「2発当たれば十分だ。俺たちは弓と刀しかない」
サムが笑った。だが、その笑顔はすぐに曇った。
「だが——不思議だな」
「何が」
「盗賊どもを仕留めた矢。お前が撃ったんじゃないだろう」
「……俺じゃない」
「だろうな。あの射撃は尋常じゃなかった。一発一発が急所を貫いていた」
サムが周囲を見回した。
「誰がやったんだろうな」
答えはなかった。
その時——
「ハチ」
ヒロは立ち上がった。
ハチの姿が見えない。
「ハチ!」
走り出した。戦闘中、どこかで離れてしまったのだ。
村の外れで、ハチを見つけた。
横たわっていた。動いていない。
「ハチ……!」
駆け寄り、抱き上げる。
目の光が消えていた。バッテリーが切れたのだ。
「くそ……」
ヒロはハチを抱きしめた。
「待ってろ。絶対に直してやる」
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## 4
ハチを納屋に運んだ。
盗賊との戦いで、村は傷ついていた。だが、誰も死んではいなかった。負傷者は数人いたが、命に別状はない。
「お前のおかげだ」
老婆が言った。
「あのライフルがなかったら、もっと多くの者が死んでいただろう」
「……俺は何もしていない。誰かが矢で——」
「知っている」
老婆が言った。
「サヤだろう」
「サヤ?」
「あの子は弓の名手だ。村の外れで見張りをしていた」
あの女。黒髪の、鋭い目をした狩人。
「なぜ姿を見せない」
「あの子はそういう性格だ。人前に出るのが嫌いなのだよ」
老婆は溜息をついた。
「だが、お前には礼を言っておく。あのライフルを直してくれたこと——忘れない」
ヒロは何も言えなかった。
自分は何も救えなかった。ハチを守ることもできなかった。
「……ハチを、直さないといけない」
「あの金属の獣か」
「仲間だ。唯一の」
老婆は頷いた。
「好きにするがいい。この村は——お前の居場所だ」
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**【第3章 完】**
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*次章予告:*
*弓の訓練。*
*サヤとの距離。*
*そして——夢に現れる娘の声——。*




