第19章:光への道
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## 1
灰色の空の下——
三人と一匹が、歩いていた。
ヒロ。
レン。
アヤカ。
ハチ。
北の遺跡を出て、三日目。
中央遺跡は——
まだ、遠い。
「……ヒロ」
レンが、そばに来た。
「休むか」
「いや」
ヒロは、首を振った。
「まだ、大丈夫だ」
嘘だった。
右肩が、痛む。
腕が、上がらない。
左脇腹も、痛む。
激しく動くと、血を吐く。
視界も——
ぼやけている。
だが——
「……止まれない」
呟いた。
「もう少しだ」
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## 2
夜。
焚き火のそばで、休んでいた。
アヤカが、乾燥肉を配ってくれる。
「……ありがとう」
受け取る。
硬い。
噛むと、顎が疲れる。
だが——味はある。
塩味。
少しだけ、香辛料の香り。
「……美味い」
「よかった」
アヤカが、小さく笑った。
「……ヒロ」
レンが、こちらを見つめた。
「何だ」
「……サヤのこと、覚えてるか」
心臓が、痛んだ。
「……ああ」
忘れるわけがない。
「いつも——」
レンが、焚き火を見つめた。
「お前を、守ろうとしてた」
「……」
「でも——」
レンの声が、震えた。
「最後は——お前が、サヤを守ろうとして」
「……ああ」
「でも——守れなかった」
涙が——
流れそうになった。
「すまん」
「いや」
レンが、首を振った。
「サヤは——満足してたと思う」
「……」
「お前のそばで、死ねたから」
風が、吹いた。
焚き火が、揺れる。
「……そうか」
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## 3
翌日。
歩きながら——
イヴのことを、思い出していた。
銀髪のアンドロイド。
いつも、静かに微笑んでいた。
ナノマシンの訓練を——
厳しく、優しく、教えてくれた。
「……イヴ」
呟いた。
「お前も——」
俺を、庇って死んだ。
「すまん……」
「……ヒロさん」
アヤカの声が、した。
「イヴは——後悔していません」
「……」
「私、彼女と——少しだけ、話したんです」
「……いつ」
「第17章——崖で、あなたを救った時」
アヤカが、遠くを見つめた。
「イヴは、言っていました」
「……何を」
「『ヒロは——人類の希望だ』って」
「『だから——生きてほしい』って」
胸が、苦しい。
「……」
「だから——」
アヤカが、こちらを見た。
「死なないでください」
「……ああ」
頷いた。
「約束する」
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## 4
四日目。
休憩中——
アヤカが、聞いてきた。
「……ヒロさん」
「何だ」
「彩花のこと——もっと、聞かせてください」
心が、温かくなった。
「……何を」
「どんな——子供でしたか」
ヒロは——
目を閉じた。
記憶を、辿る。
小さな手。
笑い声。
「……明るい子だった」
「……」
「いつも——笑っていた」
「歯車が好きで——」
「俺の工具箱を、勝手に開けて」
「部品で、遊んでいた」
アヤカが、笑った。
「……似てます」
「何が」
「私も——子供の頃、工具箱が好きでした」
ヒロも——
笑った。
「……血は、争えないな」
「ええ」
風が、優しく吹いた。
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## 5
ハチが——
「ガウッ」
と、鳴いた。
「……どうした」
ヒロが、近づく。
ハチが、尻尾を振っている。
「……お前も、疲れたか」
頭を、撫でる。
金属の感触。
だが——温かい気がする。
「……ハチ」
呟いた。
「お前は——ずっと、俺のそばにいてくれた」
「……」
「ありがとう」
ハチが——
こちらを、見上げた。
丸い目。
LEDが、優しく光っている。
「最後まで——」
ヒロは、約束した。
「一緒だ」
「ガウッ」
力強く、鳴いた。
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## 6
五日目。
丘の上に、立った。
遠くに——
巨大な建造物が、見えた。
「……あれか」
アヤカが、頷いた。
「中央遺跡です」
ぼやけた視界でも——
その輪郭は、わかる。
高い塔。
崩れかけた壁。
蔦に覆われた、巨大な構造物。
「……でかいな」
レンが、呟いた。
「ああ」
ヒロも、同意した。
「……あそこで」
呟いた。
「世界に——光を、取り戻す」
「……」
「彩花の、夢を」
「サヤの、想いを」
「イヴの、予言を」
「叶える」
アヤカが——
こちらの手を、握った。
「……一緒に」
「ああ」
レンも——
もう一方の手を、握った。
「最後まで」
三人で——
手を繋いで。
前を見る。
中央遺跡が——
そこにあった。
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## 7
その夜——
最後の野営だった。
明日には——
中央遺跡に、着く。
焚き火のそばで——
三人は、静かに座っていた。
「……ヒロ」
レンが、口を開いた。
「怖く、ないのか」
「……」
「明日——何が起きるか、わからない」
「帝国軍が、待っているかもしれない」
「遺跡が、動かないかもしれない」
「お前が——死ぬかもしれない」
レンの声が、震えていた。
「……怖い」
ヒロは、正直に答えた。
「でも——」
焚き火を、見つめた。
「やるしか、ない」
「……」
「彩花が——待っていてくれた」
「サヤが——イヴが——生きろと、言ってくれた」
「なら——」
拳を、握った。
「俺は——生きる」
「世界に、光を取り戻して——」
「生きる」
レンが——
涙を、流した。
「……馬鹿」
「そうだな」
ヒロも、笑った。
「俺は——馬鹿だ」
アヤカも——
泣いていた。
「……でも」
彼女が、言った。
「その馬鹿に——私は、賭けます」
「彩花も——そうしたように」
三人で——
泣いて。
笑って。
最後の夜を、過ごした。
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## 8
六日目——
中央遺跡が、目前に迫った。
だが——
「……待て」
ヒロが、立ち止まった。
「どうした」
レンが、警戒する。
「……気配がする」
視界は、ぼやけている。
だが——
感じる。
敵の、気配。
「……隠れろ」
三人は、岩陰に身を潜めた。
そして——
「——!」
帝国軍が、現れた。
十人。
いや——二十人。
重装備。
神器を、持っている。
「……クソ」
レンが、呟いた。
「待ち伏せか」
「ああ」
ヒロは——
ナノマシンを、起動させた。
頭が、痛む。
視界が——
さらに、ぼやける。
だが——
「……やるしか、ない」
立ち上がった。
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## 9
「そこだ!」
敵が、叫んだ。
銃声。
弾丸が、岩を砕く。
「レン! アヤカ!」
ヒロが、叫んだ。
「逃げろ!」
「馬鹿言うな!」
レンが、弓を構えた。
矢を、放つ。
敵の一人が、倒れる。
アヤカも——
古い拳銃を、撃った。
命中。
だが——
敵は、多い。
ヒロは——
ナノマシンで、敵の神器を止める。
一つ。
二つ。
頭が、割れそうに痛い。
鼻から——
血が、垂れる。
視界が——
白く、染まる。
「くそ……」
見えない。
敵が、どこにいるか——
わからない。
「ヒロ! 右!」
レンの声。
右に、跳ぶ。
弾丸が——
さっきまでいた場所を、抉る。
「……ありがとう」
だが——
限界が、近い。
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## 10
「レン! 下がれ!」
ヒロが、叫んだ。
だが——
「嫌だ!」
レンは、矢を放ち続ける。
アヤカも——
銃を、撃ち続ける。
「お前を——見捨てない!」
レンの声が——
心に、響いた。
かつて——
サヤも、同じことを言った。
イヴも——
同じことを、した。
「……違う」
ヒロは、呟いた。
「お前たちは——」
「死んじゃ、だめだ」
ナノマシンを——
全力で、起動させた。
敵の神器が——
すべて、停止する。
「……!」
敵が、混乱する。
「今だ! 突破しろ!」
三人は——
走った。
敵の包囲を、抜ける。
だが——
背後から。
「逃がすか!」
敵将軍の声。
振り向くと——
巨大な男が、立っていた。
手には——
長槍。
「……」
ヒロは——
レンとアヤカの前に、立った。
「……二人とも」
「俺の後ろに、いろ」
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## 11
敵将軍が——
槍を、構えた。
「貴様が——」
低い声。
「ヒロか」
「……ああ」
「我が帝国を——苦しめた」
「悪魔め」
将軍が——
踏み込んだ。
速い。
槍が——
突き出される。
ヒロは——
横に、跳ぶ。
ぼやけた視界。
だが——
何とか、避けた。
反撃——
ナノマシンで、槍を止めようとする。
だが——
「……!」
効かない。
「無駄だ」
将軍が、笑った。
「この槍は——神器ではない」
「ただの、鉄だ」
くそ——
ヒロは——
後退する。
だが——
背後に、崖。
逃げ場が、ない。
「……ヒロ!」
レンが、矢を放つ。
将軍の肩に、刺さる。
だが——
「効かぬ!」
将軍は、怯まない。
再び——
槍が、突き出される。
ヒロは——
避けようとした。
だが——
右肩が、上がらない。
体が——
思うように、動かない。
「——!」
槍が——
左腕を、貫いた。
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## 12
「——ああ」
声にならない、悲鳴。
槍が——
左腕を、貫通している。
骨が——
砕けた。
肉が——
裂けた。
痛い。
痛い。
痛い——
「……ヒロ!」
レンの、叫び。
アヤカの、悲鳴。
だが——
遠い。
視界が——
暗く、なる。
いや——
ダメだ。
ここで——
倒れたら。
レンが。
アヤカが。
死ぬ。
「……」
ヒロは——
左腕を、見つめた。
槍が、貫通している。
抜けない。
このままでは——
動けない。
「……」
決めた。
「……すまん」
誰に、謝っているのか。
彩花か。
美咲か。
サヤか。
イヴか。
それとも——
自分自身か。
ナノマシンを——
起動させた。
左腕の、付け根に。
「……切る」
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## 13
ナノマシンが——
肉を、切断していく。
皮膚。
筋肉。
腱。
骨。
「——ああああ!」
絶叫した。
痛い。
痛い。
世界が——
白く、染まる。
だが——
止められない。
切らなければ——
動けない。
守れない。
「……ごめん」
呟いた。
「ごめん……」
そして——
ブツン。
左腕が——
落ちた。
槍ごと。
地面に。
「……ああ」
視界が——
真っ白。
体が——
倒れる。
だが——
「ヒロ!」
レンが——
支えてくれた。
「起きろ! 死ぬな!」
「アヤカ! 止血を!」
「わかってる!」
アヤカの手が——
左肩の断面を、押さえる。
「……痛いです、我慢してください!」
痛い。
だが——
もう、わからない。
全てが——
痛い。
「……レン」
呟いた。
「アヤカ……」
「喋るな!」
レンが、泣いていた。
「喋るな……頼む……」
「……」
「死ぬな……」
レンの涙が——
こちらの顔に、落ちる。
「……約束、しただろ……」
「……ああ」
思い出した。
第16章で——
「死ぬな」と、約束した。
「……すまん」
「謝るな!」
レンが、怒鳴った。
「謝るな……」
「生きろ……」
「……ああ」
頷いた。
「生きる……」
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## 14
どれくらい、経ったろう。
気がつくと——
中央遺跡の、入口だった。
巨大な扉。
崩れかけた、壁。
「……ここか」
呟いた。
声が、かすれている。
「ええ」
アヤカが、答えた。
「……将軍は」
「レンが、倒しました」
「……そうか」
レンを、見る。
彼女の手には——
血のついた、短剣。
「……お前が?」
「……ああ」
レンが、俯いた。
「お前が——腕を切った時」
「将軍が、隙を見せた」
「だから——」
「……」
「刺した」
レンの声が、震えていた。
「……初めて、人を殺した」
「……」
「でも——」
レンが、こちらを見た。
「後悔してない」
「お前を——守れたから」
ヒロは——
右手で、レンの頭を撫でた。
「……ありがとう」
「……」
「お前が——いてくれて」
レンが——
泣いた。
声を上げて。
アヤカも——
泣いていた。
「……ヒロさん」
「何だ」
「左腕——」
「わかってる」
ヒロは、左肩を見た。
布で、ぐるぐる巻きにされている。
血が、滲んでいる。
だが——
止まっている。
「……ありがとう、アヤカ」
「……」
「お前の、おかげだ」
アヤカが——
こちらを、抱きしめた。
「……すみません」
「……」
「私が——もっと強ければ」
「いや」
ヒロは、首を振った。
「お前は——十分、強い」
「……」
「俺を——ここまで、連れてきてくれた」
「それだけで——十分だ」
三人は——
しばらく、そうしていた。
泣いて。
抱き合って。
生きていることを——
確かめ合った。
そして——
ヒロは、立ち上がった。
「……行くぞ」
中央遺跡の、扉を見つめた。
「世界に——」
「光を、取り戻しに」
レンが、頷いた。
アヤカも、頷いた。
ハチが——
「ガウッ」
力強く、鳴いた。
四人は——
扉の前に、立った。
ヒロは——
右手で、扉を押した。
重い。
だが——
動く。
ギィ——
古い音を立てて。
扉が——
開いた。
中は——
暗い。
だが——
奥に、光が見える。
かすかな——
青い光。
「……行こう」
ヒロが、言った。
四人は——
遺跡の中へ、入った。
片腕を失った技術者。
元帝国の密偵。
彩花の子孫。
相棒のロボット犬。
最後の戦いへ——
歩き出した。
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**【第19章 完】**
---
*次章予告:*
*中央遺跡の深部。*
*ヒロの最後の決断。*
*そして——世界に、光が戻る。*




