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ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(改訂版)  作者: 一 止


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第76話  人類の存続に欠かせないのは・・・ダンジョン?(その2)

 百花の問いに対して拍手で答えたユリヤの翔子は、此方へと近づいてきた。片膝を突き負けを認めた猛丸の横に並ぶと、同じように跪き光る弾を捧げ持つ。


 「盟約に従い、迷宮の真核を其方に捧げん。この至極の宝玉は其方のものだ」と言って淡く光る珠を捧げ持つ。


 そのダンジョンの真核を受け取った途端、自分の中で新たなものが生まれた様な感覚を覚えた百花は深いため息を静かに吐く、闘いの勝利を噛み締めているのだ。


 頃合いをみて立ち上がった翔子は、背後にドアを構築して百花に向き直る。


 「此方へどうぞ、台座の間へと御案内致します。その真核を迷宮の中心たる台座へと奉る事で、真なるこの迷宮群の盟主となります」そう言って構築した扉を開けて脇へと下がる、ユリヤの翔子。


 この扉の向こうに台座の間が在り、その台座に此の迷宮の真核とやらを置く事で名実ともに此のダンジョン群のマスターになる事が出来る。雫斗から聞いてはいたが、実際にその扉を前にしてみると、少し震えがくる百花だった。


 その扉に向かいながら、平伏する年老いた片腕の武人にどうぞと言って高級ポーションを手渡した、初級・中級・高級・最高級と四段階に分かれているポーションだが、高級であれば切断された腕であろうと元に戻せる効果がある、SDSのメンバーにとっても貴重なポーションでは在るが、自分がヤラカシタ行為を気にする辺りはうぶな探索者だと言って良い。


 「かたじけない」と一言礼を言い、きり飛ばされた腕を取りに向かう、そういう所は魔物と人との違いが浮き彫りになる、人であれば今頃痛みで気を失っていても不思議ではない、片腕を失っていても平然と動き回れるその体の作りが、魔物由縁だといえばそれ迄なのだがこと戦闘においては強みとなる。


 開け放たれた扉の壁面には中国風の水墨画の様な様式で、野山の風景が綺麗な色彩で描かれている。描かれていると表現しはしたが、現実世界の空間と水墨画が融合した不思議な世界をそのまま扉にしたかの様な実際には在り得ない存在感が有った。


 その扉を潜り抜けると、のどかな田園風景が広がっている、中世や東洋のではない日本の、昔の田舎の田んぼの風景だ、山の斜面に造られた段々畑や、曲がりくねったあぜ道沿いによく手入れされた田んぼの数々、ご丁寧に農作業に必要な道具の保管場所や休憩場所としての華奢な作りの作業小屋迄ある、くねくねしたあぜ道の突き当りに巨大な鳥居の姿が見受けられた。


 しかし違和感が半端ない、作業している筈の人の姿が見えないのだ、気配さえも皆無でまるで一つの絵画の中に佇んでいる様な感覚をおぼえている百花は、唖然として立ち尽くしていた。


 その百花の感情を知ってか知らずかひょうひょうと脇を進んで先導し始めるユリヤの翔子、仕方なく付いて行く百花の後ろから護衛を買って出たかの如く、先ほど命がけで対峙した武人が付いて来る、腕は無事くっ付いたようで自分の得物の短槍を担いでいる様は馴染んでいて不自然さがない。


 「此処は、わたくしの記憶の中にある風景をそのまま構築した物です、見た目は収穫間直の稲ですが食する事は出来ません、枯れもせず朽ち果てる事も無いこの思い出の造形だけがわたくしの記憶の底に眠っているのです。もしかすると遠い昔に、わたくし自身はかつて人として生を受けて居たのかもしれません」と歩く道すがら話し始めた翔子、百花にしても生まれ変わりと言うのは信じられないが、その様な感覚が時たま出てくる事は有る、まるでその情景がかつて見た事が有る様な感覚だ、


 気の迷いだと言う人もいるが、人の精神とはたぶん複雑なのだろう、こうだという決まり事には当然当てはまらない、百億の人がいれば百億の人格が、千億の人がいれば千億の人の思いが在るのは当然なのだ、常識という社会の都合で縛っていいものではない。


 鳥居を抜けて緩い階段を登りきると、こぢんまりとした社がぽつんと立っていた、扉は開かれていて、中には人が入れるほどの部屋に神棚が設られていてその中に供物台が置かれていた。その上に宝珠を保護する座布団の様な物が置かれている、要するにそこに置けと言っている様なものだ。


 「ささっ! 迷宮の真核をその台座へとお供え下され、さすればあなた様は我らの主と成られる事に為ります」二人だけしか居ない観客を意識しながら、言われるがまま真核を据えて振り返ると、いつの間にか観客が増えていた。



 その少し前、名古屋ダンジョン協会の支部長からの報告を聞き終えた雫斗は斎賀村へと帰る事にした。自分の拠点空間とその副産物である、何処からでも移動が出来る機能を秘匿しているために、わざわざ名古屋支部前ダンジョンから雑賀村へと帰る事にしたのだ。


 その道すがら着信のチャイムが鳴る、スマホを取り出して相手を確認すると、名古屋市全域のダンジョンを管理統括しているキャサリンからのものだった。


 「もしもしキャサリン、どうしたんだい? 君がスマホで連絡してくるなんて珍しいね」と雫斗が呑気に話していると。


 「主よ、のほほんとしている場合ではないぞ!! そなたのパーティーメンバーの一人が連れ去られた。どうやら”昇華の儀”を強制的に受けさせられている様じゃ、取り敢えず急いでこちらに来てくれ」とのんびり話す雫斗に対して呆れた様にキャサリンが話す。


 ダンジョンから拉致された? こんなことは聞いた事がない。迷路に迷い込んで出る事が出来なくなる事はよくある事で、戦闘で負けそうになり逃げ出して出口を見失う探索者もいるには居るが、ダンジョンから連れ去られたとは、しかも管理者の眼を掻い潜って? 意味が分からないながらも、人気の無い所から名古屋支部前ダンジョンの最深部へと転移する。


 そこではキャサリンが空間に投影された映像を見ながら雫斗を迎えていた、その映像には和装の令嬢と武者姿の大男が居いてその二人と対峙する百花の姿が映っていた。本当に百花が迷宮の試練に挑戦している様だ。


 「うわ~~本当なんだ。他のメンバーは無事なの?」雫斗は恭平と弥生の安否を確認すると、それぞれ”試練の間”を終えて帰るところだというので、連絡してキャサリンにこの部屋へ転送してもらった。ちなみに録画しているかとキャサリンに聞いたら、スマホを掲げて満面の笑みを見せていた、どうやら支度は万全である様だ。


 転移して来た恭平たちに事の次第を説明していると、戦闘が始まった。突っ込む武者の姿を見て。


 「ああ、それ恭平が得意な奴。百花も余裕で躱しているね」と弥生の解説で、百花の初昇華の儀の観戦が始まった。


 武者との接近戦では恭平が百花と雫斗の短剣を使った双剣での剣戟を比較して、「あの重い太刀では百花の動きについて来られないね、せめて雫斗の短剣でないと対応できないかな」と武者の動きにダメだしをする。


 勘の良い百花に対して遠距離からの魔法攻撃の初動の動きには弥生が「百花に遠距離からの攻撃はすぐばれちゃうのよね、せめて初動を隠蔽できないと勘付かれてしまうわ」とまともに魔法攻撃に移った武者に辛辣な評価をする。


 いきなり飛び上がる百花、その空中機動に雫斗が賞賛の言葉をかける。


 「その空中機動法を習得したのは百花が一番早かったね、ほんと器用だよね、今では僕よりうまく使っているよね。・・・うっゎ~、飛び込んで決めちゃったよ。どうやら終わったみたいだね」と雫斗の解説で締めくくると、いきなり後ろからキリドンテの声がした。


 「さすがは我が主殿のご友人でござりまする。無事勝利した事ですし、これから迷宮の試練に打ち勝った彼女を祝福しに向かわねばなりますまい、ささっこちらに転移門を構築して在りますればどうぞお通りください」と雫斗達がその声に驚いて振り向くと門の前に一礼しているキリドンテの姿が有った。


 「驚いた!! 何時の間に来ていたの? そりゃ~~百花に勝利の”おめでとう”を言いたいのは山々だけど、勝手に他のダンジョンに転移で出向いて構わないの?」と雫斗が皆の疑問を代表して聞くと。


 「普段であれば、迷宮の管理者はお互いに不干渉を貫くのでございまするが。今日の出来事はイレギュラーが成したこと、つまり盟約を少しばかり捻じ曲げた結果でございまする。ただいま転移門を構築できたことは、盟主方とユリヤの翔子殿の許可を得て居ますれば、ご安心の程を」としれっとユリヤの翔子が、百花を拉致った事に少しばかり関与してますと白状した。


 どうやらその事にキャサリンは関与していない様で、ぶすっとした表情が新鮮だった。詳しく聞きたいが今は時間が惜しい、文句を言って百花の晴れ舞台に遅れる訳には行かない、納得は出来ないが、渋々皆で転移門を括る事にした。


 無事台座へと迷宮の真核を治めた百花が振り向くと、ユリヤの翔子と富嶽の猛丸の他に、自分のパーティーメンバーと雫斗のダンジョン管理者であるキャサリンとキリドンテが居て、人数がいきなり増えている事に戸惑う百花。


 「あれ~~。何故雫斗達が居るの?」と百花の疑問に。


 「キャサリンの管理する迷宮から百花がいきなり消えたから、彼女が僕に報告してきてね、詳しく聞くと別の迷宮で”昇華の儀“をやっているって言うじゃない、心底驚いたよ。そこで皆を呼んで、百花のダンジョン攻略の状況を見ていたのさ。・・・取り敢えず、攻略おめでとう、これでダンジョン攻略者が二人になったね、肩の荷が下りた気分だよ」とこれまでの自分たちの経緯と祝福を雫斗が述べると、我先に言われる”おめでとう”の合唱に照れていた百花だが、ふと真顔になる。どうしたのかと皆が訝しんでいると。


 「私が、戦っていた映像をみんなで見て居たのよね?」と百花。「そうだけど」と弥生。


 「もしかしてだけど。・・・録画しているの?」と百花が恐る恐る聞いてきた。


 満面の笑みでスマホを軽く振る雫斗が一言。「ばっちり」


 「消しなさい、今すぐ消しなさい」と雫斗のスマホを奪い取りに来る百花、雫斗も奪われまいと応戦する、ちょっとした争奪戦に呑気に弥生が「元気よね」と呆れて百花の底なしのスタミナを称賛する。


 暫く雫斗と百花の壮絶な鬼ごっこを見ていた恭平が言葉をかける。


 「百花のダンジョン攻略の映像は、教科書に為るよ、お手本としては優秀だからね。・・・言い換えれば雫斗の攻略法は次元が違うから僕たちには無理だね」と静かに百花を説得する。雫斗からのスマホの奪取を諦めた百花が、多少顔を赤らめながら答える。


 「そうかな? でも派手さがいまいちじゃない、もっとゴウジャスに行きたかったわ。・・・まっ初めてじゃしょうがないか」とケロッとして答える、どの道、攻略映像が有るのなら、協会に提出してダンジョンを攻略した事の証拠にする事は理解している百花なのだ。


 「だけど、どうしていきなり決まり事を変えたの? 本来なら最下層の攻略者が対象でしょう? 最下層を攻略していない僕が言うのもなんだけど」と言いよどむ雫斗にユリヤが答える。


 「わたくし達は基本、地上の理には不干渉です、しかし前に進もうとする者を、己の利益のために蔑ろにする者達に加担する事に為るのももどかしいので、此方の理念を優先する事としました。要は最下層を単独で攻略できる実力と意欲が有れば何処からでも”昇華の儀”に挑戦できる事としたにすぎません。王の称号を取得した者という条件は変わりませんが」


 どうやら迷宮管理者のダンジョン関連の情報統制が緩くなったようだ、薄々感じていた疑問を雫斗が聞いてみる。


 「今まで考えて居た事なんだけど、ダンジョンが地球に出現した事って、僕たち人類の救済が目的なの」


 「キリドンテが言って居た様に、なかなか聡明な御仁ですね。・・・分かりましたお話ししましょう。本来は話す事は禁忌とされていましたが、ここに至っては無意味だと我が盟主達は理解しました。・・・すべての生命という特殊な恩恵を得た種は、長い時間の中でいくつかの生活環境の激変によって、滅亡するか生き延びるかの究極の選択をしなければいけな時期が必ず訪れます。事実人類という種も何度か滅亡の危機を乗りこえてここ迄発展してきました。しかし高度な知性を得て、自らの環境を作り変える力を得ると、ほぼ100%の確立で滅亡してしまうのです。そこで唯一滅亡を逃れた我らが盟主たちは考えました、救済をしてはどうかと。しかし闇雲に恩恵を与えてもその事に胡坐をかき滅亡を早める結果となりました、要するに精神が未熟な知性には無理な事だと結論付けた様です。そこで試練を与えて種の魂たる資質を鍛える事にしたのです、その一環が魔物の討伐とダンジョンの制覇です。努力の果てに掴んだ力の使い方を間違ってはいけません、破壊の力をむやみに顕現したならば、それは己を自戒へと導く過程となる事を忘れてはなりません」そう言ったユリヤは口を閉ざした、これ以上は話す事は無いという事なのだろう。


 しかしこれからが大変だ。その事を協会に報告したなら、狂乱する事は間違いない、政府の思惑道理には行かないと言われたに等しいのだ。これからはダンジョン攻略者が多数現れる事に為るはずだ、ダンジョン自身が選別する探索者が挑むことに為るのだから。



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