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ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(改訂版)  作者: 一 止
第1章  初級探索者編

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第67話  事に重大さの認識のズレが、悲劇の引き金となるのか? (その1)

 雫斗が慌ててダンジョンから出てみると、入り口で百花達が待ち構えて居た。彼女らの表情からは怒りを通り越して呆れている事は読み取れたが、その雰囲気は危険な香りがした。


 流石にダンジョンの中に引き返すわけにも行かず、愛想笑いで事を濁そうと試みるも、両脇を抱えられて連行されるにあたって、もはや逃げ場はないのだと悟ったのだった。しかし彼自身が名古屋支部前のダンジョンを制覇した事実を語って居ない事で、まだ僅かな望みはあると思って居た雫斗だったが。


 「どうしたのかな? 何故拘束されるのか分からないんだけど」


 雫斗の訴えに黙ってスマホの動画を見せる百花。キリドンテが先の戦闘を、動画として配信していたことを知らない雫斗にとって寝耳に水どころか、震度8クラスの衝撃だった。


 「よ、よく出来た映像だね。誰が作ったのかな?」


 まだ誤魔化せると思っている雫斗は、悪あがきを続けようとしたが、しかし百花達のジト目を前に観念する。


 「い、一応言っておくけど、完全に事故だから。深淵の試練を課してきたのはダンジョンだからね、自分からやろうと思って入った訳じゃないからね、向こうが勝手に強要して来ただけだからね」雫斗は、一方的に向こうが悪いと訴えるも、事情を知らない百花にはどうでも良い事ではある。問題は雫斗が行っていた空中での高速移動の事を、百花達に黙っていた事なのだ。


 「そんな事はどうでも良いの、何故黙っていたの?」のんけんな態度の百花の意図が掴めず疑問を抱えたまま雫斗が「何かな?」と聞くと。


 「あの空中高速機動の事よ。何故教えてくれなかったの?」百花達にとってダンジョンの完全制覇は今の所どうでも良いのだ。いや、そう言うと語弊がある、いずれは自分達も雫斗の様にダンジョンを制覇して、ダンジョンマスターとなる事に憧れはあるが、しかしそれは今では無い。


 雫斗の様な無謀を通り越して命知らずの無茶な事を真似ようとは思っていない、猪突猛進気味の百花ではあるが、結構堅実的な考えをしていた。


 それは弥生や恭平も同じなのだ、では何に憤慨しているかと言うと、身体能力の向上にあたって仲間内で内緒にしていた事に腹を立てているのだ。


 今更ダンジョンの主人となった雫斗を、拠点空間を構築した彼を羨んでも、どうしようもない事は分かっているのだ。では何をすれば良いのか、悩んだ挙句導き出した答えは、自分達の能力の向上だ。


 身体能力を鍛える事、新しい技を覚える事ならば、今までやって来たことの延長線上にあるので分かりやすい。雫斗がして来た事を本人から聞いたり見たりしてきたが、同じ事をしていたら命が幾つあっても足りはしない、百花も死にたくは無いのである。


 「ああ? あれは出来たら良いなぐらいのつもりで練習していたんだ。火事場の馬鹿力ってほんとだね、実戦で出来ちゃうんだから、驚いたよ」と呑気に話す雫斗、しかし周りの状況を把握していない辺り、まだまだ未熟である。


 「そう? 訓練はしていたのよね」何故自分達を呼ばなかったのかと、暗に訴える百花の底冷えのする声のトーンから”これはまずい”と思った雫斗は


 「訓練だけ。訓練だけだよ、まだ始めたばかりだし、ようやく形になり始めたばかりなんだ」慌てて言い繕う雫斗に笑顔を向けて話しかける百花。


 「そうなのね。その訓練に、私達も参加しても良いのよね」まじで、脅迫じみた要求に完全敗北した雫斗だったが恭平からある提案があった。


 「雫斗がしている訓練って、雫斗の拠点空間の中でやっているんだよね。ダンジョンの中で出来ないものかな? いちいち雫斗の確認を取らないと入れない場所だと不便だし、雫斗も大変だからね」恭平の提案に弥生も両手をあげて賛成する。 


 「そうね、いつでも気軽に鍛錬できるなら、ダンジョンも悪くは無いわね」とダンジョンを魔改造しろと迫ってくる。


 確かに斎賀村のダンジョンは、雫斗が攻略して3階層迄の制限があるとはいえ、好きな様に作り変える事ができると、キリドンテから言われていたのだ。しかしその事を探索者協会に秘密にする事を決めた時点で、できる事は限られてくる。


 そもそも作り変えてしまえば秘密にしている意味が無くなってしまうので、そのままの状態で放置していたのであった。


 「えっ? ダンジョンを本当の意味で攻略できる事、制覇すると個人が掌握する事が出来るのは秘匿するんじゃ無かったの?」


 あの動画は、仲間内で見て居ただけだと思っている雫斗は、ダンジョンを改造することが当たり前の様に話す百花達に違和感を覚えた。


 「貴方の動画を見て居たのは私達だけじゃ無いわ、当然貴方のご両親とミーニャも見て居たし、斎賀村の長老達も見ているわね、極め付けは荒川さんも見て居た事ね」


 百花が淡々と話すがこれは緊急事態では無いか? 逃げ場のない雫斗は何処に連れて行かれるのか? 嫌な予感がしてきた雫斗が怖々聞いてみた。


 「荒川さんが見ていたって事は、もしかしてダンジョン制覇して個人の支配下に置くことができる事を報告しているって事? 大事に成って居るんじゃ無いの?」


 今更感は有るが、荒川さんが配信された動画を見ていたことを、知らない雫斗にとって、その後の展開に考えが及ばない事は当然ではある。そこで百花は、雫斗を探索者協会名古屋支部まで連行していく道中で説明する事にした。


 「いい事。貴方がダンジョンを攻略制覇して支配下に置いている事は、もはや隠しては置けないわ、その事は村長も承諾済みよ。だけどあなたの拠点空間の事は、絶対に知られるわけにはいかないの、その事は覚えておいてね」


 探索者協会名古屋支部の入り口に着いた事で、百花が念押しして来た。要はダンジョンを私物化している事は隠しおおせないが、雫斗の拠点空間に関しては本人が白状しない限り隠しておけるのだ。


 建物の中に入ると、すぐさま支部長室へと通された。その部屋で待っていたのは支部長と荒川さんの他、数名の人が座っていたのだ。


 取り敢えず、SDS(雑賀村ダンジョンシーカー)のメンバー全員が部屋に招き入れられた事で、圧迫尋問の恐れは無くなった事にほっとした雫斗だったが、世間と言うのは思惑通りに事が運ぶ訳では無い。


 紹介された人の中に、日本探索者協会の理事長と統括本部副部長という肩書の人がいて雫斗達に紹介された、どうやら視察に来ていた様なのだが、運が良いのか悪いのか、たまたま雫斗が名古屋支部前ダンジョンを制覇したタイミングとかち合ってしまったのだった。


 「改めて自己紹介をしようか。私は日本探索者協会の理事長をしている田中 浩平 と言う者だ。隣は統括本部の副部長の一人で中倉 健吾、後ろに控えているのは中倉さんの秘書で吉川 久美と言う」


 中央に控えていた初老の人物がそう答える、雫斗達に初対面の人物を紹介したのは名古屋支部の支部長の菊村だが、この中で地位が一番高いのは間違いなく彼であろう、その証拠に荒川さんが委縮していた。


 「さて。荒川君から大まかな話は聞いたが、あまり要領を得ない物でね、当事者の話を聞かせてくれんかな?」


 そう言って、含みのある笑顔を雫斗に向けてくる。雫斗もこの初老の人物に何処か見覚えが在るが思い出せない、しかし黙って居る訳にもいかず取り敢えず今までの経緯と今日の出来事を大まかに話した。


 当然自分の拠点空間の事は話さないが、ダンジョンを攻略したとしても基本的なダンジョンの機能は変える事が出来ず、1層から5層までの階層を自由作り変える事が出来る程度の話なのでそこは正直に話した。


 「驚いた話だ。制限があるとはいえダンジョンを作り替える権限を有するなど信じられん、しかもダンジョン間での移動も自由に出来るようになると言うのかね?」


 そうなのだ、一番の利用価値として、攻略したダンジョン間での移動があげられる。要するにダンジョンカードを所有していると、ダンジョンマスターの許可が在れば誰でも自由に利用できる事だ。地球上(厳密には太陽系)の何処へでも無料でしかも輸送費もゼロで移動できるのだから人類にとっての価値は計り知れない。


 「しかしそうなると、その利用価値の有る施設を個人で所有しているのは問題では無いですか? 協会や国が管理するべきでは」


 そう言ってきたのは統括副部長だと紹介された中倉という人物で、雫斗が話している間、苦虫を嚙み潰した様な顔をしていた人だ。


 ダンジョンを施設と宣う辺り勘違いも甚だしい、この人はこの状況を理解しているのだろうかと雫斗は心配になった。この様な人が探索者協会の重要なポストを務める事が出来るとは到底思えないのだが、彼自身は当然の職務だと思っている様だ。


 どうやら収益の匂いをプンプンさせている、ダンジョンの利用と言う価値に思いをはせている様だ。しかも所有しているのが年端もいかない子供とあっては、此処は大人が権限を持つのが当然と思っているのだろう。


 「それは無理がある、個人の所有している物を、しかも人類の英知の及ばないダンジョンを委託を受けて管理を任されるならともかく、取り上げる事など出来んよ、いかに国の権力を以てしてもね」と田中が中倉の意見を断じる。


 其処は雫斗とダンジョンマネージャ達との契約の上でのダンジョンマスターとしての権限であり、国や協会が介入する事など出来ないのである。その事を理解できる人間と出来ない人間では思惑の違いが有り、未だに問題が途切れないのは事実なのだ。


 田中と中倉がその事で意見をぶつけ合っていると、受付から来客が有ると伝えられた。


 田中と中倉が、ダンジョンの所有権の問題で論説を戦わせている中、客人を中に通す様にと、名古屋支部長の菊村が答えた。


 暫くして、受け付けの女性に案内されてやって来た客人が支部長室へ入る。中に入った悠美は、探索者協会の理事長の田中と統括副部長の中倉が居ることに多少驚きはした様だが、何食わぬ顔で言った。


 「あら? 協会の理事長と統括副部長までいらっしゃるなんて、偶然にしては出来すぎて居ますね」とにこやかに話しかけた。


 「何、ダンジョン関連で新しい通信手段の発見があったと聞いてね、その事を直接聞きに来たのだよ。ついでに視察で各地を回っている最中でね。それよりも・・・。いや驚いたな、あの小さかった子供が今やダンジョン攻略の最前線に居るとは、私も歳をとるわけだ」と悠美に笑顔で話しかける田中だった。その口調は穏やかで、悠美と雫斗を知っている様な口ぶりだった。


 「あれから5年ですもの。ほら雫斗、覚えていない? 東京駅でダンジョンに巻き込まれた時に、あなたと同じくらいの年の女の子といた人よ」


 そう言われてようやく思いだした。最初のダンジョン発生時に雫斗の家族と共に、とある店舗を拠点に救助が来るまでの間、魔物の脅威を退けていた老人だ、あの頃よりだいぶ若返っていて気付かなかった。


 ただのモップの棒で昆虫のモンスターの硬い外皮を突き破って倒していたのを、ただただ驚愕して見ていたことを覚えている。


 その凄まじさに周りの人がどうやっているのかと聞いていたが、「これが剣の極意だ」の一言で済ませた偉人である。


 「ああ! あの時の剣術のお爺さん、あまりにお若いから分かりませんでした。あの時は助けてくれて、あ有難う御座いました」と改めてお礼を言う雫斗に。


 「なに、わしより君のお父さんの方が奮戦しておったよ、そこの荒川君と共にね」と荒川さんに話を振る。


 話の矛先を向けられたの荒川さんは、目を大きく広げて素っ頓狂な声を上げる。


 「ええええ? あの可愛かった子が雫斗君だったんですか。うわ~~世間って狭いですね。全然わかりませんでした」


 「荒川 優子?。 もしかして雫斗達をオーガから救ってくれた高レベルの探索者って優ちゃんだったの? ”高レベルの探索者のアラカワさん”としか聞いていなかったから、男の人かと思っていたわ。改めてお礼を言わせてね、息子を助けてくれてありがとう」そう改まって言われて慌てて言葉を返す荒川さん。


 「あっ。いえ、あの時は緊急時のクエストでしたし、私が居なくてもあのオーガは倒して居た様な気がしなくも無いというか。とにかく御礼ならあの時に受けているので大丈夫デス」何が大丈夫なのかは分からないが、多少支離滅裂では有るが悠美のお礼の言葉は受けてもらえた様だ。

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