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ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(改訂版)  作者: 一 止
第1章  初級探索者編

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第64話  経験と言う得難い体験は、余裕と言う安心材料に成り得るという確かな手ごたえ。(その2)

 そのころ百花達は、雫斗を迎えに地上へと来ていた。流石に此の10日程雫斗にダンジョンでの生活を、聞かせるだけ聞かせてきて罪悪感を覚えていたのだ。そこで3週間ダンジョンに入りっぱなしの荒川さん達が休憩がてらに地上に帰るというので同行してきたのだ。


 「まだ帰ってきていないんですか?」


 名古屋支部前ダンジョンの受付で雫斗の動向を確認すると、午前中での帰還の予定でダンジョンに入っていた。


 流石に、30分や一時間の帰還の遅れで救援隊を出すほどダンジョン協会も暇ではない。それどころか一日や二日の帰還予定の遅れなど日常茶飯事なので、気にも留めてはいなかった。だけど百花達は違う、雫斗の性格を嫌という程知っている者にとって時間を、しかもダンジョンからの帰還予定の時間を違えるなど、最大級に警戒する異常事態なのだった。


 「ねぇ、どう思う? 帰ってきていないのか帰れないのか、私は後者だと思うけれど、どうしたら良いのか見当もつかないわ」


 百花の意見も妥当ではある、雫斗が帰れないのだとしたら、多分ダンジョンに拉致されているからだと見当をつけたのだ。他のメンバーも同意見なのだが、対応策が思いつかないのだ。


 「そうね、つい最近同じ様な事があったものね。雫斗一人だと色んな事に巻き込まれて、騒ぎを大きくするばかりよね」と弥生が身も蓋も無いことを言う。雫斗の意に反して厄介ごとに巻き込まれていく事には同情するが、彼自身の自業自得だと思っている節がある弥生なのだ。


 つい最近その事を思い知った面々は、どうするべきか相談するが、答えを見いだせなかった。要するにまた雫斗がヤラカシテいる事は確実なのだが。雫斗がダンジョンを本当の意味で攻略していて、しかも所有していることを伏せている事がネックになってしまっているのだ。


 そこで、ミーニャに連絡して雑賀村のダンジョンに入り、ダンジョンマネージャーのキリドンテにどうなっているのかを確かめてもらう事にする。と同時に雑賀村の村長兼探索者協会の支部長にお伺いを立てる事にしたのだ。


 「そう分かったわ、ミーニャには私からお願いするから、あなた達はそちらの状況を逐一知らせてきて。そう、もし雫斗がそのダンジョンを攻略いえ制圧してしまったら、ダンジョの私物化が可能な事を公にするしかないわ。だけど雫斗の拠点空間の事は絶対に秘密にしなきゃいけないわ。その事は肝に銘じて居てね」


 連絡を受けた悠美は心底驚いた。雑賀村のダンジョンを雫斗が制圧してから、まだひと月と経って居ないのだ。雫斗がダンジョンを制圧できたのは斎賀村のダンジョンの特異性が原因だと思っていた悠美では在るが、その思惑は違うのだと思い知らされた。


 要するに、雫斗が雑賀村のダンジョンの制圧し私物に成功したのには、雑賀村の3層しかないダンジョンと雫斗が〈覇王〉の称号を取得していた事が原因だと思っていたからだ。雫斗が今いるダンジョンの最新部は未確定で、おおよそ80層以上ではないかと言われているほどの、規模の大きなダンジョンなのだ。


 そのようなダンジョンで攻略する為の戦いに召喚されようとは、悠美でさえ思わなかったのだ。しかし起こってしまった事は仕方が無い、後は雫斗が無事勝利して帰ってくることを信じるしか無かった。


 そうは言っても悠美は為政者である、母親として息子の安否を心配していない訳ではないが、雑賀村という、小さいが一つのコミュニティを守る義務がある。雑賀村のダンジョンを雫斗が本当の意味で攻略して、彼の支配下に置かれている事をしばらくの間、公けにしない事を決めたばかりだと言うのに、その思惑が崩れてきそうなのだ。


 勘の良い百花のおかげで後手に回らず、先手が取れそうなのがせめてもの救いとなっていた。しかしどちらにしても事実関係を把握しておかなければ始まらない、そこでダンジョンでスライム狩りに勤しんでいる筈のミーニャに連絡する事にした。


 そのころミーニャはスライムを叩き潰す事に忙しかった。平日は学校があるために数時間しかダンジョンに入れず、学校が長期休暇に入って一日のほとんどを、ようやくスライムの討伐に費やせることが出来るようになったのだ。


 一日でも早く雫斗や百花達に追いついて、一緒にダンジョンに入れる様になる事を目標に頑張って居る所なのだ、取り敢えずは保管倉庫と鑑定のスキルの取得と、鑑定を使った一日一回の昇華の路の攻略までは雫斗との別行動で頑張る事を決めているミーニャだった。


 そもそもスライムの討伐には一人で倒した方が効率が良いのは明白で、スライムを倒すだけで、ダンジョン探索に必要なスキルが手に入る仕様を考えても、初期のダンジョン探索に置いて、自己の鍛錬の場として1階層が重要なポジションだと雫斗が世に知らしめた事が大きかった。


 ミーニャの携帯が震えている、ダンジョンでは大きな音はご法度である。1階層では強大な魔物はいないとは言っても音に反応する魔物は多いのだ、用心に越した事は無い。携帯電話を取り出して確認すると悠美からの連絡である、余程の事が無ければダンジョン探索中の探索者に連絡する事の無い彼女からの呼び出しに、多少の胸騒ぎを覚えながら通話をタップする。


 「悠美お母さん。どうしたんですか?」


 ダンジョン探索中に置いて外部からの通話は迷惑でしかない、その事を重々承知している筈の悠美からの飛び出しである。予想外の事態が起こっている事は明白で、ミーニャは勢い込んで聞いてきた。


 「ミーニャ、落ち着いて聞いてね。雫斗がダンジョンから予定の時間を過ぎても帰って居ないの、たかだか3層から帰るのに時間を違えること自体がおかしいわ。百花ちゃんの予想では帰るに帰れないんじゃ無いかと言っているの。そこでダンジョンマネージャのキリドンテさんに雫斗の動向を確認してほしいのよ。彼なら雫斗がどういう状況なのか把握しているかもしれないわ、彼をどうやって呼び出せるのか見当もつかないけれど、今頼めるのは斎賀村のダンジョンに居るあなただけなの。お願いね」


 お願いされたミーニャは途方に暮れる。”分かりました”と返事して携帯電話を切ったのはいいが、当のキリドンテとの連絡手段を持ち合わせて居ないのだ。面識はある、雫斗の拠点空間で紹介されてはいるが、事ダンジョンの中では会った事が無いのである。


 そこでミーニャは初心に帰る事にした。此処はダンジョンの中である、むやみに探してもダンジョンの管理者たるキリドンテに行き当たる事は不可能だと感じて、呼びかける事にしたのである。


 「キリドンテさ~~ん!! ミーニャで~~す!!。 雫斗さんの事で聞きたいことが有るのでお会いしたいで~~す」と大声で叫ぶ。


 するとミーニャの足元に魔法陣が浮かび上がった。軽い浮遊感と共に転移するミーニャ。天井は無いが石柱の乱立している、観客席の無い広大な舞台の中央の様なよく分からない場所で、キリドンテが頭を下げて恭しく挨拶する。


 「これはこれは、我が主のご友人様。転移でのいきなりの招待をお許しください、何分いとまが御座いませんでしたので、あなた様の承諾を省略いたしましたしだいでして」切羽詰まって居るミーニャは悠長に挨拶をしている暇は無い。


 「雫斗さんはどうなっていますか? 何処にいるんですか?」


 無作法にもいきなり質問してきたミーニャに腹を立てる事もなく、落ち着いた声でキリドンテが答えた。


 「我が主人殿は只今220迷宮群にて、深淵の試練に挑戦しておいでで御座います。私どもがお助けする事は叶いませぬが、ご心配でしたら遠見の鏡で見守る事は出来まするが如何いたしますか?」


 ミーニャが知りたい情報を、キリドンテがいきなり掲示してきた事で思考が追いつかず、軽いパニックに成った彼女は支離滅裂な事を話し始めた。


 「えっ? 深淵の試練? 戦っているの? どうしよう・・・あっ悠美お母さんに知らせなきゃ。見守る?私だけで見るのは怖いけど。ああ〜どうしよう?」


 「おお〜、御母堂様がご心配されておいでで御座いましたか? 分かりました私めから御連絡を差し上げましょう」と言って携帯電話をどこからか取り出した。


 察しの良いキリドンテは、母親の悠美が息子の異変に気がついて、雫斗の動向を確かめる為にミーニャを自分の元へと使わした事を理解したのだ。


 斎賀村の村役場の執務室で、悠美は気をもんでいた。気が動転していたとはいえミーニャに雫斗の安否確認をお願いしたのは良いが、我に返ると彼女がダンジョンマネージャーのキリドンテに連絡を付ける手段があるとは思えなくなってきたのだ。そこで村の長老達と海慈、それと雫斗のパーティーメンバーの百花達と音声チャットでどうすればいいのか協議していたのだ。


 探索者協会名古屋支部の支部長に事情を話して、捜索隊をお願いしたとしても、そのダンジョンの最深部に拉致されているとしたら意味がない。しかし悠美にはどうにかして救助出来ないかと考えていると、余計な考えが堂々巡りして、居ても経ってもいられなくなってくるのだ。そんな時スマホの着信音が鳴る。


 非通知ではない為、電話番号は載っているが登録していない番号だ、しかもビデオ通話での着信である。普段であれば無視をする所だが、予感があった。繋げて相手を確かめると、キリドンテの顔がアップで画面に出て来た。


 「これは我が主のご母堂様。ご機嫌麗しゅうございますれば、このキリドンテご尊顔を拝します事「雫斗は何処なの! 無事なのね?」」


 キリドンテからの連絡に気が動転していた事も有り音声チャットの設定をそのままに。悠長にキリドンテの挨拶を受けて居られない悠美が、息子の安否を問いただす。


 「ご母堂様、ご心配召されるな。わが主の強さは対峙する魔物の二つも三つも上で・・・いえもはやタガが外れて意味不明でございます。まさかアドミラル・ジャイアント・クインビーホーネットをその蜂の巣ごと叩き潰すとは、驚きを通り越して驚愕に打ち震えております。しかも危なげなく勝利いたしましたれば、ご安心くださいませ」雫斗の無事を保証しているキリドンテの言葉に安堵して。


 「雫斗は無事なのね? 帰って来るのね?」と問いただす悠美に、落ち着き払ったキリドンテが。


 「まだケルベロスが残っておりますれば油断はできませぬが。もはや時間の問題では在りましょう、我が主には隠し玉がいくつも有りますゆえ。ご心配であればが主の雄姿をご覧あれ」と言って、画面を変える。


 其処には今まさに、巨大な魔獣であるケルベロスと対峙している雫斗とクルモの姿があった、しかも今までの経緯を織り交ぜながらキリドンテの解説付きで動画が流れているのだ。


 しかし悠美は自分のスマホを通してチャットで相談していたメンバー全員にその動画が配信されている事に気が付いていなかった。


  それは限定的では在るが、世界初のダンジョンからの生配信、しかも本当の意味でのダンジョン攻略動画と成って居たのだった。

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