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ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(改訂版)  作者: 一 止
第1章  初級探索者編

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  第61話  油断という心の隙間に、つけ入るすきは有るのか? (その1)

 雫斗は今、百花達とは別行動をしている。彼女達は夏休みに入ると荒川さん率いるクランと行動を共にしている、べつに深い階層へと潜っている訳では無い。名古屋支部前のダンジョンでの10階層近辺で、魔物の討伐しているのだ。流石に探索者資格を得たばかりの初心者に、5層以上に行く事の許可が下りるとは思わなかったのだが、百花が雫斗が作った通話の魔道具で強引に押し切った。


 要するに、ダンジョンからの一日二回の定時連絡を条件に、11階層までなら探索して良いという許可を無理やり勝ち取ったのだ。荒川さんからの”君達なら大丈夫だと”太鼓判を押されたのが良かったようだ。しかし荒川さんのクランの中堅どころの探索者二人とパーティーを組むことを条件にされはしたが、その探索者は百花達とは相性が良かったみたいだ。


 その別行動をしている雫斗はというと、探索者協会名古屋支部の大会議室で講師のような事をしていた。居並ぶ企業の技術者を前にして教壇に立つ中学生という、甚だ可笑しな事態に為っていたのだ。


 何故雫斗が講師の真似事の様な事をしているかと言うと、ひとえに雫斗と陸玖先輩の連名で、スマホに接続できる通話の魔道具をその現物事提出してダンジョン協会へ報告した事が原因だった。数の少ないダンジョン産の通話の魔道具より高性能でしかもデータ通信にも対応していて、大量生産が叶うと為ると、探索者協会の人達でなくても食いつかない訳が無かった。


 ダンジョンからのもたらされる情報は基本公開が原則だ。それに加え探索者協会の人が通信事業者の企業に通話の魔道具の制作の打診をしては、その情報が広がるのに要した時間は数時間と言う短さだった。大量の問い合わせに苦慮した協会の職員が雫斗に泣きついたのだ、問い合わせてきた企業の技術者に説明してくれと。


 余りに多い聴講者に雫斗一人では追い付かず、陸玖先輩を巻き込んでの講習会をこの十日ほど続ける破目になったのだ。とにかく暫くは、一日8時間に及ぶ説明会を終えて協会の人が用意してれた宿舎で、百花達が嬉々として伝えてくるダンジョン生活の報告を睡魔に耐えながら聞くという拷問を余儀なくされたのだ。


 第1日目。初めての説明会と言う事で、要領が掴めず疲労困憊してベッドに倒れ込んだ雫斗は習慣的にスマホに着信が無いかの確認をする。すると百花からのメールの嵐にたじろぐ、何かあったのかと慌てて確認すると、そのほとんどが通話の魔道具を直ぐに繋げとの矢の催促だ、直接話したいことがあるようなのだ。


 雫斗は面倒くささを感じながらも通話の魔道具をスマホに繋げて百花を呼び出す。すると開口一番「遅いじゃ無いの」のお言葉に呆れる。


 「なぜもっと早く出ないのよ、待ちくたびれたじゃない。何をしていたのよ?」と激おこぷんぷん丸の百花。


 「無茶を言わないでよ。こっちはようやく長い時間の説明会から解放されたんだから」と疲れた口調で雫斗が言うと。


 「あら、それはご苦労様だわね。・・・ねえねえ、聞いて聞いて!、今日ねオーガと戦ったのよ、流石に一人でとはいかなかったけれど、危なげなく倒せたの、凄いでしょう!。それからね、長谷川さんが褒めてくれたわ、彼女は荒川さんのクランの人でね攻略パーティーの一員なの、その人が”君達の魔物の対する戦い方は称賛に値する、これだけ用心深くかつ確実にダメージを与えていく、その戦い方は忘れないでほしい。人は強く成れば成程自分の強さに酔ってしまうからね”。と言ってくれたの、ねえ聞いている、雫斗、雫斗。・・・あれだけ褒めてもらえると、いくら思慮深い私でも天狗みたいに鼻も高くもなるわ。・・・・・」と百花の話が延々と続いていくのである。


 雫斗も律儀に「うん。・・・そうなんだ。・・・へ~~。」と生返事を返していたのだが、百花の自慢話は、催眠誘導剤も真っ青な効き目を発揮して、三分も掛からずに寝落ちしてしまうのだった。


 そんな雫斗の生活も五日目あたりから、講習の段取りも要領を掴めてスムーズにいくようになり、講習が終わった後、陸玖先輩と作り上げた通話の魔道具の、製造に関する問題点を詰める作業も一段落して、宿舎に早めに帰れるようになると、時間に余裕が出来てくる。


 まだ午後も遅い時間だとはいえ、花達のダンジョン安行も架橋のはずだ、これすなわち、百花の自慢話攻撃が無いと言う事だ。


 雫斗は宿泊施設の部屋と拠点空間を繋いで移動する。部屋の中に移動用のドアを構築していつでも通れるようにしたのだ。


 『クルモ、調子はどうだい』。と拠点空間に入ると同時に念話でクルモに話しかける、雑賀村のダンジョン内部か、拠点空間内であれば使役している従者に念話で話す事が出来るのだ。


 『あっ、ご主人様お帰りなさい。はい物凄く順調です。今、案内を寄こしますね』とクルモが念話で言うと同時に、横合いから大きさ30センチ程の蜂が飛び出してきた。初見であれば驚くだろうが、クルモが操作している機械である義体と魔物のハイブリッドの一つなのである。


 その蜂が奇妙な動きで空中ダンスを披露するとドアが現れる、見慣れた転移用のドアだ、「ご苦労さん」と蜂に声を掛けてそのドアを潜る。


 すると其処にはちょとした町工場を思わせる喧騒と共に、整然と並ぶ機械類が現れた。少し前に購入して運び入れた機械類だ。その機械類の合間を縫う様にクルモが現れた、その出で立ちは繋ぎを着ていて機械工然としているのだが、体格は子供のままなので背伸びをして、大人の真似事をしている様で微笑ましくなってしまう。


 「ご主人様」と言って飛び込んでくるクルモを受け止めて、頭をクシャクシャにかき回す、嫌がる素振りも見せずに「えへへ」と笑いながら上目遣いに見つめてくるクルモに妹の香澄と同じような感覚を雫斗は感じていた。要するにもう一人の弟が出来た様なものだった。


 クルモはもうすでに雫斗にとって無くては為らない存在と化していた。彼が物作りに興味を持ち、数々の機械類をおねだりされたので、購入して与えてしまった雫斗は、孫に何でも与えてしまうお爺さんの気持が分かった様な気がした。一応、必要経費だと自分に言い聞かせて納得させてはいるが、かなりの出費に成ったのは事実である。


 その諸々の機械類と、移動用の機動装甲車の受け取りで、二日程、百花達と別行動をしていたのだが、そのすべてを拠点空間に運び入れ、いざダンジョンへと行くために荒川さんのクランの人達のキャラバンを待っていたところ、ダンジョン協会名古屋支部の人達に捕まってしまったのだ。その時ほど自分の運の悪さを嘆いた事は無かった。



 さて今クルモには、共鳴鋼の単結晶インゴットを使った、マイクロチップ化に取り組んでもらっている。ひと昔前の技術での製造なのでそれ程むつかしい事ではない、ただ通話の魔法陣とデータ通信の命令形を一つにまとめ上げてウェーハーに縮小して転写する事は初めての試みであり、上手く機能するかも未知数だったのだが、蜂の魔物とのハイブリッド義体を支障なく使える当たりうまく行ったようだ。


 「蜂の魔物と義体の融合と制御はうまく行っている様だね。今いくつの義体を同時に制御しているの?」。と雫斗に聞かれたクルモが嬉しそうに答える。


 「完全に制御できる義体は5体程度ですね、使役出来る魔物の知能が良ければ簡単な命令をするだけで自分で考えて行動しそうですけれど、そうなればその数倍は行けそうですね。ですが昆虫系の魔核の場合は自立した行動はできても、此方の思惑を汲んでくれるわけではないで困っています」と然も残念そうに言う。


 クルモは人の成りをしていても、ゴーレムという魔物には変わりはない。その魔物であるクルモが魔物を使役できるのか? 答えはイエスである。


 ジャイアント・キングスライムのスラちゃんが、同族とはいえ数百体のスライムを使役しているのを見て、自分でも出来るのでは無いかと考えたクルモが、同族以外の魔核で試してみた事が始まりだった。


 取り敢えず飛ぶことのできる魔物で考えた結果、昆虫系の蜂を試して見たのだ。雑賀村のダンジョンの3階層にもいるには居るが、めったに現れる事は無い。雑賀村ではここ数年で一、二回と要するに雑賀村ではレア中のレアなモンスターでもある。普段は5階層以降の草原層巨で大な巣と共に見つかる事がある、要するにミツバチだ。


 大きさは10センチ程の大きさの働きバチが、せっせと巣を作り、蜜を集めて巨大な巣を構築している。探索者のお目当ては当然巣の中に蓄えられている蜂蜜やローヤルゼリーなどの食料品だ。食い物だと侮るなかれ、ダンジョン産である。当然効能は美容効果や健康促進は元より老化防止のおまけつきだ。


 そうなると、大富豪や研究機関からの取得要請が、探索者協会に多く寄せられる事なる。しかしレアである事と、ミツバチとはいっても一個体が5倍以上の大きさがある上に、なんと転移魔法を使ってくるのだ。最初ファイヤーボールの魔法か火炎放射器で薙ぎ払えば良いと考えた者たちは、転移魔法でその攻撃を回避するミツバチたちの反撃にあい、散々な目にあった。頑強な体と身体能力で辛うじて逃げ帰って来はしたが、その探索者の悲惨な出で立ちに、暫くはミツバチもしくはミツバチの巣を見かけたら、逃げた方がいいという事が常識となっていた。


 それではなぜミツバチの魔物の巣から取得される、蜂蜜やローヤルゼリーの効能を知る事が出来たのか。それは一人の猛者が現れたからなのだ。彼はかつて養蜂を営んでいた、しかしダンジョン発生の折、営んでいた養蜂所がダンジョンに飲み込まれてしまったのだ。人的被害は無かったとはいえ、家業を失った彼は探索者に為る事にしたのである。


 周りの人達は、ミツバチを愛してやまない彼が、大事に育てたミツバチたちの敵を討つために探索者になったのでは無いかと危惧した。要するにダンジョンに復讐をする為では無いかと思ったのだ。当然彼の家族、親しい者たちが説得するが、彼の執念を変える事はできなかった。


 しかしレアなミツバチの群体を探し出すのは容易ではない、一度巣の場所を見つければしばらくは其処に居るとはいえ、普通のミツバチであれば分蜂で蜂の巣を増やすのだが、ダンジョン産のミツバチは、古い蜂の巣は放棄して、群体ごと何処かに移動して其処から居なくなってしまうのだ。放棄した古い巣は、何故か消えてしまうのでそのミツバチを討伐した時の報酬はどうしてもミツバチの群体の討伐しか無いのだった。


 その養蜂場のもと主はいろいろと試した。当然噴煙機を使ってミツバチを落ち着かせる方法から、防護服を使った強引な方法まで試したが、どれもうまく行かなかった。厄介なのが転移魔法と熱殺蜂球だ。噴霧器は効くには効くが転移魔法で逃げられてしまう、防護服を使うと囲まれてあの熱でこちらが参ってしまう。普通のやり方ではどうしようもない事が分かっただけであった。


 しかし彼の情熱はそのくらいでは冷めなかった。観察と実証のトライアンドエラーを繰り返し、個体の転移魔法の回数が二回無いし一回で終わる事に気が付いた、どうやら内包する魔力が少ないらしい。その事を知った彼は有る作戦を思いついた。


 彼は防護服に身を包み、巣に近づいて行く。そこまでは今までの対処と変わりは無い、当然蜂たちは彼を排除するために囲い込むが、彼は巣から遠ざかって蜂たちの分断を画策する。いつもなら噴霧器を振りまいて排除を試みるが、今日は巨大な捕獲網で捕まえようと振り回す、するとミツバチも転移で逃げるが、しかし数回の転移では何れ捕獲網の中に捉えられてしまう。ある程度捕獲できた個体を噴霧器で弱らせて、用意していた巨大な網籠入れて逃げられな様にする、これを延々と繰り返すのだ。


 ついに彼は巨大なミツバチの巣と巨大なミツバチの女王と対面する事に成功する。暫くその女王バチと見つめ合っていたが、働きバチと隔離された女王バチは彼の前で巣と共に光へと還元されていった。後に残ったのは複数の魔結晶と一個のミツバチの女王の魔核、後は数枚の蜂蜜の瓶の描かれたカードとローヤルゼリーの瓶が描かれたカードが一枚。ミツバチ使いと書かれたスキルスクロールが一つ。


 後の彼はミツバチマイスターとして君臨する。女王バチを使役して、数多くの働きバチを召喚する事で蜂蜜を集めて、定期的に蜂蜜とローヤルゼリーの取得に成功する事となる。


 彼だけが蜂蜜を集めているかというとそうではなく、蜂の転移が1,2回だと分かると、他の探索者も、いささか乱暴では在るが火炎放射器とファイヤーボールの乱用で働きバチを殲滅した後に巣と共にいる女王を殺して蜂蜜とローヤルゼリーを集めるという収穫法を編み出した。


 しかし、希少なレアモンスターの邂逅は難しくミツバチマイスターが協会に収める量の足元にも及ばなかった。彼は協会の治める量を増やせという要請に応じなかった、使役しているミツバチに無理はさせられないと頑として応じなかったのだ。


 雫斗がミツバチを対象に選んだのには訳が有る。転移魔法だ、転移門のドアを構築できる魔法は使える雫斗だが、転移と為ると勝手が違ってくる。自分もしくは触れている異物を転移で移動する事が出来ないのだ。保管倉庫へ入れる行為と訳が違う様で、現世と現世を繋ぐ何かが有る様なのだ。それならば使役して自分も使える環境を整えばいい、そんな安楽的な思い付きだが、事の外うまく行った。


 ネックになったのは、ミツバチの女王がレアなモンスターだという事だが、此処は雫斗がマスターとして君臨しているダンジョンだ。キリドンテに聞くと。


 「最早ダンジョンの移譲をする事はできませんが、ダンジョンハートの守護獣として召喚する事は叶います。しかし使役する条件は変えられません。守護獣を倒すか屈服させなくてはいけません」という事なのださっそくお願いしたのだ。


 クルモが試して見たいというので、雫斗は控えにまわったが、別段危険はなかった。ミツバチマイスターがと舘口の逆を行ったのだ。その方法は保管倉庫を使ってミツバチの巣ごと大きな籠で覆ってしまったのだ。働きバチにとって守るべきは蜂の巣と女王バチだ、その事に変わりは無い。その巣から離れる訳にもいかず、囲いで覆われてはなすすべがなかった。


 その籠の中に弱体の成分の入った煙を巻かれて、無力化されてはいくら数千匹のミツバチ。ものの数分で決着がついてしまった、後には魔晶石とミツバチの魔核数枚の蜂蜜のカードとローヤルゼリーのカード、そして蜂蜜使いのスキルスクロール、くしくもミツバチマイスターと言われた人のドロップ品と同じ内容になった。


 どうやらミツバチを討伐するか無力化するかで残される品々が変わる様だ。クルモが使役しているミツバチの女王との意思疎通が出来る様に成ると、働きバチの転移の魔法陣の解析が始まった。試行錯誤の末雫斗もクルモも使える様には成ったが、副産物が大きかった。


 本来クルモが使役しているのはミツバチの女王だけなのだ、他の働きバチを使うにはミツバチの女王を間に入れる必要がある。働きバチを直接動させる訳では無いのだ、しかし女王バチが、クルモの作った通信SIMを欲しがった為いくつか与えると、そのSIMを融合した個体を召喚したのだ。それが先ほど雫斗を案内したミツバチの個体だ、普通のミツバチの魔物より三倍はデカい蜂だが、クルモが直接、意思疎通できる事に加え、自分自身の転移に加え転移門の構築までやってのけたのだ。


 クルモも使い勝手が良いと重宝しているほどだ。クルモの使役している女王バチだが、普段は雫斗の拠点にある館の裏手に巣を作って其処に落ち着いている。自分の分身の働きバチを主であるクルモに張り付かせて使ってもらっているのだ。

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