第60話 魔法的な通信手段の確立は、ロマンあふれる思いの構築になるのだろうか。(その2)
その日から、昼間は放課後に陸玖先輩と協力して魔法陣を幾つかくみ上げて、雫斗の拠点空間で試してみて問題点を洗い出すという作業が始まった。時間の短縮という事で言えばそうなのだが、数日である程度の及第点の有る機能を持たせることが出来たのは上々だった。流石にナノ単位の極細の魔法陣を作る技術には程遠いがスマホのオプション機能的な機械として作り上げる事は出来たのだから良しとした。
本来であれば、スマホの空いたマイクロSIMスロットに、差し込める形にしたかったのだが、そのマイクロSIMを作るための機械が無いので、仕方なしにスマホを充電するための給電口を活用する事にしたのだ。そこは充電だけでなくデーターのやり取りもで出来るので使わない手は無かった。
其処に陸玖先輩と作り上げた共鳴結晶を使った電波を使わない通信装置を繋いだのだ、スマホと通信装置の筐体をコードでつなぐというお粗末な作りでは在るが、ある程度は上手くいった。まずすべての筐体にナンバーを振り個別化する事で、一つの筐体から同じ共鳴石への筐体への音声やデーターを送信するといった事を防ぐことが出来た、要するに放送局の様な扱いには成らずに済む様になったのだ。
雑賀村の中学生9名分の通信装置を作り、機能の検証をしてもらったがおおむね良好だった。ただ不格好だとの指摘が多いのは仕方が無かったが、機能的にはほぼ及第点で当然電波の繋がらないダンジョンからでもクリアーな通話が出来るようになったのは大きかった。
しかもデーター通信技術を使っているので、トランシーバーの様な不明瞭な音声ではなくクリアーな音声通話とインターネットとのデーターのやり取りがダンジョンの中からでも出来る様になったのだ。一応、インターネットへの入り口は許可を貰って村役場のサーバーを使わせてもらったのだが、とにかくダンジョンの中からでもネットへと繋がる事が出来るようになったのは大きかった。
後は、共鳴鋼の単結晶インゴットの製造方法と、共鳴結晶を使った通信装置の内部構造(魔法陣を含めた)を探索者協会に報告して、何処かの企業の努力でマイクロSIM並みの大きさまで小さくできれば、不格好な仕様も解決できる、そう雫斗は思っていたのだが。
母親の悠美にその機械を献上した時の反応は控えて置く、”この子は私を過労で動けなくするつもりかしら”とブツブツ言っていたのを見た海慈父さんが、大笑いしてグーで殴られていたのだが、大丈夫だったのだろうか? 報告したから後はお願いねと雫斗は開放された気分で居たのだが。
その機械の存在を嗅ぎつけた村の人達が自分の分も作ってくれと言い出したので、暫くは雫斗とクルモは拠点空間に籠って通信装置を作る破目になってしまったのは仕方が無かった。今の所その装置を作る事が出来るのは雫斗の拠点空間の中で、雫斗とクルモだけしか作る事が出来なかったのだ。
アマテラスの研究所の起工式の当日、雫斗は山田さん達と面会していた。かつてのクルモの体だった蜘蛛の筐体の受け取りと、以前お願いしていた機械の購入が出来そうなのか聞いてみる事にしたのだ。
起工式も終わり、ささやかな立食パーティーの後、村の会議室で会う事にした。流石にアルコールの出るパーティーの会場では、中学生の雫斗と5歳くらいの子供の姿をしたクルモがうろつくのは不味いと思ったのでそうなったのだ。
「お久しぶりです山田さん、池田さん。その節は色々と力になっていただき有難う御座いました」と雫斗が頭を下げてお礼を言うと。
「いやいや、結局私達では力になる事が出来なかったからね。その子かね? クルモが見つかったとは聞いていたのだが、ほとんど人間と見分けがつかないのだが」と目の前にいるクルモを見ても、聞いた事が信じられないというのだ。
「自分が言うのもなんですが、クルモで間違いありません。体の方は、村の診療所で検査したところ外見は人間の子供のようですが、中身は良子さんみたいな人間の体を模様したゴーレム型のアンドロイドと似ているとの事でした、完全にそうだとは言い切れないと山田医師は言っていましたが」と雫斗、流石に体を切り開いて確かめる訳にもいかず、レントゲンと超音波を使ったスキャンで中身を確かめただけでは在るが、ゴーレム型のアンドロイドの特徴がみられるとの事で、大筋では間違いなさそうだった。
「そうですか、しかしこれ程、人の体と見分けのつかない体だとは思いませんでした。一体どうなっているのか調べて見たいところでは有りますが」そう言った義体制作担当の池田さんの言葉で、クルモが蒼ざめて雫斗の腕をヒシっと掴んだのを見て、アマテラスの代表の山田さんが残念そうな顔を池田さんに向けながらため息を付き。
「しばらくは無理そうですね。・・・さて雫斗さんから要望のあった機械類ですが中古から最新式を含めて揃える事が出来そうです。しかし一体何に使うのですか? 町工場4・5軒分は出来てしまいそうな量ですよ? それに結構なお値段がしますが?」と呆れた様に聞いてきた、自動溶接機械から、精密加工の出来る自動旋盤幾に始まり、考え得る自動工作機械をある程度リストアップして、データ化したマニュアル事探してもらったのだ。
それらの機械の使い方をマスターするのは雫斗ではない、マニュアルのデーターを瞬時にダウンロードしてインストール出来るアンドロイドの特性を生かして、クルモが使ってみたいとお願いされたのだ。
通信の魔道具の制作を通して物作りに目覚めたクルモが、マイクロSIMの制作と自分の多重思考のスキルを活かした複数の筐体の同時使用に挑戦したいと言い出したのがきっかけで、それならと雫斗も主としてやらなければと、変な対抗心を燃やしてしまったのだ。
今の雫斗には、その機械類を即金で購入できるだけのお金はあるのだ、数々のダンジョン関連の発見で(まだ発表して居ない物も有るが)、一般の庶民である雫斗を始め村の人達も、目が飛び出るほどの金額が雫斗やパーティーメンバーである恭平たちの口座に振り込まれていたのだ。あまりにも大きな数字の羅列はお金として認識できず、ただ”凄いね”の感想しか持ち合わせ居なかったのだが。
ただ雫斗やクルモの遣りたいことが出来るのだからと、これ幸いと購入の許可を両親に打診したところ、呆れられはしたが、贅沢するわけでも無いので”だめだ”と言わない所は流石は出来た二親と言うしかなかった。
数々の機械類の他にも、富士演習場でダンジョン攻略群の人達が評価試験していた多脚型移動戦闘車両が保管倉庫の発見でお蔵入りしそうだと言っていたので、購入の打診をしたところ、銃火器を取り外しての購入ならと、良い返事がもらえたのは嬉しい誤算だった。
後は複数の筐体や通信の魔道具を識別して接続するには、既存の自動電子交換機を使おうと思い立ち、最新の交換機に据え置かれた旧式の電子交換機が無いか探してもらっていたのだ。
使い道としては、自動電子交換機を雫斗の拠点に設置して雫斗の関係者だけで使うつもりなので、数万単位での接続数が出来るものを探してもらったのだが、払い下げの中古品だけあってお手軽なお値段で購入できたのだ。
共鳴鋼の単結晶インゴットと通信の魔道具を見せながら、その構想を山田さんと池田さんに話すと、二人はお互いに目を合わせて何かを確認した後、勢い込んで雫斗に質問を浴びせて来た。
「その単結晶インゴットは、切り分けた全てのチップに同じ信号を送るというのですか?」池田さんの物凄い剣幕に慄きながら。
「ええそうです、それだと防災無線と変わらないので、一つ一つのチップを識別できるように魔法陣を組んで転写して作った物がこの通話の魔道具です、今はスマホを介して識別していますが、自分たちの交換機を使って個別につなごうかと思って今は模索中なんです」と雫斗が今考えている構想を言うと。
「では、十数個程度の個体であれば交換機も単純に成るし小型化出来ますね、しかも通信の妨害も出来ない」と山田さんが興奮しながら確認する。
確かにその数であれば、そんなに難しいシステムは要らない、いやもしかするとそのチップ内の魔法陣で出来てしまうかもしれない。雫斗はスマホの様な通信装置の事を念頭にしているので、億単位の交換機から頭が離れていないが、どうやらこの叔父さん達は別の用途を考えているらしい。
「小型化は出来るでしょうが。・・・山田さん何を考えているんです?」興奮している大人を他所に、冷めた雫斗が問いただすと、ばつが悪そうに照れながら山田さんが話し始めた。
「いやなにね、個別に個体を制御できるとなると、昔見たアニメの様な事が出来るんじゃ無いかと思ってね」と顔を赤らめながらも話す山田さんと池田さんの情熱に、気圧されながらも興味を持つ雫斗とクルモの主従。
例えば宇通空間で主機であるロボットの周りで子機のポッドが敵機に四方から攻撃するとか。ファンタジー小説で剣を使う主人公の周りで複数の剣が飛びながら敵を切り刻むとかの話を目を輝かせて言うものだから、クルモが興味を持ちだした。
確かに、データを妨害なくやり取りできるとなれば個別に動かす事は出来そうだが、それで攻撃や防御に使おうとは、雫斗は考えて居なかった。単純に一人で作業するよりは複数で作業をする方が効率が良いくらいに考えていたのだが。こういう使い方も有るのかと感心していた雫斗であった。




