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ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(改訂版)  作者: 一 止
第1章  初級探索者編

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第58話  地道な鍛錬の報酬は、確固たる強さの証である。(その2)

 その一人が意を決したかのように此方に近づいて来る、すると他の3人も同じように此方に向かってくる、どうしたのかと思って見ている雫斗の後ろで、何かに気が付いた百花が舌打ちをする。


 「この間は、助けてくれてありがとうございました」雫斗達の前に一列に並ぶとヘルメットを脱いで頭を下げてお礼を言う。


 「あっ!!。リーゼントの強面君」面喰う雫斗は、その顔を思い出した。丸坊主にしているから気が付かなかった。


 「強面君はよしてくれ、柴咲っていう名前があるんだ。とにかくお礼を言わせてくれ、あの時お前が居なければ俺は生きてはいなかった」と真面目に言われて多少気恥ずかしさは有るが、雫斗も真剣に答える。


 「あの時助けられたのは、たまたまだよ。体が勝手に反応したんだ、それに最終的に此方も助けられた方だからね荒川さんに」そう言うと荒川さんをチラ見する。当の荒川さんはそのやり取りを、”若いね~~”と言う表情をしてほほえましく見ている。それに気が付いた雫斗が顔を赤らめている後ろで、ぶぜんとした表情の百花。それに気付いた柴咲君が。


 「田舎もんって言って悪かったよ、謝る。済まなかった」と言う。結構真っ直ぐな性格をしている様だ、そう言われた百花も態度を改める。


 「いいわ、忘れてあげる。だけどまたあんな態度をっとたら容赦しないからね」と上から目線で宣言する。どうしてもマウントを取らないと気が済まないらしい。変顔バトルをした影響なのか?。


 「しねぇ~~よ!、俺たちは義理は通す。助けて貰って嫌な態度はとらねぇ~~」と、謝っているのか喧嘩を売っているのか分からない返事に、雲行きが怪しくなってきて慌てて雫斗は話題を変える。


 「ところで、山田君って言ったけ。彼はどうしたの?」柴咲君も百花とのいさかいを回避するべく話に乗る。


 「あいつは俺たちと違って頭の出来が良い。再来年の探索者養成学校の試験を受けるために受験勉強中だ」とさも自分の事の様に嬉しそうに言う。


 「そうなんだ。でも君達も凄いね、卒業前なのにもう仕事をしているなんて」という雫斗に柴咲君が異を唱える。


 「べつに中学生を止めたわけじゃね~よ。うちの兄貴がやっている会社のバイトだ、丁度ダンジョンに入れる人間を探していたから、話に乗ったんだ」と柴咲君。確かに中学までは義務教育がある、それを無視して働かせるほど、歪な社会ではない。勘違いした雫斗がちょっと顔を赤らめていると。


 「23層の拠点設営を、幾つかの建設会社に打診したのだがね、どの企業もしり込みしてね、唯一彼らの会社が承諾してくれたんだよ。それが無ければこの計画はとん挫していたからね、彼らには頭が上らんよ」と荒川さんは本気でほっとしている様だ。


 「俺らの会社・・・兄貴がやっているんだが、この辺りじゃ3流どころでな、下請けばかりしていた会社がのし上がるためには、多少のリスクは覚悟しなきゃならんと言い出して、この仕事を受けたんだ。しかしそれがダンジョンの中での工事とはねぇ~~。ま~俺たちにしたら願っても無い事だったのさ、戦い方も教われるしな」という柴咲君の説明に納得した。


 ダンジョンに入るとなればダンジョンカードの取得と、探索者資格の取得に加え、ダンジョンからの帰還試金石を使って、帰還できるかの是非を問わねばダンジョンに入る事が出来ない。それなら若い人の方が有利だ。


 「さて拠点設営も終わって、機能確認も終わったようだ。夕食とミーティングを前に、ここら辺の魔物にご挨拶と行こうでは無いか。柴咲君たちもどうかね?」。との荒川さんの誘いに喜んで答える柴咲君一同。


 「行きます。ありがとうございます」と言って装備を取りにドーム中へと向かって行った。


 さて、5階層の最強種はフォレストボアとワイルドベアーだ。フォレストボアに関しては大きさは別にして突進しての突き飛ばしが攻撃の手段だ。躱すのは簡単では無いが、出来ない訳では無い。ただ大きさが普通のイノシシの3倍は在る。その迫力にビビらなければ、すれ違いざまの剣や槍の首筋への一撃で倒す事が出来る。ワイルドベアーにしても体つきは大きいが、その体重と腕力に気を付ければ、ある程度経験を積んだ探索者の脅威には成らない。


 単体だったり複数だったりと様々な邂逅を見せるが。単体なら接近戦で一撃で倒せるし、複数でも一人が投擲でけん制しながら各個撃破で危なげなく倒していく。


 しかし、柴咲君達の戦闘を見ていた雫斗は唖然とした。へっぴり腰で魔物と対峙していて、直線的な攻撃しかしてこないフォレストボアを大げさな回避行動で躱して、バランスを崩し回避即攻撃の基本が出来て居なかった。そもそも足さばきから為って居ない、うちの師匠と対峙したなら即座に締め落されて泡を吹いているところだ。


 荒川さんを見ていると平気な顔をしているが、雫斗は怪我をしないかとハラハラして見ているしかなかった。


 「あれ良いんですか? 怪我をしてしまいますよ」見かねた弥生が尋ねる。


 「彼らも、探索者だ伊達に4カ月もダンジョンで魔物を倒してきたわけじゃない。フォレストボア程度なら多少吹き飛ばされても死にはしないよ。怪我程度ならポーションですぐ治せるからね」と怪我位は当たり前だと無体な仰りようだ、短期集中で鍛え上げる気満々である。


 生傷をこしらえながらも、どうにかフォレストボアを倒した柴咲君たちは、その場でへたり込んでいる。教官役の探索者たちに治療を受けながらも、どう立ち回らなければいけないかとレクチャーを受けていた。


 雫斗達と、柴咲君たちのパーティーが交互に魔物をたおして、夜のとばりが下りる前に、拠点であるダンジョンフォレストへと帰還した。


 施設内の建物は、中央の大きな建物は宿舎を兼ねていて、シャワールームに会議室を兼ねた食堂が有り、当然トイレも完備している。


 塀のそばに建てられた建物は防衛拠点で、魔物に襲われた時に塀の外への攻撃の要となる、その為バリスタや今は設置されていないが、深層では重機関砲が備え付けられるらしい。昔の兵器と近代火器の混成は無意味に思えるが、ダンジョンの深層では、火薬を使う武器は誤作動が当たり前らしいのだ、どちらかと言えばバリスタが本命の武器で重機関砲が予備になりそうだと施設の説明をした荒川さんがげんなりして言っていた。


 今夜は初日と言う事も有り、屋外で食事を取るらしい当、然見張りは交代で務めるが、雫斗達は明日で帰還する事になっている事も有り、見張りの業務からは外されていた。それでは悪いから自分達も見張りに加えてくれと直訴すると、食事が終了した後の2時間だけならと承諾を得た。


 バーベキュー用の焼き台が複数置かれ、盛大に肉やら野菜やらを焼き始めている。雫斗達も大いに食べた、育ち盛りの雫斗達には此の食事方法は願っても無い事だった。百花なんかは肉だけを狙って食べている、「私の成長(胸の)の為には、タンパク質が必要なのよ」と言って頬張っていたが、雫斗は”太っても知らないぞ”と思ていても口には出さないだけの分別は有った。


 食事も終えてまったりとしていると、柴咲君達が近づいて来た。なんだろうとみていると、「なあ、聞いていいか」と言ってくる。何か真剣みを帯びているからどうしたのかと思って雫斗が「いいよ」と答えると。


 「なんでおめーたち、あれだけ動けて戦えるんだ、何かスキルでも持っているのか?」どうやら自分達と、雫斗達の戦闘での実力の違いにショックを受けた様で、その差が気になったらしい。


 「スキルは使っていないかな。僕たちが動けているのは多分師匠に教わった体幹の強化と体の動かし方だと思うんだけど」と雫斗は正直に話す。確かにスキルでごり押しして魔物と対峙している探索者はいるとは聞いているが、くそ爺・・師匠曰「そんなもの(スキル)に命を預ける気はない」との事で、雫斗達は師匠の教えを忠実に守っているだけなのだ。


 「本当か? 俺たちも道場に通って、武術を学んでいるんだ。それであの差はおかしいじゃね~か」と柴咲君は納得していないみたいだ。雫斗がどこの道場に通って居るのか聞いてみると、敏郎爺さん(師匠)が、名前だけは立派で内容が伴ていないと憤慨していた道場の名前だった。冗談で雫斗達に道場破りをして来いと言っていたほどなのだ。


 このご時世だ、護身術を売りに数々の道場が軒を並べている、当然ピンからキリまである。武道としての本質を教えている道場程人気は無く、派手なパフォーマンスを売りにしている道場の方が人気がある。一応師匠の褒めていた道場の名前を出して聞いてみると、〝中腰、で何時間もうごかねぇ~で、技も型教えない道場なんて願い下げだぜ”と答えが返って来た。


 「これはうちの師匠の受け売りだけど」と断って話し始める雫斗。


 「武の神髄は決められた動きの型ではない、動きの中でその動作に込められた技を修めて初めて最初の一歩となす。その後は鍛錬して技を昇華させていくのみ、奥義とは己に科した技の昇華の過程にすぎん。生涯鍛錬有るのみじゃ」と言われた事を、雫斗なりに解りやすく説明したつもりでは在るが、柴咲君は納得していない。


 百花達はと見て見ると、我関せずを貫いている。雫斗は仕方ないと前に出て半身に構え右腕を伸ばして「片手で押してみて」と柴咲君に言う。


 最初、目を点にしてした柴咲君が意図を察して同じ構えで手を合わせてくる、最初軽く押してみてビクともしないものだから、力を入れて押し込む。と、いきなりひっくり返って空が見える。


 どうやら仰向けに倒れているらしい、どうやってそうなったのは分からないが自分が倒れている事実は変わらない。


 もう一度と挑戦するも、結果は変わらない、地べたに転がされ続けて頭に来た柴咲君は雫斗にタックルを試みる、予測していた雫斗は後ろ足を引いて体の向き変えタックルしてきた手を払う、当然柴咲君は地べたに転がる。暫く此の攻防を続けていたが、食事の後の激しい運動に吐きそうになった柴咲君が音を上げたのでお開きとした。倒れて荒い息を続けている柴咲君に雫斗が話しかける。


 「これが動かない構えの正体だよ、どんなに立派な幹と枝を備えた大木でも根っこが貧弱ならすぐに倒される、大事なのは基幹となる腰と背骨、それを支える背筋と腹筋。そして大地に根を張る足の鍛錬なんだ、言っておくけどこれは初歩の初歩だよ」と朦朧としている柴咲君に言っては見たが、雫斗自身誰かに教えるのはおこがましいと思ているのだ。雫斗が何を言おうが、彼らがどうか感じ、どう思うかは彼ら次第なのだから。


 「や~~、流石ハイオークを退けた実力は嘘ではなかったね。君達も分かっただろう魔物との戦闘で必要なのは、地道な鍛錬の積み重ねだよ。ネットで騒がれているスキルでのごり押しは幻想でしかない。本気で探索者として挑むなら基礎から学び直す事だね」と雫斗と柴咲君のじゃれ合いを見ていた荒川さんが正論を口にする。


 しかし、その事を理解して実践できる人はほんの一握りなのだ、探索者として登録している人数に対して、深層を探索できる探索者の割合が少ないのはその事が影響している。安易にネットで謡われている、スキルさえあれば強くなれるという事を信じて、楽な方法を信じたいのは人間の本能の様な物なのだ。


 かく言う転がっている柴咲君も、悔しさを滲ませて憮然とした表情をしているが、雫斗が話した内容を信じているかというと疑わしい事なのだ。結局、己を律して高みへ導く事が出来るのは己自身でしかないのだから。


 確かに、魔法や身体強化のスキルは絶大な威力が在るが、基本的な動きや精神力はスキルでは底上げできないのだ。ダンジョンで魔物を倒していく過程で経験値を増やしていく事は、結局は地道な鍛錬の積み重ねと何ら変わらないのだから。雫斗にしても、地道にスライムを討伐してきたからこそ、今の彼の強さに繋がっているのだ。今日はここまでにしてもう休みなさいという荒川さんの言葉で、解散と成った。雫斗達も食後の見張りを控えているのでそれぞれの持ち場へと別れて行った。





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