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ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(改訂版)  作者: 一 止
第1章  初級探索者編

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第57話  地道な鍛錬の報酬は、確固たる強さの証である。(その1)

 まだ一般に解放されていないとはいえ、ダンジョンであることには変わりはない。当然入り口にはゲートを設置するための建物が建設中だ。その周りでも関連施設の建設が始まっていて、受付や買い取り所などの建物が立つであろう場所がきれいに整地され、地縄が張られている状態だ。


 ダンジョンの出入り口に設置されている簡易的なチェカーを通り抜けて中に入ると、見慣れた洞窟の中だった。たいていの洞窟型のダンジョンは構造的に似ていることが多い、それ以外の特殊なダンジョンの方が稀なほどだ。


 ここ名古屋支部前に在る元運動公園内の、うっそうとした林の中に出来たダンジョンも、1階層と2階層は洞窟型で3階層までは斎賀村と変わりはしない。しかし内部構造までは同じではないので、何処に進んでいいのか分からない雫斗達は、荒川さん達のクランに守られながら5階層を目指す事になる。


 「荒川さん。隠し通路は探さないんですか?」3階層を抜けて4階層に降りた雫斗は聞いてみた。隠し通路の試練の間と宝物の間には、かなり美味しい経験値とお宝が眠っている。多少の当たり外れが有るとはいえ、無視していい程お安いものではない、もしかしたら深い階層に雫斗の知らない隠し部屋とかが在るのかもと思っての質問だ。


 「そうだったね、それも君たちが探し当てたのだったね。・・・隠し通路はソロでしか探し当てることができないからね。団体行動中は弊害でしかない、まーお宝探しは団体行動前の時間に一人ですることになったのさ」と雫斗の質問に驚きながらも答えた。


 「それに下の階層になるほど探し当てるのは難しくなる。探せないなら1階層で確実に見つけた方が効率が良いのさ、下手に深層で見つけたらソロだと確実に厄介ごとに成るからね」とウインクして茶化してきた。


 そんなものかと雫斗は思った。確かに、1階層の試練の間でも何度も死にかけた経験のある雫斗は、これ以上深彫りする事は止める事にした。4階層に初めて降り立つ雫斗達は此の階層の地形や特性。此処に居る魔物たちの種類や特徴、戦い方などのレクチャーを受けながら進んでいく。


 そして5階層に降りた雫斗達は目の前の光景に圧倒されていた、階段下は開けているとはいえ目の前には深い森が生い茂っていたのだ。


 「壮観だろう、初めて見るダンジョンの階層にはいつも圧倒される。まるで階層毎で世界旅行をしている気分だよ、これは私達探索者の特権みたいなものさ、命がけのね」と荒川さんがしみじみと話す。


 確かにそうかもしれない、ダンジョンの内部は国の特色を反映するものが多い。日本は高温多湿で割と温暖な気候の風景が多いが、国によっては砂漠地帯や高原、アルプスの山々、ツンドラと多種多様なダンジョンの内部の構造になるらしいのだ。直接見た事は無いが、動画を見ていると、その風景に圧倒される。しかしその動画には必ずと言っていいほど魔物との戦闘が入っているのだ。


 「さて、君たちの戦い方を見ての感想だがね。とても4カ月前に探索者の資格を取得したとは思えん実力だね、うちの中堅どころとタメを張れるどころか上を行っているよ。どうしたらこれ程の戦闘能力を得る事が出来るのか興味は尽きないが、欠点もある。君達も分かってはいるとは思うが、それは経験の少なさだ。聞くと君たちのいる所は3層ダンジョンしかないそうだね」と目の前の光景に呆けている雫斗達に荒川さんが話しかける。


 「はいそうです。雑賀村には3層ダンジョンしかありません、その階層の魔物とは戦った経験は有りますが、4層以降の魔物とはないですね」と百花が答える。そうなのだ、3階層は割と単体で魔物と遭遇する事が多いが、4階層になると集団での戦闘を強要される。


 「君たちの一対一での戦闘は問題ない、連携も取れているから集団戦もいけるだろう。後は経験を積むことだね、知識は有っても初めての魔物との戦闘は戸惑が多い、何事も場数を踏むことだね」と雫斗達は荒川さんから及第点をいただいた。


 5階層の階段下で休憩がてら話していると、先行していた斥候隊の人達が帰って来た。ダンジョンは、洞窟であれ草原や森でも道しるべというか道が存在している。洞窟では迷路になっているとはいえその洞窟沿いに進めば必ず下の階層に行く階段に行き当たる、草原や森でも道標として認識できる程度の道はある。


 階層攻略の基本は道なりに進んで下の階層に続く階段を見つけることにある、当然複数の道が有り、行き止まりや元の場所へ戻ってしまったりと一筋縄ではいかないが、最終的には次層の階段に行き当たる。余談だが、道からずれると途端に魔物との遭遇率が上がる。要は安全に階層を移動するには道沿いが一番効率が良いのだ。


 荒川さんの話によると、深層探索の為の装備の習熟訓練は5階層の割と階段に近い広場で行うらしい、6階層の道程から外れている為、他のパーティーの邪魔にはならないらしいのだ。


 「マスター。予定の広場に魔物の痕跡は有りませんでした、道程も問題ないです。今残りのメンバーがキャンプ設置を始めています」と斥候隊の隊長らしき人が報告する。荒川さんが「そうか、ご苦労さん」と言ってねぎらうと全員でその目的地に向かって歩き出す。


 流石に斥候隊が歩いてきた道だけに、魔物とのエンカウントは無く無事目的地の広場へと到着する。しかしその光景に雫斗達は圧倒された。まるで何処かの工事現場に紛れ込んだかのような様な光景に雫斗達はあ然とするしかなかった。


 小型のブルドーザーが辺りを整地する傍ら、その周辺にはクレーン車を使ってコンクリート製の防壁を張り巡らせる人達、そして極めつけはその塀の周りをショベルカーが深い穴を堀りながら進んでいく。どうやら壁の周りを掘り進めるのだろう、まるで城砦を作るかの様な物々しさに、トップクラスのクランとはここまでやるのかと半分呆れていた。


 「ふふふふ、驚いたかね。凄いだろう、此処まで出来るのは保管倉庫のおかげだよ。君達には感謝の言葉だけでは足りないね」と荒川さんが意味ありげに頷いている。雫斗達にすんなり5階層迄の行程を許可した背景には此の事が関係しているのかもしれない。


 「此の階層で、これ程の設備がひつようでしょうか?」と弥生が聞いてみた。そうなのだ、地上から5階層迄は小一時間ほどで来ることが出来る、急げば半時間だ。


 「当然ここでは必要ない、だが設営訓練には最適だろう?。この設備の名称はダンジョン・フォートレス。まー簡単にD・Fと呼んでいるがね。私たちは3・4週間程度いる予定でね、その間この設備の耐久性と使い勝手、補給の頻度などを含めて調べつくすつもりなんだよ、此の設備を使って階層下の遠征に行く上で、何が必要で何が障害となるのか徹底的にね」と荒川さんが何かの決意をもって此の訓練に臨んでいる様だ。


 「君たちは知っているかね? 世界のダンジョンの最高到達階層を」暫く工事の進捗状況を眺めていた荒川さんが静かに聞いてきた。


 「確か30階層までは行っていなかったんじゃないですか?」と百花が言うと。


 「そうだ、最高到達階層はブラジルの29階層が最高だ。この日本では東京の代々木公園内にあるダンジョンの、26階層が最高到達階層になる。ダンジョンが出来て5年だ、未だそれだけしか踏破できていないんだ。私は常々ダンジョンの攻略において何か足りない物が在ると思っていたが、君たちが見つけてくれた事がそうだと確信したよ。その意味でも君たちに何かお礼をしなければと思っていたのだよ。本当にありがとう」と荒川さんが雫斗達に頭を下げた。


 雫斗達一同は、深層を探索している高レベルの荒川さんに、頭を下げられてドギマギしている。多少は手伝たとはいえ、その殆どを雫斗一人が発見した事を自覚している百花などは特に顕著だった。


 出来上がった塀の片隅に簡易のターフを張り、その中で休憩しながら荒川さんを交えた雫斗達は、工事を進めていく人たちを興味深かげに眺めていた。整地の終った塀の中央に杭を複数打ち込んで基礎の代わりにすると、その上に大きな丸型の建物を載せていく、一人の保管倉庫に収めきれなかったのか3回に分けて重ねていく、つまり3段に重なった鉄とコンクリートの構造物だ。最終的には階段状のドーム型の形にはなったが、窓は舷窓を模しているのか丸型で小さく、出入りは出来ない様だ。おそらく明り取りの為の窓だろう。


 その後で、壁の周りに塔のような構造物をを幾つか並べて工事は終了したようだ。時間にして4時間ほどの早業である、かなり手馴れている。


 「すごいですね、これだけの工事を半日もかからずに終わらせるとは、大分手馴れていますが探索者になる前は建設関係者に人達だったのですか?」と雫斗が疑問を口にすると。


 「いや、彼らの大半は、本職だよ。保管倉庫の検証依頼があった時に、23層辺りに拠点を作る構想を立ててね、名古屋支部の協会の認証も得た、それで彼らにもスライムの討伐に付き合って貰ったのさ、いわばスライム殲滅戦の戦友だね」と荒川さんは可笑しそうに笑った。


 「そうなんですか」と言いながら雫斗は何気なく拠点を作り終えた作業員が、片付けをしているのを眺めていると、その中に比較的若い4人ほどのグループが居る事に雫斗は気が付いた。どこかで見た顔だな~と思いながら見つめていると。そのグループもこちらをチラチラと見ていた。

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