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ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(改訂版)  作者: 一 止
第1章  初級探索者編

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第48話  決意の表明は様々なれど、その覚悟は最強となる。(その1)

 此処は常世ではない、形有る物が形を成さず、力ある物が力を失う混沌とした空間、何もない様に見えて様々のものであふれかえる不思議な世界。空なる物が色へと誘い、色なる物が更なる高みへと変わる不変なる力が統べる森羅万象を象徴する広大なる時空。


 其処に目覚め始める物がいる、言わすと知れたクルモである。幸か不幸か雫斗が夢の中で起動に必要なパスワードを叫んでいた事が功を奏し、クルモの再起動と相成った。


 徐々に覚醒していく中で、クルモは驚愕していく。周りの状況が全くつかめないのだ、手足の感覚を始め、視覚、聴覚は無論。触覚に至るまで全く機能していないのだ。己という存在を自覚し始めた時でさえ、周りからの何かしらの刺激は有ったのだ。


 パニックに陥りそうなクルモではあるが、この感覚には覚えがある。クルモが最初に覚醒して、義体へと移された時の感覚と同じなのだ。


 知覚の停止から覚醒までの間に何が有ったのか、魔核がクルモという存在として覚醒する時に一緒に取り込んだCPUのクロックでは二日程が経過しているのだが? 疑問に思いながらも、ゴーレムとしての本能から、自分の体を再構築していく。


 その過程で思い描いたのは、慣れ親しんだ自分の義体では無く、主たる人の体を思い描く。クルモには義体としての機械的なシステムも、人間の生物学的な構造も等しく記憶の中に存在している、何故かこの時は生物としての人の体を主体とした構造物を思い描いていた。


 結果として、生体サイボーグの様な体を構築していくのだったが、偶然なのか必然なのか、膨大なエネルギーと力ある物質の満ちたるこの空間に、順応した体が構築されていく。


 しかしその事が、その体を維持することにおいては行幸だと言える。地上にある生物がこの空間に紛れ込んだとしたら、生きにくい事になっていたであろう。水も食糧も生命に不可欠な酸素さえ、旬然たる物としては存在していないのだから。


 自分の体を作り終えたクルモは、周りを見渡して驚いた。何も無いのだ、力とエネルギーの奔流は感じられるのだが、見た目は何もない空間にしか見えない、上下の感覚は無く重力さえ感じる事が出来ない。


 主である雫斗の繋りを感じ取り手繰り寄せようとするも、掴めども掴めども近づいていく気がしない、ともすれば消えて無くなりそうな絆に思わず手を止めてしまう。


 主である雫斗の存在を感じてはいても、この空間の何処へ向えば良いのかさえ全く分からないのだ。


 暫く呆然としていたクルモだが、やみくもに動いて事態を悪くするよりはと、主の救出を待つ事にした、ゴーレムという種族は辛抱強いのだ。


 だが、ただ待つというのも芸がないと考えて、主から借りていた魔導書を取り出して読み始めた。残念な事に、この魔導書にはヨアヒムの様な知性が憑依しているわけでは無い、文字という記号によって技能という知識を保管している書物にほかならないのだ、しかし暇つぶしには丁度良い。


 しかも探索者協会に公開されている、すべてのダンジョン産の石板や魔導書を解読した、書式データーもクルモのコアに保存済みなのは内緒の話だ。




 丁度そのころ、悠美の説教・・・間違えた。雫斗がミーニャと同衾していた事への追及が終わろうとしていた。


 「話は分かったわ。それじゃミーニャは、雫斗を元気付ける為に、添い寝していただけなのね?」と確認する。


 「そうです、私が小さい頃、私の母~さまは、私達が悲しい時や寂しい時は、いつもそばで添い寝して、撫でてくれました」と堂々と、いやむしろ他に何が有るの? と言いたげに、きっぱりと受け答えをしている、雫斗の挙動不審な言い訳とは段違いなのだ。


 「いいでしょう。・・・今更だけど。・・・ミーニャよね、だいぶが顔立ちが変わっているけれど、どうしたの?」と悠美に聞かれて、ミーニャが嬉々として答える。


 「はい!! 私、大人になりました。これでようやく立派な子供が産めます。家族に貢献できるんです!!」と満面の笑みで、一緒に祝ってくれと力説する。


 その隣で雫斗は愕然とする、まるで一線を越えたと宣言している様なものでは無いか、その事に関しては事実無根なので、慌てはしないが、如何せん今までは大きな猫の様な、まるでペットを飼っている様な感覚で接していたミーニャが、女の子女の子した姿ですぐ隣にくっ付いて正座しているのだ、しかも薄着で。思春期の雫斗がドギマギしているのは、当然と言える。


 悠美は複雑な心境で小さくため息を付く、雫斗は多少おっとりしている事も有り思春期を迎えた今でも、同世代の女の子に興味を持たなかったのだ。


 雑賀村の住民全員が親戚の様な感覚で付き合っている事もあり、特に年の近い子供達同士は兄弟の様に接している事で、村の女の子を異性として意識していなかったのだ。


 その事に関して悠美は多少心配をしていたけれど、意識し始めたのが別の世界の女の子とは、・・・どうした物かと思案する。


 ミーニャはいい子である。その事に関しては疑問は無い。悠美が心配なのは、ミーニャがこの世界の住人ではない事だ。未来がどうなるかは分からないが、一人の母親として自分の息子の将来に多少の不安を感じているのだ。


 今まで聞いた、ミーニャのいた世界の事を思うといたたまれないのだ。この地球との常識のずれは克服できるのか? 彼女は頭のいい子ではある、いずれこの世界にも慣れる事だろうが、獣人だというのは紛れもない事実なのだ。


 生理学的に人と交わる事が出来るのか? この世界がただ一人の獣人を受け容れてくれるのか? 不安は尽きないが、決めるのは当事者である雫斗とミーニャなのだと、親として見守る事を改めて決意した。


 「そう・・・よかったわね、おめでとうミーニャ。その事であなたと少しお話があります。・・・此処ではちょっと話せないわね。ミーニャの部屋へ行きましょう。そうだ良子さん、香澄がミーニャのベッドで寝ているはずだから、叩きおこ、・・・下へ連れて行ってもらえるかしら」と悠美はミーニャの”立派な子供を産めます”のくだりを聞いてほほに両手を添えて、のほほんとしていた良子さんにお願いする。


 決して我が子香澄が、三日と開けずにミーニャの寝床に潜り込むことに嫉妬しているわけでは無い(そう思いたい)。ミーニャと大人の話をするので、子供には聞かせる訳にはいかないのだ。


 悠美は雫斗の母親であると同時に、ミーニャの保護者でもあるのだ。このままでは息子の貞操・・・(ゲフン、ゲフン)。ミーニャが暴走しかねないので、日本の男女間の常識を叩きこまねば為らぬと決心したのだ。


 「分かりました!!」と喜び勇んで出ていく良子さん。その後からミーニャと何やら話しながら母親が雫斗の部屋を後にする。


 独り残された雫斗は、足のしびれに悪戦苦闘しながらも自分のベッドへと倒れ込む。深く息を吸い込むと、ミーニャの残り香が香ってくる。


 すると必然的に、意識しなくても思い出してしまう、二つの果実の感触を。ベッドの上で一人悶々と悶えていると、呆れた様な声が聞こえてくる。


 『主よ、色ボケしている場合ではないぞ、感じぬか? 彼の者が覚醒しておる』とヨアヒムが容赦なく断罪する。クルモの事は忘れてはいないが、思春期真っただ中の今の雫斗には、何もなかったとはいえミーニャとのひと時は刺激的過ぎた。


 「えっ! 分かるの?」と慌てて起き上がり、思わず声に出してヨアヒムに確認する。


 『ふぅむ。異性に免疫が無いのは分かるが、己の分身たる者をおろそかにするとは、いささか無情が過ぎるのではないか?』と不本意にもヨアヒムから御叱りを受ける。


 クルモが起きているならと、懸命に呼びかける。しかし応答がない、やっぱりだめかと諦めかけた時、ヨアヒムが声をかけてきた。


 『此処では、力の残滓はあれど、あの者を呼び出すほどの魔力は贖えぬであろう。魔力の元始たる迷宮なれば其方の思いも届くやもしれん』と暗にダンジョンでやれよと催促する。


 『それはダンジョンだと、クルモを呼び戻す事が出来るって事?』と雫斗が念話でヨアヒムに確認すると。


 『それは、其方の心がけ次第であろう。思いの丈が起こすは、奇跡と相場が決まっておるからな』と意味深なヨアヒムであるが、今の雫斗には従うしかないのだ。いつも雫斗が思うのは、ヨアヒムとの問答は何か謎めいていて、かなり気を使うため疲れてしまうのだ。


 そうと決まれば、まだ少し早い時間ではあるが、準備を始める事にした。装備は収納に収めているので、手持ちはバックパックのみのである。


 雫斗が階下に降りると、まだ夢の中の香澄がソファーの上で船をこいでいる。軽く頭を撫でて「おはよーと」挨拶して洗面台に向かう雫斗。


 雫斗が顔を洗ってリビングに戻ると、さっきまで起きるか眠るかの瀬戸際だった香澄が、睡魔に負けて寝息を立てていた。


 雫斗は近くにあったタオルケットを香澄に掛けて、居間で新聞代わりのタブレットを見ていた父親の海慈にダンジョンに行って来る旨を伝えた。


 台所で朝食の準備をしていた良子さんに断って、簡単な朝食を物色する。


 雫斗が、牛乳とトーストだけで済まそうとすると、「そッれだけぇ~で、はいッけません」と良子さんがサラダを盛ってくれた。


 雫斗が朝食を食べ終えるころ、話を終えた悠美とミーニャが二階から下りてきた。雫斗をチラ見したミーニャの顔が少し赤いのは気になるが、雫斗も彼女の顔をまともに見る事が出来ず、急いで食事を終えると。


 「行ってきますと」と勢いよくダイニングテーブルから立ち上がる。しかしミーニャはある思いを秘めていた、何が何でも雫斗を支えると。悠美には”将来はともあれ今はまだ幼いのだから、自分たちの未来を見据える知恵を付けた後でも遅くはない”と諭されたがミーニャの決意は変わらなかった。


 「あら? 今日は元気が良いのね、昨日あれほど落ち込んでいたのに。やっぱりかわいい女の子に元気づけられると、変わる物ね」と悠美が茶化すと。


 「そんなんじゃなよ。ダンジョンならクルモを探せる気がして、・・・だからごにょごにょ」と赤くなりながら言い訳を言うのだが。


 「どうしたんだい?」と海慈が訝し気に悠美に聞いたものだから、「実はね」と彼女が事の顛末を語りだした。


 居たたまれずに、慌てて飛び出してきた雫斗だが、かすかにミーニャが「行ってしゃい」というのを聞き逃さなかった。外を歩きながらも、雫斗の頬が自然と緩んでいるのだが、自分では気が付かないものである。


 売店では早朝と言う事で誰も居ないのだが、コンビニを兼ねているので、軽食とか飲み物はセルフで買う事が出来る。今どきの人工知能は、ゴーレム型アンドロイド程では無いけれど、棚出しや商品管理などはお手の物なのだ。


 昼までには帰るつもりではあるが、食糧や水は延命に直結するので、用心して余分に買い込んでいく。ダンジョンでは何が有るか分からないのだから、探索者として当然の心得なのだ。


 日本の国のどのダンジョンでもいえる事だが、ダンジョンに入るときは、協会の許可を得ないと入れないし入ってはいけない。下手をすると探索者の資格の停止を食らってしまうかもしれないのだ。


 それにダンジョンに入るための登録をしておけば、万が一帰還の時間に戻らなければ、一定の時間のあと自動的に救助隊が編成される仕組みになっている、事前にダンジョンへ入る事を申請して置けば困らないのである。


 日本国に限っては既存のダンジョンは周知されていて、入り口に監視カメラと魔物の侵攻を阻止するための防護壁と、その開閉に使うチェカーが備え付けられている。


 防護壁は当初、ダンジョンから魔物が出てくることを恐れた政府が設置したものだが、魔物はダンジョンの入り口を使うことなく、ダンジョンの周りで湧き出して来るので意味をなさなかった。それでも防護壁が今でも残っているのは、子供や心無い人の誤侵入を防ぐ為に残される事になったのだ。

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