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ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(改訂版)  作者: 一 止
第1章  初級探索者編

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第43話  ダンジョンの中では普通でも、ダンジョンから出てしまうと非常識になるホンの一例。(その2)

 その数日後。雫斗のビーム兵器? の検証の為やってきました、陸上自衛隊の東富士演習場。富士総合火力演習の会場として有名な場所だ。前日に連絡を受けた雫斗は耳を疑ったものだ、雫斗の収納を使った投擲がなぜか光線を放つ様になった事で、その光線が他にも、人に悪影響を与える放射線等が出ていないかを調べるだけなのだが、何処かの研究機関で調べるのかと思いきや、自衛隊の実弾演習場ときた、どうやらその前の火球の検証もしたいらしく、その為の演習場らしい。


 雫斗は今日は父親の海慈の引率で演習場入りしたが、そこで懐かしい人と出会う事になった。かつて雫斗達家族がダンジョンの生成に巻きこまれたおり、救助に駆けつけてきた部隊の隊長だった人だ。


 演習場の端に設置された天幕に案内された高崎親子は、そこで指揮を執っていた一等陸佐の階級章を付けた人に紹介された。


 「おおお~、雫斗君久しぶりだね。おじさん、覚えて居るかな? 何せ5年ぶりだからね」と気さくに話しかけてきて、雫斗の頭をこねくり回してきた。


 「おいおい、元同僚への挨拶を端折って子供にチョッカイを掛けるとは、子供好きのお前らしいな、泉一佐」と海慈が呆れたように言うと。


 「貴様とは画面越しとはいえ、その都度顔を合わしているでは無いか、懐かしいというほど哀愁を覚える事が無いのでね、だが直に会うのは4年ぶりか? ふむ、それなら久しぶりと言えなくも無いか」と若干へそ曲がり的な事を言うので、”変わった人だな”と雫斗は思いながら、挨拶を返す。


 「お久しぶりです泉 遥一佐。その節は助けて戴いて有難うございました」と雫斗が丁寧に返すと、驚いた様に目をむいて。


 「おいおい!礼儀正しい子じゃないか? お前の遺伝子を受け継いでいるとは思えんぞ、やはり悠美さんの教育のたまものだな」と海慈の息子ならもう少しハッチャケて要るはずだと暗にほのめかす。


 「間違いなく俺の息子だよ、でなければこの年でこんな殺伐とした場所へは呼ばれたりはしないさ。それより向こうで動いているのは新しい機動戦闘車両か?思いのほか様変わりしているな」その視線の先には6本の足の様なアームを備えた車体がそのアームを器用に動かして高速で移動していた。


 「本来はダンジョン探索用のポーター兼乗員の移動用として開発していたものだが、最近個人で収納出来る事が分かってな、一人150キロ程と制限はあるが、それでもその装備を重さを気にせずに持ち運べるのは大きい。そこで用済みのポーターで戦闘の補佐が出来ないか実地で確認して居る所だ」そう言いながら、厳しい目でその車両の機動に注目している。


 雫斗は自分が発見した接触収納が、思わぬ形で影響が出て居る事にむずがゆさを覚えながら、その戦闘車両の動きを何気なく見ていた。


 戦闘を目的としている分武骨さは否めないが、大きさはマイクロバスを少し大きくした本体に、動き回るための足を取り付けたシンプルな構造をしている。前方にはミサイル迎撃用のファランクスが二基収められていてまるで目玉の様に見える、ただ本来自立している探索用のレーダー装備を排除している為より洗練されている様に見える、後方には背の低い砲塔が鎮座していてどうやらそれがメインの武器の様だ。


 まるでガマガエルに足の様なアームを2本追加して6本足にした格好だが、機動性は良いようで足の先には動輪が装備されている。普通の車両の様に固定さてていない分、起伏に応じてアームが動いて車体の均衡を保っているうえ、轍や泥濘といった普通ならスタックしそうな状況でもうまく重量を分散して移動しているように見える。


 「ほう、中々よさそうに見えるが、しかしデカすぎないか?此れではダンジョンに入らないぞ」と海慈が言うと。


 「その心配はない、本来建物と同化したダンジョンを別にすれば入り口は元々大きいんだ。一般に公開されているダンジョンの入り口は探索者の通行の確認の為ゲートで塞いでいるが、その車両が余裕で入れる大きさは有る。そもそも我々が攻略しているダンジョンにはゲートそのものが無いがね」と泉一佐がこたえる。


 深層のダンジョンは別にして、浅層ダンジョンか攻略済みのダンジョンは一般に公開される、攻略とは言っても最下層に鎮座しているオーブを取得することで、ダンジョンの再構築がおきて復活するだけなので、べつに消えて無くなるわけでは無い。それを攻略したと言っていいものかは分からないが、元々のダンジョンの特性は変わらないので攻略に関してのハードルは低くなる。


 つまり全く危険はないとは言えないが、ある程度の安全は担保されているダンジョンが一般に公開されることに成るわけだ。


 「しかしその装備も完成目前で無駄になりそうだ。聞けば保管倉庫なるスキル迄発見されたそうだしな、しかもスライムの討伐で手に入ると言うじゃ無いか。今ではダンジョン攻略そっちのけで、わが隊員は一階層でスライム狩りに勤しんでいるよ」とまたまた雫斗がむずかゆくなりそうな事を言ってきた。


 海慈は顔を真っ赤にして挙動不審の息子を面白そうに横目で見ながら、泉一佐の率いている新設のダンジョン攻略群の事を聞いてみる。


 「今攻略しているダンジョンは五カ所だったな?、新たに出来た部隊にしては規模がだいぶ拡大している様だが、指揮系統は機能しているのか?」そうなのだダンジョン発生初期の混乱の中、各方面隊単位でダンジョンの対策に当たっていたのだが、思いのほかダンジョンの探索の成果にばらつきが出て来た。


 そこで新たにダンジョン探索の専門部隊として新設されたのが、ダンジョン攻略群なのだが、そこは未知の敵?ダンジョンが相手だ。右も左も解らぬままに、前線(階層)を押し上げて行く事にそれなりの苦労が有ったのだろう。


 当然ダンジョン探索で功績のある隊員を選んで集めた為、一癖も二癖も有る隊員達が集まることに成り当初部隊運営に支障が出てきていた。


 「ようやく纏まりが出来て来たよ、最初は酷いものだったが前線の指揮権をすべて移譲させたのがよかった様だ。ダンジョン攻略群も大きくなり過ぎたからな、これ以上は私の手に余ると思っていた矢先だ、保管倉庫というスキルがトン単位で物資を持ち運べるとなると、隊の規模も縮小できそうだ」。と言った後、一瞬の間の後に続けて。


 「今我が隊が管理しているのは六ヶ所だな、最近、探索者協会名古屋支部の近くでダンジョンが生成されてな、そこの管理も任された。かなり大きなダンジョンらしいな」と泉一佐が締めくくった。


 「そうか、此れからの自衛隊の在り方も変わって来るな、他国からの武力脅威がなくなるとなるとダンジョン対策で民間と協力していくことに成る。何時までも昔のままという訳にも行くまい」雫斗の真っ赤な顔が青ざめていくのを楽しそうに見ながら海慈が話す。


 「そうは言うが、頭の固い省庁のお偉方には、今までの習慣を変える事など出来んよ。それはそうと貴様は今日はどうしてここに居るんだ? 昔の同僚に表敬訪問でもあるまい」と泉一佐が疑問を口にすると。


 「今日の私はただの引率だよ。呼ばれたのはこの子さ、向こうで準備している所が本来の目的地さ」と演習場の一角を指さす。その場所を一瞥して怪訝な顔をする泉一佐。


 「今朝いきなり、あそこで射撃の評価試験をすると言って報告が上って来たが、そもそも新しい銃器の開発など私は聞いていないぞ。しかも評価用の鋼板を複数枚用意するのは異常だぞ、一体何をやる積もりなのか見当もつかん」と本音を言う。


 確かに普通の銃器の評価試験なら、鋼鉄の鋼板一つで事足りる。要は徹甲弾が貫通するか、もしくはどれだけ侵食するかの評価に使う訳だから、一枚で十分なのだが。


 雫斗がやろうとしているのは、ビーム兵器だ。兵器とはいってもただ短鞭を降り抜くだけだが、それが光線となってダンジョンの岩盤を打ち抜くとあっては、どう予測、もしくは測定していいのか分からないのは当然なのだ。


 「新兵器はこの子さ。私も見るのは初めてでね、元自衛官としては興味がある。ああ! どうやら準備が出来たみたいだな」と雫斗の頭を撫でながら、試験場から人が小走りに走って来るのを迎える。


 この東富士演習場に到着した時に、対応した隊員からまだ準備が出来て居なくて、申し訳無さそうに待機を言われたのだが。その隊員が海慈の顔見知りで気を利かせたのか準備が整う迄ダンジョン攻略群の車両の評価試験の見学を進めてきたのだ。


 泉一佐が居ると聞きつけた海慈が承諾して時間をつぶしていたのだが、どうやらようやく今日の目的の雫斗が放つビームの人体への影響の有無を調べる事が出来る様だ。


 「お待たせしました、高崎三佐、雫斗君。準備が出来ましたのでこちらにお越しください」と海慈に向かって敬礼してきたので。


 「おいおい、私はもう自衛官では無いよ。加藤一尉、敬礼は不要だよ」と笑いながら応じるが、長年自衛官として活動してきた海慈も満更では無さそうだった。


 「おい!待て、私も行くぞ。吉田、後を頼むぞ」と言って泉一佐がついてくる。後を任された吉田三佐も海慈たちの話に聞き耳を立てていたのだろう、自分も行きたいと目で訴えかけていたが、命令されてはどうし様も無かった。


 試験会場はちょとした賑わいを見せていた、何処からか聞きつけて来たのか白衣の人に交じって自衛隊の野戦服を着た人達や、スーツにネクタイといった場違いな人達がかなりの人数いる事に雫斗は驚いていた。


 後で聞いた話だが、最初は相談を受けた大学の教授はレーザーの類かと思い構内での試験を想定していたのだが、確認をしていた学生が、協会から送られて来た報告書に”ダンジョンの壁にかなり深く穴を穿つ”と書かれていた事に恐怖を感じ、教授にここでは危険だと直訴した事がこれ程の大事に発展してしまっていたのだ。しかしその事が被害の軽減につながった事は事実なのだが、その時の雫斗は大げさな事に戸惑っていたのだ。


 「初めまして、この試験を任されている増田といいます。君が雫斗君で間違いないかな」と白衣を着た若い研究者が聞いてきた。おおむねダンジョンの研究は始まったばかり(5年だから当然ではあるが)なのだが、ダンジョン関係の研究者は若い人が多いとは言っても、まだ30代位の増田さんが検証の責任者とは驚きだった。雫斗が肯定すると、増田は今日の試験の概要を説明しだした。


 「其処の射撃地点から向こうに見える的の鋼板までは100メートルといったところだ、君にはそこから的に向かってビームを放ってもらう事になるが、あの的は狙えるのかね」と増田が手を添えながら説明する。銃器を使った射撃と違い、ビームを放つとはいっても所詮投擲の延長でしかないので、正確に的に当てる事が出来るのか確認の意味で聞いてきたみたいだ。


 「この距離は初めてですが、いけると思います。このまま初めても良いですか?」雫斗はこれだけのギャラリーの中でパーフォンマンスを披露した事が無いので、居心地の悪さを感じているらしく、早く終らせたいという気持ちがありありだった。


 「まー待ちたまえ、概要は書面で理解をしてはいるが、どういった経緯でこの様になったのかを聞かせて貰えないかな?」と増田は研究者らしく事の経緯を知りたいらしい。


 雫斗は接触収納で加速が出来るなら圧力をかける事も出来るはずとだと思いつき、押し潰すイメージと同時に、収納から射出する瞬間に入り口を絞り込むイメージを追加した事から話して、かなりの回数を試したそころで火球が飛び出す様になってきて、最終的に光線が出た事で危機感を感じたことまでを話すと。


 「接触収納の構造を研究し始めた矢先で、こういう事が起こるとは。気持ちの整理が追い付かんよ、しかも接触収納内でブラックホールの生成迄出来? いったい常識は何処に行ってしまった」と増田が頭を掻きむしっているのを他所に、此の射撃演習場の管理を任されている二尉の人が早く進めてくれとせかす、今朝いきなり準備を命じられた上に、お偉方も少なからず来ている事に少しイラついている様だ。


 「増田さん、取り敢えずその光線を放ってもらって、事実確認をしませんか検証はその後でもいいでしょう」と、どうやらこの人は雫斗が話したことを、信じてはいない様だった。


 「そうだな、此処で議論をして居ても始まらないからな。雫斗君初めてもらっていいかな?」増田の開始の言葉に、早き終らせたい雫斗が射撃地点へと向かうのだが、本来なら銃器を扱う上での注意事項や規則がしこたま有るのだが、雫斗が使うのは短鞭だ。乗馬に使うためのもので注意のしようが無いのだ。


 射撃点から的の鋼板を見ると、銃弾の評価をするための物だけに大きく見える中心と四隅に合計五発の弾を打ち込んで、貫通もしくは銃弾が鋼板に浸食した状態の具合からその銃弾と炸薬の評価をするみたいだ。


 雫斗が初めて良いかの確認で増田さんを見ると、待ってくれと手を上げながら設置されているモニターを見ている。其処で目の前にある計測装置に意識が向く雫斗、そうだった今日の目的である雫斗の放つ光線の安全の確認の為だった。


 「準備が出来たみたいだ、雫斗君始めてくれ」増田の声掛けに雫斗が集中し始める、周りには攻略群の精鋭である人たちが注目している中、中々集中し辛い様で一度深呼吸の後。


 「行きます」の掛け声のあと短鞭を降り抜く雫斗。


 強い閃光のあと、的である鋼板を貫き後ろに有る弾止め用の盛り土を吹き飛ばし、稜線に見える長距離砲の的を設置している丘の側面に着弾する。


 すると同時に着弾した側面が強い閃光を放った後大きな衝撃波が周りに伝播していき、その上に大きなきのこ雲が上がる。


 唖然とする雫斗を他所に、盛り土を吹き飛ばした轟音に周りの自衛隊の隊員は条件反射的に伏せて衝撃を避ける。


 爆風を避ける事の意識と、その訓練をした事の無い雫斗と学者連中が、棒立ちのまま吹き飛ばされた盛り土の雨に打たれる。


 その雫斗と学者を伏せていた自衛隊の隊員たちが引きずり倒す、その直後凄まじい衝撃波が伏せている人達の上を通り抜けていく。


 暫くのあと身を起こした人たちの唖然とする中、雫斗は吹き飛ばされたテントと計測機器の惨状に顔を蒼ざめていた、周りの大人たちは立ち上るきのこ雲を見上げてただ呆けるだけだった。


 ダンジョンの中では、ダンジョンの壁に穴を穿つだけだった光線が、ひとたびダンジョンを出るとこれ程の被害がもたらせられる事に恐怖している雫斗だった。

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