第41話 無自覚は功績か、それとも罪か?(その2)
「いい加減に現実に戻りなさい、他に注意することがあるでしょう?」と瑠璃に頭を小突かれて我に返る陸玖。
「そうだった。雫斗、原子が崩壊してブラックホール化するとなると放射線が心配だな、多分スキルだから大丈夫だとは思うが調べるまではその圧縮は禁止だ。今日この後協会に報告しておかないといけないしね」と陸玖とが収納の物質に対しての加圧の禁止を宣言すると、「え~~~」と周りが不満を言い始める、出来るとなると試してみたいのは人情というものだ、居合わせている全員が習得したがっているのは当然といえる。
「安全を確かめるまでだ、そんなに時間は掛からないよ。ま~~一日二日で出来る様になるとは思えないから、試してみる分には良いだろう、ただし火炎弾迄だ」と試みる分には良い事になった。
「他に何か無いだろうね?」と陸玖から多少非難じみた口調で聞かれた雫斗は、こころの中では恐慌状態になっていた。最初は雫斗も放射線の事を考えてこれはやばいと思っていたが、ヨアヒムが「スキルも万全ではない、使用者によっては万能にもなるが。無知は身を亡ぼす、その為その身に危険が及ぶことを良しとせん。安心せよ主よ、接触収納や保管倉庫からその身に害が及ぶものなど出はせん」と言われたことで安心して、報告をしていなかったのだ。
そして陸玖が核融合とほのめかしたことで思い至った事がある。雫斗の核融合のイメージは発電で平和的な発想だったのだが、確か人類最大威力の核爆弾は水爆で、起爆に核分裂反応を使いはするが、本体は重水素を使った核融合だったはずじゃ無かったかと。
もしかすると,雫斗は意図せずにダンジョンを熱核爆弾で崩壊させてしまっていた事に思い至りガクブルしていたのだ。
声を震わせて「イイエ、ナニモ、アリマセン」と棒読みで答える雫斗の動揺は全員に伝わっていた。
「雫斗、貴方何か隠しているでしょう。話してしまいなさい」と辛らつに問いただす百花。「まだ何かあるのかい?」ともうお腹いっぱいだと星士斗が呆れて言うと。
「陸玖先輩、核融合ってそんなに簡単にはできませんよね?」と不安そうに聞いてくる雫斗、しかし容赦のない陸玖の言葉に絶望に打ちのめされる。
「マーそう簡単にはできないね。・・・普通で有れば、しかし極小とはいえブラックホールを生成できるのだから、ふふふっ楽勝だね」とのほほんと宣う陸玖とは対照的に蒼ざめる雫斗。
「間違えて、熱核爆弾を作っちゃうとか。あり得ます?・・・・ははは」とおどけて誤魔化そうとするが、雫斗の心配をよそに陸玖はさらなる構想をぶち上げる。
「何を言っている雫斗よ。核兵器なんてショボい類の話じゃないぞ、仮に収納外でブラックホールが生成できるのなら、重力消滅攻撃も夢ではないぞ。ふむっ、問題は生成した後そのまま居座ると厄介だな、・・・・どうやって消すか?、・・・そうか!!保管倉庫にそのまま収納できれば、いつでもどこでも消滅兵器の出来上がりだな。くっふふふ夢が広がいてっ」自分の妄想に酔っていた陸玖の頭を叩き姉の瑠璃が締めくくる。
「いい加減に現実に戻ってきなさい!!。とにかく取り敢えず安全が確認できるまでは収納を使った投擲の限界を模索するのは禁止よ。特に雫斗、あなたの場合は常識から外れてくるから特に注意しなさい、今までは攻撃スキルで放った本人がダメージを負ったって言う話は聞かないけれど、あなたが初めてで最後の人になるかも知れないわね」と雫斗にとって恐ろしい事を言ってきた、おそらく雫斗がやりすぎない様に注意する意味でそう言ったのだろうが、雫斗には自覚があるだけに笑い事ではない。
その後は、百花と弥生の保管倉庫を使ったコンクリートパイルを使った重力武器のお披露目も、雫斗のブラックホールビームに霞んでしまったが、その後は各自でスライムを倒し討伐数を増やしていく事になった。
クルモとミーニャを連れて割り当てられた広間へと来た雫斗達は、どんよりとした雰囲気に包まれていた。
主に落ち込んだ雫斗を気遣って二人が黙って居るのもあるが、雫斗の元気の無さは深刻だった。雫斗の肩に乗っているクルモが意を決して聞いてみる。
「大丈夫ですか、ご主人様?」。聞かれた雫斗が我に返ると、心配そうに見つめているミーニャが居た。最近人化が進んできて直立で歩くことに不便が無い骨格になってきているのだが、クロヒョウの被り物をしている女の子の様になってしまっているが、精悍な顔立ちで凛々しいのは変わりがない。
不安げなミーニャの表情を目の当たりにして気を引き締める雫斗。どの道報告した後確認を取るまではすることが限られてくるので、此処はのんびりクルモとミーニャの覚醒の手伝いをするのも良いやと、気持ちを切り替える。
「大丈夫だよ、心配かけてごめんね。・・・さて今日は接触収納の取得までして、明日から収納を使った攻撃の練習を始めようか」と雫斗が此れからの予定を言うと、「はい!」と二人とも元気な声で答える。
それからはのんびり歩きながら、スライムバスター(花火)を使ってスライムを倒していく、簡単に倒せるとは言っても一人50匹のノルマは結構な時間が掛かる。
その間ミーニャと取り留めも無い話をする、スライムの討伐とは言ってもスライムを見つけてスライムバスターという花火を飲み込ませて爆発させて倒すという簡単なお仕事だ、とはいってもここはダンジョンだ天井からスライムが落ちてきて纏わり付かれると厄介だが、雫斗が危険察知のスキルを使って気にかけているので危険はない。
ただ雫斗には、ひそかな野望が有った。ミーニャを故郷に返すという思いがだんだん強くなっていたのだ。この世界にきて何事も無い様にふるまってはいても、たまに遠くを見ているミーニャを見ていると、故郷を思って哀愁に浸っている様に見えて雫斗にはいたたまれないのだ。単に雫斗の思い過ごしだとはしても、何れはミーニャの居た世界との開口部を探し当てて、ミーニャを彼女の両親の元へと送り届ける事を模索し始めていたのだ。
その一環でミーニャの居た世界の事を聞いているのだが、如何せんミーニャは幼過ぎて自分の周りの事だけしか良く分からない様なのだ。
多少落胆しつつも雫斗は”まーどうにかなるだろうと”淡い期待を抱きつつ嬉々としてスライムを倒しているクルモとミーニャを見ていた。
割り当てられた3つの広間を2周してクルモとミーニャが50匹ずづのスライムを倒した後、接触収納の覚醒を促す。要は事前に売店で購入していた付箋紙をダンジョンカードに張り付けて一緒に消して収納のコツをつかんでいく事なのだが、当然の様に二人とも無事接触収納を使う事が出来る様になった。後は帰るだけなのだが、どうせならと帰る道すがらダンジョンの小石を使って収納を使った投擲の練習がしたいと二人にねだられたので、コツを伝授する。
「まずはイメージが大事だね、投擲する時は手に持った礫の、今はダンジョンの小石だけど、その位置が移動する距離と速さで礫のスピードが決まる。収納を使う時は投げる瞬間に収納から加速した礫の速さを加える事でかさ上げすることが出来る、後は練習あるのみだね」と言いながら軽く小石を投げて見せる。
軽く投げただけで、ありえないスピードでダンジョンの壁に当たる小石を見て、俄然張り切る二人だが、簡単そうに見えるがタイミングが難しく、かなりの鍛錬が必要なのだ。
ミーニャが握れるぐらいの小石を集める横でクルモも同じような小石を集めているのを見て、疑問に思う。接触収納は重量制限がある、自分の体重の約二倍なのだが、クルモを見ているとミーニャが拾っている同じ大きさの小石をいくつも収納していた。
「クルモ、かなりの小石を収納しているけれど、大丈夫なの?」クルモは雫斗の肩に乗るくらい小さいのだが、見ていると十個以上の小石をもうすでに収納しているクルモに驚愕していたのだ、同じゴーレム型アンドロイドの”ロボさん”も多少人よりは多いとはいえ体重の2倍程度は変わらなかったのだが、クルモはもうすでに自分の体重の5倍以上は収納している。
「はい、まだ入りそうです」と雫斗の心配をよそに集めまくるクルモ。ミーニャももうすでに体重分は集めているはずで、此れ以上はやばいと止めに入る雫斗。
「あまり入れすぎるとMPが枯渇するよ、収納に出し入れするごとに消費しているみたいなんだ」と忠告する。
「まだ行けそうですけど、此れ位にしておきますね」とミーニャが不満そうに言っていたが、どうやら獣人は身体能力だけでなく、MPの量も人よりは多そうだった。
問題はクルモだ。接触収納の収容量は体重の2倍程度だと思っていたが、どうやら違う事が判明した。もともとクルモもゴーレム型のアンドロイドとして義体を制作するのに通常の義体でもよかったのだが、如何せんベビーゴレムの魔核が小さすぎて、義体制作者の池田 隼人が俄然張り切ってしまった、何処まで小さくできるのかと。
その結果出来たのがクルモとモカの、小さいが普通のゴーレム型アンドロイドとそん色の無い知性を持つ個体なのだ。ロボさんや良子さんの元になった魔核の持ち主であるゴーレムの魔物は岩石で出来ている為、重量は本来人間の5~10倍はある、それを覚醒させてアンドロイドとして使役(言う事を聞くとは限らないが)して使うために義体という体を作ったのだが、本来あるべき姿とは別物に変わってしまった事が原因かもしれないと雫斗は思ったのだった。
移動しながら、投擲の練習をするミーニャとクルモ、壊滅的なのはミーニャだ、最近になって人化が出来る様になった事で、体格的には物を投げる事に支障はないとは言っても今まで投げた事が無いので、ぎこちない投げ方になるのは仕方がない。
どちらにしても投げて体に覚えさせないとどうしようも無いので、今は収納を使わずに普通に投げる事から始めている様だ。
クルモは雫斗の肩の上では投げづらいのか、ピョンピョン飛び跳ねながら移動して投擲の練習をしている。
構造的に投げるのは不得意な様で、初めは収納を使って投げていたが、どうしても投げるという感覚が分からず、取り敢えずそのまま普通に投げて見る事にした様だ。
体長20センチほどの蜘蛛が自分の四分の一ほどの小石を、短い前足で持ち上げているのはかなりシュールな光景だ。
普通の蜘蛛とは違い、前足が物をつかめる構造をして居るとはいえ、握るというにはクルモには大きすぎる小石を振り回して居る事に疑問を感じて雫斗が聞いてみる。
「クルモ、どうやってにぎっているの?」呼ばれたクルモが雫斗の手のひらに乗って来た。
「これですか?」とクルモがビヨ~ンビヨ~ンと小石をヨーヨーの様にぶら下げる。
「ああ~!、蜘蛛の糸で絡めているのか」。クルモが移動に使っている糸を小石に絡めて固定しているのだ、確かに小さな手では握るという行為は出来そうに無いのだが、自分でいろいろ考えて工夫しているのはいい事だ。
「糸が使えるのなら、こういう使い方も出来るよ」。と一本鞭を取り出して軽く振ると鞭の様にしなる、鞭なので当たり前なのだが。
軽く素振りをした後に、「見て居てね」と言うと二人が期待を込める視線を浴びながら気負うことなく軽く振る、降り抜いた鞭の先から物凄い勢いで飛び出した小石がダンジョンの壁に当たり砕け散る。
加減なくやると鞭から出た途端爆発して消えて無くなるので、かなり力をセーブして振らなければいけないが、今回は上手くいったみたいだ。それを見たクルモが糸を振り回すが、力なく揺れるだけで鞭の様にしなるわけでは無い、七節鞭を使う事の有る雫斗は原因を知っているのでアドバイスをする。
「先端の重さが足りないみたいだね、小さな小石でも括り付けると良いよ」。言われたクルモが糸の先端に小石を括り付けると、いい具合にしなりが出て降り抜く糸の勢いが増していく。
すると必然的に収納から飛び出して行く小石の勢いが増していくのだが。ふと視線を感じて振り向くとミーニャが物欲しそうに雫斗の持っている一本鞭を見ていた。
「使ってみる?」と差し出すと。「いいんですか!!」とミーニャが嬉々として受け取ると、鞭を振り回し始めた。最初はぎこちなかった鞭の軌道が、回数を追うごとに様になって来る。どうやら鞭とミーニャの相性はいい様だ。
黒豹の精悍な顔立ちと、鞭を一心不乱に振り回す姿を見ていると、仮面舞踏会につける様な金キラのアイマスクをつけているご令嬢を思い浮かべてしまいそうになる、いつか何かに目覚めてしまいそう出心配だが、ここは幼い雫斗とミーニャのことだから大丈夫だと思いたい。
・・・・節にそう思う・・・。




