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ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(改訂版)  作者: 一 止
第1章  初級探索者編

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40/60

第40話   無自覚は功績かそれとも罪か?(その1)

 滅多に書かない前書きにて、お礼を述べさせていただきます。


 誤字脱字の報告有難う御座いました。何度も読み直して気を付けているつもりでも、ワラワラと出て来るものですね。根気よく指摘していただいた皆様に心からお礼を申し上げます。


 本当に有難う御座いました。

                 一 止。

 

 

 皆でやってきました沼ダンジョン。何時もなら準備運動がてら軽く走って来るのだが、暫く運動を控えていた上級生に配慮してのんびり歩いて来ていた。


 「ここに来るのも久しぶりです、懐かしいですね」というのはミーニャだ、懐かしいというほど彼女が沼ダンジョンに召喚?されてから日にちは経って居ないのだが、ミーニャにとっては怒涛の一週間だったようだ。今日はクルモに接触収納を取得させる予定なので今朝ミーニャを誘ったのだ、そこで放課後待ち合わせて一緒に来ることに成ったのだが、中学生全員という大所帯に少し戸惑っていたみたいだった。


 ミーニャは異言語理解のスクロールで日本語に限るが言葉は理解できるし話す事も出来るが、しかしダンジョンを通って地球に来る前の世界で読み書きを習っていないので、必然的に此の世界でも読み書きが出来ないのだ。


 そこで低学年の子供たちに交じって文字や計算を習っているのだが、知能的には中学生と同じくらいある彼女にとって雫斗達と一緒に学習出来る様になるのも遠い未来ではないらしい。


 「私がダンジョンに入っても大丈夫でしょうか?物凄く怖いのですが」とダンジョンに入る事に多少の恐怖を感じている様だ。ミーニャの居た世界ではダンジョンは数々の都市や町を壊滅に追い込んだ恐ろしい存在として聞かされていたらしく、此の世界に来る原因となったダンジョンに逃げ込んだのも、捕まらないための決死の覚悟の事だった。


 雫斗としては、違う世界に来た事は別にしてもその事がミーニャの生還につながったと思っているのだが、習慣的に子供の頃から聞かされていたことは心の残るようだ。


 「ダンジョンは正しく理解していれば怖くないよ、雑賀村のダンジョンは3層しかないからね、大変なのは10層からでかなり注意が必要なんだ」と雫斗が安心させるように言う。


 ダンジョンが出来た当初、当然戦闘能力と装備の充実した軍隊がダンジョンの調査に当たったが、外国の歴戦の勇者たる軍人の多くが死亡や行方不明者となり、帰還できずにいた為パニックになりかけた。


 しかし軍隊としては戦闘を経験した事のない特殊な環境の、日本の自衛隊の隊員や民間の人達が次々階層攻略していく中で、此れはダンジョンの攻略に必要なのは道徳的な物では無いかと言われるようになった。


 つまり自国の国土と権益の防衛と称して戦闘を生業としている軍人もしくは傭兵といった殺人や町の破壊を平然と行ってきた人達や 、罪を侵す事を当然としているマフィアと呼ばれる人たちを、ダンジョンは拒否しているのではないかと思われたのだ。事実、軍政や官僚の腐敗により治安の悪化した国では、一時期、軍人や汚職に染まった警官や官僚もしくは犯罪者が減って治安が回復したほどである。時の権力者やマフィアにとって子飼いの兵隊が使えないとダンジョンからの恩恵に預かれない事に為る。


 しかしそこは権力とお金に執着する亡者の如き為政者のことだから、ダンジョンの外ではやりたい放題が出来る、つまり武力を背景に搾取する事にしたのである。


 だが長続きはしなかった、3か月もすると力関係が逆転する事に為ったのは当然と言える。ダンジョンでは身体能力が上がる、しかもスキルという不思議な現象まで付いてくる、また現代の戦闘の主役である遠距離での射撃戦がダンジョンでは役に立たない、5層を超えると拳銃や小銃といった小火器が役に立たなくなる、10層を超えると携帯が困難な重火器やグレネードなどの破壊力の比較的大きな火器でもかすり傷程度になってしまうのだ。


 結局のところダンジョンの魔物との戦闘においては刃物や鈍器を使った接近しての肉弾戦が重要になってきた、しかしその事が探索者の身体能力の向上に役立った、極端な話火器で武装した小隊や中隊は勿論、戦車や装甲車と言った重武装の車両に対しても身一つで対抗できるようになったのである。


 そんなわけで搾取される側のダンジョン探索者も徒党を組み対抗してきたのである、今では比較的平和な国のダンジョンを管理する機構が連携するようになり、世界ダンジョン協会としてダンジョンの管理を一元化するようになったのだ。


 沼ダンジョンにやって来た一行は、取り敢えず最初の広間で雫斗達からスライムの倒し方のレクチャーを受ける、スライムバスターという花火が有るとはいえ接触収納を使った攻撃の方が効率は良いのだ、流石に鉄を使った礫ではオーバーキルだし効率が悪いので、そこら中にあるダンジョンの小石を使って実践して見せる。


 「接触収納は体に触れているならどこからでも出せます、極端な話、距離に制限はありますがロープの先からさえ出せるんです、ではこのダンジョンの小石で」と言いながら雫斗は手に持った小石を見せる。


 「普通に投げるとこんな感じですが、収納を使って中で加速をイメージするとこうなります」と最初は普通に壁に向かって投げた後、何も持っていない手で投げたふりの様な事をすると、ものすごい速度でダンジョンの壁に当たり、小石が砕け散る。


 「その収納の中で加速するイメージをもっと強するとこうなります」と言う。百花達も小石を投げて壁に当たり砕け散るまでは出来る為、最初は”うん、うん”とうなづいていたが、その先が有ると言われて「えっ?」と驚く。


 何時もの様に空の手で投げた様に見えた瞬間轟音が響き渡る。音速をはるかに超えて飛び出した小石が、収納から出た瞬間に衝撃で砕け散ったのだ。最初の頃の収納を使った投擲とは段違いの威力に百花達も驚愕する。


 「何よ雫斗。ドウヤッタラ、コンナイリョクニ、ナルワケ」と棒読みの百花、かなりの動揺が伺える。雫斗はただ愚直に収納を使った攻撃の可能性を試していただけに過ぎない、何処まで早く投げられるのかと。その結果がこの様な事態になっているのだが、彼には普通の事なのだ。そう説明する雫斗に他の面々が呆れた表情を見せるが、驚愕するのはこれからだと思い知る。


 雫斗はクルモ以外の反応に戸惑いながら(驚愕を通り越して呆れているだけ)話を続ける。


 「でっ。ちょっと面白い現象が出来る様になりました」と言いながら今度は短鞭を取り出す。とはいっても保管倉庫にしまってあるものを取り出したのでいきなり手の中に出てきた様にしか見えない。


 「普通にやるとこうですが」と言いながら短鞭を軽く振る、すると鉄の礫が音速を突破した時の音を残してダンジョンの壁に穴を穿つ。


 「次は全力でやります」という雫斗の言葉に皆が期待の眼を向けるが、結果は降り抜いた途端に物凄い轟音と共に煙の固まりが前方に吹き飛んでいく。鉄の匂いがあたりに充満することから、鉄の礫がバラバラに分解されて気化している様なのだ。


 其れはそれで凄い事なのだが、攻撃力ということでは見劣りする、ただ衝撃に耐えられるように固い素材にすると凄い事に為りそうだがそれだけコストが掛かることになる。


 面白い現象というよりはっきり言って目くらましぐらいにしか成らないのだが、続きがあるようだ。


 「ちょっと強い閃光が走るので注意してくださいね」と皆に言葉をかける雫斗、煙幕のイメージが有るので閃光弾みたいなものかと期待しないでいると。


 一つ息を吐いて集中力を高める雫斗、完全に油断していた面々はしかし、ただ事ではない雰囲気に固唾を飲む。その周りをよそに短鞭を降り抜く雫斗、一瞬の強い閃光の後『ジュゥ~~』と物が焼ける音と共に壁の一ヶ所から煙が上がる。


 皆が呆けているのを他所に百花が雫斗の襟をつかみに食って掛かる、百花らしいといえばそうなのだが、「何で礫の投擲が、ビーム兵器になるのよ?」と吠えている。


 よく見ると壁の煙が立ち上った場所に直径1センチほどの丸い穴が出来ている、星士斗がライトペンを取り出して穴の奥を覗き込んでいる。


 「すごいな・・・、かなり奥まで続いているぞ、しかしどういった原理で光線が出てくるんだ?」と星士斗が聞いてくるが、雫斗自身良く分かってはいないのだ。


 ただ雫斗は、煙の塊が投げた方向へ吹き飛んでいくのを見て、その吹き飛んでいく煙の塊を集約出来ないかと考え試行錯誤を始めた。要は空気砲見たいなものが出来ないかと思って接触収納から飛び出す礫の入り口を小さく更に小さくと念じながら投げ続けたのだ。


 本来、接触収納の中と現実世界とは次元が違うので物を出し入れする時には、その物体の質量分だけの空間が開き出し入れしているのだが、接触収納を取得した全員が意識的に行っているわけでは無い、つまり無意識に使えている機能なわけで、どういう原理かなんて誰も分かりはしないのだ。


 ただ入り口を小さくと考えた雫斗だが、接触収納はその物体その物を小さくし始めた、要は圧力を加えていったのだ、接触収納では中で加速が出来るのは知っていたが、圧縮することまで出来るとは思ってみなかった雫斗だが、此の事が後に変革を生み出すのは後の話だった。


 何処の誰かは分からないが、ダンジョンという迷宮と共にスキルという摩訶不思議な現象をもたらした存在がご親切に作った機能に雫斗は意識的に変更を強いたのだった。


 最初の数日間は変化がなく何百個もの礫を無駄にしたが、三日目に変化が訪れる。吹き出す煙の塊が少しまとまって見えたのだ、しかしそれは偶然というか、そう見えただけで多少まとまってはいるが誤差の範囲だった。


 諦めかけていた雫斗が効果が出ていると思い込み、俄然張り切って礫を打ち出す事に集中する。何万発と礫を無駄に消費し、7日目を過ぎると根負けしたのは接触収納の機能の方だった。


 鉄の礫を瞬時に圧縮していく過程で、回数を重ねるごとに徐々に個体から液体へと変わって行く、すると必然的に凄まじい圧力と熱量に耐えきれず気体と変化していく。結果的に収納の出口が収縮し始める。


 圧縮された鉄は個体、液体と変わって行く過程で温度が凄まじく上がっていく。すると雫斗の思惑とは別に収納から出ていく過程で圧力から解放された液体の鉄が一瞬で気体となり火炎弾の様な熱の塊を打ち出し始めたのだ。


 そこでやめて置けば良かったのだが、雫斗は限界を突き止めたくなってそのまま続けていた、20日を過ぎたあたりで発光現象と共に一条の光線がダンジョンの壁に穴を穿つ。


 そこでようやく雫斗は思い至る、何か危険な事をして居るのじゃ無いかと。どうして光線が出るのかとヨアヒムに聞いてみると、”シュワルツシルト半径”だの、”マイクロブラックホールの生成”だの、”ホーキング放射”だの良く分からない単語が飛び出し相変わらず要領を得ないのだが、危険なにおいがプンプンしていたので一旦やめて家でネット検索をしたのだ。


 要約すると、収納内で極限まで押しつぶされた鉄の礫の分子が、圧縮により中心部分の原子のシュワルツシルト半径が押し潰されてブラックホール化し始める。しかし質量の小さいブラックホールはホーキング放射の影響で瞬時に消滅する、つまり極小のマイクロブラックホールの生成と消滅が繰り返し起こる事で、その衝撃で周りの残りの物質を吹き飛ばす事になる。


 吹き飛ばされる圧力と押し潰そうとする圧力の狭間で鉄の分子が崩壊し物凄いエネルギーとなる、そのエネルギーがナノ単位で開いた現世との入り口から放出される、それが凄まじい閃光とダンジョンの壁に穿った穴の正体の様だった。


 「すると何かい、収納の中ではブラックホールを生成できるって事かい?」と雫斗の話を聞いた美樹本陸玖は目を輝かせて聞いてきた。星士斗と姉の瑠璃と共に来年、探索者養成学校を受験する予定なのだが瑠璃の双子の陸玖も本来頭が良い。探索者というより研究者肌の雰囲気が強いのだが、どちらかと言えばマッドサイエンティスト的な思考の持ち主で、多少独善的な言動をするときが有る。


 「今の所排出時限定ですが。・・・ただヨアヒムがそう話しているだけなので、確認したくてもどうやって調べたら良いかも分かりませんけどね」と雫斗が自分で話しておいて、眉唾的な事を言うものだから、頭の中でヨアヒムが盛大に抗議の声を上げる、そのうるさい事うるさい事、叡智の書としての矜持なのか嘘つき呼ばわりは禁句の様だった。


 「驚いたな、収納内の排出時限定とはいえ加速と圧力が尋常じゃ無いな。・・・しかし接触収納の可能性の底が見えないな」と陸玖がワクワクしながら話すと。


 「先輩、陸玖先輩。そんなでたらめな事をやるのは雫斗ぐらいのものですよ」と弥生が身の蓋も無いことを言うと。


 「其処は雫斗の長所だよ、何にでも挑戦してみて限界を探る。いいじゃ無いか逸れこそ研究者・・ゲフン。探索者の真の姿だ、君たちも見習うと良いよ、深層に赴くことが必ずしも正解ではない事を、雫斗は証明して見せたからね。」と陸玖とが感心して言うと。


 「しかしその事を発表すると世界が変わるな、今まで膨大な予算で加速器を設置していたが、雫斗一人で賄えてしまう、しかも分子レベルで高圧力と加速が出来るとは。待てよそうなると核融合も出来るんじゃ無いか?ふふふっ夢が広がるな。・・・これは秘匿して秘密裏に実験した方が良いのか?」と多少顔をニヤ付かせてブツブツと何か話し始める。





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