第35話 モフモフは至高の存在であると自負すれども、カワイイの定義は如何なるものか?。(その4)
ダンジョンからもたらされる、取得物やスキル、ポーションといった物の恩恵は、計り知れない経済効果を生み出したが、如何せんダンジョンは危険と隣り合わせだ、たとえ一階層といえども油断は出来ない、最近は特に減ったとはいえ、今でも年に数件は行方不明者が出るのだ、特に中年層から高年層にかけて、初めてダンジョンに入る人が、帰って来ない事例が多発したのだ。
その事から、若年層を中心に探索者を募集することになっていったが、そうなるとダンジョンに入れる人と、入れない人達という構図が生まれることに成って来る。
当然ダンジョンで探索してくる人達の力と意見が強くなってくる、いくら政府が権力でダンジョンの恩恵を摂取しようとしても、取りに行く人が居なければどうしようも無いのだ。
その事から探索者協会の設立は、探索者の統制と探索者と政府のダンジョン庁との間を取り持つために設置されたが、主に探索者側の立場に重きが置かれている。東京都にある日本探索者協会の本部の理事は日本政府から出向して来た人達が居て政府寄りだとはいえ、都市部を中心とした地方の協会の方が力が強いのだ。
何かあれば、ダンジョンからの恩恵だけで、その都市群だけのコミニティーで生活が成り立つのだから、今の住民は別に日本政府という行政など要らなく無いか?と思っているのだ、つまり都市に関しては横一列で大都市だの地方都市だのの、格差は無いと考える様になってきていた。
「さー、あなた達は部屋の片付けに行きなさい、その為に来たんでしょう?お母さま方は家に帰って何か一品の食糧と、飲み物持参で戻ってきて。今日はここでミーニャちゃんの歓迎会をしましょう」と悠美が宣言すると、子供たちが。
「わ~~~、今日はバーベキューだ~~」と歓声を上げながら、ミーニャの部屋の片付けに二階へと上がって行った。
片付けた後、あ~でもない、こうでもないと、部屋を飾り付けた後階下に降りると、すでに歓迎会の準備が出来ていて、そのままパーティーへとなだれ込んだ。
完全な立食パーティーで、幾つかのテーブルとベンチだけが置かれていて、”さー、食べなさいと”手渡されたお皿とフォークで、ベンチにちょこんと座り器用に食べているミーニャを見て。
「きゃ~~、かわいい~~」、「器用に食べるのね、すごいわ~~」、「う~~ん、お持ち帰りしたい」と周りからの歓声に戸惑いながらも、ミーニャが幸せそうにしている姿を見ると、此れで良かったとつくづく思う雫斗だった。
しかし、世界で初めてダンジョンの中での揺れを報告したのだ、政府がどの様な決定をするかで此れからの雑賀村の行く末が決まる。そう思っていた雫斗だったが杞憂に終わった。
数日後、ダンジョン庁からの調査官は数名程度で、どうやらダンジョンの揺れは大したことが無いとされた様だ。
それよりも、保管倉庫のスキルや、鑑定のスキルの取得条件の報告が遅れた事を重要視していて、悠美が呼び出されて詰問されたが、スライムを簡単に倒せる花火の例を挙げて、”理事の方からの、情報が洩れる事への対応だと”言い切った。それには政府から出向してきた理事の方々の苦虫をつぶした様な表情と他の理事たちの失笑で事なきを終えた。
沼ダンジョンの調査が終わり、何時もの日常にもどろうとしていたある日の事、雫斗大望のゴーレム型アンドロイドが出来あがったとのメールがきた、しかも運んで来るのは製造を依頼した会社の社長自ら持って来るという。
学校が終わり、雫斗の他家族全員で待っていると車が家の敷地に入って来た、ヘリポートを使わずに山道を車でわざわざ来たみたいだ。
お客さんの人数は三名で、社長の名前は、山田 邦彦と言い、大学で人工知能の開発をしていたが、偶然ゴーレムの魔核が自我を持つ事を発見した人物だ。どのモンスターの魔核でも熱を吸収することに目をつけた彼が、冗談でCPUの冷却に使ったのが始まりで。
偶然ゴーレムの魔核を冷却に使ったCPUで、開発してきた人工知能のプログラムを流していたのだが、停止するのを忘れてそのまま放置して家に帰ったのだ。しかしその事がっ切掛けでゴーレムの魔核がCPUを取り込んで自我の確立を成し遂げたのだ。
偶然の産物ではあるが、プログラムされた知能と違い人類と同等の知能を有する知生体の製造に成功したのだ、今ではゴーレム型アンドロイドの生産シェアトップを誇る一大企業に成長していた。
他に義体製造の専門家の池田 隼人と、統括本部長という肩書を持つ経営全般を任されている国枝 三郎という人が小さな箱を二つ持ち込んできた。
当然雫斗達は初対面だ、居間に上げる時当然の様にミーニャを見て驚いた様だが、ミーニャには話さない様にいっていたので、ペットの大型犬ならぬ大型の猫だと思ったのか、その後は気にした様子が無かった。
それぞれ自己紹介を済ませると、おもむろに良子さんが社長の山田さんに話しかけた。
「やっまださん、おっ元気そうで、なにっよりです~、オッ変わりあっりませんか?」。
「お陰様で、元気にさせて貰っているよ。それより良子さん、その話し方直す気は無いのかな?」と気さくに答える山田社長。
「こっれは、わたっし~の個性、でっすね。それより~、今回っは、無理を言って、もう~しわけ、なっいですね~」と良子さんが今回のアンドロイド製造を無理にお願いしたことを謝ると。
「いやいや、ベビーゴーレムの魔核の可能性に打ち震えているよ。私を頼ってきた事に感謝の意を伝えるのは私の方だよ、君が自我を確立した時の感動を思い出した程だよ。お礼を言わせて貰うよ、有難う」と山田社長が感謝を伝えると。
「ベビーゴーレムの魔核とゴーレムの魔核はどう違うのですか?大きさの違い以外には何か変わったことがあったんですか? 自我の確立を確認したそうですが、他のゴーレム型のアンドロイドとの違いが有るのですか?」と雫斗が興味を持って聞いた。
「まさに、その小さい事が可能性を広げる要因なんですよ。社長!そろそろ宜しいですか?」と国枝さんが社長の山田さんに確認を取る。
山田が頷くのを待って一つの箱を丁寧に開ける、其処には柔らかなフェルトで作られた籠の中で不安そうに雫斗達を見ている体長15センチ程、長い尻尾を合わせると20センチ程のモモンガがいた。
「どなたが契約なさるのですか?」と国枝さんが言うので、雫斗が言いにくそうに答えた。
「妹の香澄と契約して貰おうかと考えてます、護衛を兼ねた教育係みたいな物ですかね。この子が気に入ってくれると良いのですが」雫斗から名前を呼ばれた香澄が、顔を輝かせてモモンガをみる、すると香澄と目が会ったモモンガが。
「げぇ〜〜、この子がオイラのご主人になるのかい、こんなチンチクぶベッ」モモンガが最後まで言えずに、美子さんにはたかれて籠から落ちる。
「何てェ言葉ッの悪い子でしょう。雫ッ斗さん私は反対ェです、香澄様のォ教育によろしく有ッりません」美子さんが憤慨して言うと、むくっと起き出したモモンガが器用に後ろ足で立上がり。
「痛いじゃないか、口の悪さはオイラの個性さ。おばちゃんと一緒だぜ」と良子さんをおばさん呼ばわりすると、美子さんがさらにヒートアップする。
「なんですって〜?。ロッの減らない子供にはおっ仕置きで〜す」激昂した良子さんが、最初にした様にはたこうとすると、起用に躱したモモンガが芳子さんの腕を伝って駆け上がる、そのまま美子さんの頭をジャンプ台にして蹴って飛び上がり、飛翼を広げて滑空して向かいの壁に張り付く。
美子さんは、自前の箒を取り出しモモンガを叩き落とすべく振り回す。モモンガは壁伝いを移動しながら箒の攻撃をかわすと反対の壁へと飛行する。
雫斗達は此の茶番を驚きと共に見ていた、良子さんはこう見えてベテランの探索者だ、本気では無いとはいえ、良子さんの攻撃を辛うじて躱していくモモンガの義体の性能の良さに衝撃を受けていたのである
まるで本物のモモンガを見ている様だった、箒の攻撃を躱す身体能力と予測力がけた違いなのだ。
「良くここまで仕上げましたね、動きが凄まじいではないですか?」と驚きをもって海慈が聞いてくると。
「義体自体の性能は、さほど上がっていません。従来の義体と変わらないんですよ、どちらかといえば制御ですね、正確性と俊敏性は勿論、瞬発力と予測力が段違いに上がっています。そこが機械いえ、AIとの違いですかね?」と池田さんが呆れた様に言う、専門家として、扱う知能の違いでここ迄パーフォンマンスが変わってくると、もう笑うしかないのである。
雫斗は、黙ってみていたミーニャの尻尾が時おりピクンと動くことに気が付いた、どうやらモモンガの動きに反応している様だ。
良子さんの箒を掻い潜り、壁をけってミーニャに向かって飛んでくるモモンガをジャンプ一線、両手でキャッチする。
思わぬ奇襲に成す統べなく捕まったモモンガは、ミーニャに首の裏を摘ままれてぶら下がっている、人もそうだが四つ足の動物は皆、首の後ろを抑えられると手も足も出ない。
ジタバタあがいていたモモンガだが、観念してだらーんと手足を伸ばして恨めしそうにミーニャを見る。
ミーニャは香澄に近づきモモンガを香澄に渡す、香澄はモモンガを胸に抱いて彼に話しかける。
「モカちゃんは、香澄が嫌い?こんなに可愛いのに、香澄は仲良くなりたい」とモモンガの首筋を人差し指で撫でながらモモンガに聞いてきた。
「モカっておいらの事かい?」とモモンガが目を細めて香澄に答えた、どうやら香澄の指の動きが気持ちが良いみたいだ、完全に無防備だ。
「そう、モモンガのモカちゃん。いいでしょう、気に入った?」とモモンガのモカに確認すると。
「うっふう~~、とっ、取りあえず、仮の主人と認めてやるよ。」と言いながら完全に液体と化している、その様子をミーニャが羨ましそうに見ていたが。
周りの大人たちは二人が仲良くできた事でほっとしていた。良子さんもモカの動きに及第点を上げたようで、後できっちり仕込むと息巻いていた、
さて残りはもう一つの箱だ、雫斗は期待に胸を高鳴らせて、箱を開ける国枝さんの手元を見ていた。
モカが入っていた同じフェルトの籠の中に、メカメカしい塊が鎮座していた。蜘蛛をモチーフにした義体で、まるでハエトリグモの巨大メカみたいになっていた。体長はモモンガと同じ15センチほどで、背中はカブトムシの甲羅を思わせる造りをしていて、お腹のあたりには用途は不明だが蛇腹の様なものも見える。その子は不安そうに小首をかしげて周りを見ながら聞いてきた。
「私のご主人様は、どなたでしょうか?」その仕草に雫斗は、”うっ!、かわいいと”言いながら手を差し伸べて。
「僕は雫斗、君の主人候補だね。仲良くしてくれると嬉しいな」と遠慮がちに聞いてみた。するとピョンと雫斗の手の上に飛び乗り、雫斗見て観察しだした、雫斗もまじまじとその蜘蛛を見ていたが、自然にほほが緩んでくるのを、雫斗自身が感じていた。
その雫斗の思いを感じた訳ではないだろうが、突然腕を振り回して喜びを表現すると、腕を伝って雫斗によじ登り、肩や背中を跳ねまわって。
「わ~~、よろしくお願いします~~ごしゅじんさま~」と言ってきたので。きまりが悪そうに雫斗が。
「雫斗でいいよ、ご主人様って呼ばれると照れ臭いや。う~~ん、君の名前どうしよう」と雫斗が考え込むと。
「雫斗様が決めてください、何と呼ばれようと構いません」と健気な態度を取って来る、先のモモンガとは大違いだ。
「よし決めた、君の名前は”クルモ”だ。気に入ってくれると良いけど」と雫斗が言うと。
「”クルモ”ですか?クルモ。クルモ!いい名前です。ありがとうございました」と二人で」ほほえましい会話を繰り広げる。
周りでは”クモ”にルを付けただけやん、と思っていても口には出さない。二人で盛り上がって居る事にドン引きしていた周りの雰囲気に気が付いて。
「見て母さん、可愛いでしょう。クルモだよ」と両手に乗せて皆に紹介する、すると負けじと香澄もモモンガのモカを頭の上まで上げて。
「モカも可愛いよ~~」と主張する。クルモもモカも同じ時期に作られた事も有って、お互いを意識しているのか、思わず目線が合うとプイッと顔をそらした。
子供二人から可愛いでしょう?と聞かれた両親は、モモンガとクモを見比べて、可愛いは人其々だしねと思いながら。
「そっ、そうだね~」と生返事をするのだった。




