第33話 モフモフは至高の存在であると自負すれども、カワイイの定義は如何なるものか?。(その2)
翌朝、雫斗のベッドの上ではちょっとした寝起きドッキリが起きて居た、ミーニャが丸くなって寝ていたのだ。
後で聞いた話だが、トイレに起きたミーニャが寝ぼけて、雫斗の匂いをたどって潜りこんで来たみたいだ。ミーニャの触り心地の良さと綺麗な毛並みから漂ういい香りで雫斗は気付かずに眠り続けていたみたいだ。
ミーニャを起こそうかと思った雫斗は、彼女の毛皮の手触りの良さに負けて、そのまま撫でて居ると、ミーニャが“う〜ん”と伸びをしてパチっと目を開けた。
目の前の雫斗の顔に多少驚いたみたいで、目を大きくしていたが、撫でられて気持ちがよかったのか次第にゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
「アッごめん、つい撫でちゃった」と雫斗が言うと、ミーニャは気持ち良さそうに目を細めながら。
「いいです、雫斗さんに撫でて貰うと気持ちがいいです」と言いながら、顔の前にある両手をもにゃもにゃと、握ったり開いたりを繰り返していた。
その手を見ていた雫斗は疑問に思う、まんま猫の手なのだ体長が大きいから雫斗の手より少し小さいが、肉球があってクルッとしている指だ、よくこれでスプーンやコップを掴めるなと思ったのだ。
雫斗は、その手を握りぷにゅぷにゅの肉球のふちを親指で撫でながら、「不思議だね、よくこんな手でスプーンなんかを器用に掴めるね?」と疑問を口にすると。
ミーニャは“クスクス”笑いながら「お母さんが言うには、私達獣人は大きくなるに従って人化が進むみたいです、最初は手や脚から変わってくると言っていました」と言うと、雫斗の握っていた手が徐々に人の手の様に指が伸びてきた。驚いた雫斗の顔を面白そうに見ながらミーニャが続ける。
「生まれて直ぐは、お母さんも私と同じ姿で過ごしていましたが、私達がお乳を飲まなくなって歩き回り始めると、人の姿に変わって私達の世話をしていました」ミーニャの言葉に驚きながら話を聞いて分った事は。
ミーニャは黒豹の様な獣ではなく、獣人と呼ばれる種族で人の姿や獣の姿に自由に変われるらしい、普段は人の姿で暮らして居るが、危険が迫ると身体能力が上がる獣の姿になる様だ。
子育ては母親が一手に行い、出産した直後は他の獣人を寄せ付けない様だ。ミーニャも巣穴?巣部屋?、から出られる様になって始めて父親に会ったらしい。
当然母親の食事は父親や他の獣人が賄う、そうやってそのコミニティー全体で子育てを支援して居るらしい。
不思議なのはミーニャの年齢だ、彼女の世界の一年がどの位かは分からないが、ミーニャは産まれてから7~8年程らしいのだ。その事に驚いて居ると、人族と獣人とでは成長速度と出生率に違いがある様だ、成人に至る年齢は獣人も人族も変わらないが、幼年期を終える年齢が倍近くちがうのだ。
草原や森で暮らす獣人達は常に危険と隣り合わせだ、その為危険な幼年期の成長速度が速くなって居るのかも知れない。
ミーニャの手触りの良い毛並みと、女の子のいい香りを堪能していた雫斗の至福の時間が唐突に終わりを告げる、ドアのノックの音と共に。
「雫斗。ミーニャちゃんが居ないの、何処に行ったのかし・・・・」部屋へと入ってきた悠美の言葉が途絶える、ベッドの上で手を握り合いまんねりと過ごして居る2人を見つけて唖然として居るのだ。
「貴方達、何をして居るの?。雫斗!ミーニャちゃんをベッドへ連れ込んでなにをして居たの?」と悠美は腰に手を当ててか蔑む様な眼差しを向ける。
雫斗はガバッと起き上がると、狼狽えた様に支離滅裂な言い訳を始めた。確かに状況から雫斗がミーニャをベッドへ連れ込んだ様に見えるが、真実は違うので説明しようと焦るあまりそうなったのだ。
「ミーニャがトイレで寝ぼけて、匂いをたどったら僕のベッドに居たんだ。・・・と、とにかく僕じゃない」雫斗が強引に締めくくると、悠美が吹き出して。
「分ったわ、とにかくミーニャちゃんが居てくれて良かったわ。ミーニャちゃん行きましょう」とミーニャと一緒に階下へと降りていった。
悠美にしても、雫斗が普通の女の子とベッドを共にして居たとすると冷静に要られたかはわからないが。知性が有り人型とはいえミーニャは大きな猫なのだ、間違いが起こるはずはないと思っているのだが。しかしそこは大人として男性と女性の道徳的なことをミーニャに話す。
「ミーニャちゃん、いくら大好きな男の人からのベッドの誘いでも、簡単に承諾してはだめよ。軽い女と思われるから」そう言われてもミーニャには良く理解できなかった、実質産まれてからまだ8年しか経って居ないのだから仕方がないが、此処は空気を読んで“わかった”と言う。しかしミーニャは誘われてベッドへ入るのはだめで、自分から潜り込むのは良いと理解した。その事が後に騒動を巻き起こして、悠美は頭を抱える事になるのだが、それは後の話だ。
朝食後、ミーニャの部屋を2階の空き部屋へ移す事を確認してそれぞれ家を出る。いつまでも居間で寝起きをさせる訳にもいかないので、後々香澄の部屋と考えていた場所を片付けてミーニャに住んでもらう事にしたのだ。
取り敢えず沼ダンジョンの調査次第だが、ミーニャを元の世界へと帰す事が出来ないと暫くは雫斗の家で暮らして貰う事になる。
雫斗は学校へ、香澄と悠美はミーニャを連れて出かけていった、香澄を保育園に預けた後ミーニャを診療所で見て貰うためで有る。
身体検査が主で、ついでに感染症の検査をする予定だが、それはこちらの世界の感染症に対してのミーニャの抗体を調べるためだ。
普通なら未知の世界からきた生物は、最低隔離して危険な病原体がいないかを検査をするのが一般的な方法なのだが。
其処はダンジョンの特性が関係している、ダンジョンの内と外では危険な細菌やウイルスといった物は移動できないのだ。移動できないと言うより消滅するといった方がしっくりくる。
ダンジョンが出来た当初は、ダンジョンの出入りにはかなり気を遣った、それは当然で染み出してくる魔物よりも爆発的に広がる感染症の方を優先的に警戒していたのだ。
その事は雫斗達も経験済みで、ダンジョンの生成に巻き込まれて取り込まれ、救助された後3週間程度、隔離された記憶がある。
事情聴取をする為というより情報統制をする事が主な目的だったとおも思たのだが、しかしよくよく考えると感染対策の意味合いが強かったように思う。
だがダンジョンが初めて出現した時期で、ダンジョンの調査が急を要する事からダンジョンから出て来る度に、隔離をして経過を見るのは効率が悪過ぎた。
隔離政策を続けるかやめるかの会議の中、ある調査官が面白い報告と考察を発表したのだ、その調査官はダンジョンを調査してきた人達の調書を審査して纏めていた人なのだが、その調書の中で、体調の悪い中ダンジョンに入った人が、ダンジョンで活動していて、しばらくすると体調がよくなる傾向があるといった報告に目を止めた。
其処から考察したのは、ダンジョンはウイルスとか細菌と言った物に対して、障壁みたいなものがあるのではないか?と考えたのだ。
そして会議は紛糾した。“そんな馬鹿な話がある訳がない”と言う常識派と“ダンジョンだから、有り得る”と言う非常識派で別れた。それでもやっぱり試して見る価値は有ると言うことで、研究施設へ検証の依頼をしたのだ。
簡単に検証出来ると思っていたが、結構な大事になった。依頼の主旨を聞いた研究所の職員がダンジョンの入り口を建物で完全に封鎖して減圧しなければ危険だ言い出したのだ、確かにダンジョンの中に入った途端に、細菌やウイルスが外にバラまかれては一大事だ。
結論からいうと、ダンジョンの中にも外にも細菌やウイルスといった病原体は残らなかった、死滅するのかは確認できなかったがシャーレに培養した菌はことごとくいなくなっていた。
さすがに一類感染症のエボラ出血熱やペストといった危険な病原体では試せなかったが、他の細菌やウイルスはダンジョンの中に侵入することが出来ないと結論付けられた。
話を戻すと、ダンジョンから湧き出す魔物にしろ産出物にしろ、細菌感染の心配は無いというのが常識となっているのだ。そのことからミーニャの体調の配慮は此の地球の病原菌に対しての抗体の有無でしか無かった。




