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ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(改訂版)  作者: 一 止
第1章  初級探索者編

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第30話  攻略の確信と自信は、ダンジョンの揺らぎと共に、暗雲へと変わるのか?(その2)。

 雫斗達は村役場の会議室で4人とも床に正座をさせられていた、その前に仁王立ちした悠美村長と後ろでソファーに座ってニヤ付いている長老たちが数名居る状況だ。


 村役場の浴室で汚れを落として着替えた雫斗と百花は (濡れた服や汚れは接触収納で分離できるが匂いは無理だった)会議室で状況の説明をし始めた。しかし説明の途中で次第に険しい表情になる悠美村長の額にまるで角が生えた様に見える雫斗は震えあがっていた。


 会議室の入り口の横に4人並んで正座させられるとき、無謀にも「私たちは巻き込まれただけよ」と訴えた百花の言葉が火に油を注いだ。


 「黙りなさい。貴方達はパーティーを組んでいるんだから一蓮托生よ、それに状況を分かっていないみたいだから、よくよく説明して理解してもらう必要があるのよ」と悠美が有無を言わせずにそこに座れと諭す。


 「いい事、あなた達。今朝話した内容は覚えているわね?」と念を押す悠美。雫斗達は頷く事しかできなかったが、それを見た悠美が頭を振りながら。


 「それじゃ、保管倉庫と鑑定のスキルの事はしばらく伏せておくことは理解しているわね?」と言葉を切ると雫斗を見ながら「じゃー何故あんな騒ぎを起こすの?」と馬鹿なのかお前はという様に呆れた様に話す悠美。


 雫斗にも言い分はある、保管倉庫のランクⅤでの最大収納力が10万トンをこえそうだなんて思いもしなかったのだ、しかも収納できる水の水質を変えることが出来る事で雫斗は思いっきり舞い上がってしまったのだ。


 うなだれて何も言えずにうつむく雫斗に、祖父の武那方  敏郎が助け舟を出した。


 「まーそう頭ごなしに怒らんでも、十分反省しとるよ。これに懲りて雫斗も慎重に成るじゃろう」という敏郎に悠美は肩を竦めて。


 「そうじゃ無いと困るわ、此れからの事を考えると頭が痛いわね。報告しない訳にはいかないし、どう説明した物やら?」と困り顔の悠美。


 「幸い、事が起こった池の上にはダンジョンが有るからのう、ダンジョンがやらかすことにいちいち説明も要らんじゃろう。事情を知る面々はここに居るだけじゃ、口裏を合わせればいくらでも煙に巻ける」と敏郎が悪い顔で話す。


 「村の連中も、下手な事は話さないはずだからな。確かにダンジョンがやった事で此方が責任を負う話には為らんだろうしな」と麻生 京太郎が追認する。


 「それよりも信じられん話だ、保管倉庫に10万トンの水が入るとは。これは物流がおかしなことになりそうじゃわい」と問題は収納できる量だと京太郎は言う、確かに今までは大量の物を運ぶときは巨大な船で時間とお金を掛けて運んでいた物が、高ランクの保管倉庫スキルを取得したの人が数百人いるだけで、世界の流通が賄えてしまうのだ。


 しかも高ランクの保管倉庫を取得するのに、特別な事はいらないのだ。ただスライムを倒していくだけで取得できるのだから。


 例えば大阪から東京へ数万トンのコンテナを運ぶとして巨大な船を使う必要は無いのだ、一人の人間が運搬契約で一時的に預かって保管倉庫に仕舞えば身一つで新幹線や飛行機を使って目的地まで運んで其処で収納から出せばいいのだから。経費と時間の削減どころか物流の確変が起きてしまう。


 それを考えた雫斗は今更ながらに自分の発見した事の重大さが分かって来た、此れからの事を思い浮かべて”プルプル”と少し震えている雫斗に恭平が。


 「別に雫斗が悪い訳じゃ無いよ、何れ誰かが保管倉庫の取得条件を発見していたはずだから。たまたま雫斗が見つけただけだし、それよりも、今まで見つかって居なかった事に驚きだよ」と言って雫斗の気持を落ち着かせる。


 恭平に言われて落ち着いてきた雫斗は”そうだった自分は保管倉庫の取得条件を発見しただけで、そのスキルが世間を混乱の渦に巻き込もうとも其れは必然で自分に責任はない。たまたまそのスキルが高性能すぎてだけだ”と思う事にした、切り替えの早い男の子である。


 落ち着いてくると周りの話が気になって来る、正座させられて忘れられた四人はいい加減足がしびれてきた。事件の張本人を蚊帳の外に置いて、物流の事を話し合っている大人たちにおずおずと手を上げてアピールする。


 「あの~~、持ち逃げされることを心配しているなら契約で縛ればいいと思うけど」雫斗の何気ない発言に注目を浴びる四人。


 「契約で縛るって、どういうこと?」と悠美が聞くと、しめたと雫斗が話し始めた。


 「そもそも自分の所有物以外は収納出来ない収納系の仕組みだけど、契約っていう縛りでいくらでも応用が利くと思う、”う~ゎ~、足が”(小声)。配達先の場所と責任者の許可が無ければ収納から出すことが出来ない条件とかを付ければ、持ち逃げされる心配は無いと思う、後は罰則の整備だね」と足がしびれたアピールでもぞもぞと足を動かしながら訴える。


 それを見ていた悠美がクスっと笑いながら「いいわ、そのソファーに座りなさい。詳しく聞きたいわ」と正座の計の終了を告げる。


 「やった~~」と四人共に喜んで立ち上がろうとするが、足がしびれて動けない。


 這いずり回り、生まれたての小鹿の様に足をプルプルさせながらようやくソファーに座ると、悠美が紅茶を四人の前に出してくれる。


 「じゃー雫斗は、保管倉庫の配送でトラブルは起きないと思っているのね」と悠美が言うと、そうじゃないと雫斗。


 「そもそも収納系のスキルは収納する時に持ち主を明確に識別するんだ。それは保管倉庫も例外じゃない。条件で所有権が移るとしても、その条件を間違えなければ大丈夫だと思うよ。後は法律として罰則の整備だね、運んだのはいいけど条件がそろわなくて収納から取り出せないってなったら問題だしね」と暗に大人の仕事だと言葉ににじませる。


 「それよりも、お母さんもう一つ紅茶のカップをもらえるかな?」とからのカップを要求する。訝しながらもカップを手渡しながら。「どうするの?」と聞く悠美。


 からのカップを受け取った雫斗は「うん、ちょっと待ってね。・・・今日の顛末の報告と実験」とつぶやくと、湯気の立っている紅茶の傍にからのカップを置いて、両方に指を添えて集中する。


 固唾を飲んで見守る中、紅茶の入っていたカップの中身が消えて隣のカップに透明なお湯が出現した。「ふ~~、やっぱりできるんだ」と一人納得する雫斗をよそに疑問の表情で見ている人達。「今、何をしたの?説明しなさい」と悠美が諭す。


 「えーと、今紅茶の成分を水と分離したんだ。接触収納でも出来るみたいだね」と得意げに話す雫斗を胡散臭げに見つめる面々、其れに気付かず。


 「今日沼ダンジョンの池でやっていたのは、保管倉庫の総重量の検証だけど。その時収納する時に条件を指定と言うか想像したら純水だけを収納出来たんだ。でっ今度は接触収納で紅茶を取り込んで水と分離して分けたんだ」と話す雫斗。


 よく見ると元の紅茶が入っていたカップの底にうっすらと茶色い粉がたまっていた。


 「へぇ~、紅茶を濾し取ったと思ったらいいのかしら?それにしても簡単に出来るものね」と山田 洋子医師が感心して言う。


 「そのカップに入っているのは純水だと思う。大気に触れているから多少は汚染されているけれど、CO²をイメージしたから。調べてみないと何とも言えないけどね」と雫斗が自重して言う。


 山田医師は呆れて唖然とした、雫斗はこともなげに言っているがそれは純水が、しかも100%の純水がいとも簡単に手に入ると言っているに等しい。


 「えっ?じゃー池のひどい匂いの原因は不純物の塊なのね。その成分も分ける事が出来るの?」と悠美が聞くと。


 「う~んどうだろう。僕じゃ無理だね、壊滅的に知識がない、何をイメージしたら良いのか見当もつかないや。その道の専門家なら理解できると思うけどね、もしかしたら収納の中で分子や原子といったものをくっ付けたり離したりできちゃうかもね。うっわ魔法みたいだね」と雫斗がとぼけて言うと。


 「雫斗、あなた良く分からない事をイメージだけでやったの?よくできたわね」と悠美が感心して言うと。


 「あやふやな知識だから出来たのかもね、分子とか原子とかの知識のある人からしてみると、バカみたいな現象かもしれないし。僕たちみたいに魔法で出来ましたで片付かない気がするよ」と雫斗が言うと。


 「そもそもダンジョン関連なんて魔法でしょう?常識なんて通用しそうに無いもの」と弥生が締めくくった。


 子供たちが話している内容は、大人達には理解の範疇には無い、それこそ夢物語でしかないが、そもそもダンジョンがこの世界に現れてから常識なんて吹っ飛んでいるのだ。


 子供たちが言っていたようにもしかしたら魔法という不思議な現象で”核融合”や”核分裂”といったことが日常的に出来てしまうかもしれない、そもそもダンジョンの中は現実世界とかけ離れているのだから、何が起こっても不思議ではないのだ。


 一人の医者として分子力学や高分子、原子力学の事を、ある程度学んできた山田医師にとって、子供達のほほえましい夢物語を、子供の空想の世界として受け入れ切れていない自分を感じていた。


 そもそも保管倉庫の事でも訳の分からない現象でしかないのだ、子供たちは受け入れているが。10万トン規模の質量を一人の人間が持ち運ぶ? 自分の理性が常識と共に崩れ落ちていくのを感じながら、此れから事態の収束に向けた話し合いに身を投じていくのだった。


 取り敢えず、今日の事は池の上にあるダンジョンがしでかした事で、雫斗達は無関係だったと言う事にして、政府から調査に来る人を誤魔化す事で一致した。しかし保管倉庫や鑑定のスキルのポテンシャルを無視するわけにも行かず、大学の研究者や科学系の企業の研究者を中心に法整備の草案の作成やスキルの可能性の検証を調べることになった。 当然悠美や山田医師や他の長老達の知り合いの伝手を駆使して秘密裏の内に進めることにした様だ。


 時間も遅い事も有り、その日は解散となったが後日そのプロジェクトの規模の大きさに雫斗達は愕然とすることに成る。


 その日、家に帰り着いた雫斗の元に荷物が届いていた、自分の部屋の机の上に置かれているのは魔導書と言われている、探索者がダンジョンから取得して来た本だ。


 最初の魔導書との邂逅で(ヨアヒムと契約した事)げんなりした事も有りその日はスルーしたが、一日開けてヨアヒムの戯言に慣れてくると魔導書の文字を読める雫斗の優位性に気が付いた。


 ダンジョンが出来て5年が経過した今、それなりにダンジョンからの取得物も増えてきていた、その筆頭に挙げられるのはスキルなどのオーブやスクロールだが、本や石板といった読み物も数多く出てきていた。


 しかしその文字の解読は進んでいない。異言語理解のスキルスクロールがあまり出回らない事で読める人が少ない事も有るが、完全に未知な特殊な文字と、ページを捲るたびに字体が変わる特殊な本やら、触った人が後日体調が悪くなる呪われていると言われる石板など、曰くつきのダンジョンからの取得物が文字の解読の障害となっていた。


 その中で雫斗が購入したのは比較的安全な本だ、ネットオークションに出品されていた物で、危険な本の販売を、許可するダンジョン協会ではない事を信じて購入したので、多分大丈夫だろう。


 最初の頃は高価な値段で取引されていた本だが、今は大量にダンジョンから出る事も有り、内容が同じものなら比較的安価に購入できる。その中で文字が読める雫斗の強みを生かして選んだ本だ、”魔道の書”表紙に書かれている文字から、多分魔法関係だろうと予測してぽちった。


 もう一つは”錬金術の書”これは現在で言えば元素変換と言う事か? 物質の属性を変えるのはこの世界では大事に成るが、ファンタジーあふれる魔法の世界では比較的簡単に出来るのではないかと、完全に興味本位だけで購入を決めた。


 最後の本は”魔術冶金の心得”表紙だけを見ると胡散臭いのだが、本を紹介するために中身を映した写真の中に魔法陣の様なものが書かれていて、その魔法陣に興味を持ったので購入を決めた。他の本のタイトルは”オキちゃんの初めての旅行記”だの”簡単男飯”だの暇な時の読書本でしかない為敬遠したのだ。


 雫斗は机の上に包装を解いた本を並べる、まずは”魔道の書”。表紙は読める”叡智の書”と違って嫌らしさはない無い、完全に普通の本だ。


 まずは表紙を捲ってみる、目次は無くいきなり本文から始まっている。読める事は読めるが言い回しが完全に昔の言葉だ、理解するのにかなりの時間が掛かる。


 ”叡智の書”のヨアヒムに聞いても要領を得ない、かえって邪魔でしかない。どうにか理解した事を要約すると。


 【一つ、魔法あるいは魔術とは、体内もしくは周りに在る魔素を使って思い描いた事象を現実の世界に顕現させる行為である】。


 要するに魔素という不思議な力を使って自分が想像した事が現実世界でも想像したとおりに起こる現象らしいのだが、その行使には制約があるらしい、というより困難と言う方がしっくりくる。


 【一つ、魔法は言葉による詠唱あるいは念唱により、魔力を思い描いた事象を顕現せしめる行為である】。


 つまり、詠唱魔法と無詠唱魔法という事かな? 詠唱魔法の方が簡単そうだけど雫斗自身、想像力の塊である、無詠唱魔法の行使に関してあまり心配はしていない。


 【一つ、魔術の行使とは、魔素が事を行い易くする場とその行為を行う状態を図形と魔法言語を使って再現する方法である】


 魔法陣の図形が舞台でその間に埋め尽くされた文字が命令言語と理解すればいいのかな?。


 どうやら”魔法の書”は魔法を使う上での概要で、”錬金術の書”は具体的なやり方が幾つか載っていた、”魔術冶金の心得”はその名の通り魔術を使った金属の取り出し方だ。


 どうにか大まかな事は理解できたが、詳しい事は実際に遣りながら覚えていくしかないみたいだ。


 確かに自身の覚醒には、近道はない様だ。地道な努力の結果が力となって己に返って来る様だ。・・・頑張ろう。

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