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ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(改訂版)  作者: 一 止
第1章  初級探索者編

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第29話  攻略の自身と確信は、ダンジョンの揺らぎと共に、暗雲へと変わるのか?(その1)

 役場を後にした雫斗達は、沼ダンジョンへと来ていた。百花達は一日でも早くスライムを100万匹倒して鑑定のスキルを取得したい様だ、スライムの討伐に関して一日ノ長がある雫斗ではあるが、所詮スライムを倒して居れば誰でも鑑定のスキルが取得できるわけで、別に優越感が有るわけでも無い。


 どうもヨアヒムの言動を聞いていると、その取得したスキルをどう使いこなしていくかで自身の力と成るかが変わって行く様だ。” そもそも各々が試練を克服するのに条件が同じわけが無かろうに。個々の進化の道筋に近道や定石など無きに等しい、其方たちがダンジョンと呼ぶ深淵の試練に挑みし時から常に試されていると心に刻むがよい”と言っていたのはそういう意味なのだろう。


 「雫斗、私達の新しい武器を見せてあげる。ふふふふふ、凄いわよ」と百花が自慢気に言ってきた。そのままついて行くと、最初の広間で目に付いた岩に攻撃し始めた。


 攻撃といっても別段何かするわけではない、保管倉庫から岩の上に筒状の物を出して落とすだけなのだが、破壊力は凄まじい。


 一回目で岩の各所にひびが入り、二回目で粉々に崩れてしまった。「ふふぅん、どう?」と振り向く百花、唖然とした雫斗を見て得意気に話す。


 「ロボさんに保管倉庫を使った重力兵器が出来ないか相談したら、翌日には材料を持ってきたのよ、流石に一日で作れなかったみたいだけど昨日完成したの。でっ今日のお披露目よ凄いでしょう」といいながら現物を何種類か目の前に横たえる。


 此れは、軟弱な地盤で建物を支える為に、硬い地盤まで打ち込んで、建物を支えるコンクリートの杭だ。確かに遠心力で固めただけあって、強固なコンクリートを、さらに鋼鉄のベルトで補強して、おまけに底には一点に衝撃を集中させる為に円錐形の鉄の塊が装着されていた。


 「うっわ!これってビルの基礎に使う杭じゃ無いか?よくこんなの良く思いついたね、しかも大きさが色々あるね」と雫斗が数種類ある事に疑問を口にする。


 「まだ試作段階なのよ、あまり長いと洞窟じゃー使えないし、かといって短いと重さが減るから使い勝手を色々試しているところよ。ロボさんも自分で試してみるって言っていたわ」と百花。


 「見た限り結構な衝撃がありそうだけど、僕たちが壊すよりも断然早いし」と恭平が羨ましそうに言うと。


 「攻撃力は実証済みね、昨日私の家の土塁をボコボコにして、もぐらたたきの穴の様にしちゃって、お爺ちゃんに百花が怒られていたもの」と弥生が百花を見ながら「後は耐久性の確認ぐらいかしら」と締めくくった。


 弥生に自分の失態をバラされた百花は「あれは、つい調子に乗り過ぎたからよ。でも私だけじゃ無いわ、ロボさんと弥生もやっていたわよ」と小声で言い訳していたが、大抵やり過ぎて怒られるのは百花だから何時もの事である。


 「僕も欲しいんけど、まだあるかな?」雫斗が聞くと「残念ね、お爺ちゃんも使っていたかロボさんが運んだ分はもう無いわ。二、三日したら新しいけ杭が来るみたいだから、それまで待たないとだめね」と弥生が嬉しそうに言う。


 「そうか~、無ければ仕方ない来るまで待つか。ところでその杭、名前はどうするの?」と雫斗が聞くと。


 「名前?確かコンクリートパイルと言っていたような、よく覚えていないわ。名前がどうしたの?」と百花が逆に雫斗に聞いてきた。


 「名前は大事だよ。しかしコンクリートパイルってまんまコンクリートの杭だね、やっぱり武器として使うなら別の言い方じゃないと」名前にこだわりの有る雫斗らしいが、他人が作った武器の為遠慮があるのか名前を思いつかない様だ。


 「名前って、例えば”パイルバンカー”とかパイルクラッシャー”とか言うの、確かに分かりやすいけど、此れって必要なの?」懐疑的な表情で弥生が言うが、名前が違うだけで武器としての認識が違ってくる。


 「へ~そう聞くと、武器のイメージがしやすいね。”パイルアタック”とか”パイルショット”なんかどうかな?」恭平が楽しそうに話す、どうやら名前を考える事が楽しくなってきた様だ。


 「それだと、武器の名前と言うより技の名前っぽいね、やっぱり”パイルクラッシャー”の方がしっくりくるね」と雫斗が納得した様に言うと。


 「どっちにしてもロボさんが決めることよ、それより早くスライムを倒しましょう」と百花が待ちきれないと皆を急かす、確かに名前を決めるのはロボさんなので、今僕達が名前の事で騒いでも仕方ない。


 皆が各々、周回するルートを決めて歩き出す。雫斗もそうなのだが、他の人と違うのは壁や天井を確認しながらの移動である。


 たまにスライムを見かけると、”プチ・インフェルノ”や”プチ・ストリーム”と言いながら範囲魔法の練習をやりつつ移動していた。


 ”プチ・インフェルノ”は’’ヘル・ファイヤー’’の縮小版で、’’プチ・ストリーム’’は洗濯槽の中をイメージしている。


 先日、魔力を使い切って魔力が枯渇するのを初めて経験した雫斗は、戦闘中に魔力が無くなった時の無防備の状態を極力避ける為、範囲魔法の威力を抑えながら使う事を考えたのだ。


 プチを付けたのは範囲を限定するためと名前を変えたのは威力を抑えるためだ、その方がイメージをしやすいと雫斗は考えたのだ。今の所イメージどおりに魔法が使えているので雫斗にとって正解なのだろう、テンポよくスライムを倒しながら雫斗が周回する場所へとやって来た。


 今日の雫斗の予定は、一日一回の昇華の道を捜して宝物の間でお宝をゲットする事と、範囲魔法の使い勝手を確認する事を重点にしている。此処に来るまでに合計5回、徐々に範囲を広げながら範囲魔法を使ってきたが、威力を抑えている為魔力枯渇の兆しはない。


 最後に使った’’プチ・ストリーム’’の範囲は広間の半分ほど、落ちているスライムやベビー・ゴーレムの戦利品で有る魔晶石を集めながら雫斗の頬は緩みっぱなしで有る、此れなら一部屋丸ごと範囲魔法で殲滅しても余裕で周回できそうだった 此処に来るまでの間ヨアヒムの反応がない、流石に接触収納や保管倉庫に入れたままでは、会話をすることが出来なかったので、腰に吊るすようなポシェットをつけてそこに入れているのだ。今まではうるさいくらいに話しかけていたのにどうしたのかと聞いてみた。


 「ヨアヒム、寝てるのかい?」雫斗にしても人前では独り言に聞こえるヨアヒムとの受け答えは念話で済ませているが、此処には誰も居ないので声に出して聞いてみた。


 「主よ、我の本体は書物である。寝る事や食事という概念は無い、知識をむさぼり食らう事を食事と言うのなら、あながち間違いではないがな」と可笑しな例えで話しかけてくる。


 「ふぅぅん、そうなんだ。・・・いや、話し掛けて来ないからどうしたのかと思ってさ」雫斗は普通にスルーする、最近ヨアヒムの戯言になれてきたようだ。


 「我とて、むやみに話しているわけではない、主の疑問に答えているにすぎん。今まで駄々洩れだった思考の断片が、今日は漏れ出て来ぬ。喜べ主よ、其方は思考の障壁を手にした、此れよりは気を抜かなければ、其方の邪な考えは其方一人の心に仕舞えるぞ」と喜んでいいのか、嘆いて良いのか分からないヨアヒムの言動だが、此処は素直に考え事がヨアヒムに読まれない事を喜ぶことにした。


昇華の路を探し当てお宝をゲットして、予定通りにスライムを狩るついでにベビーゴーレムやカメレオンサラマンダーを狩り倒していた雫斗は、今更ながらに範囲魔法の効率の良さに驚いていた。


 このままでは百花達とのスライム討伐数の差が埋まらないと考えた雫斗は他の事を検証することにした、保管倉庫の検証で有る。


 今の所保管倉庫のランクⅠで10トンぐらいの重さ迄収納できることはロボさんが確かめたみたいだが、現在の雫斗の保管倉庫のランクはⅤ、ただ単純に5倍の50トンとは考えにくい、そこで検証したいのだがよい事を思いついた雫斗は、スライム狩りを早々に終わらせて沼ダンジョンを出ていた。


 行き先はダンジョンの入り口の下にある池のほとり、新年度の初めに小学生の高学年の子のダンジョンカードの取得に使った、スライムの討伐をした場所だ。


 池と言ってはいるが、ダンジョンが出来る前は人が寄り付かず、うっそうとした茂みに隠れて居て、まるで沼地の有様だった事も有り、村の皆は沼と称してはいるが普通のため池である。ダンジョンが発見された後は、村からの道を整備して池の周りをきれいにした事で、ちょっとした公園の佇まいを見せていた。


 まずは試しと保管倉庫に池の水をそのまま取り込んでみる、確か10㎥で10トンだったか?「えーと、5メートル×2メートルで深さは1メートルでいいか」とぶつぶつと独り言を言いながら範囲を思い描いて池の水を取り込んでみた、・・・結論から言うと出来ませんでした。


 ま~雫斗もそう簡単に出来るとは思っていなかったこともあり落胆して居る訳ではない。保管倉庫にしろ接触収納にしろ、当然生き物は収納できない、プランクトンや細菌やウイルスに至るまで迄収納出来ないのだ。


 この数カ月で、接触収納の保持者は劇的に増えた。スライムバスターと呼ばれる花火の製造は順調だと聞いている、そのおかげも有って接触収納を使える人が一般化している。


 その中には当然研究者も含まれる、未知への探求心は留まる事を知らない。接触収納に何が入って何が入らないかの検証は専用サイトで調べると立ちどころに出て来る。


 雫斗にしても細かい事まで検証するには時間がない、何れ誰かが保管倉庫や接触収納を取得した時に、中に入る物質の検証はするだろうと期待していたが、あっという間に広がっていったのだ。


 今の雫斗は保管倉庫にどの程度の重さ迄入るかといった事が知りたいだけなのだ。「ま~すんなり出来るとは思っていなかったけど、次は単純に水だけにするか」と範囲はそのままで純水をイメージして取り込む。


 すんなり取り込めたことに気を良くした雫斗は後で後悔することになる。収納できない生物だけを除外すればよかったと。


 収納出来た事で10トン単位で取り込むが2百トンを超えたあたりで終わりが見えない事も有り百トン単位で取り込み始めた、収納する時に魔力を使う事は分かっているので当然収納する時に魔力消失の兆しが無いか注意しながらなのだが、終わりが見えない。


 千トンを超えたあたりで変な汗が出始めて、5千トンを超えると「お願い~~~もう終わってくれ」と神頼みし、1万トンをはるかに超え10万トンにさし掛かるともはや背中に寒気がしてくる。


 別に魔力が無くなったわけではない、此れだけの重量を収納しているのに魔力は別にして、保管倉庫の底が見えないのだ。「これはやばいかも」雫斗は声に出して警戒する、周りの雰囲気がおかしい事に気が付いたのだ。


 いや周りはいたって平常だが匂いがおかしいのだ、ヘドロの様な嫌なにおいがしていた。そこではたと気付いた、目に見えて池の水が減っているのに。それはそうだ外周一キロも無い貯水池に毛が生えた様な泉だ、その水を米空母並みのトン数の水を取り込んだのだ、しかも純水だけを。


 当然池の水は不純物がたまって来る、変なにおいが充満してくるのは当たり前だ。慌てた雫斗は水を池に戻そうとして”はたっ!”と気が付く、いきなり10万トン近い水が一気に池に投入されるとどうなるか?雫斗は少しずつ池へと慎重に水を戻し始めたその時。


 「何してるのよ!!」いきなり後ろから声がした、百花だ。水を戻すことに集中していた雫斗は百花が近づいて来たことを感知できなかったのだ。


 「のわ~~」驚いた雫斗は無謀にも一気にため込んだ水を放出した、池のど真ん中の上空へ、幸いだったのか悪夢だったのかは分からないが、距離があったため時間的に身構える事が出来た。


 しかし純水に押し返された粘着性の有る水が、容赦なく雫斗と百花を襲う。まるで巨大なスライムがのしかかってくるように、津波の様に襲ってきた水は幸い土手を超える事も無く引いて行ったが、汚ちゃない水に揉みくちゃにされた雫斗と百花は堪ったものではない、かろうじて周りに植えられている木にしがみ付いて、池の中には引きずり込まれなかったが、散々たるありさまだった。


 いきなりの事に放心状態だった百花が正気に戻る、「なんてことをしてくれるのよ~~~」当然諸悪の根源だと雫斗に詰め寄る。襟首をつかまれ思いっきり頭を振り回されるが、大量の水を一気に方出した雫斗は魔力切れを起こして動けない。


 「大丈夫かい?」心配した恭平と弥生が土手から降りてきた、どうやら雫斗が何かやっていることを警戒していた様だ、目に見えて池の水が減っている事と、変なにおいに近寄ることをとどまったみたいだ。


 「大丈夫じゃない。魔力切れで動けない」と雫斗が訴えると。「百花、辞めなよ。あれを何とかしないとヤバイって」と恭平が対岸を指さす。


 此処と同じように対岸も津波の被害を受けているわけで、人が飲み込まれていると一大事だ、4人では対処できずに応援を呼ぶことにした。


 それからは大変だった、村役場へ連絡して状況を説明するが、沼ダンジョンの下にある池は分かる、だがその池で洪水被害が起こったと言われても理解が出来ないのだ。


 湧き水で出来ている池だ、大きな川が流れ込んでいるわけでも無いその池で、”大雨も降らないのに洪水とはこれ如何に”とどうしても信じてもらえないのだ。


 役場の職員に信じて貰えず、半狂乱になる百花と弥生。ただ冷静な恭平の「雫斗案件だ」の一言で事態は動くことに成る、取り敢えず職員を派遣して現場を見たとたん事態の深刻さを痛感したのだ。


 村の人数の把握と被害状況の調査で村中が大騒ぎと成り、結構な数の村人が沼ダンジョンへと集まって来ていた。


 幸いなことに雫斗と百花以外は巻き込まれた人は無く、時間も遅くもうすぐ日暮れとなる事から被害の把握は明日にすることにして、村へと帰ってきていた。

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