表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(改訂版)  作者: 一 止
第1章  初級探索者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/59

第28話  ダンジョンの恩恵は世界の安寧へと導くのか、はたまた疑心暗鬼の温床になるのか?(その2)

 叡智の書を得てからの雫斗の数日間は困難を極めた、ヨアヒムの的確な助言?(罠なのか正解なのか良く分からない言い回しで答える為)を受けながら攻略を進めてきたが、時にスライムの大量にいる部屋へ誘い込まれ、スライムの大群に飲まれかけたり。時に喜び勇んで宝箱を開けたらその宝箱は魔物で、危うく齧られかけたたりと散々な目にあってきた。


 それでも叡智の書と言うよりヨアヒムの助言には、初めての事象には道がいくつか潜んでいる様だった、要は道を的確に選べと言う事なのだろう。


 検証と言う意味ではいくつかの事が分かって来た、昇華の道は一日一回だけの邂逅の様だった。どうもヨアヒムの言葉を信じると他のダンジョンに入り直しても探し出せる訳ではないらしい。


 その奥にあるドアに刻まれている、変化する文字は試練の間と宝物の間の2ヵ所で、嘘か本当かヨアヒムによるともう一か所あるらしいがほぼ開かないらしい。


 運と実力と何かの気まぐれが無いと行きつく事が出来ないらしいのだが、詐欺の気配がうっすらと見え隠れしているのは雫斗の気のせいだろうか。


 出ないと分かればやらないが、出るかも知れないと思わせると、つい遣ってしまう何処かのゲームのガチャにお金をつぎ込む心理を利用している気がするのだ。


 雫斗にしても、ヨアヒムから其の事を聞かされたからには、昇華の道を探し続ける日々に成りそうだった。しかしその詐欺まがいの情報を別にしても取得できる経験値とお宝は魅力的だった、確かに昇華の道の名前に恥じない物だった、経験値を別にしても自分を強化できるものがわらわら出てくるのだ。これは一日一回だけにしたこともうなずける、まるでチートの道と言っても過言ではないと雫斗は思っていた。


 本日は休日という事も有り、学校も休みでゆっくりダンジョン攻略を出来ると思っていたが、休日出勤している母親の悠美から呼び出しを受けた、どうやらチームSDS(雑賀村ダンジョンシーカ)の全員が呼ばれた様だ。


 村役場に着くと、全員が会議室へと通された。待っていた村長兼ダンジョン協会雑賀支部長の悠美にソファーに座るように言われて腰を落ち着けた。


 「今日来てもらったのは、先日雫斗が発見した鑑定のスキルについて決定したことを伝えておきたくて来てもらったの。鑑定スキルの発動条件のスライム10万匹の討伐について、日本支部の一部の協会幹部に対して秘匿することが決まったわ。これは世界ダンジョン協会の認証済みで、つまりしばらくは一般には公開しない事に成ったわけ。そこで鑑定スキルの検証を君達にお願いしたいの、今のところ世界でスライムを一番倒しているのは君達だから」悠美が今までの経緯を簡単に話し終えた、確かに鑑定スキルの取得の為スライムを倒してはいるが、自分達のチームだけでは心もとない。


 「ええ~?私達もスライムを倒して鑑定スキルのゲットを目指してはいますが。さすがに私達だけで検証する訳ではないですよね?」と百花が聞くと。


 「当然よ、検証はこちらでもするけれど今は時期が悪いの。この村はそれ程でもないけど、都会のダンジョンでは、接触収納の取得に向けて1階層のスライムの討伐ラッシュなのよね、その上検証スキルの事を知られるとどんな事態に成るか想像も出来ないの。そこで討伐ラッシュが落ち着くまでは秘匿することにしたの」と悠美が答えると。


 「ですが、出来れば深層を探索している高レベルの探索者さんに、鑑定スキルを取得してもらってどんなスキルを取得しているのか確認した方が良くないですか?」そう弥生が言うと。


 「当然その事も考えているわ、でも高レベルの探索者となると時間的に調整が大変なの、どんなに早くても来週からになるわ。そこで鑑定のスキルの取得条件に関してどんな条件があるのか確定してほしいの、本当に誰にでも取得できるのか今のところ誰にも分からないわ」そう言った悠美だったが、胡散臭そうに雫斗を見る。どうも会議室に入ってきてから挙動がおかしいのだ、


 当の雫斗は、会議室にな入ってから、いや入る前の、悠美に呼び出しを受けた時から嫌な予感がしていた。当然、鑑定スキルのことについて聞かれるとは思っていたが、これ程の大ごとになってしまうとは予想外だった。


 しかし考え方に寄っては好機かも知れない、鑑定スキルが察知系のスキルと競合する事と、ダンジョン一階層に隠し通路が有る事を話すのは今しかない!!と決意したその時。


 「雫斗!あなた何か隠しているでしょう?白状しなさい」・・・百花に先制を期された、自分から言い出すのと、問い詰められて言うのとでは雲泥の差がある。しかも隠し事が有る事を見抜かれての追及には雫斗のダメージが大きすぎた、観念した雫斗は青い顔をしながらテーブルの上に、今まで集めたお宝を並べ始めた。


 スキルスクロールが6個、ポーションのカードが4つ、防具の素材のカードが2つとショートソードのカードが1つ。後は言語習得のオーブと火炎魔法のオーブと激流魔法のオーブの三つは使ってしまった為ここにはないが、聞かれたら白状しようと思っていた、最後に【叡智の書】をテーブルの上に置いて断罪を待つ。


 次々出てくるものを見て、全員が呆れた顔をした「雫斗、あなた其れどうしたの?呆れたわね、そんなものを隠していたの?」と百花。


 「いやそれより、一階層からだろう? そこでこれ程のアイテムを三日で集めたのが凄いと思うぞ。これは革命を起こすな、ダンジョン攻略の」と恭平。


 悠美と弥生は唖然として、言葉に出来ないようだった。桃花と恭平の説明しろと言う催促の形をした強迫に、恐れおののいた雫斗は。


 「ちょっと待って。順を追って説明するから」と一旦気持ちを落ち着けてから話し始めた。


 「まず鑑定のスキルだけど、察知系のスキルと相性がいいみたいなんだ、気配察知と結合して魔物に関しては直に見た時にその魔物の情報が見える様になるんだ。後、空間把握というスキルとも結合しやすいね、そうすると異常な壁を見つけることが出来る様になるんだ」そこまで言ったとき、色々つ込み処が有るのだろう、恭平が聞いてきた。


 「待て待て、結合って何だい?スキル同士がくっついたりするのか、そもそも異常な壁って何だい?」聞いてきた恭平には悪いがいちいち話が躓いては説明が終わらない、取り敢えず最後まで聞いて貰ってから質問してもらう事にしてもらった。


 「最初に見つけたのは、カメレオン・サラマンダーっていう魔物だけど、此れはダンジョンの壁に擬態していて、普通に見ると見つける事が出来ないんだ。僕も鑑定と気配察知が結合して初めて攻撃の糸口を掴めたぐらいだから、鑑定のスキルを取得するまでは無視した方が良いと思う。」とそこまで話したところで周りを見回す、質問したくてうずうずしている面々には悪いが、本題はここからなのだ。


 「そのカメレオン・サラマンダーを探している内に通路の壁がおかしい事に気づいたんだ。でっ、その壁をハンマーで壊すとその奥に道が出来ていて、その突き当りにドアが有ってそのドアはワープゲートになっているんだ。取り敢えず二箇所に移動できるみたいなんだけど、その場所が≪試練の間≫と≪宝物の間≫になっているんだ。≪試練の間≫は文字どおり魔物が出てきて戦う事に成るんだけど、倒しきると経験値とドロップ品がもらえるんだ、≪宝物の間≫は文字どおりお宝部屋で宝箱にアイテムが入っているんだ。おすすめは試練の間かな?経験値とお宝がもらえるからね、ただかなり厳しい戦いになると思うよ。この間入った時はスライム数百匹が相手だったけどね、しかも同時に出てきて酷い目にあったよ」。


 その時の事を思い出して雫斗は身震いをする、警戒する雫斗にヨアヒムが「試練の間とは、挑む者の求める力が何かによってその姿を変える。恐れる事は無い、死ぬるほどの強者が現れることなどない、そうなれば試練とは言えぬであろう」と笑いながら言われたのと、普通の一階層の広間の様にスライムがぽつりぽつりと居たので、完全に無警戒で入ってしまった。


 様子が一変したのは数匹のスライムを倒した時だった、壁や地面からスライムが湧き出してきたのだ。当然広間の中ほどまで入った時で逃げ場が無かったのだが、雫斗は判断を誤った。奥へ奥へと逃げ出したのだ、しかも普通のスライムではなかった、動きが速いのだ。


 善戦した雫斗だが、次第に追い詰められていった。いよいよスライムの大群に飲み込まれるのか? と思われた時、死に物狂いで昨日取得した火炎魔法を使った。


 取得してすぐに使えるかと思っていた火炎魔法のオーブだが、雫斗は使えずにいたのだ。火魔法の上位互換だと思っていた雫斗は色々試した、”ファイヤーボール”・”ファイヤージャベリン”・”ファイヤーボム”。いくらイメージしても具現化しない、ヨアヒムに聞いても要領を得ない説明で半分諦めていたのだが、死を前にして具現化した火炎の魔法。


 「ヘル・ファイヤー(地獄の業火)」文字どおり火炎のオーブが火を噴いたのだ。思い描いたのは渦巻く業火の炎、自分を中心に紅蓮の炎がすべてを焼き尽くす様をイメージした。


 普段の雫斗ならそんなイメージはしない、自分を巻き込んで炎が吹き荒れるなんて考えられないのだ、自分がダメージを負っては本末転倒だからだ。


 すべてを焼き尽くした雫斗は唖然として周りを見回したが、力尽きて崩れ落ちた。両手を付いて力を出し尽くした雫斗にヨアヒムが賞賛の言葉をかける。


 「ふむ、魔力を使い果たしたか。あの状況ですべての魔力の行使をするとはベストとは言えんが、生き残ったのは称賛に値する。喜べ我が主よ、其方は試練を乗り越えた」とヨアヒムがひょうひょうと話す。


 雫斗はヨアヒムを地面に叩きつけて踏みつぶしたい衝動にかられたが、力が出ない。初めて魔力枯渇の状態を経験した雫斗だったが、此処はまだダンジョンの中だ、力を振り絞り立ち上がるとヨアヒムに文句を言う。


 「ヨアヒム!君は嘘は付けないのじゃ無かったんじゃないのか? 死にそうになんだけど」雫斗の言葉に、何食わぬ顔で答える。


 「スライムは強者ではあるまい、多少数が多かったのは其方が殲滅魔法を取得していたからに外ならぬ。そもそも代償の伴わぬ試練など意味が無かろうに」。


 確かにヨアヒムの言っている事は正論ではあるが、多少ではないスライムの多さに納得できない雫斗だったが、しかし収穫もあった。火炎魔法が殲滅魔法だと言う事が分かったのだ、なるほど単発のファイヤーボールやファイヤージャベリンが使えないわけだ。


 範囲魔法と局所魔法で違いが有るとは思わなかった雫斗にとって一番の収穫かも知れない。取り敢えず終わったと安心していた雫斗は中央で鎮座している宝箱によろよろと向かっていった。


 宝箱に触れる寸前ヨアヒムの忠告が来る。「主よ、試練はこのフィールドを出るまで終わらぬ。気を抜くのはまだ早かろう」


 「えっ?」と雫斗が思った瞬間、宝箱が大きな口を開けて襲い掛かって来た。咄嗟に横っ飛びに除けた雫斗は収納からトオルハンマーを出して警戒する、襲い掛かって来た宝箱は大きな目玉をギョロっと雫斗に向けると「ちぇっ」と一事声を出すと光へと還元していった。どうやら奇襲に失敗すると消えていく類のモンスターの様だった、後には本物の宝箱が残されていた。


 トオルハンマーの柄で叩いてみて、普通の宝箱だと確認してからようやく蓋を開けた雫斗は中身に驚いた。1個のスキルオーブとスキルスクロールが3つ、後は防具の材料になる素材のカードが入っていたのだ。


 スキルオーブは大抵中層以下の階層を守っているボス部屋かダンジョンの最下層にあるクリアルームでしか出てこない。


 こう一階層でポンポコ出てくると有難みが無くなってしまいそうで少し怖いのだが、出て来たものはしょうがない、使ってみる以外にないのである。


 スキルオーブは激流魔法のオーブだった、多分火炎魔法と同じで殲滅系の魔法だろうと予測した、当然その場で使って習得する。今は魔力が枯渇しているので使えないが後のお楽しみである、スキルスクロールは剣技系の二つと窮伎系のスキルが一つこれは後から売りに出すので保管倉庫の肥やしになった、防具の材料のカードも保管倉庫に仕舞った雫斗は予想どおり最後は広間から排泄されて沼ダンジョンの一階層へと戻って来たのだ。それが昨日のことで、いつ此の事を話そうかとずーと思っていたのだ。ようやくチャンスが巡ってきて余りの幸運ににやけていると頭に強い衝撃が走る。


 ”バッコン”大きな音と共に頭の痛みで現実に戻って来た雫斗は、分厚い本を降り抜いた百花を目の当たりにした。説明の途中でトリップしてにやけている雫斗を現実に戻そうと百花が叡智の書で雫斗の頭をはたいた様だ。


 「やっと戻ってきた様ね、色々聞きたい事が有るんだけど。この本ほとんど白紙じゃないの、しかも読めないわ」と叡智の書をいじり回しながら声を懸ける。


 雫斗は殴られた事に胡乱な表情で百花を見るが、百花に色々触られて喜ぶ、ヨアヒムの気勢を念話を通して聞きながら、そのことを話して良いのか考えた。


 しかし百花が鑑定を取得してヨアヒムの存在を認識した時に、今日の事を思い出して報復を受けることを考えると、今言った方がよさそうだ、だが話しても信じてもらえるだろうか疑問だが、言わないより良いだろうと考えなおした。


 「百花、その本は叡智の書なんだけど。・・・中身は変態のおっさんなんだ、今も百花にいじくり回されて喜んでいるんだけど。…いいのかい?」雫斗は百花に殴られた報復のつもりで意地悪く言う、小さな抗議ではあるが百花にはいい薬になるだろう。


 そう言われた百花は理解が出来なかった、ただ本の中に小さなおじさんがいて本を開くとマラカスを手に持って腰をグルングルン振りながら踊っている様を想像して、”クス”と笑いながら表紙を見る。


 表紙には見た事も無い文字でタイトルが書かれていて、写実的な立派な髭を蓄えた男性の顔が書かれていた。よくよく見るとなんとなく目がいやらしく笑っている気がしたとたん百花の危険感値が最大限発揮した。


 百花の背中を電撃が走ったと同時に寒気が襲う、思わず叡智の書をテーブルに叩きつけてソファーから立ち上がり固まる。本を踏みぬきたかった様だが自重した形だ、此処で足蹴にするとテーブルが悲惨な事に成る。


 叩き付けられたヨアヒムの苦悶の声を聴きながら、雫斗は百花が気持ち悪そうに叡智の書を睨み付けているのを見て感の良い子だなと思った。


 雫斗は鑑定のスキルが有るから叡智の書の本質が分かるが、持っていない百花が感だけで変態ヨアヒムの正体に迫るとは、末恐ろしい子である。


 その本を持ち上げてパラパラとめくる勇者がいる。恭平である、男に触られてぶー垂れているヨアヒムだがここは無視だ、最後まで本をめくった恭平が聞いてきた。


 「叡智の書て、タイトルが読めるのかい?」聞かれた雫斗は最初に見つけた宝箱の話をした、つまり異言語習得のスキルオーブを使用したことを話したのだ。


 「へ~、”異言語習得”? ”異言語理解”じゃ無いの?」と百花が聞いてきたので。


 「ん~~~。なんか別物みたい。異言語理解だと、ダンジョンから出て来た石板の文字が読める様に成るだけらしいけど。このスキルは言葉が分かるようになるんだ、当然文字も読める」と雫斗が正直に話す。


 「じゃー英語とかフランス語とかの言語もすべて理解できるって事? うゎっ英語の授業が無くなるね」と恭平が場違いな心配をする。雫斗も当然試した、ネットで見つけた言語のすべてを理解できた時には、ダンジョンの恩恵に喜びよりも恐ろしさの方が強かったが、今ではスキルとはそういう便利な機能だと認識することにしていた。


 「えっそんな便利なスキルが有るの?」と百花が食い気味に聞いてきたので、テーブルの上に置いた3つのスキルスクロールを示して。


 「使ってみる?一応異言語習得のスキルスクロールなんだけど多分一つの言語にしか対応していないかもしれないんだ、オーブだと試した言語はすべて理解できたから多分聞いた言語はすべて理解できると思う」そう言った雫斗におもむろに悠美が英語で話しかけた、それに英語で答える雫斗、途中からフランス語に代わり最後にドイツ語で会話を始めた二人。


 「驚いたわね、まだ数日しかたっていないのよね?聞いた事も無い単語でも理解できるっていう事よね、今更ながらにスキルの異常性には理解が追い付かないわね」と日本語で感想を話す悠美に。


 「今更ダンジョンのバカげた機能を論じても仕方がないわ、それよりほんとに使っても良いの?」とかなり切実に百花が聞いてきた、百花は英語の成績が思わしくないのだ、スキルを使って英語が話せて理解できるようになると勉強せずに済むと、かなり期待している様だ。


 「いいよ、使った感想を聞かせてくれたら十分だよ」雫斗に言われた百花は嬉々としてスクロールを一つ取り自分に取り込んだ、スキルオーブは使った事が有る雫斗だが、スキルスクロールは使った事がない、そこで聞いてみた。


 「どんな感じ?スキルオーブは使う時、使用するかどうか聞いてきたんだけど」聞かれた百花は不思議そうに答えた。


 「聞かれて無いし、手ごたえが無いわね。どうやって分かるようになるの?」と百花が恐る恐る聞いてきたので。


 「取得したい言語を読むか聞くと良いよ、最初は良く分からないけど何度かやっていると分かるようになるから」と雫斗が教える。


 「何の言語を使いたいの?」おもむろに悠美が聞いてきた。するとすかさず

 

 「当然英語よ、話せるようになると便利だもの」と百花が答えた。


 するとおもむろに悠美が英語で話しかけた、最初はたどたどしかった受け答えが次第に流暢に話せる様になってくる、暫く百花と英語で話していた悠美が呆れたように言う。


 「今まで、私がやって来た努力を一瞬で無にして仕舞うスキルの様ね、何か今までの人生が馬鹿らしくなってくるわね。貴方達はどうするの?」。弥生と恭平にあと二つあるスクロールを見ながら聞いてきた。


 顔を見合わせた二人は、使っていいのと雫斗を見て目で訴える、雫斗にすると検証の意味で使ってほしいので頷くと。


 「出来たら別の言語にしてほしいかな、僕の予想だけど異言語習得のスクロールはかなりよく出そうなんだ。まだ宝箱を開けるのは3回目だけど、それでもオーブは別にしても異言語習得のスクロールが三個は出過ぎじゃ無いかと思うんだ」と雫斗は実感として感じた事を口にする。


 「何故そう言い切れるの?異言語習得のスキルは確かに有能だけど、ダンジョンの攻略にはあまり関係ないと思うけど」と悠美が聞いてきたので、雫斗はほとんど自分が感じた事だけどと断って話し始めた。


 「ダンジョンてこの地球の産物じゃないのは確かだと思うけど、この前昇華の道を探し当てて、扉の前に立った時、その文字を見て別の世界の物だと確信したんだ。誰が何の為に設置したのかは分からないけれど、言葉の壁は大きいと思う。だけどその壁を取り払うかの様にスキル迄用意されている、こんな便利なスキルは無いと思うよ。だって紛争で破滅一歩手前まで来ていた人類に執って、お互いの言葉が分かりあえるだけで話し合えるチャンスがあるんだから」。


 話終えた雫斗を悠美は静かに見ている、確かに言葉が分かるのと分からないのとでは友好を築くのに天と地の差があるだろう。しかし外務省に勤務していた経験のある悠美にしてみると、相手と話し合える事が分かりあえる事だと単純に思えないのも事実だ。


 「そう単純な話でも無いと思うけど、私は前の職場の関係で国と国との折衝で苦労してきたから、話し合いでなんでも解決できるとは思っていないわ」と悠美はやんわり注意する、海千山千の外交官達のまるで軟体動物の様な掴みどころの無い交渉には辟易していたのだ。


 「国と国との折衝なら利益や面子や建前が絡んで複雑になるけど、僕たち探索者の相手はダンジョンだからね。攻略情報が即安全な収入に結びつくから、その情報が直接聞けるのは有りがたいと思うけどね」と雫斗が言う、確かに今のダンジョンの時代はその地域で完結できる、生活する上では他地域との交流ですら必要とはしていない。


 「ちょっと、話が脱線していない?その異言語習得のスクロール誰が使うのか決めて貰わないと収まらないわ」と百花、雫斗がフランス語とドイツ語を話しているのを見てどうやらもう一つ異言語習得のスクロールを使ってみたい様だ。その理由が同じスクロールを多重使用できるかどうか試さないといけないらしい。


 それを聞いた恭平は泣く泣くのスクロールの使用を諦めた、百花には誰も頭が上がらないのだ。結局百花がスクロールを2個使用して英語とフランス語を取得した、弥生はドイツ語を取得してその日は解散となった。


 異言語習得のスクロールを取得できなかった恭平を「大丈夫だよ、すぐ手に入るから。恭平も鑑定のスキルが使えたら宝物の間に入れるって」と慰めながら出ていく息子を何気なく見ていた悠美はふと旧約聖書のくだりを思い出した、散り散りになる事を恐れた人々が結束するために神域に至る塔を作るが、神は民が一つにとどまる事を良しとせずその塔を打ち砕き、言葉を違えて各地に送り出した。


 各々の地で繁栄を遂げた人類は多様性を手にしたが、同時に人権や迫害といった争いの種を撒いていた。その人類がダンジョンというおかしな産物によって今度は意思を通わせ合おうとしている、その意味を考えてみるがどうしても分からない。


 悠美は考えても分からない物はしょうがないと、気持ちを切り替えた。「まずは中央の官僚の対応ね、下手をすると疑惑の種を持ち込みかねないわ」と独り言を言って立ち上がる。


 雫斗の言葉ではないが、確かに今の時代、中央集権的な政治の在り方は瓦解している。そのことを理解できないかつての官僚が今の日本を動かそうとしているのだ。


 雫斗が集めた情報を政府に秘匿している今、下手に動こうものなら国家反逆罪を適用されかねない。


 今日雫斗がもたらした情報は”単純に発表すれば社会が混乱するから”では済まされそうにないのだ、何か対策を講じなければ疑心暗鬼の温床になりかねないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ