第26話 ダンジョン探索のカギは、やっぱり1階層?(その3)
別にダンジョンの壁は壊せない訳ではない、ただ壊しても暫くすると元に戻るだけだ。それが不破壊属性と言われている所以ではある、ある採掘を専門にしている探索者が洞窟の広間と広間をつないでみようと考えた。つまり近道を作ることを思いついたのだ、採掘場所から採掘場所までの時間短縮のつもりだったのだが、思わぬ無駄骨に終わった。
仲間を募り測量した結果、隣の広間迄約5メートル。その壁を壊し始めた、仲間と削岩機で掘り進めて数時間後、5メートルを掘ってもつながらない。意地になってもう5メートル掘ったがつながる気配がない、不審に思った仲間たちと繋がる予定の広間に向かう、その広間の壁には傷一つない、不思議に思いながらも元の掘り進めた場所に戻ると壁が元の状態に戻っていたのだ。その探索者は落胆しながらも、協会へと此の事を報告して報奨金をゲットしたのだった。
ハンマーの様な武器は、穴を掘る道具では無い、しかし今日はたまたま採掘で使うツルハシを持ってきていない。仕方がないのでハンマーで殴る、「グヮシン」。おかしな手応えがある、”もう一回”「グヮシン」壁にひびが入る、何かあると確信した雫斗は勢いづく。
「グヮシン」「グヮシン」「グワガラララ」最後はものすごい音を立てて壁が崩れ落ちた。土煙が晴れると壁の向こうに通路が伸びていた。「隠し通路か?」雫斗は驚きを隠しきれずにいた、この5年間1階層で隠し通路なんて聞いたことがない、罠の匂いがプンプンするが、好奇心を抑えきれずに足を踏み出していた。
しばらく歩くと重厚なドアの有る部屋へ出た、何か文字らしき文様が浮かんでは消えを繰り返している。「どうしよう?やばそうなドアの前まで来てしまった。・・・そのまま帰るか?」緊張して、まるで誰かに相談するように声に出して独り言をいう、だけどそのドアは取っても無いどうやって開けるのかも分からない、好奇心をあおって来る不思議なドアなのだ。
気が付くと雫斗はドアの前に立っていた、そして浮かんでは消える文字を眺めていたのだが、その文字に興味をひかれた雫斗はその変わる文字に意識を向けるあまり、無意識にドアに触れてしまう。その瞬間、天地が逆転した、落ちている様な浮かんでいる様な不思議な感覚の中、一瞬でもとに戻る、上下感覚は戻ったが目の前のドアが消えて広い空間が目の前に広がっていた。
見慣れない広間に怖気づいて後ずさると何かにぶつかった、振り向くと先ほど目の前にあったドアが鎮座している、その表面には先ほどと違って一つの文字列が浮かび上がっていた。そのドアに触れるとまた天地が逆転して、今度は通路が目の前にある。驚いて振り返るとさっきのドアが悠然と其処にたたずんでいる。雫斗はようやく理解したそのドアはワープゲートを兼ねているのだ、消えては浮かぶ文字の様なものは読めないから分からないが、もしかしたら行き先が変わるのかもしれない。
一応帰って来られたので、気持ちが大きくなって今度は違う文字の時にドアの前に立つ。一瞬の浮遊感の後、目の前にさっきとは違う小じんまりとした空間があった、その中央付近に箱の様なものが鎮座している。
「何だ?宝箱か?」雫斗は半信半疑で警戒しながら近づいていく、宝箱は10層以降のボス部屋以外では見つかっていない。「罠か?」雫斗は最大限、気を付けながら蓋を開けた。そこにはスキルオーブと、2つのスキルスクロール、そして革製の豪勢な装飾が施された本が収められていた、へっぴり腰で蓋を開けた雫斗は苦笑いしながら、宝箱から品物を取り出す。
スキルオーブは"異言語習得"、2つのスキルスクロールも"異言語習得(1)"だった。多分違いはスキルオーブが全ての言語を習得出来るのに対して、スキルスクロールは一つの言語を習得する事が出来るのかも知れない1の数字がそれを物語っていた。で、本命の豪勢な表紙の分厚い本だが、読めませんでした。まー表紙に書かれた文字を見て予想はしていたが、見たこともない文字の列にこれは読めないと諦めた。しかし完全敗北したわけでは無い、雫斗はスキルオーブを使う気満々である。
使い方はオーブを使用した事の有る人のブログに載っていた、要はそのスキルを自分に取り込むことを考える(願う?)だけである。それだけしか書かれていない為詳しい事は分からないが、今は試してみるだけだ。
オーブを片手で持ち厳かに掲げる雫斗、いちいち芝居じみた事をしないと気が済まないらしい(中二だから)。「さぁ~~、我を受け入れ、我の糧となり、我の力と成るがよい。共に困難を打倒すべし」と何処かの魔王が言いそうな台詞を宣う、ちなみに雫斗は誰も見ていないと思っているから、この様な事をして居る訳で、もし入り口で百花辺りが隠れて見て居たら赤面物である。部屋に閉じこもって出て来られなくなるほどの行いなのだが、そこは過ちを恐れない若さだと言える。
厳かに台詞を放ちスキルを取り込もうとした雫斗だったが、”使用する。YES・NO”と頭の中で事務的に響いてくる言葉に「ふぇ?」と呆けた声を出す。戸惑いながら何が起こったのか考えているともう一度、”使用する。YES・NO”と頭の中で声がする「えええええ~?、スキルオーブって意思疎通ができるの?・・・今日はオーブさん、おかっげんはいかがでっすか?」とパニックになって見当違いのことを言う、若干ろれつが可笑しくなってはいるが、それは仕方が無かろう。
”使用する。YES・NO”。三回目ともなると何故か怒っている様に聞こえるのは気のせいかも知れないが、ようやく雫斗は使用するかしないかの確認の意味だと気が付いた「使います、使います。YESです」と慌てて言うと。「パリン」と小気味いい音と共に弾けたオーブはその破片がスローモションの様に漂いながら光の粒へと変わって行き、雫斗の体に纏わりだし静かに雫斗の中へと取り込まれていった。
スキルを取り込んだ雫斗は戸惑っていた、呆気ないほど簡単で自分自身に変化が見られなかったのだ、本当に使える様になったのか不安になった雫斗はカードで自分を鑑定して確かめた。確かに”異言語習得”のスキルが書かれていた、良しこれで読めると勢い込んで本の表紙を見る。・・・・読めません・・・。落胆して何故だと考えながらも、あきらめきれずに何度も表紙の文字をなぞって意味を掴もうと努力すると、その文字が意味のある形と成って理解できるようになる。
「EITINOSYO」・・・「えいちのしょ?」。【叡智の書】、「叡智の書おぉぉ?」何か凄い本を手に入れたと喜び勇んだその時、雫斗の足元で魔方陣が浮かび上がる。やはり罠だったのかと恐怖に硬直していると、浮遊感と共に見慣れた通路へと移動していた。
辺りを見回して、此処が隠し通路を見つけたダンジョンの壁だと確認すると「くそ~~、何気に高性能なシステムじゃないか。事が終われば排泄物扱いかよ」先ほどの恐怖で引きつった顔で強気な言葉を言う。水で流され無かっただけましかと思い直して、手に入れた【叡智の書】を見つめる。中を確かめてみたいがここで見る訳にはいかな、ダンジョンの中だと言い聞かせて修復された壁を見る。
普通のダンジョンの壁へと戻った隠し通路の壁を見つめて”隠し通路は他にもあるのか?もしかしてこれで打ち止め?”。と此れからやらなければいけない事が多すぎて目眩がしそうになるが、【叡智の書】で此れからのダンジョン攻略が進んでいく事に期待を寄せる雫斗だった。




