第23話 ダンジョン探索のカギは、1階層?(その2)
翌朝、悠美は昨日雫斗がまとめた報告書を、名古屋支部あてに送った。名古屋支部は雑賀村支部を含めて東海地区を管轄している中堅規模の協会支部だ。先のリーク問題もある為、東京にある日本探索者協会本部への開示を遅らせてほしい旨を添えて転送した。
名古屋探索者協会の支部長も、鑑定スキルやスライムの固有スキルの取得条件がリークされると、これ以上のトラブルを抱える破目になるので、そんなことは御免だとばかりにすぐさま了承した。
悠美は、取り敢えず世界探索者協会の本部あてに8時間後の午後4時にオンラインでの会談を申請した、一応発見した事を報告しなければ規則違反に問われるので、直接説明しようと思ったのだ。とうぜん秘匿通信での要請だ、協会本部の置かれているベルリンは今は真夜中なので、返事が来るのは早くても4・5時間後になるだろう。
午後の早い時間、雑賀村役場の会議室に村の長老が集まっていた。恭平の父親の立花 浩三と、弥生のお爺さんの麻生 京太郎。村の診療所の山田 洋子医師、最後に悠美の父親の武那方 敏郎の四名と、雑賀村役場と雑賀村ダンジョン協会支部の代表で村長兼雑賀村ダンジョン支部長の悠美と副村長の開田 一之条の計六名が雑賀村のかじ取り役である。
「珍しいわね、悠美ちゃんが村長になって初めてじゃない?長老会の会合なんて?」 と診療所の山田医師が悠美をちゃん付けで話す。山田医師は雑賀村に赴任して来ておよそ40年を超える、そろそろ80を超えようかと言う年齢にも関わらず元気である。
この時代のお年寄りに言えることはみなうるさいくらい健康だ、一つにはダンジョンからもたらされるポーションや食料による影響もあるらしいが、何と言っても暇を持て余しているお年寄りには、ダンジョンの表層は良いお散歩コースとなっているのだ。
当然危険もあるが、それを差し引いてもダンジョンに入る事でお年寄り、いや人類にとって良い事が有る。それは魔物を倒すと身体能力が上がるというメリットがあるのだ、今までは経験したことで分かるぼんやりとした実感だったが、雫斗が鑑定のスキルを発見した事により視覚的にも数量的にも鑑定で証明されることに成るのだ。
今まではお年寄りにとって体力が衰えていくばかりの人生が、ダンジョンの出現によりこうして自分の足で歩き周ることが出来るのだから、一番の恩恵に預かっているのはお年寄りかも知れない。
ちゃん付けで呼ばれた悠美だが、山田医師には頭が上がらない。生まれた時に取り上げて貰った時から、・・・いや母親のおなかの中にいた時から大学に進学するとき迄、山田医師には世話になっているのだ。
「ええ。少し込み入った事が起こりまして、それで相談に乗って貰おうかと思いまして皆さんに集まってもらいました」。悠美が話始めてすぐ京太郎が聞いてきた。
「鑑定スキルの事かな?どうするつもりじゃ?」といきなり核心をついてきた、いちいち説明するのは面倒なので「取り敢えずこの書類を読んでいただけますか?」と各自に簡単にまとめた書類を渡す。
皆が読み終えた頃合いを見て悠美が話し始めた「最近の都市部のダンジョン内は、接触収納の取得に向けた、スライム討伐の奪い合いで大変込み合っている状況です」とここ迄話した悠美の言葉をさえぎって武那方 敏郎が手を上げた。
「接触収納とは何かのう?初めて聞くが」と聞いてきたので「今まで私たちが、装備収納とかカード収納とか言っていた名前です。雫斗が取得した鑑定のスキルで正式な名前が分かりました、取り敢えずここでは正式な呼び方で通します」と悠美が言うと、解ったと敏郎が手を下ろした。
「そのような状況なので、今回の鑑定スキルの取得条件に関して日本ダンジョン協会の上層部には秘匿することにしました。そこで鑑定スキルおよび固有スキルの検証は雑賀村と近隣の数か所の村で検証したいと思います。皆さんにはその調整役をお願いしたいのです」と悠美が此れからの事を端的に話すと、恭平の父親の構造が心配して聞いてきた。
「鑑定スキルの取得条件を発表しないとなると誰かに先を越されると言う事に成らないかね?」。
「秘匿するとは言っても、上層部に上げない訳ではありません、日本ダンジョン協会の理事の何名かは信用できないので信頼のおける名古屋支部の上層部と、世界ダンジョン協会の本部あてには報告しますからその心配はありません」と悠美が報告はするけどリークされる心配のない人達にだけ話を通すつもりの様だ。
「ではわしらは、この村のダンジョンの入場の管理と近隣の村の調整役をすればいいのかな?」と京太郎爺さんが聞いてきたので。
「そうです。それと同時に先行してスライムを討伐しているチームSDSにはそのまま更なる検証と、皆さんもスライムの討伐をして鑑定スキルの検証をお願いします」悠美がそう言うと「村の連中は締め出されて騒ぎだしませんか?」と副村長の開田が言う。
「大丈夫でしょう、鑑定のスキルは逃げませんから」と悠美は余裕の表情で話すと、
「おお、忘れておった。一人厄介な奴がおる」と京太郎爺さんが慌てて言うと。
「どうしたんですか」と疑問に思った悠美が聞いてきた。
「いやーロボがな、弥生と百花の話を聞いて自分にも保管倉庫のスキルが有る事に気付いてな、発現したのはいいがどれだけの物が入るか検証ができないと分かると武器と検証が同時に出来る物が在ると言って、購入してくると息巻いて飛び出して行ってな。あいつもべらべら喋るとは思わんが・・・ま~、たぶん大丈夫だろう」と京太郎爺さんが気落ちして言うと。
「その時はまた考えましょう。秘匿したことがばれても検証スキルを拘束していた訳ではないので、・・・ただこの事が知れ渡ると、騒ぎがこれまでの非じゃないだけですから。ところで武器とは何のことです?」と悠美が聞いてきた。
「これにも書かれておるが」と京太郎爺さんが渡された報告書を見ながら言って。
「ダンジョンにこの位の岩が点在しているが、その中にベビーゴーレムがまぎれているらしい。その岩を壊すのに、打撃系の武器が必要だが弥生と百花は持っていないからな。それで保管倉庫を使って上から重い物を落とそうと考えたらしいな」。それを聞いた悠美が「なるほど考えましたね、それでどのくらいの重さが保管倉庫に入るか検証が必要だと言う事ですか?」と感心して言う。
「分かりました、ロボさんが保管倉庫について話しているかどうかの確認は京太郎さんに任せます、連絡してもらえますか?」と京太郎さんに聞くと、解ったと頷いたので。
「では皆さん各自の調整役を決めてしまいましょう」と言って悠美と他の面々で役割分担を決めてしまう事にした。内容は雑賀村の人たちの調整は、武那方 敏郎、立花 浩三、麻生 京太郎、山田 洋子の4名で調整して、村以外の対応は悠美と開田 一之条が担当する事になってその日は解散となった。
そのことを知らない、チームSDSのメンバーは新しいスキル≪鑑定≫の取得に向けて、期待を胸にダンジョンへと入って行くがのだが。その少し前、沼ダンジョン迄軽いジョギングで体を温めて軽いストレッチの後ダンジョンに入る寸前、弥生と百花からロボさんの事を聞いた雫斗は驚いた。
「え?ロボさんいないのか。聞きたいことがあったんだけど、・・・いないんじゃ仕方が無いか~帰ってから聞くか?」と気落ちしてつぶやくと。
「聞きたい事ってベビーゴーレムの事?その事も話したら同族かと気落ちしていたけど、スキル取得の為には仕方がないと割り切っていたみたいよ」と弥生が言うと。
「そうなんだ、それも有るけど聞きたかったのは、このトオルハンマーの事なんだ」と収納から出したハンマーを見せる。
「そのハンマーがどうしたの?」と百花、”相変わらず変なネーミングを考えるわね~”と思いながらも聞いてみた。
「トオルハンマーを鑑定してみたんだけど。そうしたら≪スライム特化 ダメージ大≫と出ているんだ、そのことを聞こうと思ったのだけど。…いいや帰ってから聞くよ」と言うとそそくさとダンジョンに入ろうとする雫斗だったが。
「ちょっと待ちなさい」と百花にハンマーを”グワァシ”と掴まれて止められた。
「何、なんでもありません!みたいな顔でスルーするのよ。今おかしな事を言ったわね?スライム特化 ダメージ大って・・・どういう事?」と百花に聞かれた。何気ない顔で煙に巻こうとした雫斗だったが聞かれたからには答えない訳にはいかない。
ばれない様に軽くため息をつきながら「僕はスライムをこのトオルハンマーで倒していたんだけど、ある時を境に倒し易くなってきたんだ、最初は自分が強くなったのかと思ったけど他の魔物を倒すと変わらなかったんだ。…で昨日トオルハンマーを鑑定してみて納得したって訳。だけど、どうしてそうなったのかが分からなくて、どんな材料を使ったのかロボさんに聞いてみようと思ったんだ」と一息で話した雫斗だったが、まだハンマーを掴んで離さない百花に、放してくれ~~と願いを込めて軽く揺すってみる。
そんなことはお構いなしに、考え込んでいた百花だったが雫斗に視線を向けてハンマーを放すと、おもむろに「見せて」と一言。
訳が分からず「え?」とあほみたいに答える雫斗に「スライムを倒すところを見せて」と百花、もうこうなったら後には引かない百花なので仕方なくスライムを倒すことにしてダンジョンの中に入った。
他のメンバーも何も言わずについてくる、暫く歩いてスライムを見つけた雫斗は振り返って”やるよ”と目で合図して気負わず軽い一撃で倒して見せる、後ろにいるメンバーからの反応が無いのが気になって振り向くと、呆れた顔で恭平が「一撃か」とつぶやいた。
「最近は、スライムを倒す時間より探す時間が長くてさ。どこかにモンスターハウスみたいにスライムの集団がいても良いのに、とか思う時が有るよ」と言う雫斗に。
「そんな不埒な事を考えていると今に痛い目に合うわよ」と弥生が注意する。
「そうね、天井からスライムの集団が雨の様に落ちてくるかも知れないわよ?」と百花が声を震わせて言うと、思わず天井を見上げた雫斗は天井の岩の隙間からスライムが雫の様に、ぽたり、ぽたり、と落ちてくることを想像して身震いする。
「やめてよね、百花が言うと現実に起こっちゃうんだから」と弥生が雫斗と同じように、想像したのか肩を抱きながら身震いして居る、そう、百花の予言的中率は驚異的なのだ。
三人が、空想の中でスライムに絡まれて悶絶して居る中、マイペースな恭平が「百花、ハンマーでスライムを倒してみたかったんじゃ無いのかい?」と、当初の目的を思いださせると。
「そうだったわ。ちょっと貸して」となし崩し的に、トオルハンマーを奪い取っていく。
雫斗はそれだけは何とか死守しようと思っていたのだけれど、スライムの集団にもみくちゃにされている空想でフェイントを掛けられた格好になってしまった。しばらく歩いてスライムを見つけた百花は、スライムに狙いを定めると。
「へいやっ」、「とぉりゃ」、「そりゃあ」、「もう一丁」。と工事現場のおっちゃんの様な掛け声でハンマーを降り抜いていく。
中学生の女の子としては、割と鍛えられている百花だから、ハンマーを降り抜く姿は様になっているが、その掛け声は普通は違和感しか無いはずなのに、なぜかしっくりくるのはどうしてだろうか?。
最初に雫斗が、ハンマーでスライムを倒したときは、25回平均で倒していた、トオルハンマーに代わってから威力は上がったが、今の百花なら半分以下の12・3回ぐらいかと予測してみるが、8回程度で倒してしまった。「面白いわねこれ!、だけど雫斗は一撃でしょう?何がちがうのかしら?」と百花が納得していない様子だ。いやいやいや、百花さん十分凄いって、そのことを雫斗は力説する。
「8回かぁ~、なんかへこむな~。僕は最初の頃は25回は殴っていたよ、いくらスライム特化のダメージがあるとはいえ、その少なさは驚異的だよ」と落ち込んで話すと。
「えっ、そうなの?だけど雫斗は一撃で倒していたじゃない?」と百花。
「ああ、それはスライムの弱点を突いているからだと思う、なんとなくだけど魔核の位置が分かるんだ」と雫斗が言うと、恭平が驚いて。
「スライムの魔核を殴っていたのか、それで一撃で倒せていたのか。見えるのかい?」と聞いてきたので、雫斗は正直に。
「いや。たぶん此処かな~~、っていう曖昧な感じ?、う~~ん感覚的なものだから説明しずらいや」と話す、雫斗自身良く分かっていない物を説明できずにいた。ある時を境にここだと確信してトオルハンマーを打ち込んでいるのだ、しかしここ最近スライムの魔核を外したことが無いのは事実なのだ。
「ふうぅん~。そうなんだ? だとしたら私達も何れは出来る様になるかも知れないわね。はいこれ返すわね、有難う」百花があっさりとハンマーを返してきた、持って行かれると思っていた雫斗は涙を浮かべてトオルハンマーを出迎える。
「大げさね。雫斗の大切な武器でしょう?取る訳無いじゃない」と普通のことをおっしゃる百花。てっきり今日の百花はハンマーでスライムの討伐をするものだと思っていた雫斗は
「えっ?スライムは何で倒すの?」と疑問を投げかける。
「これよ!!」と自慢げに掲げたのは銀色に輝く鞭・・・短鞭だ、本来皮で編み込まれている部分の上にさらに金属の細い線で編まれていて簡単には壊れない様に強化されていた。
「うわ〜、何これ短鞭だよね?ガッチガチに強化してあるね、ロボさんに作って貰ったの?」雫斗に聞かれた百花は自慢げに。
「いいでしょう?、そのままだと壊れそうだからってダンジョンから取れた魔鉄を使って編み込んでくれたの。壊れにくいって事も有るけど強靭だからダメージもそこそこ増えているのよ」と嬉しそうに話す。確かに百花の怪力(馬鹿ヂカラ)に耐えるには此れだけの事をしなければ無理なのだろうけど。すごく派手なんだけどと思いはしても言葉にはしないだけの分別は持っている雫斗だった。
短鞭を使うって事は礫で倒すはずなんだけど、鉄で形成された礫ではコスト的に無理があるように思った雫斗が聞いてみた。
「礫を使うの?倒す数が結構あるから厳しいんじゃないの?」とお値段的にどうなのかと聞いてみた。
「使う礫は周りに沢山あるわ」と言いながら周りに在る小石を接触収納の中へ入れていく。
「小石を使うのか、それならいくらでも使い放題だね」と雫斗は納得した。
「ああ、それと、保管倉庫と接触収納は連携できるよ」と教えてあげる。昨日習得したばかりの保管倉庫だが当然雫斗は色々試した。その中で接触収納と保管倉庫の中身を入れ替えが出来ることを突き止めた、ちょっとしたコツと、重量制限があるが自由に入れ替える事が出来るのだ。
「連携できるってどういう事?」と百花が聞いてきたので、雫斗ちょっとしたパフォーマンスをすることにした。装備収納から取り出したトオルハンマーを振り回して型を決め保管倉庫に収納したと同時に2メートルほど離れた地面の上に、柄を下に立てて保管倉庫から取り出す、当然トオルハンマーは倒れていくが倒れ切る寸前に一本鞭を取り出して絡めとり自分の方へと引き寄せるが、受け取らずにスルーする。トオルハンマーは空しく頭上を越えていくが途中で保管倉庫に収納すると、右手に九節鞭、左手にトオルハンマーを出現させて簡単な型をなぞった後武器を収納して包拳礼を決めて終了した。




