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ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(改訂版)  作者: 一 止
第1章  初級探索者編

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第22話  ダンジョン探索のカギは、1階層?(その1)

 百花と弥生は、悔しさを滲ませて家路についていた。「なによ! あの自慢げな態度。思い出したら一発殴りたくなってきたわ」と百花。”殴っていたでしょう?”とツッコミそうになった弥生だがここは自重して。


 「でも私たちにあの岩を壊せないのは事実だわ。何か良い方法は無いかしら?」と前向きな事を考える弥生。


 「そうね、恭平や雫斗みたいに重い物で殴るのは性に合わないわ。・・・ねえ~、保管倉庫で何か出来ないかしら?」と百花はこれから習得する予定のスキルでの局面の打開を模索する。

 

 弥生は少し考えて「たとえば、重い物を上から落とすとか?」。と言うと「いいわね、それ。でも保管倉庫ってどれだけの重さが入るのかしら?」と百花が疑問を口にする。「どうかしら、やっぱり試してみない事にわ分からないわ」と弥生。


 相談した結果、京太郎爺さんの工房で確認してもらう事にした、百花と弥生はまだスライムの討伐数が10万匹に足していないが、京太郎爺さんやロボさんなら保管倉庫のスキルを習得するための条件が整っているかもしれないのだ。


 しかも工房の敷地には廃品の屑鉄が山積みになっているので、そのくず鉄で保管倉庫に収納できる量を計ることが出来るかも知れない、ついでに重い物を上から落とす武器?の事で、何か良い案が無いか京太郎お爺さんに聞く事にした。


 工房の入り口のわきから工房の中を覗き込むと、京太郎爺さんとロボさんが何やら話し込んでいた。他の工員は見当たらないので、もう帰った後なのだろう、二人に近づき話しかける。


 「お爺さん、少し相談したい事が有るんだけど今良いかしら」と弥生が遠慮がちに聞いてみた。


 「おお、弥生と百花か?もう終いだから構わんが、何かな?」と気さくに応じる京太郎爺さん、ロボさんも興味津々で聞き耳を立てている。


 「新しいスキルで保管倉庫と言うのが取得できそうなの、その使い方で相談があるの」と弥生が言うと、ロボさんが興奮して。


 「おおおお、ついに見つけましたか? 雫斗さんが予言して居たスキルが。どの位の量が入りますか?大きさはどの位迄大丈夫なのでしょうか?」と食い気味に聞いてきた。


 ロボさんの勢いに、顔を引きつらせながら「まだ分からないわ、雫斗も取得したばかりだし、私たちは此れから取得する予定だから、どっちにしても取得した後じゃないと何とも言えないわ」と弥生が若干引き気味に答えると。ロボさんが残念そうに肩を落として「そうですか」と気落ちして答えた、百花は雫斗の名前を聞いて顔を強張らせていた、まだ怒っている様だ。


 弥生は、もしかするとロボさんと京太郎爺さんもすでにスライムの討伐数が10万匹に達しているかも知れないと思い二人に聞いてみた。


 「ロボさんとお爺さん、スライムの討伐総数は何匹位?」。


 「どうでしょう?最近はダンジョンに行っていないですけど、軽く10万匹位は倒しているかもしれません、散々装備収納の投擲と打撃の練度を上げていましたから」とロボさんが言う。


 「それならロボさんも保管倉庫のスキルを取得しているかも知れないわね?試してみる?」と弥生が言うと。


 「待て待て、どういう事じゃ、説明せんか?」と京太郎爺さんが詰め寄ってきた。


 確かに、いきなり言われても理解できないと考えた弥生が、これまでの経過をかいつまんで説明した。


 「なるほど、魔物に固有スキルがあるとは思わなかったぞ?しかも10万匹の討伐でそのスキルを取得できるとは考えもせんかったな」と京太郎爺さんが感心していると。「スライムはそうかもしれませんが、他の魔物はどうでしょう?階層が深くなるにしたがって強さと比例して出くわす頻度が少なくなるわけですから、10万匹の討伐は不可能になりますね?」とロボさんが言うと。


 「其処は此れからの検証次第ね、深層を探索している高レベルの探索者さんが、スライムを100万匹倒して鑑定のスキルを取得したら、知らないうちにすごい数のスキルを使っていました。なぁ~んて事に成っていても不思議じゃないわ、私たちでさえ知らずに毒耐性を取得していたくらいだもの」と弥生が言うと。


 「そうね、5年もダンジョンに通って居る訳だから、その可能性は大いにあるわね。気が付かない内に使っている可能性もあるわ?」と百花が補足する。すると京太郎爺さんが不思議そうな顔で聞いてきた。


 「どういう事だ?その気が付か無いと言うのは?」。


 「スライムの固有スキルに保管倉庫の他に物理耐性があるのよ、あと2階層のケイブスネークの固有スキルには毒耐性というスキルも有るらしいの、でも固有スキルの取得には何も討伐数で決まるわけではないらしいの。その毒耐性と物理耐性だけど私たちも知らずに使っている可能性が有ると言うの、雫斗に指摘されるまで思いもしなかったわ。でも確かにケイブバットやケイブラットを素手で殴っても何とも無いのはおかしいわよね? ケイブスネークにしても最初の頃と比べて毒を受ける事が無くなっていたのはそのスキルのせいみたいなのよ」と言った後、然も残念そうに。


 「今までダンジョンで魔物を倒してきて自分が強くなったからだとばかり思っていたけど、どうもそれだけじゃ無いみたいなの、深層を探索する人たちが化け物じみて強いのも、知らずに色々なスキルを使っているからかもしれないわ」と百花が羨ましそうに話すと。


 「そうね、それを考えると鑑定のスキルが世間に広まると、大変な事に成りそうね、暫くはスライムの討伐ラッシュに成るでしょうね?」と弥生がげんなりして言う。


 「ま~、そうなるだろうな。その対応を考えるのは協会の仕事だ、取り敢えず保管倉庫の検証だな、ところでどうやって使うんだ、その保管倉庫とやらは?」と保管倉庫のスキルに興味を示す京太郎爺さん。


 「そうだったわ、装備収納と同じだけど別の入れ物を頭の中でイメージしてそこに入れるのよ、此れも雫斗の受け売りだけど」と弥生は雫斗が保管倉庫のスキルの発現した時の経緯を話した。京太郎爺さんとロボさんが試してみたが、保管倉庫を使えたのはロボさんだけだった。京太郎爺さんはまだスライムの討伐数が10万匹に達していないみたいで、保管倉庫を使えなかった。


 「残念だが、わしにはまだ使えん様だ。暇を見つけてスライム狩りをせんといかんのう」と京太郎爺さんが肩を落として言う。


 確かに10万匹なら簡単とはいかないが、倒せない数じゃないしかしその十倍の10万匹となると、もはや罰ゲームじみてくる。装備収納の攻撃力を使えば花火で倒すより時間的に早くはなるが、探して歩くのが面倒なのだ。


 「師匠が保管倉庫を使えないとなると、どれだけの量が入るのか検証できないですね。残念です」とロボさん。


 「えええ~検証できないって、どうして?」と百花が驚いて聞いてきたので、ロボさんが答えた。


 「装備収納もそうですけど、たぶん保管倉庫も同じで何かを収納する時に所有者を明確にしないと収納できないと思いますね。つまり師匠が保管倉庫を使えないと、此処にあるすべての物が収納できないという事に成ります、という訳で検証できないという事です」そうだった、装備収納が収納品の所有者を本人に限定するなら保管倉庫も同じである可能性がある。


 試しにロボさんが保管倉庫へくず鉄を収納してみたが出来なかったようだ。「やっぱりできませんね~」とのんびり答えていた。


 「便利そうで、結構使い勝手が悪いわね」と弥生が言うと。


 「見境なく収納できると、大変な事に成るからな、なんでも盗み放題に成ってしまう。そうならん為の制限だろう、まー其れを差し引いても便利な機能だと思うぞ」と京太郎爺さんが言うと。


 「仕方ないわね、保管倉庫にどれだけの重さの物が入るのか分からないと、重力兵器の構想が出来ないわね」と百花が残念そうに言うと「重力兵器?何ですか其れは?」とロボさんが聞いてきた。


 「ダンジョンに此れ位の岩があるでしょう?」と弥生、「そうですね、各階層で見かけますね」とロボさん。


 「その岩に擬態しているモンスターがいるのよ、ベビーゴーレムって言うみたいだけど、襲ってこないし動かないから見分けがつかないけれど。そのモンスター自己回復と自己再生っていうスキルを持っているらしいの、倒したいけど私たち打撃系の武器はないし倒せないのよね」と残念そうに弥生が言うと、はっとロボさんが顔を上げて拳を握りしめた。


 「確かに、私も鍛錬のためにダンジョンにある岩をいくつか叩き壊したことがありますが。何個か壊そうとして、何か背徳的な気がして壊せなかったものがあります。・・・同族でしたか?」とロボさんが考え深げに言うと。


 「ロボさんロボさん、一応モンスターだからね、情けを掛けると死んじゃうよ」と百花が言うと。


 「分かっています。攻撃されたら死にたくないので戦います、でも同族の動かない個体を倒せる自信がありません」としょげ返るロボさん、”本気かな”と思いながらも。


 「でもロボさんも回復系のスキルが欲しいでしょう?」と弥生が聞くと。


 ぐっと拳を握り締めて顔を上げて考え深げに「ほしいです」とロボさんが一言。


 「じゃ~、倒してスキルをゲットしなきゃ。変に同情しているとおいて行かれるわよ」と百花が言う、何処に置いていかれるのかは分からないが、ロボさんは納得したようで。


 「そうですね、所詮はこの世は弱肉共食の時代です。弱い個体が強い個体の糧となるのは必然、倒しましょう」とロボさんが気炎を上げる。なぜか強食が共食いに成っているがそこは気にしない事にして。


 「そこで、倒すための武器がいるのよ。私達にハンマーなんかの打撃系の武器は使えないから、保管倉庫を使って重い物を上から落とそうかな~と思いついたのよ。でも保管倉庫にどれだけの物が入るか分からないと何を使ったらいいか思いつかないのよね?」と百花。


 「なるほど、それで重力兵器ですか?」と、しばらく考えていたロボさんが。


 「分かりました、二日三日ほど時間をください武器と検証が一気に出来そうです。お二人とも鑑定と保管倉庫のスキルの取得の為に、暫くスライムの討伐でしょう?」とロボさんが言うので、どの様な考えが有るのか聞いたが、話をはぐらかされた。”後のお楽しみらしい”、どうも古参のゴーレム型のアンドロイドは人に対して遠慮がない、自分の楽しみを優先するきらいがある。


 「師匠!!、暫く休ませてください。明日は工場に行って直接注文してきます、重量があるので運ぶのに時間がかかりますから」と休暇の申請をしてきた。


 「まー、急ぎの仕事も無いし構わんが。お前は興味の有る物が目の前にあると周りが見えなくなるから、ほどほどにな」と京太郎爺さんが呆れて言うと。


 「有難うございます、師匠。ではお二人とも、準備が出来ましたら連絡しますから」というが早いか、そのまま帰って行った。


 呆気に取られて、呆然としている百花と弥生に「そういう事だ、暫くはスライムと戯れている事だな。わしも午後からスライム狩りだな。・・・ふぅ~」と京太郎爺さんがため息をつきながら言った。


 その夜、食事を終えた雫斗は母親の悠美に鑑定スキルの事を話した「母さん、じつはスライムの事なんだけど」そう言い始めた雫斗を、お茶を飲む手を止めてまじまじと見つめる悠美。

 

 悠美はここ最近雫斗に振り回されてばかりいるのだ、これ以上の厄介事は正直勘弁してもらいたいのだが、聞かない訳にはいかないだろうとため息と共に。


 「なぁに雫斗、またスライムで問題でも起きたの?」と雫斗が話し始めて雰囲気の変わった母親にたじろぎつつ。


 「ええと、問題というか、発見というかスライムを100万匹倒すと、鑑定のスキルが貰えます」雫斗は穏便に事を運ぶ為に、多少おどけてスキルが発現した事を話した。


 「鑑定って、宝石や古い壺なんかの価値を決める鑑定士のこと、何でダンジョンでそんな物がスキルになるの?」と悠美が見当違いの事を聞いてきたので、雫斗は実際に見せる事にした。自分を鑑定したカードを母親の悠美と父親の海嗣に見せると、カードの内容を見た二人は、お互いの顔を見合った後、悠美が呆れた様に言った。


 「ダンジョンカードがメモ帳に状態変化した訳じゃ無いのね、書かれている内容は雫斗のステータスって事?」出来ればメモ帳であって欲しいと、願いを込めた悠美ではあったが、雫斗の憤慨した言葉に、これから起こるであろう騒動を予測して、頭を抱える事になる。


 「母さん、いくら僕でもこんな悪戯はやらないよ。正真正銘、鑑定のスキルだよ!」怒っている雫斗を宥める様に、海嗣父さんが話しかける。


 「まぁ怒るな、母さんも雫斗の事は信じているさ、しかしこう立て続けに新たな発見が見つかると、流石の母さんも対応し切れないからね」そう言いながら、面白そうにチラッと放心状態の悠美を見て続ける。

 

 「ところで、このアルファベットはどういう意味なのかな?強さの指標にしては曖昧だね?」そう聞かれた雫斗自身まだ3人しか鑑定して無い事もあり、データーが揃っていないので分からないのだ。

 

 「どうなんだろう?まだ数人しか鑑定していないから、良く分からないけれど。一応僕より強いはずの恭平は総合力でB−だったからCよりBが強い事に成ると思う」と自信なさげに雫斗が言うと。放心状態から回復した悠美母さんが。


 「ちょっと待って。スライム100万匹って言ったわね?雫斗、あなた3カ月と少しでスライムを100万匹倒したってことなの?」悠美が驚いて聞いてきた。


 確かに、探索者カードの講習を受けてからもう3カ月になる、思えばオーガとの遭遇も懐かしい様な気がするが。それはさておき、放課後のほとんどをスライム狩りに費やしてきた雫斗にとって、もはやスライムはお得意さんである。無理をすれば1時間で数百匹は楽勝なのだ、其れも村の人口が少ない事が起因してはいるが、それでも最近では、倒す時間より探して歩き周る時間の方が長いのが現状なのだ。


 「スライムを倒している武器が優秀だからね、今では一撃で倒せるよ」と自慢げに話す雫斗は、そういえばトオルハンマーを鑑定していない事に気が付いた。


 「そういえば、武器も鑑定できるのかな?」と独り言を言ってトオルハンマーを収納から取り出した。


 トオルハンマーをカード越しに見て鑑定してみると、武器の名前がトオルハンマーになっているのには驚いた、種類の欄には戦槌で書かれていた。そして耐久値が500/580と書かれていて、どうやら武器も消耗するらしい。確かに刃物なら切れ味とかが悪くなるのは分かるが、戦槌だとどこが悪くなるのかいまいち理解できないが、とにかく200を下回ったらロボさんに整備をお願いすることにした。


 スペックはやはりアルファベットで書かれていて、強さの定義があいまいだ。興味深いのは一番下に”スライム特化 ダメージ大”と書かれていた、やはりスライムに対しては強力な武器になっているみたいだ。


 トオルハンマーとダンジョンカードを交互に見てブツブツと独り言を繰り返す息子を呆れた表情で見ていた悠美は、ため息交じりに。


 「雫斗、検証も大事だけど程々にして置きなさいね。明日は学校でしょう?授業中に居眠りはダメよ」とくぎを刺す。


 言われた雫斗は、ハッとして現実に引き戻された。確かにログの解析だけで完徹どころか4・5日掛かりそうなのだ、取り敢えずスライムの固有スキルと鑑定スキルの取得条件をそれぞれ書き出してダンジョン協会に提出することにした。


 自分のタブレットに送られて来た書付の内容を見ながら、悠美は頭を抱えて喚きだしたい気分になってきた、鑑定のスキルだけでなくスライムの固有スキルの物理耐性と、保管倉庫のスキルの取得条件と、ケイブバットやケイブスネークの固有スキル、気配察知や毒耐性迄書かれていたのだ。今でさえ接触収納を覚醒させるため多くの探索者が1階層のスライムを奪い合っているのだ。比較的人口の少ない田舎の村は穏やかだが、都会ではトラブルが尽きないらしい。その対応に追われて都会の探索者協会の職員は一階層をゾンビの如く、ふらつきながら徘徊しているらしいのだ、


 これ以上協会の職員の仕事を増やすと協会自体が機能不全になりかねなかった。そこで悠美は鑑定とスライムの固有スキルの取得に関して、日本のダンジョン協会の上層部には報告しない事にした。下手に上にあげると、またダンジョン庁から出向してきたバカな役員がリークしそうなのだ。そんな事に成れば協会だけでなく、社会全体がひどい状態に成る事は考えるまでも無い。


 ふと見ると、雫斗が報告したからもう終わったと、のんきに海慈父さんと笑いながら話している。それを見て悠美は雫斗達も引き込むことに決めた、取り敢えず明日は雑賀村の長老たちを集めて此れからの事を話し合う事にした。

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