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ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(改訂版)  作者: 一 止
第1章  初級探索者編

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第16話  ダンジョンからの恩恵は、褒賞では無く信頼を勝ち取る事だと思い知る。

 お金持ちに成りそうだと言われた雫斗が戸惑っていると、海慈父さんに呼び止められた。


 「母さんは明日の昼頃帰ってくるそうだ、それでお前たちのパーティーメンバーとスライム討伐の方法とカード収納を発見した事への報奨金の打ち合わせが有るそうだから、学校の帰りに役所へ来る様に言っていたぞ」。


 「うん、わかった皆に話してみるよ。じゃーお休み父さん」雫斗はそのまま部屋へと向かうとベッドへ入り眠りについた、自覚は無かったがかなり疲れていたみたいだ肉体的にも精神的にも。


 翌朝、普段どおりに起きて学校へと向かう雫斗だったが、気後れているのか若干足の運びが遅い、その為教室に入るのが何時もより少し遅れた。すでに百花と弥生は来ていて他の女の子達と話をしていた。


 教室に入った雫斗に向けられる、女子の視線の鋭さは気のせいだろうか。顔が引きつるのを何とか抑えて、恭平の元へと歩いていく。周りの男子も何かを感付いたみたいで遠巻きに眺めている。


 「おはよう雫斗、昨日はお互い大変な目にあったな」普段どおりに話す恭平の言葉に、いつもながら親友の鈍感・・違った心の大きさに救われた気分だ。


 「おはよう恭平、そうだ今日の放課後役所に来てほしいそうだよ、パーティーメンバーの報奨金の話が有るからって、お袋からの伝言なんだ、そこで・・・」と言いよどむ雫斗に気遣って。


 「百花達には俺から話そうか?」と恭平、流石分かる人は違う。


 お昼休みに恭平と話していると、百花が弥生を連れ立って歩いてきた。弥生の口角が若干上がっているのは、おそらく弥生の思惑どおりに事が運ぶのだろう、取り敢えず身がまえた雫斗に。


 「昨日の事は謝るわ。やりすぎだったって、でも雫斗にも落ち度は在ると思うわ」と互いに至らない事があったでしょうと言ってきた。百花にとって精一杯の謝罪なので、此処で拗らせる訳にはいかない。


 「分かっているよ、僕も隠していたのは悪かったって思っているし謝るよ。ごめんなさい」雫斗が謝って来たので、百花も安心したのか。


 「いいわ、飴玉を見るたびに思い出すのは嫌だから、此れで手打ちでいいわね?」と此の事はもう終わりと宣言した。


 ”飴玉の為かい?”と思いながら、何故か謝られている気がしないと思いはしたが、言葉にしないだけの分別は持ち合わせて居た。


 「うん!、それでいいよ。・・・役所に行くことは聞いた?、多分パーティーメンバーの報奨金の分配だと思うけど、均等割りでいいかな?」そう言う雫斗に異を唱える百花。


 「ダメよ、私たちは何も考え出して無いもの、その報奨金だかを受け取れないわ」と拒否した。


 「でも、検証に付き合ってもらったし、これからもお願いするかも知れないから、やはり受け取ってよ」と皆の成果だと主張する雫斗。


 「分かったわ、私たちは雫斗の言う通りにしただけだから、1割ずつでいいわ。残り7割は雫斗の取り分よ、皆んなもそれで良いわね」と恭平と弥生に確認する、二人が頷いたので此れは覆せないと思った雫斗は、折衷案を出す。


 「分かったよ、じゃーその中から2割をパーティ口座に入れるね、これから何かと入り用になるかも知れないし」そう言う雫斗の言葉に百花は少し考えて。


 「いいわ、雫斗がそれでいいなら構わないわ」と百花が他のメンバーの了承を得て代表して答えた。


 「ところで雫斗。あなた弥生に収納を使った投擲のやり方を教えたそうね?」もうこの問題はこれで終わり、とばかりに話題を変える。しかもなぜ私にも教えないのかと言いたげに聞いてきた。


 「あの場にいたのが弥生だけだったし、ハンマーの修理には収納の機能を説明しないといけなかったから弥生に話したんだ、それに弥生の方が習得するのが僕より早かったよ」何気にコツは弥生に聞いてくれと暗に伝えた。


 願い違わず「弥生、どうやるの?」と百花は弥生に聞いていた。


 弥生は少し考えて「う~ん、・・・収納の中の礫が勢いよく飛び出して行く感じで、投げるとき指先から”ビィシュッ”て飛ばすの」と投げる動作を交えながら弥生が話す。


 ”あっ!、こいつ説明が下手だわ”と雫斗が思っていると、少し考えて「分かったわ!」と百花。


 ”その説明で分かるんかい?”と突っ込みそうになる雫斗だったが、恭平が涙目でこちらを見ているのに気付いて「同志よ!」と握手を求めた。


 「凡人は凡人どうし、努力で補おう」そう言った雫斗の手を、両手で握りしめ”うんうん”と頷く恭平、芝居じみた男子の行いに軽蔑の眼差しを向けていた百花が、軽く投げる動作を始める。いやな予感を感じた雫斗が。


 「百花、此処で試したら駄目だよ、教室が無くなるよ」と忠告する。


 「やっ、やらないわよ、やる訳無いじゃない」とビクッと肩を竦めて声を震わせて言う百花。


 ”あっ、こいつやる積もりだったな?”と思った雫斗だったが、そこは追及せず。


 「弥生はやったよ、工房の防音壁の土塁を根こそぎ吹き飛ばしていたから、同じ事したら駄目だよ」と弥生の昨日の所業を話す。


 「あっ、あれは壁は壊していないし、土ならまた盛り直せば元通りよ」と言い訳を言うが、雫斗は繰り返し忠告する。


 「試すならダンジョンの中でやってよね、ダンジョンの外でやると地形が変わるよ」。


 「分かったわよ、ところで皆は今日はどうするの?」流石に百花も投げる動作をやめて、これからの事を聞いてきた。


 「役所に行った後? 僕は家に帰って調べ物かな、ハンマー以外に使えそうなものが無いか探してみるよ」と言う雫斗に。


 「また何か変なものを探し出して来る気じゃ無いでしょうね?、シャベルとかバールだとか、それは道具であって、武器じゃ無いからね」と百花がやめてくれと言う。


 百花は誰であれ槍や剣といった、きちんとした武器を使って欲しいのだ。百花の趣味も有るのだろうが、雫斗の感覚では敵を倒せるのであれば、それは武器の機能としては十分すぎると考えているのだ。


 「シャベルなんかは一昔前の軍隊じゃ立派な武器だよ、それに安いしね」と大真面目に話す雫斗に、言う言葉を見出せないでいる百花だった。


 「私は家に帰って礫の試技かな、爺ちゃんに言われているし」と弥生が言うと。


 「私もいっていいかな?」と百花が同行を願い出るがあっさりと拒否された


 「駄目よ!、百花ちゃんがやると壁が壊れてしまうわ」そう言われて顔を膨らませている百花に。


 「今日は、ダンジョンで小石を使った礫の練習でもしているんだね」と雫斗が言う。


 「恭平は今日もダンジョンに行くんでしょう?」と百花が聞いているどうやら同行者を募って居るらしい。


 「勿論、昨日の岩を砕いた技を習得するつもりだよ」と恭平はやる気に満ちている。


 お互いの予定が決まったところで昼休みの時間が終わり、午後の授業へと入って行った。


 放課後、役所に着いた4人は会議室へと通された、しばらく待たされた後、入ってきた村長(悠美)が話しかける。


 「ごめんなさいね、昨日一日村を離れていたから決算書類がたまっちゃってね」と言いながらソファーに座ると、雫斗達を見回して。


 「あなたたち、パーティ名は決めたの?」と聞いてきたのですかさず雫斗が。


 「斎藤百花と愉快な仲「ガッゴン」、・・いってぇ~~」最後まで言い切る事が出来ずに轟沈した。


 百花に後頭部を思いっきり殴られた雫斗は”冗談なのに”とブツブツ言いながら後頭部を抑えている、母親が目の前にいるのにお構いなしである。


 「Saigamura・Dungeon・Searcher(雑賀村・ダンジョン・シーカー)の頭文字を取って、”チームS・D・S”でお願いします」と百花、ほかのメンバーが何も言わないのは、雫斗以外のメンバーで決めたみたいだ。軽い疎外感を感じながら雫斗が拗ねていると。


 「あなたいつも別行動でしょう?、たまには一緒に行動しなさい」と冷たく当たる百花さん。


 「うん、良い名前だねすごく良いよ」とから元気の息子を可哀そうにと同情の眼で見ている悠美母さん。


 「えーと、パーティ名は”チームS・D・S”でいいのよね?」と話を無理やり戻す悠美。


 「ダンジョンカードの機能である、収納の発現条件の発見申請の報奨金なんだけど、分配方法は一律均等で良いかしら」と悠美が聞くと、すかさず百花が事前に決めたとおりに話す。


 「いえ分配は私と、弥生、恭平は1割で、雫斗は5割、残り2割をパーティー口座へお願いします」。


 「あら、決めていたのね、えらいわー」と言いながら書類に書き込んでいた悠美母さんが、百花の前に書類を出して。


 「確認して、名前を書いてね」と促すと百花は目を通して名前を書き、ほかのメンバーに回す。メンバー全員が確認し署名したのを見届けて。


 「一つ目の案件は、此れで終わりね。次は百花さんの新しいスライム討伐の申請なんだけど、検証した結果、有効性が確認されたの。それで報奨金の受け取りなんだけど、企業コンペで取得した企業が出た時点で、特許料の契約と商品化したその商品の効能評価で決まるらしいのよ、だからしばらくかかりそうなの」という悠美。


 「私のスライム討伐の申請?」と疑問を口にする百花。


 「そうよ、圧縮空気を使ったスライムの討伐方法の申請よ、あなたが考えた事でしょう?」と悠美がほかのメンバーを見ながら問いただすと、疑問の表情を浮かべる人に交じって脂汗を流している人が一人。注目を集めた雫斗が、おずおずと話し始める。


 「前に百花ちゃんが言っていたじゃないか?スライムの横で手押しポンプで空気を送るのかって。お母さんにいきなり聞かれたから、咄嗟に答えた事なんだ」深いため息をついた悠美が。


 「分かったわ、此れはパーティー案件にしましょう、それでいいわね」と”余計な仕事を増やしやがって”という様に強い口調で雫斗に聞いてくる、雫斗がうなずくのを見た悠美は。


 「じゃー圧縮空気を使った討伐方法の件は後日という事で、これで要件はかたづいたわ。此れから皆はどうするの?」とこれからの予定を聞く悠美母さん。


 百花が代表して答える「私と恭平はダンジョンで収納を使った攻撃方法の鍛錬と、弥生は京太郎お爺さんの造った、その為の武器の試し撃ちだったわね、雫斗は家で調べ物らしいわ」。


 「収納を使った攻撃方法?どう言う事?聞いていないんだけど、説明して」悠美が聞き慣れない言葉に反応して問いただす、そう言われて百花が雫斗を見る、他のメンバーからも注目されて、またしても気まずそうに雫斗が答える。


 「収納から取り出して、普通に叩いたり投げたりしたダメージより、取り出す瞬間のイメージと、叩いたり投げたりした瞬間の動作のタイミングが合うと、威力が数倍になるんだ」と話し終えた雫斗の顔を見ながら悠美はため息をつくと。


 「分かったわ、収納に関して出来ることは全て動画に収めて報告しなさい、他には無いわね?」と悠美にもうこれ以上のごたごたは御免だとマジマジと見られた。


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