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ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(改訂版)  作者: 一 止
第1章  初級探索者編

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第15話  思惑と欲望の果てに在るのは色即是空?、空即是色?。

 朝の早い時間に、雑賀村の売店へと赴いた悠美は、開店前の準備中の札をかけている店内へと入っていった。丁度店を開けようとしていた吉川さんに尋ねる。


 「吉川さん、うちの息子が預けていた花火は有るかしら?」。


 朝早くに来店した村長に、本当は在庫処理をして居なければいけない物を、無いかと問われてびっくりした。多少ドギマギしながら「在りますよと」平常を装って答えたが、内心不備を指摘されないかとびくびくしていた。


 「一ケース戴けないかしら、確か在庫処分品だと聞いたのだけれど。後これにサインをお願いしますね、処分品だとしても一応のけじめを付けなくてはいけませんから」と悠美が一枚の紙を渡してきた。


 正規の書類では無く覚書の様な物だったので、迷わず名前を書いて、水中花火の箱を小分けした箱で渡そうとすると、なんと一ケースだと言う、疑問に思いながらもそのまま取り出すと村役場の警備をしている田代さんが運んでいった。何かやばい事に為って居ないか心配になった吉川さんだった。


 村役場の社用車を使って花火を受け取りに来た悠美はそのままヘリポートへ向かう旨運転していた田代 宗次郎に伝えた。彼は村役場の警備員をしている70絡みの男の人で、雑賀村の古株の一人だ、息子に畑の管理を任せて悠々自適に余生を過ごしているひとりだった。


 「どうしたんだい悠美ちゃん。いきなり朝早くに現れて、車を出せとは穏やかじゃ無いね」とからかいながら聞いてきた。父親の敏郎よりだいぶ年上だが昔から知って居る気のいいおじさんなのである。


 「本当に勘弁してほしいわ。面倒事はあまり好きじゃ無いんだけど,喫緊にやらなくちゃいけなくなったのよ」と言葉を濁す。


 「ほっほう?。 もしかしてダンジョン絡みかい? 悠美ちゃんがこれ程慌てるとはよほどの事らしいね」と根ほり葉ほり聞いて来そうなので。


 「詳しい事は旦那に聞いてくださいな、今日の夕方には確認して終わって居るはずですから」と海慈に丸投げにする事にした。辺境の村では娯楽に乏しい、ちょっとした事件は暇を持て余している爺様ばあさまには格好の暇つぶしに為るのだ。


 ヘリポートに到着した悠美は探索者協会名古屋支部の屋上ヘリポートに向かうよう指示を出す。一般の人は使う事が出来ないが、協会関係者と自衛隊は無条件で使う事が出来る。悠美は斎賀村の探索者協会支部長なので特権を使う事にしたのだ。


 名古屋支部に到着した悠美は会議室へと通された、そのに集まって居るのはこの地域のダンジョン関係の有力者だ。名古屋支部長の菊村を始め、名古屋に籍を置く主なクランのリーダーが3名と、自衛隊のダンジョン攻略群の名古屋地区を任されている指揮官の吉村 盛儀と、なぜか悠美の兄の武那方 敏一がいた。


 彼はこの近くで武道場を営んでいる、その関係で探索者協会からの依頼で希望者に護身術などを教えていて、協会支部の理事を兼任しているのだ。


 「やあ、妹よ。何か物凄い発見があったそうじゃ無いか、呼ばれたという事は、今から詳しく教えてもらえるのかな?」と切り出した。一昨日花火でスライムが討伐出来る事を報告したばかりなのだ。


 「ええそうよ。頭が痛く成りそうな問題かもしれないわ、準備ができ次第報告するわ」そう言って荒川 優子を確認すると、クランリーダーが集まって居る集団の方へ歩いて行った。


 「あなたが荒川さんね。うちの支部の探索者と息子を救ってくれて感謝するわ。本当に有難う御座いました」とお礼を言う。


 いきなりお礼を言われて面喰った優子だが、この間オーガに襲われそうになっていた子供達の事だと思い出した。


 「とんでもない、魔物の駆除は私達の責務ですから、礼には及びませんよ。それよりこの会合はどういった趣旨なのでしょうか?。・・・あなたが発起人ですか?」とクランリーダーを代表して強制的に集められた理由を問いただす、多少迷惑そうな様子だ。


 「これからのダンジョン攻略に必要な情報だと思いますよ、期待していてください。・・・ああ準備が出来たようですね」と正面のモニター前へと歩いて行く悠美。


 名古屋支部の協会本部に、主だったクランのリーダーが集まって居るのには訳が有る。この近くに昨日出現した新しいダンジョンの調査と周りの警備を兼ねて、ダンジョン攻略群の自衛隊員と、深層攻略のエキスパートのクランが集められていたのだ。


 此れから其の問題のダンジョンに、挑もうとした矢先の収集で少し不満が有ったのだが、ダンジョン攻略に有利な情報とあっては、聞くしか無いかと思い直した。


 正面の大型モニター前に移動して来た悠美は、持ち込んだノートパソコンをモニターにつなぐ。それから昨日雫斗と海慈の三人でまとめた資料をモニターに映し出しながら、説明を始めた。花火によるスライムの討伐では、多少驚いた人がちらほらいたが、ダンジョンカードによる収納の話に為ると、驚愕を以て質問攻めと成って居た。懐疑的な人もいたが探索者にとって切望の機能である事には違いない。


 「本当にそのような機能が此のダンジョンカードには在るのですか?。 にわかには信じ難いのですが」と自衛隊の吉村が聞いてきた。


 「今日の午後、うちの息子のパーティーと夫が確認を取りますが。花火の現物を持参して来ていますので、此れから確かめるつもりです。皆さんはどうしますか?」と悠美が聞いて来る。そう言われて否という人は此処には居ない。丁度この近くにダンジョンが有る事だし、確かめる事にした。


 花火自体が少ない事も有り、慎重に確認する事にした。要するにスライム100匹の討伐で収納が使えるようになるという情報は、今の所雫斗の主観である為、各々で検証する事にしたのだ。


 二時間後。会議室に戻ってきた人達が、残り少ない花火の争奪戦を始めそうな勢いに、予測して居た悠美が待ったを掛けた。


 「此の事は暫く伏せておこうと思います、理由はスライムを短時間に倒す事の出来る花火の生産が無いまま発表すると、収集が付かなくなるからです。ここに居る私達でさえこの有様ですから押して知る様な物です」と宣言する。此処にある花火の使用を正当化しようとしていた人たちは、顔を見渡して納得するしかなかった。


 すぐさま、水中花火の製造元に出来るだけの生産をお願いして、悠美は残った花火と共に、東京にある日本探索者協会本部に向かう事にした。そして同行を申し入れてきた菊村と共に、リニア中央新幹線に飛び乗ったのは正午に為る前の事だった。


 「それにしても、雫斗君はよくこの様な事を思いつきまたね。偶然にしては出来過ぎなように思うのですが」と菊村がリニア新幹線の車内で駅弁を食べながら世間話をする様に聞いてきた。


 「本当にそうですね。スライムを討伐する方法ならまだ納得できますけど、収納迄見つけてくると思いませんでした。私の息子では在りますけど、何かとんでもない事をしでかしそうで心配で心配で」とため息を付く悠美。


 雫斗達がオークやオーガに遭遇したと聞いた時は恐怖に失神しそうになったが、それとは違う胸騒ぎがして収まらない。気丈にふるまってはいても、自分はやはり普通の親なんだと実感している。


 「お任せください、雫斗君は立派な探索者ですよ。私どもが全力でお守りしますから安心してください」と菊村。有能な探索者を囲い込もうと画策する日本政府対して、雫斗を守っていく事の重要性を一番理解しているのは彼かも知れなかった。探索者協会本部に政治家が天下ってきている人間は何人かいるが、探索者を保護する事に関して妥協しないのが協会の本質だ。


 例え何が有っても、協会が雫斗を政府に売る事は無い。いやたとえ雫斗が収納を発見した事が政府に露見しようとも、守り抜ける自信が菊村にはあった、それこそが探索者協会のあるべき姿なのだから。


 協会本部でも名古屋支部と同じような反応をしていたが、誰でも収納を発現する事が出来ると分かると、政府から出向して来たお偉いさんが、花火が少ない事を問題視して来た。要するに残りの花火を全部持って来いと言ってきたのだが。


 もうすでに雑賀村で検証に使われているのだと伝えると、それは問題だと言って責任を取れと言ってきたので、「あほか!!」と突っぱねて、名古屋へと帰ってきた菊村と悠美だった。


 名古屋支部に帰り着いた悠美を待っていたのは、かつて水中花火を製造販売していた会社の社長の杉内であった。どうして此処にと疑問を口にすると。


 「いえね、いきなり出来るだけの納品をと言われましてね、少し疑問に思って詳しい話を伺いたくてお邪魔した次第ですわ。私としてはこの商品には思い入れが在りましてな、売り上げが伸びずに商品としての価値を諦めておりましたら、別の使い道が有ると言うじゃ無いですか。それでもダンジョンカードの取得に使う為という。しかし其れだけだとインパクトに欠けるので大量生産は無いなと諦めておりましたのですわ。で、今日朝早くにいきなりの大量注文でしゃろう。これは無いかが有ると思いますわな」とニコニコ顔で揉み手をしながら社長が言う。


 悠美は”商売毛を出したか”とウンザリしたが、隠して後々問題が起きても面倒なので、此処で決めてしまう事にした。


 「そうですわね、これは此処だけの話として聞いてください。後々情報が漏れたりしたら訴訟に成りかねませんから、そのつもりでいてください」と強い口調で言う。


 「え!!、そんな大層なお話ですか」と考えこんでいたが「いいでしょう、お話しください」と聞くことにした様だ。悠美がその花火の特性では無く、スライムを倒したことによる恩恵を強調して話すと。


 「えっ。そんな大事に為って居るんですか?」と言って杉内社長は頭の中でそろばんをはじく。この名古屋支部だけでも探索者は数万に規模に成る。単純に5万人だとしても一人最低100個の花火を使うとして5万×100となる、100万本だ一本30円だとしても3千万円は硬い、これは少なく見積もっての計算だ、全国と為ると二桁は違うだろう。ましてや全世界と為ると。そこまで計算してウハウハになった時に。


 「言っておきますけれど、その花火を使ったスライム討伐を宣伝に使うというのなら。探索者協会を通していただく事に為ります。その花火の使い道を示唆したのはその探索者ですから、我々としては彼の者の権利を守る義務が有りますので」とあっさりと悠美は杉内社長に現実を突き付けた。


 「そんな殺生なと」青い顔で悠美と直談判しそうな勢いに、これは今日中には斎賀村に帰れないなと、思いを巡らせた。


 悠美と杉内社長の交渉は夜更けまで続く事と為るのであった。


 




 


 




 


 




 




 

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