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箱の中身

 エステルはすがるように父が残してくれた箱を手に取って見つめた。


(本当に困ったとき、今がそうだけど、でも、私はお父様の本当に子どもじゃなかった。そんな私がお父様の残した大事なものを見る資格があるのかしら?)


 しばらく悩んだのち、エステルは思い切って箱を開けてみることにした。


 中に入っていたのは一通の手紙。


『愛する娘、エステルへ』


 封書の表に書かれたその字は間違いなく父の直筆だった。エステルは中の手紙を取り出し目を通す。


『かわいいエステル。この手紙を読んでいるお前は一体いくつになっているのだろうか? できることならこの箱に手をかけることなど一生起こらないことを望むが、これに目を通しているということはそういうわけにもいかないということだね。

 お前の困っていることが天災など人の手に余ることではなく、人に関することならば私はお前の力になってくれる者を紹介することができる。


 ミュルタイル通り33番地 ドルチェディティ。


 持ち帰りの焼き菓子を販売する店で、中に飲食するスペースもある小さい店だ。


 そこでコーヒーとシフォンケーキを注文し、最後に「ミモザ色のクリームをたっぷりつけてください」といいなさい。そうすれば、私の昔の知り合いが出てきて力になってくれるはずだ。


 エステル、この助言がお前の悩みを解決する一助になることを願ってやまない。


 私はいつでもお前の味方だよ』


 懐かしい父の声が手紙から聞こえてくるような気がした。


(お父様、私はまだあなたにすがってもいいのですか?)


(許してください、母たちが何を目的にしているのかわからないけど、叔父様たちやサイモン様にも悪い影響を与えるかもしれないのです。それを防ぐためにもどうか頼らせてください)


 その翌日、エステルはいつもより質素ないでたちで上級貴族があまり立ち寄らない菓子ショップに足を向けた。


「お嬢様、何もこのようなところで……」


 同行する使用人も厳選しいつもより少なくしたが、古くから使えているアガサが店の前で心配そうに言う。


「お友達から聞いた隠れた穴場なの、もしかしたらちょっと時間がかかるかもしれないけど心配しないでね」


 アガサをなだめてエステルは単独で店に入っていった。


 店の格から言えば、少し上等なものを見につけた上品な女性客。顔もベールで隠されているので店員には年齢もよくわからない。エステルはそこで父の手紙に書かれた通りの言葉を発し、サーブされたものを食べながら待つことにした。


 味は素朴だが悪くない。シフォンケーキをあらかた平らげて、残ったコーヒーにエステルが口をつけようとした時である。


「お客様、当店の味はいかがでしょうか?」


 店長らしき中年の男がエステルに声をかけた。




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