両親の離婚の理由
「どうしたんだい、エステル、体の調子でも悪いのかい?」
夕食時、あまり食が進まないエステルに叔父が声をかけた。
「いえ、余りおなかがすいていないもので……」
突然訪れた『悩み事』のせいだが、エステルはごまかした。
「エステル姉さま、チョコレートもそんなに食べなかった」
「出かけた先でいっぱいおやつを食べたんでしょ」
シリルとリュカが口々に言う。
「あなたたちこそ、ちゃんと食べなさい。お菓子の食べ過ぎで夕食をちゃんと食べないのはだめって言ったでしょう」
母親である公爵夫人が息子たちに注意した。
「すいません、疲れているみたいなので今日はこれで……」
エステルは夕食にほとんど口をつけないまま、食堂を後にしそのあと自室に引きこもった。
これからあの母と夫である男にどう対処していけばいいのか、エステルが悶々と悩んでいると、ノックの音が聞こえた
(使用人にはもう誰も入ってこないよう言いつけたはずなのに……)
いぶかりながら、どうぞと言うと叔父が入ってきた。
「休んでいるというのにすまないね、ただどうしても気になることがあってね、今日は使用人を先に返してどこへ行っていたんだい?」
「あ、それは……」
「同行した使用人の中に君のお母さんの顔を覚えていた者がいてね」
「申し訳ありません、あの人たちが急に話しかけてきて!」
「ああ、それは使用人の証言から確認が取れているよ。責めるために言ってるんじゃないからね。ただ、それから少し元気がないようだから何があったのかと思ってね」
「……」
「兄夫婦が分かれた原因は大まかには聞いている。あの女は君を王族に嫁がせるために虐待まがいの教育を施したそうだね、それを見かねた兄が……」
(そうだったわ、あの当時私は……)
叔父の言葉で当時のことをエステルは思い出した。
八歳くらいの頃から公爵家の娘であるエステルは、王家の妃候補に挙げられ、正妃が生んだ二人の王子と側妃が生んだ一人の王子、その誰かの妃になるべく話が進められていた。母は何としても世継ぎの第一王子の妃の座を射止めるため、エステルに過剰なまでに厳しい教育を施した。
「彼女と会って大丈夫だったのかい。当時の君は母親の姿を見るだけでひきつけを起こすこともあったそうで、それで兄はもう彼女と君を一緒にしておけないと」
「いい気分ではありませんでしたけど、私ももう子供ではありませんから」
「そうかい、ならいいのだが……。君は兄が残したたった一人の忘れ形見だ。ちゃんと幸せになってくれなければ、私も兄に顔向けできないからね」
その『兄』の血を実は自分が引いていないことを、この優しい叔父が知ったらどんな反応を示すだろう。エステルは思い悩むが早くひとりになりたかったので、無理に笑顔を作って叔父を安心させることにした。