知られていた秘密
「それがどう言うことかわかっていっているの?」
エステルは声をあげる。
「あなたの夫のサイモンが王位につけば、些末な問題になるわ」
「そうだよ。それまでは多少辛抱しなきゃならないこともあるけど」
「早くあの腐れ王妃の鼻をあかしたいわ。そのためにあなたを産んだんですもの」
「その事情をくんでくれる伯爵はいい人だよ、信頼できる」
母と『父』は口々にエステルに言う。
それを聞いてエステルは心の中で大きくため息をつく。
誰がこのたくらみをそそのかし、誰が乗せられたのか、そんなことはどうでもいい。この夫婦と二重スパイの外国人貴族、この三人が自分を利用して手前勝手なたくらみを実行しようとしていることが問題なのだ。
(三人とも排除しなければサイモン様にも公爵家にも迷惑がかかるわ)
エステルは再確認した。
「それから、言い訳するわけじゃないけど、君が亡き公爵の血をひいてないことは僕たちがペラペラしゃべったわけじゃないよ。僕と君の顔を見て実の親子だって気づかれちゃったんだよ。鋭い人だね、シュピオーネ伯爵は」
アーブレーのしれっと放った言葉にエステルは愕然となった。
(やっぱり鋭い人にかかるとそうなるのだわ。あら、でもそうだとしたら、ソルフェージュ侯爵は? 情報機関のトップのかたが調査の際にこの男を見て何も感づかないことがありうるかしら?)
そのことに思いいたったエステルはいてもたってもいられなくなり、母の居宅を後にすると、以前調査報告を受け取った宝石点へ足を運んだ。
「あの、経営者の侯爵様をお願いします」
店の者に取り次ぎをたのみ、通された個室で待っていると侯爵が顔を出した。
「どうしたのですか、お嬢様。店の者によるとずいぶん息をきらせて駆け込んで来られたようで……」
「先触れもなく申し訳ありません。でも、どうしても確かめたいことがありましたので」
「ほう、それはなんでしょう?」
「調査の際にあなたは母の夫となった人物を目にしたと思われますが、その時、何も気づかなかったのでしょうか?」
エステルの質問を受け侯爵は目を見開き、そしてしばし沈黙した。