事実に見えることの裏
「落ち着いて、王子が望んでいるかどうかが問題じゃないんだよ。王子が兄王子らをおしのけて王位についてくれれば、シャウール国としては有利だからそうなってほしいなと思うやつがそれなりにいるってことが問題なんだよ」
侯爵がエステルをなだめながら説明する。
「そ、そうですわね……」
エステルは興奮したことを恥じた。
「シャウール国としてはそう考えても仕方がない、だから、ちょっとばかしのサイモンびいきは王家も多めに見ているんだけど、その動きが激しいヤツは要監視対象となる。その中の一人がヴィルの新しい夫と懇意にしているわけだな」
「やっぱり母は利用されているということですか?」
「それはさっきも言ったけどどうかな? ヴィルの性格だと昔のことで現王妃、ジョシィのことを逆恨みしてそうだし、彼女の息子を差し置いて娘の夫となる別の王子が王位についたら、これはいい意趣返しになるだろう」
(考えられないことではないわ。むしろそっちの方が説得力がある)
幼いころに受けた母の苛烈な教育。
その母の様子を見て感じた違和感、あの当時はうまく言語化できなかったけど、娘を『道具』として扱っているふうがあった、自分の復讐(完全に逆恨みではあるが)のための。
「サイモン様がそうであるように私も王位には興味ありませんわ。そのシャウール国のスパイみたいな人物が接触してきてもはねのければいいのですね」
「事はそう簡単にはいかないぜ。今言ったのは表向きの話だ、事実はさらに裏があった。一見するとシャウールへの愛国心が強すぎるがゆえに暴走しがちな一貴族の言動に見えるが、ヤツはサブリック国とのつながりがあったんだ」
サブリック国とはこの国と長年対立している国であり、シャウールも同様で、この国に対抗するために二国は同盟を結んでいた。
「いやあ、このからくりを暴くのには苦労した。ヤツにとってはサイモン王子が王位につくのではなく、そうやって王位継承でもめてもらうのが重要なんだよ。そうなれば、今一番力を持っている王妃側は自分が生んだ子ではないサイモンをプッシュするシャウールにも良い感情を持つわけがない。要するに王位継承でもめて内乱でも起こればめでたし、シャウールとの仲がこじれてもめでたしというわけだ」
「そんな!」
「そういう疑心暗鬼の種をまけさえすればいいだけだから、おそらくヴィルを通じてそいつが君にも接触を図ってくるだろうね」
「つまり、母にその者を紹介されて会うだけで、私はこの国に争いの種をまくことになると……」