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婚約者のサイモン王子

 ソルフェージュ侯爵の調査結果が出るまでの間に、エステルは婚約者のサイモン王子と王宮で会う約束もあった。


 サイモン王子の母は側妃であるが、隣国シャウールの王女で友好の証として嫁いできた。国王にはすでに正妃がいて側妃をめとるつもりはなかったようだが、政略として受け入れねばならなかったようだ。サイモンを生んで数年後、母の側妃は望郷の念に堪えられず故国へ帰ってしまった。それが許されたのは彼女の病状がかなり悪かったことと、すでに王子が生まれていたことが大きい。


 母の愛情を知らぬ点ではエステルと似た者同士とも言えよう。


 西の庭のあずまやを待ち合わせの場所とし、二人はそのまま庭園を散策し始めた。


「あの、サイモン殿下……」


 エステルが言いにくそうに言葉をつなぐ。


「なんだい?」


 この国では珍しい黒髪黒い瞳の王子がエステルを見つめる。


「今さらですが、本当に私が王家に嫁いで問題ないのでしょうか?」


「また、そんなことを。僕が強く君を望み、国王陛下もそれを了承された、それのどこに問題が?」


「私は一度妃教育から脱落した身ですので……」


「ああ、まだ八歳だった君が過剰な教育を押し付けられたがゆえに心身のバランスを崩したというのは聞いている。でも、現在の君の教養は王族に嫁ぐうえで何ら問題はない。要するに当時の教育方針が間違っていただけで、妃として迎えるにあたって問題ないと判断されたんだよ」


 サイモン王子はエステルの不安を払しょくしようと熱を超えて説明する。


(ほかにふさわしい人材がいなかったのかしら?)


 一度妃候補から外れた自分をふたたび迎えようとする王家に対しエステルは思う。


 実はエステルは知らないが、彼女に一目ぼれをしたサイモンは、彼女が妃候補から外されていた原因を自ら調べ、エステルの素養を再度調べてもらうことを強く国王夫妻に要望していた。それで公爵家は彼女のペースに合わせながらもハイレベルな教育を施していたので、資質に問題なしと判断されこの婚約が調ったといういきさつがある。


「君は自分を過小評価しすぎるきらいがあるね」


 サイモンは言う。


(それをおっしゃるならサイモン様の方だわ。側妃腹でなければ、彼こそが王位を継ぐ資質が一番大きいのではとひそかにうわさされている。そんな難しい立場の彼に、爆弾とも言っていい母を持った私が結婚してもいいものか?)


 エステルは再び思い悩む。


 そんなエステルの顔を覗き込み、緊張をほぐすため彼女のほほを何度もなでるサイモンであった。



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