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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

本当に見た夢の話

作者: 木こる

夢の中で私は仕事をしていた。

現実の職業とは無関係の事務処理だ。

何か台帳のような物に数字を書き込む作業だった。

それが何を表す数字なのかはわからない。


突然、外から女性の悲鳴が聞こえた。

夢の中の私はなんの迷いもなく現場へ駆けつけ、

女性を襲っている暴漢に飛び掛かった。


自分の中にかつてない力がみなぎるのがわかった。

この力があれば誰にも負ける気はしない。

夢の中の私は無敵だった。

暴漢はあっけなく退散した。


夢の中の私は女性から感謝され、

気がつけば観衆に祝福されていた。

現実ではこんな事はあり得ない。

当然だ、夢なのだから。


事務所へ戻ると見覚えのない上司が現れ、

なぜ仕事を放り出したのかと責められた。

夢の中の私は上司に先程の出来事を報告したが、

上司は聞く耳を持たず、私を責める一方だった。


所変わり、夢の中の私は取引先へと出向いていた。

どういう流れでそうなったのかは思い出せない。

何を取引しているのかもわからない。

夢の中の私の仕事が事務なのか営業なのか、

曖昧な事だらけだが気にならなかった。

夢とはそういうものだからだ。


取引先で見覚えのない友人と会った。

夢の中の私はしばらく友人と談笑した。

どんな内容の会話だったかは思い出せない。


それが終わると夢の中の私はビルの外へ出た。

振り向くと、友人は友人の上司から責められていた。

私の時とは違う。友人は上司から暴力を振るわれていた。

やがて上司の数は増えてゆき、友人は私に助けを求めた。


夢の中の私は友人を助けようとしたが、できなかった。

見えない壁があり、それ以上進めないのだ。

夢の中の私は無敵の力を持っているはずなのに、

その壁をどうしても壊す事ができないのだ。


そうこうしている間にも上司の数は増殖してゆき、

取り囲まれて酷い仕打ちを受ける友人は泣き叫んだ。

それに呼応するかのように夢の中の私も叫び、

友人を助けられない無力な自分を責めた。


だが、同時に安心もしていた。

この壁がある限り私は安全なのだと、

やけに冷静な分析をしている自分がいたのだ。


そこで目が覚めた。




私は汗だくになっていた。

冬用の毛布を3枚被っていたのだ。

自分でそうしたわけではない。母の仕業だ。


時計は午前2時半を指していた。

高齢の母が起きているべきではない時間だが、

最近はこうやって夜中に家の中を歩き回り、

家族に対して嫌がらせを行う回数が増えてきた。


いや、本人は親切心でそうしているのだ。

私が寒い思いをしているのではないかと心配し、

体を温めるために冬用の毛布を3枚も重ねたのだろう。

これが初めてではない。

いくら私が寒くないと主張しても母には理解できないらしい。


昔はこんな事をする人ではなかった。

どこにでもいる普通の女性だったはずだ。

それがいつしか独り言を口にするようになり、

母しか知らない、あるいは架空の人物を罵倒し、

隣の家に皿を投げ込んで警察沙汰になったりと、

私たちの平穏な生活は徐々に乱されていった。


父はよく怒鳴るようになり、姉は家を出てゆき、

私は自分を傷付ける行為をするようになった。


時々、母を殺したくなる。

無性に殴りたくなる。

彼女が大切にしている物を全て破壊したくなる。

しかし、私は悪人ではない。

だから自分の体で我慢しているのだ。


私も父のように大声を出せばスッキリするのかもしれないが、

いざその機会が巡ってきても「どうせ無駄」という言葉が浮かび、

母の奇行に対して、ただ、ため息を吐く事しかできないのである。


この悪夢はいつ終わるのだろうか?

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