【5枚目】笑撃の社交界デビュー
いよいよ社交界デビュー当日。
ダマえもんのお陰で無事ドレスが手に入った私はルンルンである。
ダンスは幸い前世を含めて大得意である。
さて、今日は蝶のように舞い、蜂のように刺してみせましょう!あ、でもこれはダンサーじゃなくてボクサーの格言だった。てへぺろ。
私がお父様にエスコートされて王宮内の会場に着くと、煌びやかな衣装を着た令嬢達でいっぱいだった。
でも、問題はそこじゃない。
(…なんでみんな髪型がとぐろ巻いてるのー?!!!)
しかも、それはどうやらドレスや立ち振る舞いからすると高位の令嬢ばかりだ。
これが今、貴族令嬢の中でナウいのだろうか。
これではまるでウンコを頭にのせたようではないか。いや…。見ようによってはソフトクリームのような髪型とも言えるのかも。
(わ、笑わないように気をつけなければ!!)
せっかくの社交界デビューを天敵、ウンコ星人が『笑ったら不敬罪』という大変な武器を持って攻め込んできた。
この笑撃に果たして私は耐えられるのだろうか。
これで本当に笑ったらケツバットどころじゃ済まないのが悲しいところである。
(ああ、神様は私になんていう試練を…。)
そんな事を思いながら会場をグルリと見回すとモニカを発見した。
「お父様!お友達を発見したから行ってきますわ。」
私がそう言うとお父様がニッコリと笑った。
「行っておいで。私も丁度取引相手を見つけたところだ。人生に一度の社交界デビューだ!楽しんでおいで。」
そう言われて私は頷いた。
「モニカー!ご機嫌ようー!めっちゃ可愛いー。」
私が挨拶するとモニカが満面の笑みを返してくれた。
髪の色と同じ白いふわふわのドレスに瞳と合わせた赤いアクセサリーや小物がめちゃくちゃオシャレだ。
「ルチア、ご機嫌よう。ドレス間に合って良かったわね。似合ってるじゃないっ!ほら、あちらにユリア様がいるから行くわよ。」
そう言われてついていく。
おおお、見知ったクラスメイトが沢山。
クルス君は『蒼き光とメガネ』だけあって、青髪が映えるように黒いスーツに青い小物で遊び心を加えている。メガネも今日は青フレームである。
婚約者のナナちゃんと談笑していたが、私に気づくと2人とも手を振ってくれたので、笑顔で振り返す。
えーっと…。あ、いたいた。ユリアちゃんだ。
「来ましたね、2人とも!ルチアさん、ドレスが間に合ってよかったですね!」
ユリアちゃんは黒と赤のレースを使った妖艶な衣裳である。黒髪ととても調和していて良い感じだ。
地味にこの前の『黒薔薇の優等生』っていう二つ名が気に入って貰えたのかも。
3人で談笑していたら誰かが叫んだ。
「きゃあ!エリザベス•パディントン様がいらっしゃったわよ。」
そこにはとっても素敵な銀色の髪のご令嬢がいた。
髪型もウンコではなく、普通のストレートヘアなのでホッとする。
(あれ?エリザベス様って。ハリス様の義妹さんだよね?
婚約者の王太子が男爵令嬢に入れ込んでるけど、実は水面下で国中の婚約者のいない令息から狙われているモテモテ令嬢…。)
う、羨ましすぃー!!
私なんて既に婚約解消された挙句、モテない事必須過ぎて、食パン咥えて婚活中なのに。
あれ、でもなんか表情が暗いかも。
隣でエスコートしてるのは…
(はぅっ!やっぱり!!ハリス様だ!)
スイカをムシャムシャ食べて、朝何故かいつも話しかけて来るあのハリス様である。
「ねえねえ、モニカー。
エリザベス様をエスコートしてるのがハリス様っていうことは王太子がどっかの男爵令嬢に入れ込んでるのってやっぱり本当なのー?」
私が小声で聞くと、モニカがヒソヒソと教えてくれる。
「ええ。本当よ。…どっかの男爵令嬢って言うけれど、貴女もよーーーく知ってる人のはずだけど。」
そう言ってモニカは複雑そうな顔をした。
(ん?よく知ってる人?…全然思い浮かばないんですけど。)
「え。誰?わかんないや。
それより、万が一王太子様とエリザベス様、お二人の婚約がなくなって、やっぱりエリザベス様が跡を継ぎますってなったらハリス様ってどうなっちゃうの…?」
なんとなく、何度か話した事がある人だから心配してしまう。
「うーん、まあ、わからないけれど公爵様が持ってる他の爵位を継ぐんじゃない?」
ひええ、いっぱい爵位を持ってるなんてさすが公爵家である。
「モニカすごーい…、詳しいね。」
私が感心しているとユリアちゃんがため息を吐く。
「いやいや、ルチア様が知らなすぎなんですよ。国内の有力な貴族の情報くらいは持っておかないと。」
…あ。なんかすみま千円。
千尋が融合する前の私は割としっかり者だった気がするんだけどなぁ。知らんけど。
「…そう言えば2人の婚約者はどこー?」
「ほら、あそこよ。噂の男爵令嬢と一緒。」
モニカがスッと目線を向けた方にはモニカの婚約者のレイズ・マルチネス伯爵令息がいた。
彼は熱心にユリアちゃんの婚約者であるトラヴィス•カンターニ侯爵令息、そして私の元婚約者のポール•ディアーノ伯爵令息と話している。
そして、その中心には、頭にでっかいウンコをのせたような髪型の男爵令嬢、ミラ•エマーズがいた。
ドレスはピンクのフリルいっぱいのフリフリなものである。
(えーーーー?!王太子様が入れ込んでるどっかの男爵令嬢ってミラ•エマーズのことだったの?!)
思わずあんぐりと口を開けてしまう。
そして、モニカとユリアちゃんはミラ•エマーズが令息達を侍らせている様子を睨みつけているが、私は頭のウンコに釘付けである。
ミラ•エマーズの髪には銀色のビーズのような飾りが沢山散りばめられている。
問題はそのビーズのひとつひとつから、羽のようなリボンが出ていることだ。
まるで…まるで。
(ウンコにたかるハエのようじゃないのーーーー!!!!)
すると、何故かミラ•エマーズが私の方を見て、
「きゃー、ポールゥー。私トラボルタさんに睨まれてるぅ。怖ーい。」
と言ったのだ。
なので、思わず私は言ってしまった。
「ち、違います!私はその髪型がう、ウン…」
シーーーーーン。
(ヤバい!ウンコとか此処で言ったらマズイに決まってるぅー!高位の令嬢もこの髪型なのに!)
「う、ウンつくすぃー!!!!ので!!思わず見てました!!!」
そう言って誤魔化した。
隣のモニカが可哀想な人を見る目でこっちを見ていた。