【2枚目】イケメンにぶつかるどころか犬にも逃げられました。
曲がり角に向かって、食パンを咥えて猛烈ダッシュしていた私だが、少し傾斜があったので、少々勢いがつき過ぎた。
ヤバい、ぶつかる!
目の前には学園内で『ジロー』と呼ばれ、可愛がられている犬。
このままでは直撃待ったなしである。
「ジローーーー!!!!逃げてぇええええええ!」
そう叫ぶと、ジローはハッとして逃げていった。
ついでに近くに停まっていた鳥達もバサバサバサーッ!!!と逃げていく。
(ホッ。)
そんな様子を馬車からジーッと見つめていた存在に私は気づかなかった。
私は木にスライディングキックを決めて、なんとか止まる事ができた。
「あ!!ジロー作の『かりんとう』踏んじゃったー!」
とりあえず、食パンは全て残さず食べた。
食べ物を粗末にするのはダメだもんね!
◇◇
教室に着くと、周りがこちらの方を見てヒソヒソ何か話している。
え?何?
すると、友人の子爵令嬢のモニカ•レイバンが小声で話しかけてきた。
綺麗な白髪に赤い目がウサギちゃんみたいな美人さんである。
彼女は植物の成長促進魔法が使うことが出来る。
将来が有望な魔法少女なのだ。私のスカート捲り魔法とはレベルが違う。
「ちょっとルチア!ポール様に婚約解消されたって本当?!」
「うん、本当でぇーす。」
そう言ってダブルピースを決めてみた。
「何なの!アイツ!許せないっ!!
…って。ルチア?婚約解消されたのになんでピースしてるの?
…なんかキャラ変わってない?」
「いつもこんなもんだよ!」
そう言って、自分の席に座る私をクラスメイトは唖然として見ている。
すると、ガラッと教室の扉が開いた。
そして、知らないピンク色の髪の女の子が、何故か私の席までやってきて咽び泣いた。
誰だ?この子。
とりあえず身長は小さいけれど胸はボロンボロンに大きい。まるで、グラビアアイドルのようだ。
前世、千尋の兄が大好きだった『スイカップ』とはまさにこういう胸だろう。
「ううっ!!ルチア様ー!
私のせいでポール様とお別れすることになってしまって!!!本当ごめんなさい!うっ!!!」
「あっ。鼻水出てますよ。」
とりあえずそう教えてあげたら、面食らった顔をして静止した。
私はハンカチでその子の鼻を拭いつつ、ついでに万年筆で額に『肉』と書いてあげた。
「これでよし!めっちゃナウくなりました!」
何故かクラスメイトは皆ヒソヒソ話をやめて固まっている。何人かは「ブフッ!」と吹き出している。
すると、その子は信じられないような顔をしてこう言った。
「あ、貴女、悔しくないの?ポール様は私の方がいいって言ったのよ?」
「え?…あっ。あーーー!?
貴女がポール様の浮気相手の人ですかー!?」
あ、思わず、興奮して前世の伝説のプロレスラー、イノキングみたいな喋り方になってしまった…。
ザワッ!!!
そんな私を横目にクラスメイトが何故か厳しい目でその女の子を見る。
「ち、違うわ!
ポールが勝手に私を好きになっちゃっただけよ!私には他にも好きって言ってくれてる人もいっぱいいるし!」
居づらくなったのか顔を青褪めさせて動揺している。
が、ドサクサに紛れてモテるんですアピールをしっかりしている。
とりあえず、倒れたらマズイから気付をしてあげなければ!
「大丈夫ですか!ホラ!これを嗅げば気が引き締まりますよ!」
私は外靴を出して、裏側を彼女の前に持っていってあげた。さっきのジローのかりんとうが付いている。
「…クサ!信じらんない!!あんた何考えてんのよ!」
女の子はスタコラ逃げていった。あっ。よくわかんないけど、ばいなら…。
それを見てモニカは『よくやった!!』と言ってガッツポーズしている。
「モニカ、あの人何がしたかったんだろうね?」
そう言うと、モニカは残念な人を見る顔でこっちを見てきた。
◇◇
昼休み、食堂にモニカとご飯を食べに行く。
「お肉食べたい、お肉、お肉、あ肉にくにく♪」
「…ルチア、ちょっと恥ずかしいわ。」
列に並びながらついついお肉の歌を歌っていたら、怒られてしまった。
「ごめーん、だってお肉の気分だったんだもん!」
すると、後方で黄色い歓声が上がった。
「キャー!!!『氷の貴公子ハリス•パディントン』様よーーー!!!!」
声がした方を振り返ると、冷ややかな美貌をした銀髪の男子生徒が表情をピクリとも変えずに歩いてきた。
パディントン…?
…あ。もしや、あれは噂のエリザベス様のお義兄様では…。
(わー、めっちゃ無表情だ。あの人、笑ったらどんな顔になるんだろう。)
私の中の『千尋』の魂がウズウズした。無表情の人ほど爆笑させてみたくなるのだ。
ハリス様が目の前を通る時に彼以外にはわからないように『渾身の変顔』をした。
秘技!たらこ星人である。
「……!!!」
それを見て、ハリス様は一瞬面食らったような顔をしてから顔を引き締めた。
…あじゃぱー。全然ウケなかったなー。
私はがっくりしたが、ランチのお肉はめちゃくちゃ美味しかった。
◇◇
放課後は、昼休みに仲良くなった学食のおばちゃんにスイカを貰った。
なので、クラスの皆をスイカ割りに誘ってみた。スイカップ事件からのスイカ割りである。
「そんな事をするのは初めてですわ!」
「え、僕もいいんですか。」「楽しそう!」
意外と皆ノリが良かった。
「あーそこそこそこ!!」
「おしい!もう少し右!そうそう!」
皆で和気あいあいとスイカ割りをする。
あ、次は私の番だ。目隠しをして、棒を握る。
「ルチア様!そこですわ!」「もうちょっと左!」
ガラッ!
声に混じってドアを開く音も聞こえた。
「ルチアー!!貴様、ミラをさっき虐めたらしいな!」
あれ?呼んでないのになんだかポール様の声が聞こえたような…。
すると、モニカの声が聞こえた。
「ルチアー!もっとそっちだよー!」
バキッ!!
「へぶぅっ!!!!」
(あれ?何かスイカじゃないものに当たったような…。)
「あれ?モニカー!本当にちゃんと当たったー?」
「うん!当たったー。」
何故かモニカの声はすごく嬉しそうだ。
「…くそ!覚えてろよ!」
ん?再度ポール様の声が聞こえたような…。
バタン!!
しかし、目隠しを外すと元々スイカ割りを一緒にしていたクラスメイト以外いなかった。
「あれ?今ポール様が来てなかったー?」
「「「気のせいです(わー)。」」」
とクラスの皆が答えてくれる。
そっか。空耳だったのかな?
「じゃあ皆でスイカ食べよー!」
学食のおばちゃんから借りてきた包丁でスイカを切った。
ふと窓に目をやると食堂で騒がれていた『氷の貴公子』様が呆然と見ている。
「あ、こんにちは。スイカ、食べます…?」
そう聞いたら『頂く…。』と言ったので一切れ分けてあげた。
うんうん。やっぱりみんなで食べるスイカは格別だよね!!
帰ったら外靴を汚したことをアンに言ったら怒られてしまった…。




