【13枚目】ドキドキ⭐︎ハリス様とのお忍びデート。
翌日。
私はドキドキしながらサンティス広場の前でハリス様を待っていた。
(ちょっと早く着きすぎちゃった。うぅー、胸がドキドキだよっ!!!)
だって、男の人と2人で出かけるのは初めてだ。
ちなみに今日は瞳の色に合わせて青いワンピースを着て来た。今日庶民的な場所に出掛けるとのことだったので裕福な商家の娘のような格好である。
婚約者だったポール様はうちの庭園で会うだけで考えたら私と2人でどこかに出掛けたことはない。
(きっと、ポール様はミラ•エマーズとは出掛けてたんだろうな…。)
その時急にハリス様がミラ•エマーズの囮になることを思い出して、モヤモヤして来た時だった。
「…ルチア嬢っ!!」
その声に振り返ると、少し焦ったような顔のハリス様が走って来た。
「すまないっ!待たせてしまっただろうか。」
その言葉に目を見開く。
「…いえ!わっちが早く来すぎてしまっただけですっ!!」
まずい、焦って噛んでどっかの奉公人のような一人称になってしまった。
動揺しながら見上げると、ハリス様は特に気にした様子もなくホッとしたように眉を下げた。
「…そうか。今日は顔色が良いな。良かった…。」
そう言って、口角を上げた。私は胸がむずむずしつつもハリス様に尋ねた。
「えと…。心配してくださってありがとうございますっ。今日はその、どうして誘ってくださったんですか?」
「一昨日、会議の時元気がなかったから心配だった。それに…。」
それに?
「…君に会いたかったから。」
…エンダアアアアア(略)!!
私の頭の中でホイップニー•ヒューストンが大きな声で歌い出した。
「制服もドレスも似合っていたが、その服も似合っている。」
その瞬間、何故かホイップニーの横にさらに小林サチオが出て来て、紅白歌合戦を始めた。
もちろんホイップニーの勝ちである。
◇◇
2人でまずは下町のお洒落なレストランに行って食事をする。
お店に着くまでハリス様がエスコートしてくれた。
手を繋ぎながらドキドキしすぎて、頭の中が真っ白になってしまった。
チラッとハリス様を見ると、向こうも照れているのか耳が赤い。
(うあうううー。緊張するよぉーう。)
個室の席につくとハリス様はサンティス豚のカツレツを、私はチキンソテーを注文した。ちなみにサラダとパンはサービスで付いてくる。
「…!!美味しいっ!」
チキンには軽く小麦粉が付けられていて、バターと香草でソテーされて表面がカリッとしている。
淡白な鶏肉にコクが出ていてソースをパンにつけて食べてもとても美味しい。
思わず感嘆の声を上げると、ハリス様は嬉しそうに頷いた。
「ここは私のお気に入りの店なんだ。良かったら私の料理も食べるか?」
そう言って切り分けたカツレツを私の目の前に持って来た。
(こ、これは…!!所謂前世で言う『あーん』じゃないですかっ!!!)
私が赤面しながらもカツレツに口に入れる。それをハリス様はジッと見つめている。
あああー。もう、恥ずかしい…。
私は平静を保つために頭の中で小林サチオとデュエットする。
すると、サチオが調子に乗って小節をいつもの3倍くらい利かせてきたので冷静になった。
◇◇
デザートのバニラをのせたアップルパイとコーヒーが運ばれて来た所で私は思い切って気になっていたことを聞いてみた。
「ハリス様。どうしてミラ•エマーズの囮になることを承諾したんですか?」
すると、ハリス様は目を見開いた後、赤面した。
(今日はなんだかハリス様の色んな表情を見ている気がするなー。)
そう思うとなんだか胸がポカポカした。
「じ、実はな。その…囮になる事でルーク王子が、私と君の婚約を整えてくれると言ってくれたんだ。き、君はどう思う…?わ、私と婚約することについて…。」
…え。
(え、え、えええええええー!?ちょっと待って!!そ、それって。私の自惚れじゃなければっ!!)
生唾をごくんと飲み込む。
「か、勘違いなら申し訳ありません。は、ハリス様は私の事がもしかして…。」
「…ああ。好きだ。も、もし宜しければその、恋人になってくれないだろうかっ。」
はぁあああー⭐︎祭りだ祭りだ…
私の頭の中では、もうホイップニーと小林サチオの他に、北島サブオに加わって、国の生まれに関係なく肩を組んで、赤いはっぴを着て歌い出した。
一瞬、頭の中で歌い出した3人に気を取られていると、ハリス様は心配そうに私に聞き返してくる。
「…ル、ルチア嬢?」
「は、はい!!!わっ、わっちも好きれす!!」
そう答えると、ハリス様が蕩けそうな笑顔で破顔した。
(わ、わわわわ。めっちゃ可愛い…。)
なんと言う事でしょう。氷の貴公子様が笑うと、雪が溶けて、春の風が吹いてきましたよ。
なんなら小鳥達も歌い出しそうな雰囲気である。
「そ、そんな風に笑うんですねっ。」
思わずそう言うと、ハリス様が笑顔で頷く。
「ああ。どうやら君にだけは私は笑顔になってしまうようだ。」
頭の中では、いよいよ北島サブオが腕を振り回しながら大熱唱している。
(あああああ、神様、幸せすぎてどうにかなってしまいそうです。)
私達は2人で照れながらデザートを食べ終えたのだった。




