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【1枚目】婚約解消されて、前世の記憶が蘇った私はアホになってしまいました。


「ルチア。すまない。婚約を解消して欲しい。」


(え、ええええええ?!)


 ポカーンと口を開けて間抜けな顔をさらしている私の名は子爵令嬢のルチア•トラボルタ、16歳です。


 まさに今、現在進行形で婚約者の伯爵令息、ポール•ディアーノ様に婚約解消を求められております。


 今日はポール様が()()()()にいらっしゃるというので、子爵家の庭に季節のフルーツとお菓子を沢山シェフに用意して貰ったのに!!


 ガゼボにカラフルで可愛らしいお菓子が沢山並べられた幸せな光景の中でこんな事を言われるなんて思ってもいませんでした。


「な、何故でしょう?わ、私、何かしてしまったでしょうか?!」


ああ、ついつい気が動転してしどろもどろになってしまいます。


「…ただ、僕が、『ミラ』のことを愛してしまった。それだけのことさ。」


そう言ってプラチナブロンドの髪をファサァッと掻き上げるポール様。


「え、どなたですか、突然出て来たその(かた)は。」


「僕と同じクラスの男爵令嬢、ミラ•エマーズさ。強いて言うなら、僕は君みたいなしっかりしたタイプより彼女みたいな守ってやりたくなるような女の子が好きなのさ。」

 

…つまり浮気じゃないですか!!ひ、酷いっ。


「そ、そんなことって…」


思わず抗議しようと立ち上がった瞬間、何かを踏み、ズルっと滑りました。

「…ぁ。」


 べしゃ!!


 ああ、なんだか慌てて駆け寄ってきた使用人の皆さんと、『僕のせいじゃないっ!』と弁明するポール様の焦った声が聞こえます。


 そんな中、頭を強く打った私の意識はボンヤリと白んでゆくのでした。


(…あじゃぱー…。)


ん?あじゃぱーってなんだっけ…と思ったところで意識が途切れました。


◇◇


 夢の中で私は『日本』という科学の進んだ国で16歳の女子学生でした。

 彼女はいつも、教師に怒られていました。


「花園ーー!!なんだその頭は!!パーマは禁止だと言っただろ!」

「ジャイケル•マクソンの追悼で、アフロにしてみました。なのでこれは私なりに誠実な気持ちを体現したものなんですぅー!!!」

そう言いながら、『むーんうぉーく』という奇妙な動きで校庭を逃げていきます。


千尋ちひろ!おはよー、その髪型エモいわー。今日の放課後千尋んちで漫画読みたーい。」

そう言って友人達が群がってきます。


「おっけー!蒲焼きさんタローで手を打とう!」

「やった〜。カルパスも持ってくわー。」

「千尋ー宿題やったー?!」

「あー、あのプリント、隣の家で飼ってるヤギにあげちゃったー!!」

「千尋ー、頭に芋けんぴついてるよ!」

「芋けんぴだけじゃなくて色々入れてきちゃった!この髪、ポッチーもプリッツァも刺せるよ!」

「本当だ!エモーい!プリッツァ一本ちょうだい!」

「アフロすげー!ポッチー最高ー!!」


アハハハハ…


 すんごく頭が悪そうな彼女の名前は花園はなぞの千尋ちひろです。


(思い出しました!…このアホそうな人、前世のわたしだ!!)


と思った瞬間。

彼女の記憶がブワッも入り込んで私と融合しました。


◇◇


 目が覚めると、私は見慣れた子爵家の自分のベッドで寝かされていた。


 起き上がると、メイドのアンが、

「お嬢様!お嬢様が起きましたー!!!!」

と言って走って医者を呼びに行ってしまった。


 鏡で転生後の自分の顔をマジマジと見る。

「おー、おー、マブいじゃん。」


サラッサラの金髪に青い目。ボン!キュ!ボン!のナイスバディー。


 そして、なんとちょびっとだが風の魔法が使える。スカートめくりが出来る程度だが。


 ちんちくりんでアフロだった前世とは大違いだ。


(やばーい、調子こきまろ!デビュー出来ちゃうじゃん。あ、でも、私、さっき婚約解消されたんだったー。ウケるー!)


バン!!


 そんなことを思っていると、お父様とお母様と弟と医師が焦ったように、部屋に入ってきた。


「たん瘤になっていますが、大丈夫そうですね。頭を打って軽く脳震盪を起こしたのかもしれません。」


医師がそう診断する。


「あぁ…。ルチア。無事で良かった…。」


そう言って抱きしめてきたのはお母様。


 赤い髪に緑の目の美人だ。


「本当に、怪我がなかったから良かったものの。


 …アイツめ。あんなに伯爵家に援助してやったのに婚約解消だと?!


 しかも自分の浮気で!伯爵家からどうしてもルチアを嫁に欲しいと言われて結んだ婚約だったのに!


 絶対にただじゃおかん!慰謝料ふんだくってやる!伯爵家が潰れようと知らん!」


お父様はキレている。


 ちなみにお父様は金髪で青い目のイケメンである。ルチアの色はお父様譲りだ。


「姉様、ゆっくり休んで早く良くなってね。」


赤い髪に緑色の瞳の弟のマークは、ぬいぐるみを抱っこしながらウルウルしている。


 あー、可愛い、食べちゃいたーい。 


「お父様、お母様、マーク!私は大丈夫でぇーっす!」


そう言って気合を入れると、お父様がギョッとした顔をした。


「お、おお。何か、ルチア。最近までは何かと気弱で心配だったが性格が変わったのか?


 しかし明るいことはいいことだ。」


すると、お母様が憂いを満ちた顔で伝えてきた。


「…でもルチア。


 悪いけれど()()()()()婚約解消は結構まずいわよ…。あー、果たしていい婚約者が見つかるかしら。」


は?何ですと…?


「え、私の状況ってそんなにマズイ感じですか…?」


なんで?まだ16歳のピチピチ美少女じゃん。


「それがね、通常なら全然問題ないのだけど。


 ほら。王太子様がどこかの男爵令嬢に入れ込んでるって噂になってるじゃない?


 それで、婚約者の公爵令嬢、エリザベス•パディントン様と婚約が破棄されるんじゃないかって噂になってるのよ。」


(…それと私が婚活難民になるのとどういう関係が…?わけわかめだよ。)

 

 私がキョトンとしていると、お母様が続けた。


「今までは彼女が王妃として嫁入りする予定だったから、パディントン家はお義兄様が継ぐ予定だったの。

 

 直系ではないけれど親戚から引き取った優秀な、ね。

 


 でも、もし本当にエリザベス様の婚約が破棄されてしまったら、直系のエリザベス様が婿養子を取ることになる。


 その婿養子の座を狙って、彼女の婚約者の席が空くのを虎視眈々と狙っている人が多いのよ。


 婿入りなら爵位もそこまで関係ないし。


 …まあ、王太子以外でよっぽど爵位が高い嫡男とエリザベス様の結婚が決まれば、嫁入りされる可能性もなくはないけれど。


 だから、今釣り書を送っても殆どが返されてしまう状況なのよね…。」


ななな、なんですとー?!


「まあ、令息本人と恋人になればチャンスが無いわけではないかもしれないが。


 正規のお見合いは厳しいかもしれんな…。」


お父様が肩を落とす。


(要はお見合いは厳しいから素敵な彼氏を作ればいいってことね!


 …それなら私のやることは一つよ!)


決意を胸に私は早速次の日にアンに付き添われながら街のパン屋さんに食パンを買いに行った。


◇◇


 次の日貴族学園に登校する時に、私は学園の50m程前で馬車を降ろしてもらった。


「お、お嬢様!本当にやるのですか?」


アンはオロオロしているが、私は闘志でオラオラしている。


「当たり前よ!私は有言実行よ!絶対にイケメンを捕まえてみせるわ!!!」


 そう言って私は食パンを口にセットした。今だ!


「やーん!!遅刻遅刻ぅー!!!」


そう言いながら、曲がり角に向かってダッシュする!


 そう、私は決めた。


 曲がり角で『遅刻遅刻ぅ〜!』と言いながらイケメンにぶつかるまで食パン100枚食べてやる!


 これで、歴代の漫画のヒロインは良縁を得てきたのだから間違いない!


 これが私の婚活だ!


◇◇


 食ぱむ(パン)で こひを知らべし 私かな


 〜ルチア心の川柳




『ふてほど』を見てたら昭和っぽい主人公を書きたくなりました。

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