9同室
「はぁ、」
偽善は自分でため息を吐いたことすら気づかずに、ベットに横たわる。
「…………。」
唯一一人の時間。心音は秒数。貴重な一滴。
「…………しつ、」
目を逸らす。思い出したから。
「また明日があるのか、おれに……生きる価値なんて、あるのか……」
天井に手をかざす。包帯…………。
「…………。俺も……これがなきゃ、普通になれたのかな、ただの、ただの出来損ないだったのかな、」
視界が歪む。嫌だ。泣きたくない。
「…………う、」
涙が金へと変わる。
「……、」
こんな自分が
「大っ嫌いだ……。」
――――――――
「…………。」
麒麟のように長い廊下を歩く。
月。今日は三日月か。月に行ったら、誰にも邪魔されず、自由が待っているのか。目を閉じて死ねるのか。そうであってほしい。
自室へ戻る。
ガチャ
「なっ……!お前、なぜここにいる。」
「そりゃあ、そうですよね。私も驚きました。」
淡々と言葉を述べる。
「お前の部屋はここじゃあない。あっち行け。」
戸の外へと指差す。
「まず中で話しましょう。寒いでしょう?」
冷たい風が指に当たる。
――――――――――
「で、どう言うことだ、ですか。」
「えぇっと、」
顎に手を当てる。肩から髪が垂れる。
「先程、私の部屋へと戻りますと、お前の部屋は無くなった。今日からは違う奴が使う。偽善とやらの部屋にでも行け。と、除け者扱いで……。」
「……?、?訳がわからない。もう少し分かりやすく言え、ってください。」
言葉の意味は理解できても、文章では理解できない。
「まぁ、悪く言えば部屋を追い出されたと言う訳です。」
「……え、」
今すぐにでも、出て行けと言いたいが、そうしたらこいつの住む部屋が無くなる。よく見るとベットが二つになっていた。
「…………。静かに過ごせよ。」
「ありがとうございます。言われなくてもそうしますよ。」
執事はまた途中の荷解きを再開する。
ガタガタ
偽善は部屋の中心に机を引きずる。何をしているのでしょう。
「こっから」
部屋の端から
「ここまでが」
端まで小走りする。
「境界線だ。ここの線を越えるなよ。立ち入り禁止だ。」
「ふふっ、そんな線、なくても私は」
腰からベットを降りる。
「あ、ちょっ」
偽善が決めた境界線を越える。
「偽善の隣に行きますよ。」
近い。距離感がいかれてやがる。
「…………ぅ、」
「ふふふ。」
――――――――――――
「「………………。」」
執事は何度も読んだ小説を読む。同じセリフ、行動、人物。全てが同じだ。
「……すぅすぅ。」
偽善はベットの上で、可愛く寝ている。
「…………しつ、」
執事のページをめくる手が止まる。そして偽善の方へ行く。
偽善の頬を撫でる。
「はい。執事はここに居ますよ。ずっと貴方のそばに。」