8敬語
「偽善、」
「あぁ?何だよ。」
今回は驚かなかった。ふふん、と笑う。
「この後、時間、ございますか。」
執事は前屈みになり、上目で問う。
「ない、俺は部屋に戻って過ごすからな。」
「では、拒否されるという事なのですね。」
「あぁ、お前と過ごす時間があったら針千本飲んだ方がましだ。」
口元に手を添える。
「ふふふ。そうですか。」
「何する!うわぁ!」
――――――――
「ほ!ど!け!何だこの縄は。」
「そんなに暴れないで。椅子が壊れますよ。」
そう言って優雅に紅茶を啜る。
「はぁ?!ばーか!!」
「それです。」
口元に指を指される。
「今日は偽善が敬語を駆使されるまで、帰しません。」
「何故そんなことをしなきゃならない!」
「何故って……そりゃあ偽善の口が悪いからでしょう。」
さくっと菓子をつまむ。
「やるかそんなもん!!俺は今頃、部屋に戻って、」
「俺ではなく、私と、」
しの口で止まっている。
「煩い!」
「…………。」
じーっと見つめられる。
「…………。」
「…………ぅ、」
まだじーっと見られる。怖い。やめてくれ、
「やめて……ください、」
「うん。しっかり出来ましたね。」
にぱっと笑う。
こいつの言う事を聞くことですら、腹が立つ。
「ほら、ご褒美に金平糖を。貴方にぴったりです。」
「いらん、おい、ちょっと、んぐ!」
無理矢理突っ込まれた。すーっと口の中で流れていく。
「第一!こんなところ、誰かに見られたら終わりだからな。」
「その場合は、私が何とかしますのでご安心を。」
そんな自信、何処から来るんだ。
偽善のまつ毛が日に当たる。
「何で敬語なんて使わなくちゃならない。舐められるだけだろ。」
「あぁ、そんなことで敬語を頑なに使わなかったのですね。」
呆れた。
カチャ
洒落たティーカップを置く。
「いいですか、偽善、」
ぐいっと寄る。ふわりと髪も寄る。
「敬語は目上の方々を陥れるためにあるのです。いざという時に、欺くんです。」
「そ、そうなのか。俺……私は馬鹿だから知らなかった、です、」
賢い奴はそんな考えしてるんだ。
下を向く。偽善のまつ毛の長さがよく分かる。
「…………。」
偽善の口がつんと尖っている。
「何だ……ですか。」
普通になった。
「あ、あぁ、何もありません。」
――――――――――
「……ちっ。」
廊下をずんずんと歩く。
「あれ、偽善さん。どうしたの。」
偽善さんが前を歩かず、歩幅を合わせてくれている。
「主人の後ろを歩くのは、当然のことだ、です。」
「……!」
目を丸くする。偽善さんが敬語を使っている。
「おぉ、偽善。」
「……館主人、」
館主人だ。会いたくない。
「今日のあれは無くなったよ。うむ、伝えられて良かった。」
「分かっりました。」
館主人も目を点にする。
「偽善!敬語を使うようになったんだなぁ!うんうん。良い良い。」
うるさ。
バタン
子の部屋を出る。今日が終わった。
「…………ちっ、」
何だかあいつに踊らされているみたいで嫌だ。
平和過ぎ没会話
「煩い!」
「そんな偽善にはこしょこしょですね。」
「こしょこしょ?」
「うわぁ!やめろ、ふふっ、あはは!やめて、あははは!」