6ありがとう
「ありがとう、」
「……?」
「こ、これ、偽善さんがしてくれたんでしょう?」
子の手には小さなビンに入った銀木犀があった。やってない。こんな優しいこと、俺は出来ない。
「ま、魔法もかけてくれたんでしょ?枯れない魔法。」
「…………。」
偽善さんが何も言わない。それでも勇気を出す。
「執事さんが言ってた。」
「そんな事、どうでもいい。」
「……ぇ、」
下を向く。何もないのに。
僕は、少しでいいから、ほんの少しだけでいいから、
笑顔でお話ししたかったな。
――――――――
廊下。昼下がりなので、窓からの光がぽかぽかと伝わる。そよ風も心地よい。
偽善さんは前で僕を置いて歩いてる。
「…………ぁ、」
すゞめだ。
「かっこいい……。」
何でもとらわれない黒に、松の木のような茶で、小さいのにあんな翼で飛んでいて、
それで、それで、
「何してる!!」
「ぅわ!」
二人とも地面に尻つく。
「お前!今、窓から飛び降りようとしていたな?!」
「してない、」
「してたわ!馬鹿!!」
子は泣きそうだ。それでもぐっと堪えている。
「ただ、外のすゞめ見てただけ、」
「お前は本当に俺がいなきゃ、何も出来ないな。」
両者会話が成り立っていない。
「この館に生まれてなきゃ、お前に価値なんて何もなかったな。」
「偽善様、」
「ぐわ!!何をする!」
執事さんだ。偽善さんの首根っこを掴んでいた。執事さんは僕を見る。
「偽善様は、少し席を外されます。他に付き人さんがいらっしゃるので、そちらの方について行ってくださいね。」
笑顔だ。笑っている。けど何だかいつもの優しい笑顔じゃない。
怖い。
――――――――――――
「いだっ!!」
物置き部屋へと投げ入れられる。埃臭い。鼻の奥まで臭う。
「偽善様、なぜあの様な言葉をお使いになられたのですか。」
「何故俺の仕事を奪った!!」
偽善は返答しない。
「偽善様、なぜあの様な言葉をお使いに。」
「俺は……、俺はこの仕事が無かったら!」「偽善様、」
「ただの身売りなんだ……。」
身売り?
「なぁ、頼むよ!俺に、俺に価値をくれよ!!」「偽善さ」
「なぁ、もうこんな、館なんか抜け出したいよ!!もう嫌だ!何もかも!全部!!」
「偽善!」
偽善はポカンとこちらを見ている。
「貴方に何があったか知りませんが、今は落ち着きましょう。ね。」
偽善の肩に手を置く。偽善はそれすら気付いていない。
「…………。」
暖かい笑顔だ。キラキラと埃が舞う。
ぎゅぅ
「……!やめろ!離せ!!」
「ふふっ、そんなこと、思っても無いでしょう。」
抱きしめられた。こんなの初めてだ。こんなにもあったかいなんて、知らなかった。
抱きしめる。目一杯、何一つ溢さずに。
「大丈夫。大丈夫ですよ。ここに執事がいます。だから、大丈夫。」
「……ぐっ、やめろ、……っ、やめてよ、」
泣きそうになる。今は駄目だ。今泣いたら……!
「大丈夫。」
――――――――
「おや、」
偽善がすぅすぅと寝息を立てていた。
「ふふふ。よいしょっと、」
ベットの上で寝ている偽善をみつめる。
「偽善、私も貴方と"同じ"ですよ。」