4休憩
「…………。」
木陰のように日差しが差し込む廊下を歩く。
「ぁ、あの子。例の子じゃない?」
「えぇ?あの子?そうだったの?」
馬鹿共が蔑む目で喋ってる。全て筒抜けに聞こえてるぞ。
「そうそう。前に騒ぎを起こした……、」
「あぁ、あれねぇ!」
「ばか!バレるよ。」
煩い。
「……あ゙ぁ?」
「「……ひっ!」」
「早く行きましょ。」
ねずみみたくチョロチョロと逃げていった。
「…………。」
何でもできる奴に何が分かる。
――――――――――
「……ちっ。」
「……。」
子がまた怯える。昨日のことがあったので、なおさらだ。
解きかけの紙に目をやる。
「…………。」
もうやりたくない。これをやって何を得られるか分からない。
「…………。」
さっきから、あいつの筆先が止まっている。勉強なんて裕福の奴がする事なのに、あいつは分かってない。それが気に食わない。
「……おい、」
「……な、何。」
上目遣いで俺を見る。
「お前は何も分かっていない。」
「何が……、」
最後の言葉を切る。
「お前は裕福なんだ。それなのに、お前は馬鹿で、能天気で、」
「 」
なんでそんなこと言うの。簡単に言って良い言葉じゃない。
「う、うぅ、……っ、ぐす、」
「泣いても俺とお前に価値なんてない。」
――――――――――――
「〜♩」
滅多にない昼休憩。特別な日だから、庭に来た。
「これが終わったら、お子の迎え、その次にお風呂、夜食、あぁ、私ったら、」
職業病ですね。
誰かに聞かれているかもしれないので、飲み込んだ。
「〜♩〜♩」
誰もが聞き惚れてしまう歌だ。
「昼休憩〜、昼休憩〜。いい響きです。花も美しい。」
焦らすように撫でる。
「おや、」
誰かいるようだ。
ひょこっと顔を覗かせる。その拍子に髪が垂れる。
「…………。」
偽善だ。いつもと違って騒がしくないから、一瞬誰だか分からなかった。
「偽善様、」
「……わっ!!」
誰だ。
「ふふ、また驚かしてしまいましたね。」
にこっと太陽の光に包まれて笑顔だ。なんだ、こいつか。
「…………。」
「おや、」
いつもの様に何か言ってこない。まぁ、こい言う時もあるだろう。
「しかし今日はっと、暑いですね。」
そう言いながら、貴方の隣に座る。ふわりと髪がなびく。
「…………。」
また無視された。目が点になる。どうされたのでしょう。
「「…………。」」
少し気まずい。
長い袖をまくる。
「偽善様は、暑くはないのですか。」
「……くない。」
あからさまに暑そうだ。首元に汗が垂れている。
「ほら、私のように腕をまくって。」
偽善の細い腕に触る。
「…………!!何するんだやめろ!!」
「………!どうされたのですか。この包帯はっ、」
偽善の腕には血の滲んだ、歪な包帯が巻いてあった。
「こ、これは!」
大丈夫。大丈夫。相手はただの傷だと思ってる。はず、
「お前には!関係ない。」
また走って逃げてしまう。
「……あ、ご、ごめ」
偽善が遠ざかって行く。それでも手をかざす。意味も無いのに。
偽善のあんな顔見たら、
あんな顔されたら、
――――――――――
「…………。」
夜。少し金木犀の香りが強い。
「今日は偽善様に……悪いことをしてしまいました。」
夜風が頬を撫でる。まだ少しぬるい。
「……明日もまた、同じことの繰り返しですか。」
月すら執事のことを見ない。
「こんな館なんか、」
こんな館なんかいつか絶対抜け出してやります。