3庭
「…………。」
蒸し暑い湯気が顔に当たる。朝ごはんの準備をしているところだ。もちのろん、子のご飯だ。
「…………ちっ、」
何故あいつの為に、準備なんかしなくてはいけないんだ。
鬱憤がふわふわと溜まる。
「偽善様、」
「うわぁ!!」
いいリアクションだ。そのまま額縁に収めたい。
「だ、か!ら!!脅かすなって!!」
「ふふっ、すみません。以後気をつけます。」
絶対反省してない。
「あぁ、偽善様。配膳は左がご飯、右がおかず、そして奥が汁物ですよ。」
基礎すら知らないのか。
「あぁ?そんなもんどうでもいい。」
そう言葉を投げ捨てて、子の部屋へ向かう。
――――――――――
「…………。」
頬に手を当てながら、外をぼーっと眺めた。偽善さんは、部屋の掃除をしてくれている。
「…………ぁ、」
小さな小鳥が飛ぶ。
一羽だけ……。群れでいないのかな。
太陽の光が部屋に注ぎ込む。花にじょうろで水をあげてるみたいだ。
「ぎ、偽善さん…………、」
「あ゙ぁ?」
睨む。
「…………っ、」
睨まれた。けど、言わなきゃ。言葉にしなきゃ、伝わらない。
「僕、外に行きたいな。」
「そんな事か、行かせない」
――偽善や。何か頼まれたら、快く従ってくれ。
笑顔を貼る館主人が浮かぶ。
「……ちっ、行くぞ。」
――――――――
「……ま、待って。」
偽善は花など見ずにずんずん先へ進む。これじゃあ、散歩の意味がない。
「…………!」
……?偽善さんが急に止まった。何かあるのかな。
「おい、違う所行くぞ。」
さっきとは真逆の方向へと進む。
「うん、……」
何があったんだろ。
振り向く。目があった。
「おや、こんにちは。」
執事さんだ。確か、前に優しくしてもらったっけ。
「こ、こんにちは、」
「……げっ。」
偽善は見つかったと言わんばかりの顔をする。
「ふふふ。散歩ですか。良いですね。」
「もうさっさと行こう。」
執事の言葉を遮り、どこかへ行こうとする。
「あぁ、ちょっとお待ち下さいまし。」
「あ゙ぁ?こっちは忙しんだよ。」
散歩なのに?可笑しな方ですね。
内心笑う。
チョキチョキ
「これをどうぞ。」
「あ、」
小さな銀木犀だ。ほのかに甘い香りがする。
「ありがとぅ、」
声が小さくなってしまった。
「いえ、喜んでもらって幸いです。」
小さいのに聞いてくれた。優しい笑顔だ。
「もう行くぞ。」
――――――――――――
「……♩」
子は上機嫌だ。ぶらぶらと足を漕ぐ。あれからずっと、銀木犀を見つめている。空にある星を無視してまで。
「…………。」
一方、偽善はむしゃくしゃしている。俺が不幸なのに何故お前は幸運なんだ。
「……偽善さん、ぇっ、」
机に置いていた無数の星を盗られた。
「要らないよな。こんな物。」
なんで、なんで。
「まって……、」
僕の宝物が、
バタン
「………………ぐすん。」