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錢館  作者: あ行
23/24

23良かった

「じゃあ、行ってくるよ。」

「お世話になりました。」

「ありがとうございました。」

 子供にそう告げ、格子を開ける。

「行ってらっしゃいませ。そして、お元気で。」

 ガラガラ

 朝日が目に入る。眩しい。

「ここからそんなに遠くないから、ゆっくり行こうか。」

 鬼は、ははは笑う。その振り向き姿は何かの一枚絵だった。

「……あ、お餅だ。」

 繁華街。あれここって来たことがある様な。

「食べるかい?」

「お金無いです。」

 財布はもう空っぽだ。一文無しと言うべきか。

「いいよ。払うよ。そこで待っときな。」

 鬼は笑顔で行ってしまう。

「……本当に良い方ですね。」

 鬼は三つと店主に伝えている。団子を受け取った後、まだ何か買っている様だ。

「疑った私が恥ずかしいです。」

「ん、そうかい。誰しもそう言うもんさ。」

「……!?」

 いつの間に。会話も聞かれていた。

「あぁ、ごめんなぁ。驚かせてしまった。ほら、」

 まだ温かい団子を渡される。

「土産を買って少し遅くなってしまった。ごめんね。」

「そんな事いいです。」

「ありがとうございます。」

 そう言って、黄金の蜜を見つめた。一口食べる。甘い。

「美味しい。」

 世の中にこんな美味しい物があったなんて。つきたての餅だからか口の中が温かい。とろっとみたらしが(とろ)ける。

 しばらく三人は歩く。

「ここだよ。」

 鬼は腰に手を当て、偽善らを見る。

「……ここって、」

 ん、と鬼の顔。

「来た事ある。館主人が……」

「あ、そうなのかい。…………。とりあえず旅館の主人に聞いてみよう。」

――――――

「……!!鬼様。今日はどのような要件で?」

 接客が鬼と喋る。鬼の横顔が美しい。

「あぁ、長と話したいんだが、」

「お、あれ?鬼じゃないか。久しいのぉ。何百年振りだ?」

 まるで友と再会した様な声色だ。

「ははは、そんな経ってないだろ。」

「まだあんな仕事してんのか。」

 鬼は(しか)めっ面。

「もう辞めたわ。あんな仕事。それより、」

 こちら二人を見た。少し驚く。

「あの子らを引き取ってくれへんか。仕事、探してるそうで。ほら、長。お前の好きな餅もあるぞ。」

 土産を持ち上げる。

「んー、まずは話を聞こうじゃ無いか。」

――――――――――――

「それで、何故(うち)を訪ねたのかえ。」

 客間に案内された。

「私たちは、館主人という者の館で働いてました。しかしその生活は苦痛で、」

 うまく説明できているのか。もうここしか願いは無い。

「逃げ出したんです。」

「……。」

 長は黙って話を聞く。沈黙が怖い。しかし相手の目を見て伝える。伝えなくちゃ。言葉を言わなきゃ。息を吸う。

「雑用でも何でもします。お願いです。雇ってください。最後の、最後の希望なんです。」

 目を瞑って返事を待つ。

「……分かった。」

「ほんと、」

「しかしな……。貴方らが思うよりここは幸せじゃ無いかも知れん。楽園じゃ無いかも知れん。それでもいいかい?」

「はい。よろしくお願いします。」

 にぱっと笑う。いつもの長だ。

「あぁ、ちょっと長。」

 鬼が長に話しかける。

「……?なんじゃ。」

 執事は偽善を見つめる。

「……。良かったです。本当に良かった。」

「うん、これから苦しまずに済む。」

 くははっ!!

 横から大声が耳に入る。

「主人か?館主人と言うのは。あいつはな、見た目だけじゃよ。なんも脅威じゃあるまい。」

 大口で豪快に笑う。次に鬼が口挟む。

「それにあいつはなぁ、小さい虫付けてこの子らを追ってたらしい。」

「くはは!片腹痛いわい。そんなんで追えるわけなかろう。」

 長は二人を見る。笑いすぎて涙目になっていた。

「大丈夫じゃぞ。あんな奴、もうこんな店なんか来ん。あいつには高すぎるじゃろう。来ても門前払いするさ。」

 くはははっと、また笑う。何だか楽しくなりそうだ。

――――――

「偽善、本当に良かったです。あんなどん底から、このような素晴らしい旅館で働けるなんて。」

「きっと、いえ絶対に偽善のおかげです。私は貴方に逢えたから。このような縁が訪れたのでしょう。」

 大袈裟だ。それにしても幸せそうに笑っている。

「俺は神様じゃないぞ。俺は執事のお陰だと思うよ。俺を見つけてくれて、幸せにしてくれてありがとう。これからもずっと一緒だ。」

 幸せな目で二人見つめ合う。

「偽善、」

 偽善の目を嬉しそうに見る。一時(ひととき)だって見離さない。例え、高嶺の花が咲いていたとしても、執事は偽善を見つめる。

 愛しい。桜の花びらが舞う。

「本当に、」

 貴方を見つめる。

「本当に」

 君を見つける。

「生きていて良かった。」

ここまでお読みいただきありがとうございます。今後とも、お読みいただけると作者が本当に嬉しがります。無薬という小説にも二人を少し登場していますのでそちらもお読みいただけると幸いです。

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