21雨宿り
「やっと着きましたね。」
「あぁ、」
西の町に着いた。
暖かい風が吹く。もう日が登って昼になってしまった。
「少しここで休みましょうか。」
二人草むらに腰を下ろす。
「…………。」
風で髪がなびく。布より綺麗で繊細な髪だ。
春の匂いがする。花々の香りが風に乗って来ているのだ。
「偽善。」
貴方の名前を呼ぶ。もう呼べないかもしれないから。
「何だ。」
「偽善。」
もう一度呼ぶ。いつ死んでも良いように。後悔がないように。
「ふふっ。これからどうしましょうか。」
「えっと、日雇いで食っていく……とか?」
偽善にしてはまともな回答だ。
「それもいいですね。二人一緒なら何でも。」
ふふっと笑う。
パチッ
「おや、雨ですね。」
ポツポツと雨が降る。植物たちは嬉しそうだ。
「ふぅ、ここなら大丈夫ですね。」
「そうだな。」
締め出されている店の屋根を借りる事にした。
「ふふふ。二人とも、ずぶ濡れですね。」
偽善に触る。偽善の雫と触れた指の雫が重なる。執事の方も濡れているのに。
「うん。びしょびしょだ。」
執事の前髪がぺたっとなっている。髪の先端には水滴が溜まっていた。
「「…………。」」
二人見つめ合う。この幸せな時間がいつまでも続きますように。
パチパチ