2口悪
涙が一筋頬を伝う。
「……っ、」
「ん、今日は少ないな。もっと頑張ってくれよ。」
――――――――――
「あ!また吐いたなぁ!!」
「ご、ごめんなさ」
「あぁ、煩い。」
そう言って汚物を処理する。
「洗濯するから、そこで大人しくお勉強でもしてろ。」
部屋にポツンと残された。
ガコンガコン
焦り目の洗濯機を見つめる。この部屋は何台もの洗濯機が並んでいて、気味が悪い。
「偽善様、」
「ぅわあ!!」
面白いリアクションだ。
「またお会いしましたね。偶然って恐ろしい程に。」
「脅かすな!馬鹿!!」
ガコンガコン
唯、洗濯機の音が響き渡る。
「偽善様、もう少しお言葉を柔らかくされてはいかがですか。」
「あぁ?やるか、阿呆。」
「……くっ、」
言った途端、暴言を吐いたので笑いそうになった。
――偽善様
「偽善……?!」
すごく驚いた顔だ。そのまま石化して部屋に飾りたい程に。
「なぜ俺の名を知っている?!」
「あぁ、貴方が誰かと話されている時に、ふと耳へ入ったのです。」
曖昧な聞き取りだったけど、偽善自ら口にしたから確信を持てた。馬鹿ですね。
「…………!!」
あの会話か?もし聞かれていたら、俺は恨まれ妬まれる。
「……しえろ、」
「え……?」
「お前の名前、教えろ……。」
可愛い脅しだ。
「無いですよ。」
「え……。」
今度は偽善が驚く番だ。
「無名です。貴方のように名前がある方が珍しいですよ。」
束の間。
ピーピー
洗濯が終わったようだ。
「ふふっ、そんなに悲しい顔しないでください。」
ふわりと笑う。
「してない。」
洗濯物を取り出し、戸へ向かう。
「あぁ、行かれるのですね。左様なら。」
存在しないかのように無視する。
「偽善様。」
――――――――――
ガチャ
「……!!何している!」
子がカッターを持って、血まみれになっている。
「ご、ごめんなさい。こんなことにっ、なるとは思ってなく」
「あぁ、煩い。」
救急箱を取り出し、包帯を巻いていく。
「この仕事が無ければ、お前なんてどうでもいいからな。」
不器用な巻き方だ。血が滲んでいく。
「俺がいなきゃ、お前は言うことも聞かないし、今のように手間をかける。」
相手の気持ちなんて微塵も感じず、淡々と述べる。これが偽善にとっての当たり前だからだ。
「出来損ないで、馬鹿で、泣き虫で、生きている価値なんてない。」
「……うっ、」
子はとうとう泣いてしまった。
「泣くな。」
――――――――――――
「……………………。」
扉の向こうに誰かいるようだ。